【レポート】デジタルマーケターズサミット2023 Summer

カルビーの「リテールDX事例」を紹介! ID-POSデータを販売提案に生かす方法とは?

カルビーが取り組むID-POSデータを活用した顧客理解と販売提案について、事例を交えて紹介する。

カルビーでは、商品から顧客へ主語を変え、顧客視点での営業活動を目指したリテールサイエンス部を、2022年に設立した。「デジタルマーケターズサミット 2023 Summer」では、カルビーの松永遼氏が、リテールサイエンス部の役割や目的、さらにリテールDXのなかでもID-POSの活用に焦点を当てて実践事例を紹介した。

カルビー株式会社 カルビージャパンリージョン
企画統括本部 リテールサイエンス部 部長 松永遼氏

リテールサイエンス部の活動内容

スナック菓子やシリアル食品のメーカーとして知られるカルビーは、日本を含む10の国と地域でビジネス展開するグローバル企業である。2022年に設立されたリテールサイエンス部では、「お客様の買い物体験をより便利にし、パートナー企業、カルビーのファンになってもらうこと」を、目指す姿として掲げている。「お客様」とは「購買者=ショッパー」で、「パートナー企業」とは「小売業」のこと。

社内でも数少ない小売業・流通の購買データ分析を専門に行う部署であるリテールサイエンス部では、現在以下の3分野で専門性をもった分析をしている。

  • 顧客理解(流通/ショッパーの理解)
  • 競合理解(担当企業のライバルメーカー)
  • 環境理解(市場変化)

また、次のように大きく4つのゾーンによって、短期の仕事、中期の仕事、長期の仕事と分け、次世代に向けて活動している。

リテールサイエンス部の活動内容

リテールDXで実現したいこと

リテールDXは長期課題なので、現時点で大きな成果が出ているというわけではない。社内では2030年をターゲットに定め、そこへ向けての取り組みを実施している最中だという。リテールDXで実現したいことをまとめたのが以下の図だ。

リテールDXで実現したいこと

実現したいのは、「購買実態から購買者のニーズを明らかにし、お客様が欲しい商品を購買する後押しをする」ことだ。つまり、購買実態からニーズを把握(データ分析)し、ニーズに合致した商品を選定(仮説)して、お客様ごとに最適なコミュニケーション(アクション)をしていく。そして、これらを一気通貫で行うことが、最も重要だという。

事例紹介:ID-POS分析事例

今回紹介するのは、データ分析で何を行い、アクションで何を行ったかを中心に、以下のようなショッパーデータを活用した施策だ。

リテールDXの事例

上図にあるように、カルビーではID-POSデータを共通で分析することに取り組んでいる。これまで、各小売業によってID-POSデータで分析できる内容が異なっていたため、お客様に提供できるサービスにバラツキが出てしまっていた。そこで、1つの基盤でまとめることにした。社内での学習コストも下げることができるため、この基盤づくりが大きなテーマになっている。

本セッションでは、顧客ロイヤルティ向上のためにID-POSで何を行っているのか、また、プロモーションでのターゲティング施策事例が紹介された。

POSデータとID-POSデータの違い

まずは、POSデータとID-POSデータの違いについてだ。データとして一般的に知られているのは、小売業がもっているPOSデータだろう。POSデータは、お店のレジを通過したデータだ。いつ売れたか、どこで売れたか、何が売れたか、いくつ売れたか、いくらで売れたか、何と一緒に売れたかなど、「商品の売れ方」がわかるデータだ。

一方、ID-POSデータは、小売業の会員情報に基づいた「IDに紐づいたデータ」である。そのため、誰が買ったか、以前は何を買っていたか、どのくらいの頻度で買っているか、いつから買わなくなったかといった「お客様(ショッパー)の買い方」がわかり、お客様への理解が深まることにつながる。

つまりPOSでは「商品の売れ方」が、ID-POSでは「購買者の買い方」がわかるという違いがある。

ID-POS分析について

市場データよりもID-POSデータの方がより深く分析を行うことができるため、担当企業(小売業)の強みや売上課題を発見しやすい。

こうしたID-POSによる取り組みを展開していくことで、小売業と話をするときの主語が「商品」から「顧客(お客様)」に替わっていき、お互いに改善していく課題が「お客様」に変化していく。また、データ分析の出口が増えることで、より確度の高い施策を実施できるようになる。

