Webサイトリニューアル特集

Web経由の申し込みが対比125%、スカパー!公式サイトリニューアルでCX改善「番組探しも面白い」

スカパー!公式サイトが2022年7月にリニューアルした。2年以上にわたる大規模プロジェクトをどう進めて、Webサイトはどう変わったのか。スカパーJSATと電通デジタルに話を聞いた。

スカパー!公式サイトが2022年7月にリニューアルした。2019年からリニューアルの検討を開始し、プロジェクトが具体的に動き出したのが2020年8月。2年以上にわたる大規模プロジェクトをどう進めて、Webサイトはどう変わったのか。

リニューアルを担当したスカパーJSATと、リニューアルを支援した電通デジタルに話を聞いた。

(右から)スカパーJSAT株式会社 メディア事業部門 コミュニケーション本部 コミュニーケーションデザイン部 フロントデザインチーム 上谷若菜氏、アシスタントマネージャー 茂呂貴子氏、
株式会社電通デジタル CXトランスフォーメーション部門 CX/UXデザイン第2事業部 エクスペリエンスデザイン第3グループ マネージャー 八木優氏、エクスペリエンスプロデュース部門 ビジネスリード第2事業部 第1グループ グループマネージャー 杉山武氏

あの番組を見たいだけなのに……。何を申し込めばいいのかわからない!

スカパー!の旧公式サイトは、10年前に大型リニューアルを実施した。その後、必要に応じて、対象サイトやページを都度制作・改修を行っていたため個別最適され、公式サイトのコミュニケーション全体としては、さまざまな課題を抱えていた。

課題1サービスが複雑で、わかりづらい

最も大きな課題は、ユーザーがサービスを申し込むにあたって「どの商品を契約すればいいのかわからない」ことだった。

そもそもスカパー!のサービスは複雑だ。視聴できるチャンネルは100以上あり、人気のチャンネルをパッケージ化したものや、好きなチャンネルを選べるもの、テレビ放送と同時配信もしくはアーカイブを見られる配信などがある。

(左)新サイト (右)旧サイト 
旧サイトは目的のコンテンツから契約商品へのコミュニケーションが分断されており、どの商品を契約していいのかわかりづらい。一方、新サイトは、コンテンツとの出会いを重視したサイト構成になっている
上谷氏

リニューアル前は、まず異なる衛星で提供する「スカパー!」および「スカパー!プレミアムサービス」、光回線で提供する「スカパー!光サービス」の3つのうち、いずれかを選択後、それぞれで見られるチャンネルが表示されていました。

ユーザーは「欧州のサッカーが見たい」「話題の海外ドラマが見たい」など、見たい番組があってWebサイトを訪問しているのに、それを見るためには、どのサービスを契約したらいいのかわからない状況だったのです。

契約の窓口は、「Webサイト」と「電話」の2つが用意されている。どのサービスを契約するべきか判断がつかないためか、Webサイトがあるにもかかわらず、コールセンターの入電が減らないことも課題だったという。

課題2スマホファーストのサイトではなかった

もう1つの課題は、モバイル経由のアクセスが全体の7〜8割にもかかわらず、スマホファーストのサイトになっていないことだった。必要に迫られて一部だけ改修することもあり、サイト全体の統一感がなくなっている問題もあった。

「ファンマーケティング」「データ分析」ができるWebサイトにもしたい!

上記の課題とは別に、会社としてチャレンジしたいこともあった。それが「ファンマーケティング」と「データ分析」だ。

上谷氏

「ファンマーケティング」は、たとえばスポーツが好きな人には、スポーツの放送や配信はもちろん、リアルイベントの案内もするような、ジャンルを包括的にマーケティングすることです。

「データ分析」は、Webサイトでのデータ収集です。旧サイトでは、ログイン機能が「Myスカパー!」という契約内容の確認や契約変更するためのページのみでした。

つまり既存ユーザーがログインして、Webサイトで何を閲覧したのか情報を収集することができず、パーソナライズした情報を提供することもできていませんでした。

なお、プロジェクトを遂行するにあたって、ユーザー以外に多くのステークホルダーが存在する:

  • サービスを提供するスカパー!
  • チャンネルを提供する放送事業者
  • 番組コンテンツを提供する配給会社
  • Webサイトの更新や管理を行う複数のベンダー

ステークホルダーとの調整役を上谷氏、茂呂氏が担った。

(左から)スカパーJSATの茂呂氏と上谷氏

支援会社を電通デジタルに決定! 決め手はリニューアルを2段階に分けていたこと

リニューアルでは、主に次の改修を実施している:

  • 独立していた番組専用のドメインを廃止し、コンテンツを公式サイトに移行する
  • CMSのフルリプレイス(乗り換え)
  • UI/UXの全面改修
  • ログイン機能の実装

