エクスペリエンスデザインとは? UXとは何が違う? 電通Creative Technologist 岡田氏に聞く

なぜ企業はエクスペリエンスデザインに力をいれるのか、電通の岡田氏に聞く
ウェブ電通報 2017/4/21(金) 7:00 |
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エクスペリエンスデザイン」は、言葉通りにとらえると「(ユーザーの)体験をデザインする」ことですが、モヤモヤと抽象的でイメージが難しいものです。

「モノ」から「コト」の消費へと時代が移るなか、顧客体験を中心に置いてサービスやプロダクトを考えるエクスペリエンスデザインがウェブサイト、アプリ設計などでも注目されています。

なぜいま、企業はエクスペリエンスデザインに力を入れようとしているのか。エクスペリエンスデザインで課題を解決するための考え方について、電通エクスペリエンスデザイン部の岡田憲明氏に聞きました。

岡田憲明氏

電通 エクスペリエンスデザイン部 Art Director / Creative Technologist 岡田 憲明 氏
武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科を卒業後デザイナーとして大手印刷会社に入社。その後留学しニューヨーク大学修士課程を修了、米国大手新聞社のR&D部門でジャーナリズムのための新しいインターフェイス開発などに携わった後、2010年に電通に入社。

エクスペリエンスデザインは、課題を定義することから始まる

――「エクスペリエンスデザイン」と聞いて、なんとなくはイメージできますが、明確な定義はあるのでしょうか。

エクスペリエンスデザインは、ユーザー体験を中心に考える課題解決手法の1つです。

いま、広告会社には従来のようなキャンペーン案件だけでなく、ウェブサービス、ブランド開発、時には未来を見据えたプロトタイピングなど、あらゆる企業の悩みが寄せられます。

企業が解決すべき課題は、ビジネス課題やスタッフの課題、そして顧客の課題と幅広いものです。そのなかで解決すべき課題を定義し、それを解決するには誰にどんな体験を提供すべきなのかを考えて実施することをエクスペリエンスデザインと呼んでいます。

エクスペリエンスデザインの全体像
図1 エクスペリエンスデザインの全体像

エクスペリエンスデザインというと、一般的にユーザーが直接触れたり、体験したりするフロントのエクスペリエンスを考えがちですが、それだけではありません。我々は図1のように、社内に対する「スタッフエクスペリエンス」と顧客に対する「フロントエクスペリエンス」に大きく分けて考えています。

たとえば、モバイルアプリ制作でエクスペリエンスデザインを考えるなら、カスタマージャーニー(生活者を顧客化する筋道)を作成して顧客接点を可視化し、次の段階として「情報設計」や「UIデザイン」などのフロント部分を主に考えることが多いものです。

しかし、実際にそれらを最適な形で実現しようとすると、バックエンドのダッシュボードやスタッフのオペレーションを考えることが大事なケースもあります。

課題によっては、事業の再定義、専門組織の立ち上げ、ブランド定義などの根幹部分を考えることが主体になるケースもあり、これら一連の活動を通して結果的にエンドユーザーの体験改善を目指します。

エクスペリエンスデザインという言葉の対象範囲は広すぎるため、一緒くたに語られがちですが、プロダクトのエクスペリエンスデザインとウェブサービスのエクスペリエンスデザインでは、やるべきことが違ってきます

プロダクトの場合は、フロントのデザインと、それをベースにした新しいオペレーションを考える事が重要です。対してウェブサービスの場合は、パフォーマンスの最適化や、CMSダッシュボードを作る事が重要だったりします。一言にエクスペリエンスデザインと言っても、やるべきことに違いがあります。

我々が重視しているのは、エクスペリエンスデザインの対象に合わせた考え方や手法を、最終的にモノやプロダクト、サービスに落とし込むことです。ビジョンやコンセプトだけで終わるエクスペリエンスデザインもありますが、エンドユーザーの体験まで考えると、やはり最終的な形にするべきだと考えています。

――つまりエクスペリエンスデザインとは、ビジネス上の課題を企業と顧客の視点から定義して何をするか考え、最適な手法を組み合わせてユーザー体験を改善することでしょうか。

そうですね。企業のビジネス課題にしろ顧客の課題にしろ、さまざまな課題に対応するためには、メソッドをたくさん持っていることが大事だと考えています。カスタマージャーニーを定義して顧客接点を可視化した後に、その接点の課題に応じてメソッドを組み合わせることが多いですね。