CDT分析について

カルビーでは、CDT(コンシューマーディシジョンツリー)分析を定番棚の提案で利用している。つまり、定番商品のグルーピング、品揃えの絞り込みを行っているわけだ。アイテム数と併売行動によって、商品の分類を行ってラベリングする。

品揃えの絞り込みを行った後に、トーナメント表を作成。ABC分析をかけていき、どの商品を残すのかを決めていくことで、ニーズの取りこぼしがなくなる。

残存率分析について

次は、残存率分析の事例である。

カルビーでは、新規ユーザーが何回、同一カテゴリーを購入すると定着(リピーター)となるのか分析を行っている。その分析結果から、いつ、どんな施策を、どのくらいの期間で実施すべきかなどの販売施策の提案を行っている。

このように、ID-POSデータをもとに小売業に販売施策の提案をし、「共同で購買者にアプローチする」ことが、カルビーが取り組むリテールDXのテーマの1つになっている。

事例紹介:ID-POSデータと機械学習を活用したプロモーション(ターゲティング施策)

次に、具体的なアプローチの事例として、購買後に発券されるレシートクーポンによるターゲティング施策を紹介する。以下のような内容で、レシートクーポンの利用率改善に取り組んだ。

目的:ポテトチップスの“新規ユーザー獲得”を図る
手法:未購入者に“クーポンを提示”し、購買を促す
成果:機械学習の利用で、手動でのターゲティングよりも“購入率”を上げる

ターゲティングの動線のイメージ

レシートクーポン施策を手動で行う場合では、併売商品でターゲティングしていくことが多い。たとえば、ポテトチップスと炭酸飲料の併売率が高いので、「炭酸飲料を買っていて、ポテトチップスを買っていない方」をターゲットに発券し、次回来店時に利用されたかどうかを分析するというものだ。

今回は、50万人を対象にしたクーポン施策を行い、教師データ(手本になるデータ)として分析した。手動によるクーポン配布施策の購入率は数%だが、機械学習を利用した結果、手動の約3倍のお客様に対して、クーポン施策を実施できるという計算結果が出た。

ただし気を付けたいのは、ID-POSデータが大容量のため、さらに機械学習にかけることでブラックボックスが生じてしまうケースだ。どのようなパラメータが起因して結果につながっているのか、それがわからない機械学習モデルがあったのだ。そこで上位の特徴量を出してくれる機械学習プラットフォームを活用し、「どのような人がポテトチップスを新規で買ってくれる可能性が高いか」を予測した。

この機械学習でおもしろかった点としては、「〇〇を買った人が、ポテトチップスを買ってくれる」という特徴量に加えて、「〇〇を買わない人が、ポテトチップスを買ってくれる」という特徴量が得られた点だ。機械学習を用いた結果、上位顧客群は予測どおり高い実績を得ることができ、従来の手法と比較して、5.7倍の購入率という成果を得た。

ただしこの機械学習の実証実験では、課題もあった。予測と実績で上位特徴量に差異があったことだ。

このような違いが出た原因としては、学習から実績までに大きく環境変化したことが考えられる。ちょうどコロナ禍などがあったが、そのような環境変化を予測モデルに取り込めていなかったためと考えられる。

リテールDXの成功要因

カルビーでは、ID-POSを使ったショッパーデータを活用することで顧客理解が進み、「お客様との距離が近くなった」と捉えている。

最後に松永氏は、リテールDXの成功要因として次の3点をあげ、よりお客様に支持される売り場を作っていきたいと語り、セッションを終えた。

  • データ:ショッパーデータだけでなく、自社でもっているデータや売り場情報を組み合わせたい。
  • 武器:ターゲティングだけでなく、売上予測や売場づくりに活用するアイデアを試したい。
  • 人財:特定の人だけが使えるのではなく、事業部門の多くの人財が使いこなせるようにしたい。

Q&A

視聴者から質問が届いたため、本レポート記事で回答する。

――棚割り提案時にCDTをもとにしたサブカテゴリ分けと、サブカテ内でのABC分析が非常に興味深かったです。CDTをもとにしたサブカテゴリをどのようにされているのか、単にベネフィットや区分、剤型違いだけにしないポイントを教えていただきたい。

松永氏: ご質問、ありがとうございます。CDTを元にしたサブカテゴリは、分けたいグルーピング数を事前に設定し、グループの中身を①定番の品揃、②販促の実施アイテム、③新商品、から判断し、サブカテゴリへの落としこみを行っています。今後はロイヤルティ別や立地別にCDTを作成することで施策への落とし込みを検討しています。参考になれば幸いです。

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