「SEOは変わらなければ未来はない」サイバーエージェント SEOラボの木村氏が語るSEOのこれから

CAが設立したSEOラボ 研究室長の木村氏は、「SEOは変わらなければ未来はない」と危機感を示す。SEOラボ設立の経緯や目的、これからのSEOについて聞いた。

「旧態依然のSEOを変えていかなければ、今後ビジネスが立ち行かなくなる」。

SEOラボ研究室長の木村賢氏はそう危機感を示す。SEOラボは、サイバーエージェントが2016年11月に設立した組織だ。同氏に、SEOラボ設立の経緯や目的、コンテンツのモラルまで幅広いテーマで話を伺った。

「旧態依然のSEOの認識では、もう立ち行かない」という強い危機感

サイバーエージェント SEOラボ 研究室長 兼 メディア統括本部 SEO戦略室 室長 京都大学経済学研究科 研究員 木村賢氏
サイバーエージェント SEOラボ 研究室長 兼 メディア統括本部 SEO戦略室 室長 京都大学経済学研究科 研究員
木村賢氏

――SEOラボ設立の経緯について教えてください。

まず1点目は、そろそろ後進の育成について本格的に手をつけなければいけない時期に来ていると感じたからです。これは当社だけでなく、SEO業界全体の話です。これまでは皆、グーグルの変化に対応しながらSEOを行ってきました。しかし、どんどん技術が変わるので若手が短期間に技術を学ぶことが難しくなってきました。

2点目は、グーグルがリンクから「ユーザー行動ベース」に方針を変えてきたからです。表現は良くありませんが、SEOの要点は「グーグルハックを中心にしたSEO」から「ユーザー行動にマッチしたコンテンツ作り」にシフトしています。そうなると、従来のSEOとは毛色が変わってきます。つまり、もっとUXエンジニアリングに近い方法論が求められます。そういう点で、技術も研究も変えていくタイミングに来ていると感じたわけです。

――このSEOラボの目的、目指すところはどこにあるのでしょうか。

今SEOラボは、ユーザー行動データから「何が本当に良い結果につながるのか」を導き出すことに専念しています。それを軸に「正しいSEO」を考えて伝えていこうとしています。「正しいSEO」という定義も難しいのですが。過去に多くの企業が取り組んでいた施策でも、今の視点で見ると「正しくないSEO」となってしまうものもあります。それは、検索ユーザーと検索エンジンが常に変化しているからです。

個人のアフィリエイターも、SEOを請け負う制作会社も、そこに発注する企業担当者も、すべてが旧態依然のSEOの認識ではもう立ち行かない状況に来ています。もちろんクローラビリティなど変わらない要素もありますが、そんな危機感を持ちつつ、自らの過去も振り返りながら強く問題意識としてとらえています。

昔ながらのSEOのやり方ではもう立ち行かない

――SEOラボは、実際にどういう活動を行うのですか?

大きくは2つあります。1つ目は、しっかりとSEOの研究開発を進め、その成果を出して「長期的に問題なく使える正しいSEOを社内に伝えること」です。現在、社内の事業部はメディア統括本部(旧Ameba統括本部)、広告事業本部、そして私が担当するSEOラボというように、横並びの組織になっています。

木村賢氏
SEOラボはユーザー向け、ビジネス向けの事業本部と横並びの関係にある

SEOのビジネスへのかかわり方で見ると、SEOラボは得られた知見を社内に共有していく役割があります。つまり、アメブロやAbemaTV、ビジネス向けのマーケティングサービスなどサイバーエージェントのさまざまなビジネスに研究の成果をフィードバックし、SEOを底上げすることがミッションの組織です。また、広告事業本部は他社にSEOサービスを提供しているため、結果的に社外でのSEOを改善するという意味合いもあります。

――発表されたリリースでは、研究成果をセミナーなどで積極的に発信していく方針だということですが。

はい、それが2つ目です。その背景は、サイバーエージェントに対する世の中の印象として、旧態依然のSEOというイメージがまだ残っているということがあります。でも実際には現在はちゃんとしたSEOをやっているので、会社としてはそれをしっかりと発信したいという意図もあると思います。