ウェブサービスであれば、定量的なデータ解析から課題解決を導き出すこともあります。しかし、サービスそのもののコンセプトから考え直す場合は、定性的なデザインリサーチから始めることもあります。課題に対して何がマッチしているかを考え、定性と定量の手法のバランスを考えることが大事です。

企業の課題も単純ではないので、手法を組み合わせるだけはなくカスタマイズする必要もあると考えています。

定義よりも重要なことは、どのように問題を解決するか

――改善の事例を教えてください。

たとえば、旅行業界のスマホアプリのリニューアル事例があります。リニューアル前は、非常に情緒的なインターフェースで、カッコいい感じなんですが、ツールとしては使いづらいという欠点がありました。

スマホアプリのリニューアルの戦略として、「頻繁に利用する人」が便利に使えることを重視し、ユーザーにとって何が必要で、何が便利なのかを見極めながら情報設計を行いました

その結果、機能性、ユニークな操作性、ビジュアルデザインにこだわったアプリに刷新し、アプリからの月の売り上げが10倍以上にアップしました。

また、タブレット向けのアプリでは、旅行に出発する直前の人に必要な情報を、その人に合わせて表示する機能を用意しました。

Googleは、何かをしたいと感じた瞬間に手元のデバイスで情報を検索するような行動を「マイクロモーメント」と呼んでいますが、この事例では、いわばカスタマージャーニーをベースに小さなコンタクトポイントであるマイクロモーメントに絞ってエクスペリエンスを考えたのです。

――エクスペリエンスデザインと、UXやサービスデザインとの違いは何でしょうか。

言葉の定義でいえば、「UX」はユーザー体験の設計、「サービスデザイン」はサービス創出とその体験設計のことです。他の人との知識の共有という点ではきちんと定義した方がいいのかもしれませんが、実は私個人としては言葉の定義はあまり重視していません。

新しいビジネスやサービスをゼロからつくるのであれば、「サービスデザイン」という方がわかりやすく、「エクスペリエンスデザイン」というと、もう少し狭い範囲になるかもしません。ただ、どっちが「偉い」というようなことはないですし、言葉はどちらでもいいと思っています。

定義の違いというよりも、どのように問題解決をするかが大事であり、感覚的に伝わりやすいのであれば、「UX」「サービスデザイン」を言葉として選んで使うこともあります。

機能、サービスよりもどんな体験を提供するかを考える

――今、なぜエクスペリエンスデザインが注目されているのでしょうか。

エクスペリエンスデザインは、新しい言葉、考えではありません。ただ、最近注目されている背景には、企業が保有する生産物やテクノロジーそのものより、それらを使って何を提供するかが企業の良し悪しを決める争点になってきていることがあります

複雑になったテレビのリモコン
テレビの高機能化によって増えたリモコンのボタンだが、日常的に使うのは数個でしかない
Christian_Cam/Thinkstock

昨今、機能や情報があふれ過ぎていて整理するだけでも大変です。「多過ぎるリモコンのボタン」がわかりやすい例ですが、全機能を網羅するよりも、必要な機能を整理してどのようなインターフェースでユーザーに提供するかが重視されるようになっています。大企業の場合は提供しているサービスも多いので、新しいサービスをどう設計し、他のサービスとどのように連携させるのかが重要になります。

外部サービスとの連携も無視できなくなっています。たとえば、今の若者にとっては、写真を保存する機能をゼロから企画するより、Instagramと連携する方がよっぽどユーザー中心なわけです。

世の中にあるサービスのエコシステムと組み合わせて1つの顧客体験をつくる必要が出てきています。企業がすべてゼロからサービスをつくるのではなく、組み合わせたうえで体験としてどう提供していくかという視点が必要です。

組み合わせるのはサービスだけでなく、パートナー企業だったり、外部APIだったりします。提供するサービスにとって最適なものを、その時々で組み合わせることで新しいモノが生まれます。

あとは、提供する商品に付随するサポートやケアなどの持続的な体験価値を、企業がより重視して提供する必要が出てきていると思います。

スタープレーヤーが目立つ日本と、チームプレーの米国

――先日、電通は米国のデザインファームであるfrogとの提携を発表しました。frogは世界で活躍していますが、どんな会社ですか。

frogは世界最大規模のデザインファームです。私たちは、パートナー企業を探すため米国のプロダクションも15か所くらい回りました。そのなかでfrogがいいと思ったのは、まず伝説のプロダクトデザイナーであるハルトムット・エスリンガー氏※1が創業者であり、そのDNAが現在も引き継がれていることでした。

