【レポート】Web担当者Forumミーティング 2016 Autumn

川崎重工グループのWeb強化施策――目的・役割と、成功したこと・うまくいかなかったこと

グローバルで社会インフラを提供する大規模B2B企業でも、マーケティングは必要で、Webはブランディングにも使える
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社会インフラを提供するような大規模なB2B企業はいま、グローバルでWebをどのように強化しているのか。「Web担当者Forum ミーティング 2016 秋」2日目の基調講演では、「川崎重工の企業ウェブ改革事例――目的・役割と、成功したこと・うまくいかなかったこと」と題して、川崎重工の山下氏がWeb施策の強化事例を紹介した。

山下 まいか氏
川崎重工業株式会社
コーポレートコミュニケーション部ブランド戦略課
山下 まいか氏

B2C企業やECと違い、買うのはビジネスマンだけという業態でも、マーケティングは必要で、Webはブランディングにも使える。しかし、コンテンツの目的・役割の違いを意識することが重要だ。

身近に情報が少ないB2B製品こそWeb展開

川崎重工と聞くと、「バイクのカワサキ」をイメージするが、実は、船舶海洋、航空宇宙、プラント・環境、ガスタービン・ジェットエンジン、工業機械、精密機械、産業用ロボットなど、広範囲な事業をグローバルで展開している。

社会インフラのような大きな物をネットで買う人はいないので、以前はブランディングやマーケティングは川崎重工には無縁と考えられていたし、Webの活用ノウハウも社内理解もないという状況だった。

しかし、山下氏は次のように言う。

実は複雑で身近に情報が少ないB2B製品こそ、Webの展開に向いている

なぜなら、B2B事業のほとんどの製品は、購買までの時間が長く、複数人でよく調べたうえで候補を絞り、購入に至るからだ。

しかも、社会インフラを欲しがっている人は都会にはいない。多くの場合は(海外の)未開発地域で、インターネットこそが最適の、あるいは唯一の情報接点となる可能性がある。そこで川崎重工でも、インターネットを活用した海外での情報発信体制を強化することになった。

川崎重工では「現地のことは現地に任せるのが一番」と考えていたため、リニューアル前はグローバルで統一したサイト運営ルールがなく、海外拠点サイトが乱立していた。その結果、次のような問題が起きていた。

  • ブランドイメージの分散
  • ユーザーが適切な情報にたどり着けない
  • 複数の海外拠点サイトのセキュリティ問題が発覚

原因は、国や事業ごとに担当者のレベルがばらばらで、ほとんどの海外拠点では片手間でWeb担をしていることだった。たとえば、比較的顧客が多いロボット事業では、各国の販売拠点がそれぞれWebサイトを作っていて、イメージが統一されていなかった。

アクセス解析結果を見ると、さらに問題が見える。米国向けロボット販売情報のページへのアクセスの半分以上は、米国以外からだった。自分の国の販売拠点を探していたのに米国サイトに行ってしまい、別の国のサイト誘導も設計されていないため、せっかくニーズをもって来た潜在顧客を逃してしている可能性が高い

Webリニューアルで目指した姿、4つのポイント

そこで、次のようなものを目指してWebリニューアルを進めた。

  1. グローバルでのWebガバナンス(管理体制)を確立
  2. Kawasakiブランドの発信を強化
  3. マーケティングツールとして活用
  4. 各々のコンテンツ評価指標に基づいた効果測定

1. グローバルでのWebガバナンス(管理体制)を確立

まず「1. グローバルでのWebガバナンス(管理体制)を確立」では、各国、各事業部の担当者と1年かけて協議を重ね、グローバルサイトとして統合した。これは最も時間がかかって、苦労した部分だという。9部門およそ10か国の担当者と、海外出張やグローバルWeb会議なども行い、サイトのルールを統一した。

結果として、サイト、インフラ、デザイン、シナリオやKPIを統一し、モバイルを考慮したサイトが構築できた。

2. Kawasakiブランドの発信を強化

また、「2. Kawasakiブランドの発信を強化」では、Kawasakiブランドが目指す世界感に合わせて、デザインを統一した。

Kawasakiブランドの発信を強化

3. マーケティングツールとしての活用

3. マーケティングツールとしての活用」は、次のように進めた。

①デジタルマーケティングによる効果が高い事業と低い事業に分類する

デジタルマーケティングがB2Bに適しているとはいえ、すべてに当てはまるわけではない。そこで、効果が高い事業と低い事業に分類した。

顧客が比較的多く、販売地域が広範囲にわたる事業は、デジタルマーケティングを活用する効果が高い。川崎重工では、たとえば産業用ロボット事業がこれに当たる。

逆に、顧客が特定され製造している企業も少ない分野の事業は、デジタルマーケティングには向かない。川崎重工でいえば、航空機事業(顧客はボーイングとエアバスのみ)などだ。しかし、Webサイトのビジネス効果が低いとはいえ、航空機や車両、船舶は、解りにくいBtoB製品の中でも認知度が高く、技術力イメージを牽引している事業でもある。そこで、企業の信頼性(ブランド力)を向上させるためのコンテンツとして再定義した。

デジタルマーケティングによる効果が高い事業と低い事業に分類

②シナリオを策定(シンプルに)

ビジネスへの効果が高いと考えた事業はシナリオを策定し、サイト構成を見直した。4ステップと非常にシンプルだが、多くの事業部門と多様な国の人が共用するには、複雑すぎないほうがいい。

