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「これからのAIはどうなる?」「未来のAIのヒントはアニメ、ゲームにあり!?」、AI開発のスペシャリストたちが激論

レッジ主催の「AI TALK NIGHT」が「AI TALK NIGHT sponsored by Gravio」として2年半ぶりに開催。各業界屈指の有識者が語り合った。

今やAI(人工知能)は、私たちの社会で当たり前に活用される存在となりました。とはいえ、すべてのAIが社会になじんでいるわけではなく、「存在すら感じさせないほど浸透しているAI」と「なかなか浸透しないAI」の2つに分かれます。

2つのAIを分けるポイントになっているのが「なめらかさ」です。これから訪れるAI時代、この「なめらかさ」はさらに必要とされていくでしょう。

では、具体的にAIにおける「なめらかさ」とは何でしょうか。

今回、レッジが主催する「AI TALK NIGHT」が、「AI TALK NIGHT sponsored by Gravio」として2年半ぶりに開催されました(提供:アステリア株式会社)。各業界屈指の有識者を招き、「AI時代に必要な『なめらかさ』とは?」をテーマに語り合いました。

登壇者は、ゲストとしてLINE株式会社 執行役員/AIカンパニーCEOの砂金信一郎氏、ゲームAI開発者で日本デジタルゲーム学会 理事 三宅陽一郎氏、株式会社Creator’s NEXT 代表取締役社長の窪田望氏というAIのスペシャリスト3名をお招きし、アステリアのCXO/首席エバンジェリストの中山五輪男氏と、同じくアステリアでGravio事業を統括する垂見智真氏がホスト役を担当。

ファシリテーターをつとめるのは、本メディアLedge.aiを運営する株式会社レッジ 執行役員の箕部和也です。

登壇者プロフィール

LINE株式会社 執行役員/AIカンパニーCEO
砂金 信一郎(いさご しんいちろう)


東京工業大学卒業後、日本オラクル、ローランド・ベルガー、マイクロソフトでのエバンジェリスト経験などを経て、2016年にLINE株式会社に入社。2020年2月より、人に寄り添う「ひとにやさしいAI」の社会実装を掲げる同社のAIカンパニーCEOに就任。2019年度より政府CIO補佐官、2021年9月よりデジタル庁プロジェクトマネージャーを兼任。

日本デジタルゲーム学会 理事
三宅 陽一郎(みやけ よういちろう)


ゲームAI研究者・開発者。京都大学で数学を専攻、大阪大学(物理学修士)、博士(工学、東京大学)。東京大学生産技術研究所特任教授、立教大学大学院人工知能科学研究科特任教授、九州大学客員教授。情報処理学会ゲーム情報学研究会運営委員、人工知能学会編集員会副委員長、日本デジタルゲーム学会理事。著書に『人工知能のための哲学塾』(ビー・エヌ・エヌ新社)、『戦略ゲームAI解体新書』(翔泳社)など多数。

株式会社Creator’s NEXT 代表取締役社長
窪田 望(くぼた のぞむ)

米国NY州生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。15歳の時に初めてプログラミング開発を行い、ユーザージェネレーテッドメディアを構築。 大学在学中の19歳の時に起業し、現在17年目。 東京大学大学院工学系研究科技術経営戦略学専攻グローバル消費インテリジェンス寄附講座 / 松尾研究室(GCI 2019 Winter)を修了。 米国マサチューセッツ工科大学のビジネススクールであるMIT スローン経営⼤学院で「Artificial Intelligence: Implications for Business Strategy」を修了。 2019年、2020年には3万7000名の中から日本一のウェブ解析士(Best of the Best)として2年連続で選出。

アステリア株式会社 CXO(最高変革責任者)
ノーコード変革推進室 室長・首席エバンジェリスト
中山 五輪男(なかやま いわお)


1964年5月 長野県伊那市生まれ。法政大学工学部卒業。複数の外資系ITベンダーさらにはソフトバンク、富士通を経て、現在はアステリア社のCXO(最高変革責任者)および首席エバンジェリストとして幅広く活動中。様々な書籍の執筆活動や全国各地での講演活動を通じてビジネスユーザーへの訴求活動を実践している。

アステリア株式会社 グローバルGravio事業部 事業部長
垂見 智真(たるみ ともまさ)


アステリア株式会社にてAI・IoTミドルウェア製品「Gravio」事業を統括。大学卒業後、産業機器およびコンピューター関連外資系企業にてエンタープライズ向けのセールス、およびマーケティング活動に従事、トレーニングやセミナーの講師などを含む、様々な製品の展開を担当。2015年にアステリア株式会社に入社、基幹製品であるASTERIA Warpのマーケティングをリード、のち2018年より現職。

株式会社レッジ 執行役員/データストラテジー事業部 事業部長
箕部 和也(みのべ かずや)

インターネット広告代理店にてSNSを通じた企業と生活者のコミュニケーションデザインのプランニングに従事。その後オンラインのみではこれからのマーケティングに不十分であると感じIoT案件を多数手掛けるウフルに転籍。従来は取得できなかったフィジカル領域のビッグデータを活用したIoTビジネスのコンサルティングを行った。レッジ参画後は、AIをはじめとする先端技術を活用した自社内外の事業開発を推進している。


👇アーカイブ動画も公開中! AI TALK NIGHT sponsored by Gravio

【アーカイブ動画を配信中】AI TALK NIGHT sponsored by Gravio テーマは『人工知能をなめらかに浸透させる』

ユーザーに「裏側で動いているAIを意識させたら負け」

箕部:今日はさまざまな業界の第一線で活躍されているAIのスペシャリストの方々から「なめらかさ」というキーワードを軸にお話を伺います。まず、アステリアのおふたりにお聞きしますが、「なめらかさ」について、どう捉えていらっしゃいますか?