※1 1980年代、ジョブズとともに今のアップルのブランドの原動力となる数多くのデザインを生み出した世界的なプロダクトデザイナー。
frogのWebサイト
frogはソニー、アップル、マイクロソフト、ディズニーなどのプロダクトを手がけた世界的デザインファーム

プロダクトデザイナーにとってユーザー中心という考えは当たり前のことです。ハルトムット・エスリンガー氏は、そのデザイナーとしてのベースを持ちながら、いわゆるデザイン思考のようなユーザー中心の考えをビジネスや企画の領域にまで広げているという点で、モノとコトのデザインのバランスがとれています。

日本でエクスペリエンスデザインを提唱している会社だと、残念ながら機能的な話のみで終わることも多いのですが、機能的かつエモーショナルな体験設計を重視しているバランスが取れた思考を持つ会社のように思います。

また、さまざまな業界の課題に対してテクノロジーを使ったチャレンジが多く、電通とシナジーがあると考えました。

frogの仕事の事例としては、テーマパーク入場者向けのリストバンドが有名です。入場者にウェアラブルデバイスのリストバンドを身に着けてもらい、入退場管理、キャッシュレスな決済、リストバンドを使ったアトラクション体験など、1つのデバイスでさまざまなことを可能にし、顧客体験を向上させました。

その他にも、昨年からニューヨーク市内に設置されている無料Wi-Fiを備えたコミュニケーションハブ「LQD-PALO」をデザインしています。

LQD-PALO
LQDとfrogがデザインしたコミュニケーションハブの「LQD-PALO」。ニューヨークで実際に設置されている
https://www.frogdesign.com/work/lqd-palo

また、フロッグベンチャーズというベンチャー企業への投資の仕組みがあるのですが、彼らはお金ではなく、リソースに投資します。frogの社員は業務の単価が高いのですが、彼らがベンチャー企業に入って一緒にブランド体験、サービス体験をつくるんです。この成果の1つとして、さまざまな情報を提供できるコネクティッドシティーのためのサイネージを開発したのですが、これは最終的に通信会社にバイアウトしました。

――米国と日本のプロダクションで違いはありますか。

米国の場合は個々に役割を持った優秀なクリエーターがチームを組んで効率的に作業を行いますが、日本の場合は優秀なクリエーターがリーダーとなり作業が成立することが多いです。

frogのメンバーも、全体のアベレージが高いことを感じます。この点は見習わないといけないことだと思いますし、1人にナレッジがたまるのではなく、チームでシェアできるような仕組みが必要だと思います。

――frogと一緒に仕事をすることで、何か発見はありましたか。

先日彼らが来日したとき、一緒にクライアント向けのプレゼンテーションをしました。プレゼンの前は皆ほんとに忙しく仕事をします。その一方で、シニアプロダクトマネージャーの男性は、この仕事が終わったらそのまま産休に入ると言っていました。仕事をきっちりして、休みはしっかりとるというメリハリのあるワークライフバランスですね。

ちなみに、frogは世界11都市にあるんですが、各地域で決算を別にしていて、文化も違います。僕たちが今のプロジェクトで一緒に仕事をしているのは、サンフランシスコのチームですが、ここはブランドデザイン、ストラテジーなど上流からプロダクトまで戦略的に落とし込むというスタイルで仕事をするのが得意です。

1人が同時期に複数の案件を担当することはなく、1つの案件に注力します。たとえば、案件があるとプロジェクトルームができて、次のようなメンバーが集まりチームになって動きます。

  • クリエーティブリード: チームを率いるクリエーティブの責任者
  • プログラムマネージャー: プログラムのマネジメントおよび窓口
  • インタラクションデザイナー: リサーチからユーザーシナリオを考えインターフェースをデザイン
  • デザインテクノロジスト: デザインの知見を持ったテクノロジスト
  • ビジュアルデザイナー: UIの観点でビジュアルをデザイン

提携してから早速、1つの案件を一緒にやっていますが、電通とfrogの得意領域を考慮しながら、どういうふうに役割分担をしてプロジェクトを進めていくのが合理的でクオリティが上がるのか、話し合いながらコラボレーションしています。

前半まとめ:エクスペリエンスデザインとは?

  • ユーザー体験を中心に考える課題解決手法の1つ
  • クライアントの課題を定義してから何をするか考え、手法を組み合わせてユーザー体験を改善する
  • ユーザーとは、顧客だけでなくスタッフの場合もある
  • デザイン会社を選ぶときは、モノ・コト両方のデザインスキルがある会社がおすすめ

インタビュー後編は、革新的なエクスペリエンスデザインを実現するために必要なことについて、さらに話を聞いていきます。

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