実際、2010年ぐらいからグーグルのペナルティが厳しくなり、ガイドラインに沿わない手法はもう止めなければいけないという時期がありました。中長期の成果を考えるとマイナスになるようなことはしない方がいい。コストもかかるようになり、ビジネスとしてもきつくなってきて、変わらないとダメだと思いました。

SEOラボの目的は、社内外に「正しいSEO」を伝えていくこと

本来のSEOとは、良いコンテンツをつくってサイトに来てもらうこと

木村賢氏

――「SEOで実現できることなんて、もうほとんどないのでは?」という論調もありますよね。

それは「何を『SEO』とするか?」という話になります。「もうSEOで何もできない」と主張するのは、リンクやHTMLをいじることがSEOだと思っているからです。もちろんそれも大事ではありますが、しかし本来のSEOはそうではなく、検索エンジンを使って情報を探す人にもっとサイトに来てもらうこと。そういう意味では、WebサイトのUX(ユーザー体験)を整えることもSEOの一部ですし、まだSEOで実現可能なことは山ほど残っていますよ。

一方で技術的な面では、昔から変わらない課題も残っています。それは「Webサイト内のコンテンツをクローラに理解してもらうこと」です。大規模サイトになるほど技術的に難しく、それをきちんとできているところはまだ多くありません。たとえば、日々何万ものコンテンツが増えるCGM(Consumer Generated Media)サイトだと、コンテンツを完全にクロールしてもらうことは、極論をいえば不可能に近いと思います。

またECサイトのように商品の点数が多く、色やサイズの違いなどで異なるページが多くある場合も同様に難しいです。検索エンジンのロボットから見ると、「どこまでページをたどれば全コンテンツをクロールできるのか?」の判断できませんから、全部のページをクロールしてもらえるとは限りません。そこで「URLの正規化をどうするのか?」という課題が出てきます。このようにクローリング絡みのSEOも、昔から変わらず解決すべき課題のひとつです。

UXの面でも技術的な面でも、まだSEOでやれることはある

――なるほど。ほかに何かSEOとして新たにやるべきことはありますか?

あとは、最近ではAMP(Accelerated Mobile Pages)や、PWA(Progressive Web Apps)への対応なども、まずは自分たちで試していく必要がありますね。実はアメブロのチームはかなりチャレンジングなエンジニアが多くて、AMPの対応もいち早く行いました。「いろいろなことに挑戦して横展開しよう」という雰囲気になっています。

MFI(モバイルファーストインデックス)に対応したアメブロのデスクトップ版とスマートフォン版のURL統合も、エンジニアが約2週間で仕上げてしまいました。とんでもないスピードだったので、これには私自身も驚きました。柔軟に動く意欲がある人材が実際に動いてくれて、アメブロという大規模なメディアで検証ができることや、それを通じて研究開発を進められる点が、SEOラボの大きな強みだと思います。

――京都大学とSEOの共同研究を始めて4年になります。これまではどのような研究をしてきたのでしょうか。

検索エンジンのランク付けに効果がありそうなことは、何でも研究してきました。

初期は、世の中の一般的なWebサイトの検索順位や見出し情報をチェックしていました。グーグルの検索結果と、ほかの多くの情報を突き合わせて、グーグルの処理を推測する要素技術を中心に研究していました。具体的には、Webサイトのインデックス数、被リンク数、Facebookのいいね数、シェア数、H1タグに含まれるキーワード数や、キーワードの位置など、細かなハック的なことも研究していました。

しかし最近では、サーチエクスペリエンス(検索体験)やUXが重要になってきたので、調査項目や研究内容も変化しています。ただしユーザーがどのようにWebサイトを使っているのかに関しては第三者のサイトのデータを入手できませんから、Amebaを含む自社メディアの調査データと、グーグルの順位を照らし合わせて調査しています

たとえば、GoogleアナリティクスやSearch ConsoleのAPIから、滞在時間やクリックスルー率(CTR)を比較したり。UXの対象は幅広いため、ほかにも直帰率や回遊ページ数などと検索順位の関係も調査しています。

大規模なメディアを使って研究できることがSEOラボの強み

今、求められているモラルとSEOとコンテンツの関係

木村賢氏

――2016年には、キュレーションメディアと呼ばれるSEOのみを目的にしたサイトが多く登場し、モラル面で話題になっていました。この点についてどう考えていますか?