リニューアルを支援する会社をコンペ形式で選定した結果、電通デジタルに依頼することになった。選定の決め手は「弊社が期待していた以上の提案で、リニューアルを2段階に分けて行うものでした」と上谷氏は振り返る。

第1段階でサイトのわかりづらさなど至急対応が必要な部分を修正し、第2段階としてシステムリプレイスを含む、Webサイト全体の改修を進行する内容であった。

杉山氏

CMSのフルリプレイスは1年以上かかるため、その間に獲得できるはずのユーザーを獲得できないことを危惧していました。そのため2段階に分けて、リニューアルを進めていくことを提案したのです。

(左から)電通デジタルの八木氏と杉山氏

なお電通デジタルでは、コンペの提案前に社内にいるスカパー!利用者や検討者を中心としたヒアリングと、ヒューリスティック分析によりサイトユーザビリティの調査を実施した。その結果、スカパー!加入を初めて検討する人は、サイトでサービスを理解することがほとんどできていない事実が浮かび上がった。

八木氏

旧Webサイトは、長年のコンテンツ追加や更新により構造や構成に多くの課題が蓄積されており、「どの番組がどのチャンネルで見られるのかわかりづらい」「加入すべきプランの検討が進まない」など、致命的な問題も見受けられました。

そこでリニューアルを2段階に分け、既存サイトのUI・UXの改善を素早く行いながら、並行して次世代サイトリニューアルの戦略・要件を検討していったのです。

プロジェクトの全体像

戦略策定に5か月。導かれたWebサイトの役割は「番組との出会い」

「調査・分析から戦略・要件策定まで、5か月ほどを費やした」と杉山氏は振り返る。ユーザー調査はもちろん、事業戦略マップ、売上構成の分析、タッチポイントの調査、カスタマージャーニー作成など、ユーザ・ビジネス両面からのアプローチでコミュニケーション課題を明らかにしていった。

直近の進め方

ユーザーへのインタビュー調査は時間の都合でできなかったが、スカパーJSAT社内にこれまで行ったユーザー調査、ブランド調査などのデータが大量にあったため、そうした資料を参考にユーザー像の分析を実施した。「課題やユーザーの理解はインプットが多いほど深まる。整理するのは大変だが、後からわかると後戻りも大変なので、すべて最初に出してもらった」と八木氏は話す。

八木氏

戦略策定では、テレビの普及などにより新規契約世帯数に限界がある中で、どうすればARPU※を上げられるのかを考えました。

スカパー!では、LTVが上がるマジックナンバーを把握されていました。たとえば、「視聴時間が長い方」「多くのジャンルを視聴している方」は定着率が高いといった数字です。

こうした数字を元に、より多くの番組・多くのジャンルに興味を持ってもらい、複数チャンネル契約や長期契約につなげるにはどうすればよいかという軸で戦略策定を進めました。

※ARPU……Average Revenue Per Userの略で、一人あたりのユーザー収益を意味する

あるべきカスタマージャーニーの作成にあたっては、加入を検討する新規ユーザーだけでなく、加入後のユーザーも重視し、定着やエンゲージメント向上のためのコミュニケーションシナリオを盛り込んだ。

八木氏

スカパー!の視聴は基本テレビです。デジタルチャネルであるWebサイトとリアルチャネルのテレビ視聴を通してユーザーが定着し、ファン化するためにはどんな体験や機能が必要なのか。リアル・デジタル含めたCX全体のあるべきカスタマージャーニーを描き、その中でWebサイトの役割を落とし込みました。

Webサイトの役割を視聴以外の番組探索や視聴管理の場として定義し、“番組を探す中で新しい番組に出会い、スカパー!の良さを感じてもらうこと”を狙いとしてCXシナリオを設計していきました。

リニューアル後のCXイメージ

そのうえで、改善プロジェクトのコンセプトを、次のように言語化した:

  • 視聴だけでなく番組探しも面白く! 番組やジャンルとの出会いがあるスカパー!
  • スカパー!色をより濃くより強く! Oneスカパー!で“らしさ”を伝える
リニューアルコンセプトの詳細

杉山氏は、コンセプトができたことで「プロジェクトメンバー全員で、Webサイトはこうあるべきという目線をあわせることができた」と言う。

視聴方法から選ぶではなく、見たい番組から入会につなげるUXに改修

戦略設計を元にUI/UX設計をしていく。ここではまず「理想の形」を描き、そこからシステムとして実現できるかどうかを踏まえて、削ぎ落としていく流れになった。システム開発チームが後から合流したこともあり、大枠を決めた後で、細かい詳細設計をしていったという。

リニューアル設計のポイントは、番組をきっかけに加入につなげることだった。課題でもあげたように、最初にサービスを選択させる流れが旧サイトのわかりにくさの1つだったので、リニューアル後は番組を全面に押し出して、サービスを意識させないような設計にした。

