【レポート】Web担当者Forumミーティング 2016 Autumn

本当の案件売上につながるB2Bマーケティングを突き詰めてたどり着いた「Account Based Marketing(ABM)」とは? ~前編(基礎編)~

B2Bマーケティングの目的は、後工程の生産性

B2Bのマーケティングで一番大事なのは、案件を作り、それを営業やインサイドセールスに渡すデマンドジェネレーションである。KDDIの中東氏は、IBMやシスコなどでB2Bマーケティングに16年関わってきた経験から、その「後工程の生産性」に注目した。つまり、案件を渡した後のインサイドセールスや営業の生産性だ。これを定義したものが、後になってABM(Account Based Marketing)と呼ばれるものだったという。

中東 孝夫氏
KDDI株式会社
ソリューション事業本部 ソリューションマーケティング部
部長
中東 孝夫氏

Web担当者フォーラム2日目の基調講演では、「本当の案件売上につながるBtoBマーケティングを突き詰めてたどり着いた『Account Based Marketing(ABM)』とは?」と題し、本当の案件売上に繋がるマーケティングとして登場したABMについて、中東氏が解説した。このセッションレポートでは、前編(基礎編)と後編(実践編)の2回に分けてお届けする。

「後工程」の「生産性」を重視するのがABM

ABM(Account Based Marketing・アカウント・ベースド・マーケティング)とは、2015年末頃米国で登場した言葉だ。意味としては、「ABMとは、これまで『市場』という大きなくくりを対象としていたマーケティング活動を「アカウント」というより具体的な対象に括り直し、その「アカウント」の観点からマーケティング活動を立案・実行するマーケティング手法」と定義されている。

ABMでいう「アカウント」は、具体的な企業という意味で、化粧品市場、不動産市場など、「市場」という大きなくくりで行っていたマーケティング活動を、より具体的な視点で行う。

ABMが登場した背景にあるのは、ここ数年でB2Bのマーケターを取り巻く環境が大きく変化したということだ。20世紀までのマーケティングは、リーチできる人数(WebならPV)を増やそうとする活動だった。そのためにカタログやイベント、業界紙の広告、Webサイト、バナー広告、メルマガなどさまざまな活動を行った。

デジタルの計測はアクションベースで、評価指標はアクションが増えたかどうかだ。しかし、最近はこれが変化している。特に大きなインパクトを与えたのが、SFA(セールスフォース・オートメーション)の浸透だ。案件や営業プロセスの見える化が進んだことで、

  • お金をかけた施策が本当に案件化したのか
  • 作った案件がどういう状況なのか

が可視化された。その結果、マーケティングの価値は、本当の営業案件を生み出すことと、その投資対効果(ROMI)にシフトしている。目的はただ人数を増やすことではなく、営業が行って商談になるようなデマンドを作ることで、件数ではなくどれだけ売上を上げるかで評価されるようになってきた。

B2Bマーケターを取り巻く環境

B2Bマーケティングの基本はリスト作りだが、かつては「インサイドセールスや営業がアプローチできるリストをできるだけ多く作るのがマーケティング」だと考えられていた。しかし中東氏はそれを否定し、そもそも「B2Bマーケティングの目的は、後工程の生産性」だと言う。

具体例を挙げると、マーケティング活動でリスト(ホワイトペーパーのダウンロード者リスト、セミナー来場者リストなど)を作り、後工程のインサイドセールスに渡す。インサイドセールスが電話をかけてアポイントが取れたら、そのリストをさらに後工程の営業担当部署に渡す。この流れのなかで、渡された人の生産性が上がるようなリストを作ることが重要ということだ。

後工程の生産性

さまざまなキャンペーンで得たリストにインサイドセールス部隊が電話をかけた結果、どのキャンペーンの効果が高いのかを比較するには、統一指標が必要となる。それを定義したのが「後工程の生産性」だ。具体的には、次の内容を意味している。

  • 後工程: インサイドセールスやテレマーケティング、営業のこと
  • 生産性: 単位活動(電話をかけた回数や営業が訪問した回数)当たりのアウトプット(案件金額)

ポイントは、アウトプットは件数ではなく金額で評価する点だ。B2Bでは、案件ごとに金額が大きく異なる。たとえば、20万円の製品が1台売れても、全社システム構築で数千万円分のプロジェクトの契約が取れても、案件としては1件になってしまう。しかし、当然ながら金額が大きい方が効率は良いので、比較は金額ベースで考える。

この後工程の生産性の指標が、「MQL$/Call」だ。MQLはMarketing Qualified Leadの頭文字で、「マーケティング部門が評価した結果、営業に渡せると認められた案件」のこと。米国の指標なので$(ドル)がついているが日本円でかまわない。この「金額」を「電話をかけた回数」で割る。

「MQL$/Call」を使うと、「一回電話していくらの案件が見つかったのか」という同じ指標で、ホワイトペーパーやイベントなど、さまざまなキャンペーンを評価できるようになる。ちなみに、Callは「受話器を上げた数」で、相手が電話に出たかどうかは問わないため、必然的に不在が多いリストは評価が下がる。この架電数は人員、つまりコストに直結する指標なので、少ないほど高効率ということになる。

