カウボーイは背中で語る――稲見氏 (慶應大学院メディアデザイン研究科) × 清水氏 (UEI) 対談

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カウボーイは背中で語る

「天下一カウボーイ大会」の命名の由来とは? 設立の動機となった問題意識とは? そして、来るべき未来像とは?

ユビキタスエンターテインメント CEOの清水 亮氏と、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授の稲見昌彦氏が熱く語る「コンピュータカウボーイ」対談をお届けする。

この対談のテーマとなっているイベント「第弐回天下一カウボーイ大会」(8月24日開催)に関する情報は、天下一カウボーイ大会のオフィシャルサイトをご覧ください。

なぜ「カウボーイ大会」?

稲見昌彦(慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科 教授)
稲見昌彦
慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科 教授

清水 : 本日はありがとうございます。僕達は「天下一カウボーイ大会」というイベントをやっていまして、今日はその趣旨を説明させていただきたいと思いまして。

稲見 : まずは名前からご説明いただいたほうがいいかもしれませんね。

清水 : 「カウボーイ大会」っていうとどんなものだと思いますか?

稲見 : 名前だけ聞くとテキサスあたりでやってそうなイメージですよね。

清水 : テキサス。近い。っていうと、やっぱり暴れた馬とかにのってそうですよね。ロデオ大会とか。その暴れ馬をコンピュータだと思っていただくと、だいぶイメージが近いんじゃないかと思いますよ。

稲見 : アメリカ南部のイメージとコンピュータって、つながらないイメージがあるんですよ。どちらかというとシリコンバレーとか……。

清水 : それはちょっと違いますね。例えば、コンピュータの歴史について非常に重要な役割を果たしたものに、宇宙開発があります。宇宙開発といえばヒューストンですよね。あそこは「作る」と「使う」が一体化してる場所。逆にシリコンバレーはどちらかというとマニュファクチュアの街なんじゃないかと思います。「作る」と「使う」が一体化している人たちが、カウボーイだと思うんです。

稲見 : なるほど。

清水 : アストロノーツのイメージと、荒くれ者のカウボーイのイメージは実はかなり近いところにある。僕の記憶ではCGもユタ州なんかが中心だったと思います。

稲見 : ユタ大学ですね。

清水 : あれは中西部ですが、とにかくなんか砂漠の中で作ってるイメージがあるんですよね。砂漠の中で作ってて、他にやることも無いからずっと研究してる、というような……、まあ、そういうイメージがあって……。それに、ゲームの話で言うと、FPSというジャンルを築いたid Softwareという会社もテキサス州にあって、DWANGO時代にジョン・ロメロやジョン・カーマックと付き合いがあったんですけど、彼らはホントにロックスターで、歩いているとサインを求められたりするんです。そういうこともあって、ハッカーと荒くれ者、というイメージは近いんですよね。

稲見 : そういえば、和田英一先生がハッピーハッキングキーボードを考案されたときにも、「これはカウボーイにとっての馬の鞍だ」というようなことを仰ってました。

清水 : それから、カウボーイにもいろいろいると思うんです。法律を無視するならず者もいれば、善玉のカウボーイもいる。でも、どちらもカウボーイには違いない。これは、ハッカーの世界に通じると思うんですよ。プログラマ同士、心の奥底でつながっている感じがあるんです。そういう関係って実は凄く珍しいと思っていて。それをなんと表現しようかなと。「ハッカー」には最近では悪いイメージの方が強いし、「ギーク」はどこか浮ついた感じがある。だったら、全くみんなが忘れていた言葉を掘り起こして、「カウボーイ」と呼んでしまおう。それが僕達の意図に一番近いんじゃないか、という深い意味合いもそこにはあります。

稲見 : なるほど。

『ニューロマンサー』
ウィリアム・ギブスン著、黒丸 尚 訳、早川書房

清水 : まあ、一番直接的にはギブスンの「コンピュータ・カウボーイ」からなんですが、これについては面白い話があって、ギブスンが「ニューロマンサー」を書いたときにはコンピュータをもっていなかったそうなんです。それで、初めてIBMのマシンを買って使おうとしたときに、フロッピーディスクのアクセス音に驚いてメーカーに問い合わせたという話があって。ギブスンにとってはコンピュータは情報の結晶のような精密なもので、そんな俗なものではなかったらしいんです。だから「ニューロマンサー」は妄想で書き上げたものなんだそうです。

稲見 : じゃあ、書き上げる前にコンピュータを手に入れてたら、もっとつまらないものになってしまっていた可能性もある。

清水 : その危険性はあったと思います。「電脳コイル」なんかもそうですけど、そういう、技術者でない人にしか思い描けない未来というものもあるんじゃないかと思うんです。今回、「暴れコンピューティング」というテーマで、プログラマー以外の方にも出演をお願いしているのは、そういう意図もあります。それで、最初は「電脳空間カウボーイズ」というpodcastをただ仲間内で定期的に放送していたんですけど、永くやっている間には、有名なプログラマーの方々が「俺も俺も」って参加してきてくれて、それで、僕らの知っている中で面白い人をゲストに呼んだりしていたんですが、もっと一堂に集めてごった煮にしたら、凄く刺激的なイベントになるんじゃないかと思って。それで「天下一カウボーイ大会」という名前をつけてイベントを開催してみたんです。