茂呂氏

サービスの違いがわかりにくいので、公式サイトではまずお客様に番組を知ってもらい、それを見るために最適なサービスが選択できるように提示しました。

チャンネルごとの番組表の使い勝手も変えた。1画面にできる限りたくさんの番組を表示し、番組をクリックすると詳細ページにリンクして、番組情報のページ内でコンテンツを視聴するための商品を提示し、スムーズに申し込みができるようになっている。

その他、検索のアルゴリズムなども見やすく、多くの番組を見つけやすいような工夫をしている。なお、以前は複数のドメインでサイト運営されていたが、リニューアルをきっかけに公式サイトに統合した。

茂呂氏

WebサイトのKPIは「新規獲得のCV」なので、新規ユーザーが番組から申し込みしやすいサイトにすると同時に、既存ユーザーの方にとっても情報を取得できるサイトを目指しました。

既存ユーザー向けには、ログイン機能を用意することで、その人に合わせた番組をおすすめできるようにしました。

杉山氏

会員向けサイトの「Myスカパー!」と連携させることで、公式サイト側でも同じようにログイン判別ができるようにしました。

パーソナライズしたレコメンドができるようになり、ユーザーに紐づいたアクセス履歴も計測できるようになりました。

またリニューアルをきっかけにコンテンツ更新のガバナンス体制を整えた。運用の内製化を進めることで、グループ会社に軽微な修正を依頼できるようになり、フットワークの軽い迅速な更新フローが実現した。また、番組に関するコンテンツページは、チャンネル事業者に確認してから公開することもあるため、事前確認がしやすいフローを整備したという。

大規模プロジェクトで、他の案件から予算を分けてもらうことも

プロジェクト開始からリリースまで2年かかった。関連するページは、静的なページだけでも約3,000ページ、自動的に更新される番組ページを入れると何十万単位になる。プロジェクトに関わった人数は、スカパーで10人以上、電通デジタル側では開発も含め最大50人以上になるという。

こうした大規模プロジェクトでは、予算管理も重要で、途中で追加費用が発生することも多い。どのように管理したのだろうか。

茂呂氏

Webのコミュニケーションを強化するという社内方針があったので、本プロジェクトの予算を確保していましたが、それだけでは収まらなくなり、他の案件から予算を分けてもらいました。それでも足りなくなりそうでしたが、優先順位をつけて予算内に収めるよう工夫しました。
予算を大幅にオーバーしてしまったら、いくらいいものができたとしてもプロジェクトは失敗と評価されますから。

Web経由の申し込みがリニューアル前の125%に! 今後はアプリもリニューアル

リニューアルして1年が過ぎ、さまざまな成果が出ているという。まずWebサイト経由の申し込みが、リニューアル前と比較すると125%になった。

上谷氏

特に改善したのが、番組の詳細ページから加入ページへの遷移率で、リニューアル前と比較して6倍になりました。番組との出会いを加入につなげるという部分を丁寧に設計したので、そこが大きく改善しました。

ほかにも、リニューアル前後で加入者にWebサイトのNPS調査を実施したところ、最新の調査結果では全世代でポイントが上がり、全体で6.1から6.4に向上した。目標のコンバージョン数も達成できており、以前に比べて増加していることから、社内でも評価されているという。

スカパーJSATと伴走した電通デジタル

最後に、これからやっていきたいことについて聞いた。

茂呂氏

Webサイトリニューアルから1年が経ちましたが、まだ道半ばです。最近は配信をきっかけに加入する方が増えています。今後さらにスカパー!を身近に感じてもらうためにも、配信コンテンツを増やして、Webサイトも拡張していきたいです。

上谷氏

Webサイト以外の接点を強化する方針で、アプリのリニューアルも進めています。アプリを含めてお客様との最適なコミュニケーション設計をしていきたいです。

八木氏

すべてのアイデアを実現できたわけではありませんでしたが、サイトリニューアル後に基幹データベースが改善されたので、番組やジャンルの表現でできることが広がりました。今後もさまざまな施策を通して、お客様とのさらなるコミュニケーション深化を実現していきたいです。

杉山氏

今回のプロジェクトは、当社のさまざまな領域を横断し「戦略担当」「クリエイティブ担当」「システム開発担当」など、横断的に連携してチームをつくり実行しました。今後はさらに他の部門も含めてグループ一丸となって改善に取り組み、よりよい体験を提供できるようにしたいです。

 ※記事初出時点で誤りがあり、訂正しました(2023-12-15 編集部)
用語集
CMS / CV / KPI / LTV / NPS / UX / カスタマージャーニー / クリエイティブ / コンバージョン / ステークホルダー / ユーザビリティ / リンク / レコメンド / 訪問
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