モラルに関しては、個人で考え方が異なるため、難しいところですね。今モラルという観点でSEOが問題視されていますが、まず一般論として言うなら、企業がWebを運営している以上「ビジネス成果と倫理のバランス」が大前提になります。もちろんモラルについては、守るべき最低限のラインがありますが。

私の経験からいうと、先ほど申し上げたとおり「モラルにのっとった行動をするほうが、中長期的に見てもビジネスリターンが大きい」と考えています。

私自身はメディアの運営を語る立場にないので、ここからは個人的な意見として、あくまでSEOを中心に話をさせてください。

SEOの観点でいえば、問題なのは「グーグルで上位表示された他サイトの内容を模倣する方法」だと考えています。

「答えを見てからコンテンツを作る」ようなアプローチは、やはりSEOとしてもダメですね。コンテンツを考えるときは、ユーザーの検索意図を意識して、マインドマップを自分で作らなくてはなりません。「ユーザーはこういう状況で、こういうことを知りたい」という仮説のもと、それに回答していく必要があります。

もちろん、われわれも検索のサジェストツールを使っていますが、それは重大な漏れがないかを確認するために補助的に使うものです。もともとが検索者のユーザーインテント(検索意図)に対して漏れがないかを確認するツールですからね。

モラルを守る方がビジネス的にも中長期のリターンが大きい

――売れているものを模倣するという行為は、SEOの話だけに限らないことですね。

そうですね。過去に行った施策でも、今から考えれば反省すべきものはあります。ただ、グーグルのガイドラインに反することがモラルに欠け、ガイドラインに反していなければモラルがあるのかというと、そういうことでもないと思います。本来は、検索ユーザーに価値を提供できるコンテンツを上位に持ってくるためにSEOがあるのであり、「どんなものを上げるべきか」という吟味も重要です。それはコンテンツ作りでも同様です。

――最後に、今後のSEOラボの予定について教えてください。

SEOに関するブログは、ちょっと忙しくて更新が途絶えていましたが、今年からブログによる情報発信をしっかり再開します。また、SEOをテーマにした書籍も制作しています。アメブロのSEOから専門的なSEOまで、今年は数冊ほど書籍を出す予定です。やはり紙は残るものですから、これらを通じて正しいSEOを伝えていきたいですね。内容や企画についてはまだ言えませんが、多くの出版社と一緒に協力し、いろいろな切り口でSEOを考えていきたいと思っています。

それからSEOラボ主催のセミナーは、年に数回の割合で開きます。第一弾は1月27日に実施します(編注:記事公開時はすでに開催済み)。グーグルの方針がどう変わり、SEOをどう変えるべきか、そういうことがよく理解できるセミナーになります。積極的に参加していただき、多くの情報を共有して業界を良くしていきたいと考えています。

用語集
CGM / CTR / Googleアナリティクス / HTML / SEO / インデックス / クリックスルー率 / クローラビリティ / クロール / スマートフォン / フィード / リンク / ロボット / 検索エンジン / 直帰率 / 被リンク
この記事が役に立ったらシェア!
メルマガの登録はこちら Web担当者に役立つ情報をサクッとゲット!

人気記事トップ10(過去7日間)

今日の用語

Python
「Python」(パイソン)は、プログラミング言語の1つ。プログラマのグイド・ヴ ...→用語集へ

インフォメーション

RSSフィード


Web担を応援して支えてくださっている企業さま [各サービス/製品の紹介はこちらから]