デジタルマーケティングのシナリオ

③具体的な施策

シナリオに添って、コンテンツの内容やサイトの構成変更を見直した。特に力を入れたのは、次のような点だ。

  • 「global.kawasaki.com」へドメインを変更(STEP 1「見つけさせる」)

    SEO強化のため、「khi.co.jp」から検索サイトで上位表示されやすいドメイン「global.kawasaki.com」へ変更した。khiは「kawasaki heavy industries」の略だが、海外では知名度が低いためkawasakiを含む文字列に変更。また、海外に向けて情報発信していることがわかりやすいように、カントリードメインの「.jp」ではなく、ジェネリックドメインの「.com」に変更した。

  • ソーシャルメディアの活用(STEP 1「見つけさせる」)

    これまでリーチできていなかった層に川崎重工を知ってもらうきかっけとして、ソーシャルメディアの活用に着手した。具体的には、公式YouTubeページ「Kawasaki Group Channel」を開設。海外からのアクセス数向上を目指している。

  • Geo IPの活用(STEP 2「惹きつける」)

    国や地域、インターネットプロバイダー(ISP)でIPアドレスをデータベース化したGeo IPを用いてユーザーの位置情報を特定し、位置情報に合わせた情報を表示させる機能を実装。別の国の情報が出てしまうといった、表示情報のミスマッチを解消した。さらに、販売店情報のページから別の国のページへたどれる設計にした。

  • ユーザー視点での情報発信(STEP 2「惹きつける」)

    Webサイトの製品区分を、組織別(企業視点)から用途別(ユーザー視点)に再編した。

    たとえば、川崎重工では産業用ガスタービン、ガスエンジン、蒸気タービンという複数のエネルギー機器を扱っているが、それぞれ事業部が違う。

    このため、以前はユーザーのニーズに応えるサイト構造になっていなかった。産業用ガスタービンの情報は、ガスタービン部門のサイトの下層ページに行かなければ出てこない。やっと見つけて、ガスタービンの情報を見たところ、実際に適しているのは蒸気タービンだったという場合は、プラント部門のサイトを下層ページまで探さなければ蒸気タービンの情報を見つけられないという状態だった。

    それを、「エネルギー関連」という用途別のサイト構成に変更した。これは、お客様からのアプローチに対して機会損失を減らすため、営業担当からも「必要だと思っていた」という意見だったという。

製品区分を組織別(会社都合)から用途別(ユーザー視点)に再編

4. 各々のコンテンツ評価指標に基づいた効果測定

さらに、「4. 各々のコンテンツ評価指標に基づいた効果測定」では、リニューアルを行うことで、各サイトのアクセス解析ができる基盤やさまざまなツールを導入、それに合わせたKPIを設定した。

効果測定設計時の注意点と変革を加速させたポイント

というわけで、1から4まで計画通りに実行できたのだが、必ずしもすべてうまくいったわけではない。実は計画通りの数値が成果として出ていないという問題があった

これは、そもそも「成果」の定義が曖昧だったため、取れるデータに飛びついて、データの海に溺れてしまったことが原因だ。また、取れる数字が多いので、優先順位がわからないという状態だった。

そこで、達成したかったことを意識しながら、KPIの再設定を常に行っている。山下氏が、「最初に気付いておけば良かった」と思ったのが、次の3点だ。

<<最初に気付いておけば良かった点>>
  • マーケティングとブランディングの役割の違いを意識

    コンテンツの目的設定時には、マーケティングとブランディングの役割の違いを意識する。コンテンツとしては役割の違うものが混在すると議論が拡散するので、役割の違いを認識し、共有して目的設定することが重要。

  • プロモーション全体での位置づけを整理

    Web担当はオウンドメディアだけの最適化を考えがちだが、それ以外の広告やSNSなども含めた、包括的な取り組みとして全体像を定義し、全社での取り組みを改めて定義することが重要。

  • 戦略的にどの指標を選択するかが重要

    データが増えるとどれも大事そうに見えるが、すべての指標を追っていると、何が達成したかったを見失う。ゴールにインパクトが大きいものに絞り、優先順位をつけることが重要で、「データが取れるから念のために取っておく」のは混乱の元だ。

コンテンツの目的や時間軸を意識する
マーケティングとブランディングの役割の違い、コンテンツの目的や時間軸を意識する

逆に、成功した部分もある。変革を加速させたポイントは、次のようなものだ。

<<変革を加速させたポイント>>
  • 社内説得には現状をデータで示す

    社内説得に現状をデータで示したことで、思い込みや感情での議論をなくし、現状認識や危機感を共有することができた。グローバル展開では、言語での意思疎通をカバーすることにもデータが大きく役立った。

  • 効果が期待できるところから着手

    効果が期待できるところから実施しフェーズを切り分けた。また、「スモールスタート」し効果を確認しながら、対象範囲を広げることで、関係部門の不安を解消した。対象範囲を限定することは、担当者の負荷軽減にもつながる。

  • 海外従業員の意見をできる限り採用

    海外現地従業員の意見を採用することで、現地従業員のモチベーションを上げることができたし、彼らのノウハウを用いることで時間短縮にもなった。

グローバルで全社を巻き込んだプロジェクトでは、やりたい気持ちが大切だ。「これをすると会社のためになる、チームのためになる」という思いが伝播することで、うまく進む。最後に、山下氏は次のようにまとめた。

当初の想定と異なる結果になっているところもありますが、プロジェクトを通し、グローバルの連携・協力体制を作ることができたので、これを実行への足掛かりとして改善を続けていきます

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