では、実際にどのキャンペーンが高効率なのだろうか。中東氏は、このMQL$/Callを使ってホワイトペーパーダウンロードの経路別(SEM、メディア、メルマガなど)やWebの行動、セミナーなど、案件発掘の経路を比較してみたという。しかし、どれも明確な違いはなく、良かったり悪かったりで安定しないという結果だった。つまり、問題は経路や行動ではないらしい。

結論は、「案件単価が高く、効率も高いのは大企業」というものだった。これは扱っている商材にもよるだろうが、KDDIやシスコの場合、大企業ほど大きな金額を使ってくれる。行動や経路ではなく企業規模による違いのほうが明確で、効率が良いのは大企業だったのだ。

「大企業は案件化まで工数がかかり、中小企業の方が決断が早い」というイメージがあるが、きちんと分析すると、MQL$/Callは大手企業の方がはるかに高い。たとえば、大手と中小の案件金額の差10倍でも、工数の差は2倍程度ならば、工数の差は問題にならない。この公式が成り立つ限り、「後工程の生産性を上げるためには、大手企業から攻めるべき」ということになる。結果として、マーケティング活動の投資効率が最大化されるのだ。

対象となる企業は少なく、営業の活動には限界がある

ここで、ABMが登場する前のマーケティングの状態を、あらためて確認しよう。たとえばWebサイトの訪問者を分析すると、

  • 直帰率 ―― 60%
  • 非ポテンシャル顧客 ―― 82%
  • Call to Actionを無視 ―― 97%

という状態だ(米国Demandbase 『The Rise of Account based Marketing』より)。実際には、これよりひどいサイトもたくさんある。メールマーケティングはどうかといえば、「初級編・中級編・上級編の3つのメールが読まれたらホットになったと判断する」というナーチャリングシナリオで、CTRが平均5%という場合、全3回のメールコンテンツが全部読まれる確率は

5%×5%×5%=0.0125%

1万人に1人程度である。ひとつでも読んでくれたらリスト化するという場合でも、CTRが5%ならひとつも読まない人の割合は

95%×95%×95%=85.73%

なので、85%以上の人が一通も読まないことになる。あるいは、Web来訪者のほとんどが競合他社と代理店というケースもよくある。

つまり、「従来のマーケティングには無駄が多い」と中東氏は言う。なぜなら、B2C的なマーケティング手法をB2B(特にターゲットが絞られている商材)で使うからだ

世の中に自社の顧客となるような企業は少なく、どこにでもいるわけではない。「下手な鉄砲」をいくら打っても、ターゲットには滅多に当たらないということだ。たとえば、世の中に従業員数1000人を越える大企業は非常に少ない。

次の図は、東京商工リサーチによる、従業員数別企業数の表だが、見てわかるように、大企業と呼べるのは全体の0.25%で、ほとんどが100名未満の小規模な会社だ。しかも、業種を特定すると、大企業はさらに少ない。つまり、B2Bでターゲティングするのは、針の穴を通すように難しいのだ。

従業員数別企業分布

対象となる企業が少ないことは、自社の売上分布を見てもわかる。顧客企業を売上金額順にソートし10等分(デシル分析)すると、ほとんどの企業は「上位20%が売り上げの80%を占める」という20:80の法則に当てはまる。ITベンダーなどでは、上位1%で6割を占めるケースもざらにあるという。

さらに、営業の活動にも限界がある。B2Bの購買プロセスには、次のような特徴があるため、ほとんどの場合で営業の関与が必要だ。

  • エモーショナル(情緒的)ではなく、組織購買
  • 高度な専門知識
  • 数か月から数年に渡る検討期間

しかし、人間の活動には限界がある。一人の営業担当者が物理的に訪問できる回数は、

  • 一週間に5件訪問できるとして、一年間(13週)に訪問できる回数は65回
  • 1社当たり月に2回訪問するとして、訪問できるのは32.5社

しかもこれは、年末年始、GW、夏季休暇がなく、こちらの都合通りにアポイントが取れた場合だ。また、営業は新規訪問だけでなく既存顧客から呼ばれることもある。既存顧客が20社あるとすると、1人の営業担当者に可能なマーケティングからのリードに対する活動は、12.5社となる。これらはあくまで試算であるが、1営業あたりの適正アカウントをマーケティング部門で議論することは少ない。ABMではこうした議論にマーケティングがデータ分析力を発揮して参加する必要があるという。

つまり、B2B企業の現状をまとめると、以下のようになる。

  • 従来のマーケティング活動には無駄が多い
  • 顧客の数は限られている
  • B2Bの販売に営業は必須
  • 営業リソースは限られている

さらに、マーケティングに期待される案件単価は予想以上に高い。そこで、無駄をなくすために、最初からターゲットを選定しようというのがABMの考え方だ。具体的な内容は、後編の記事で紹介する。

→後編を読む

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