稲見 : なるほど、そういう流れでしたか。

清水 : 学会に参加してもいいんですが、ビジネスの場とアカデミズムの場には少し距離がある。僕は昔、情報処理学会に一生懸命参加してたんですけど、周囲から「机上の空論でしょ」みたいなことをいわれることがありました。気を悪くされたら申し訳ないんですけど。ビジネスサイドから見ると、すぐにお金にしたいという思いが強すぎて接点が無い。逆に、学会は学会でややこしくて、査読というシステムがあるとか、論文を書くにも出典を脚注に沢山書かなきゃいけないとか、学会の歴史を把握していないと参加できない部分もあったり。正会員になっても、すごく敷居が高く感じてしまいました。「わからん」、ということなんですよね。

稲見 : 会員になっても難しいのは、そういう研究の中から面白いものを見つけ出す、ということなんです。学会誌を全部読んでも、辞書を最初から読むようなもので面白くないんです。最近、学会ソムリエみたいなものが必要なんじゃないかと思います。

清水 : なるほど、ソムリエですか。僕らはある意味で、そういう役割を果たせるんじゃないかと思っています。カウボーイを集めて「天下を競う」というメタファーはまあ、冗談っぽいんですけど、大学の先生方も、民間で変わったことをやっているプログラマーもみんなカウボーイだと勝手に僕らが定義づけて。ロデオってそういうものだと思うんです。暴れた馬にわざわざ乗る意味は特に無いわけで、でもそれを、あえて乗りこなすのがカッコイイでしょ、というような。

稲見 : そういう学際的な場所っていうのは、なかなかなかったですよね。結局フィールドに規定されてしまうと言いますか、大学にいると学会で発表していれば、閉じたシステムの中で完結してしまうので。 優秀なプログラマーの方とお話しするというのは、知り合いの方と、というのはあるのですが、場としてはなかったですね 。

教科書が悪い!

株式会社ユビキタスエンターテインメント代表取締役社長兼CEO 清水 亮
清水 亮
株式会社ユビキタスエンターテインメント
代表取締役社長兼CEO

清水 : 僕は10年位前から「ゲーム業界がこれからヤバい」ということをずっと言っていたんですけど、それは「3Dの教科書が悪いんだ」っていう話をしてたんです。僕は高校生のときに既に雑誌に3Dに関する連載記事を持っていたんですが、とにかくその当時は本が無かった。当時は、物体を回転させるときに、オイラー角をつかって処理をしていました。でもこれでは、破綻するんです。

稲見ジンバルロック

清水 : そう、ジンバルロック。ちょっと回転して、正規化して、なんてハック的な手法を試してみたりしてたんですけどぜんぜんダメで。そんなことで悩んでいた18歳のときに、スウェーデン大使の息子と知り合って、彼は中学生だったんですけど「なんでクォータニオンを使わないんだ」って指摘されたことがあって。中学生にです。僕は、もう宇宙人と話してるような気分になって。それまで自分の人生の中のかなりの時間を3Dプログラミングに費やしてきたのに、中学生に負けた、と。それで僕は、3Dの教科書が無いのが悪いと思うようになったんです。

稲見 : 確かに、そういう観点での教育をする場はないですよね。大学の教養課程で線形代数は扱うけど、理学系の先生が教えていたりしますしね。いわゆる「美しい数学」の中での扱いですからね。

清水 : イマジネーションの世界なんですよね。根本は同じなんだけど、応用が違いすぎて実際に使おうとするときに役に立たない。どう使えばいいのかがわからない。坊さんの説教みたいなもんですよね。僕は、集合論や線形代数は最後まで授業を聞けなかったなあ。

稲見 : でも大学三年くらいになると反省するんです。CGやロボットをやろうとするとその必要性が判るから、その時初めて「やっとけばよかった」ということになる。順番が違うんですよね。教わってるときにその大切さが通じるようにすべき、というか……。テキストのほうにも見立てが大切だということかもしれませんね。

清水 : 高専や専門学校の出身者は、はじめから必要性がわかってるから結構数学を勉強するんです。でも僕みたいに齢をとってからそれに気づく人もいる。当時僕は、電通大の図書館で日本人の書いた教科書を探していたんですが、1冊しか見つからなかった。見つかった本もいわゆる「美しい数学」について書いてある本で、それを読んでも3D空間にどう応用するかについては一切書いていない。でも実は、英語の文献で言えば、僕が生まれた年には既にフォレーと言う人が「Computer Graphics:principles and practice」という本を書いていて、クォータニオンのこととかフツーに書いてある。それがすごくショックでしたね。「英語が読めないと、中学生にも負けるんだ」って……。僕と同世代で、3Dプログラミングをしている人間に限定すれば、まあその当時トップレベルにいる自信はあったんですよ。著書もありましたし。でも、その本を出している僕がこのレベルじゃダメだな、と思ったんです。他にも3Dの連載を持っている方はいらっしゃったんですけど五十歩百歩で。「こりゃダメだ、日本は」と思ったんですよ。雑誌の投稿者のレベルも決して高いとは言えなくて、もう「Game developper Magazine」なんかには絶対勝てないレベルなんですよ。それで、英語の雑誌を読まないとダメだ、と思って読むように努力したんですが、結局ゲームプログラマーを名乗るのをやめてしまいました。

対談風景_01
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