企業ホームページ運営の心得
ある日、上場企業のWeb担当者が乗り込んできたら。実録、通販事業の裏側

ページ制作や管理だけがWeb担当者の仕事ではありません。Web担当者はユーティリティプレイヤーであるべきです
Web 2.0時代のド素人Web担当者におくる 企業ホームページ運営の心得

コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。

宮脇 睦(有限会社アズモード)

心得其の弐百弐十

ひさびさの実録シリーズ

あなたがWeb担当者を務める会社が同業の「ネット通販事業部」を買収しました。その相手は「上場企業」で、ノウハウとともに事業部のスタッフ、すなわちWeb担当者全員を引き受ける約束です。すると、あなたのポストが懸念されるところ……ですが、ご存じでしょうか。

大成功しているネット通販は多くない

もちろん、成功している企業もあります。また、ネット通販事業を中心として上場まで果たした会社もあります。しかし、それは限られた一握りの事例に過ぎません。今回は「実録! ネット通販の舞台裏」として、M&Aによってネット通販へ進出した企業のWeb担の話をお届けします。

はじめにお断りしておきますが、「カンブリア宮殿」や「ガイアの夜明け」では絶対に紹介されないダメ事例です。実在する上場企業が登場しますので、登場する企業や担当者のイニシャル、業種はすべて「架空」のものに置き換えております。

青天の霹靂

上場企業A社が、創業部門を非上場の中小企業B社に売却するという発表は電撃的に行われました。両者は創業当時から親交がありましたが、事業規模は大きく異なります。上場のA社は、創業事業だけでも10店舗あり、企業規模は5店舗しかもたないB社の倍で、小が大を飲み込む形です。この話を持ち込んだのはA社の事業責任者O氏でした。

A社の創業事業は中古コミックの売買で、独自ルートで仕入れた新刊も取り扱っていました。中古売買では「在庫量」が売り上げを左右し、常に一定金額の在庫を持たなければなりません。しかし、在庫には売れない作品も多く含まれ、上場企業ゆえに株主から「資本回転率」が問われます。しかも、上場の原動力となったのは創業事業ではなく、多角化の一環で始めたフランチャイズのカフェ事業で、コミック買取は先にお金が出ていきますが、こちらは「加盟料」で先にキャッシュを得ることができます。株主の意向から経営資源をカフェに集中することになり、売却先を探しているという触れ込みでした。

自分も身売り

O氏の切り札は「ネット通販事業部」です。B社もネット通販に取り組み始めており、上場企業直営のネット通販サイトという「ブランド」が入手できると、その責任者である自分をセットにして売り込んだのです。いちからブランドを構築するより、すでにあるものが見合った金額で購入できるなら悪い話ではありません。O氏を部長待遇で迎え入れます。

この話が額面通りで私がB社の経営者なら、O氏を軸に社内を再構築(リストラ)します。乗り込んでくるのは上場企業の社員、いわゆる「一般論」で考えればそちらの「Web担当者」の方が優秀という「イメージ」をもつことは否めません。しかし、冒頭に述べたように「成功」は容易ではないのです。

実態はこうでした。「ネット通販事業部」の収支はトントンで、人件費を厳密計算すれば赤字で実店舗も似たようなものでした。というより「ネット通販」がリアル店舗の足を引っ張っていたのです。

送料無料は成立しない

A社のネット通販事業では、粗利が1~2割のほどに過ぎない新品コミックを大手ショッピングモールで販売していました。ショッピングモールにより料率は異なりますが、売り上げごとに一定のマージンが要求され、ポイントの原資や各種手数料が加算され、俗に「税」と揶揄される割合が1割を超えることは珍しくありません。つまり、売れても儲けがゼロということです。さらに「アマゾン」にならって1,500円以上は送料無料にしていました(平成23年6月6日現在、アマゾンにおいて書籍の送料は無料)。すると送料の分だけ赤字になることもあります。

メインの商材は中古コミックです。こちらの粗利率は高く、150円で買い取り、400円ぐらいで売れば粗利率は6割を超えます。さらに買い取り価格50円で売値が300円なら80%を越えます。中古販売だけならば、ショッピングモールへの出店や送料無料も成立したのかもしれません。

ネット店舗がリアルを脅かす

A社では、リアルの店舗で買い取りしたコミックをネットで販売していました。この方法は販売チャネルが増えるメリットがあるように見えますが、リアル店舗でも中古販売を展開するA社においては、メリットばかりではありません。せっかく人気商品を買い取りできても、その端からネットで売られては、店頭にはいつも「人気商品」がないこととなり店舗を訪れる客足に影響するからです。また、ネットから注文が入れば、各店から回収して本部にある通販センターから配送する仕組みですが、回収作業を配送会社に委託しており、そのコストが収益を圧迫します。

A社は創業事業を「改善不可能」と判断し、清算も視野に入れた事業整理に乗りだしていたのです。つまり、旧知のB社への事業売却はO氏の雇用確保のためのラストチャンスでした。

トップダウンの悪い見本

乗り込んできた「上場企業のWeb担当者」はCMSを使った「ページ制作」には長けていましたが、「ページの管理」が彼らの仕事で、どの商品をどう売るかという視点がないどころか「マーケティング」は自分たちの仕事ではないと考えています。俗に「大企業病」と呼ばれるセクショナリズムの弊害です。

大企業だから成功するとは限りません。ネット通販では、店長自らが企画を立て、メルマガやブログなどのコンテンツ制作、商品の仕入れから販売までを一貫して担当する、個人店舗の方が成功を収めていることもあります。Web担当者はページ制作だけでなく、システム管理にマーチャンダイジング、ときには現場仕事までフォローする「ユーティリティプレイヤー」であるべきというのが私の持論。かつて原作した漫画で主人公の「三ノ宮」に、様々な試練を与えた理由でもあります。

A社の通販事業部を取り込んだB社のWeb担当者は、通販をはじめるにあたり「プレミアム中古」に商品を絞っていました。マニアなら高値をつける「初版」などをネットに出品し、重版ものはリアル店舗で売るといったように差別化したのです。そしてリアル店舗とネット通販の共存共栄を図り、初月から利益を上げていました。

今、中小企業のB社のWeb担当者がリーダーとなり通販事業のリストラに取り組んでいます。「上場企業のWeb担当者」に「意識改革」を迫りながら。そしてO氏は「窓際」に座り電話番をしています。

今回のポイント

意外と儲かっていないネット通販

Web担はユーティリティを目指せ

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