垂見:私たちアステリアが考える「なめらかさ」の1つの答えは、AIの開発が「ノーコード」で行えることです。ノーコードとは、ソースコードをいっさい記述せずにアプリケーションやWebサービスの開発が可能なサービスのこと。多くの企業がAIシステムの構築に取り組んでいますが、開発そのものが難しいという課題を抱えています。内製化や高速開発を実現する上で、ノーコードがそうした課題を解決できると思います。

右より、アステリア CXO/首席エバンジェリスト 中山 五輪男さん、アステリア グローバルGravio事業部 事業部長の垂見智真さん

中山:私は経営者の方々の前で講演することが多いんですが、ノーコード開発については、まだまだ知られていないと感じます。ノーコードは「ノンプログラミング」と言ってもいいんですが、これからは確実にノーコードの時代に突入し、日本のソフトウェア文化が変革すると確信しています。その確信のもと、9月1日に「ノーコード推進協会」を設立し、ノーコードの普及と促進に努めています。

箕部:たしかに、ノーコード開発であれば、専門知識が不要なので、その先にある「AIを意識しない社会」につながると思います。この点について、砂金さんはどうお考えでしょうか?

LINE 執行役員/AIカンパニーCEO 砂金 信一郎さん

砂金:私たちLINEも、開発者向けにAPIを提供していますが、どちらかというと、私たちの意識が向かっているのはエンドユーザーなんです。スマホにLINEのアプリを入れてくださっているエンドユーザーの方々に、「LINEの裏側で動いているAIを意識させたら負け」だと思っています。ユーザーさん自身は自然に快適に作業ができていて、実はその裏で気づかないうちにAIが動いていますよ、というのが私たちの目指すところです。

今回の「なめらか」というテーマでいうと、LINEではテキスト、画像、音声などの出入力をミックスアップしています。少し前まではテキストならテキスト、音声なら音声と、人間がシステムの都合に合わせて操作する必要がありましたが、そうじゃなくていいんじゃないかと。LINEでは、もっと自由なコミュニケーションのために、システムは柔軟でありたいと思いながら開発しています。

たとえば、私たちのLINE CLOVAというチームが提供している、領収書や請求書に特化した「CLOVA OCR」という認識系AIサービスがあるんですが、読み取る対象として想定しているのが「ポケットから出してきた、しわくちゃのレシート」なんですよ。そこにコーヒーや醤油のシミもついている(笑)。それをスマホで撮影すると、手の影が落ちて一部が暗くなってしまう。もう撮像環境としては最悪です。でも、だからといってそれを「読み取れません」と言うわけにはいきません。

エンドユーザーに操作を任せるということは、 「整理されたデータが期待できない」ということ。そのなかでシステム側は、最善の結果を出していかないといけない。そういうことをすごくがんばってやっています。

ファシリテーターをつとめるレッジ執行役員の箕部和也

箕部:ユーザー側からすると、そこでシステム側ががんばってくれるのは非常に嬉しいことですよね。

砂金:今の例は「認識系のAI」の話なんですが、最近流行っているのは「生成系のAI」ですよね。たとえばAIが絵を生成してくれる「Stable Diffusion」が話題になっています。「茶トラの猫が窓際で寝ている」のように、状況を伝える「呪文」を唱えると、AIがその状況を再現したイラストを生成してくれる。グラフィック系やコンピュータビジョン系の方々が「これは使えるぞ」ということで、今ちょっとした騒ぎになっています。

生成系のAIで、私たちLINEがチャレンジしていることがあって、日本語テキストを生成・作文する「HyperCLOVA(ハイパークローバ)」という大規模汎用言語モデルを開発中です。たとえば、みなさんは業務連絡メールって、7〜8割は「面倒だな」と思いながら返信を書いていると思います(笑)。「お世話になっております」から始まって、かしこまった文章を書かないといけないんですが、そういうところをAIが作文してサポートします、というプロダクトです。AIが学習して、人間にとって「なめらか」と感じる文章を生成してくれます。

箕部:「こういうメッセージを送るといいよ」と、LINEのAIから提案してもらえると便利ですよね。

砂金:それもケースバイケースで、LINEの場合は、とてもパーソナルなメディアですよね。たとえば、好きな人に送ったメッセージが、実は「AIにレコメンドされた3択のうちの1つでした」というのがバレると、「ゲームじゃないんだから!」ってなりますよね(笑)。そこはやっぱり人間が心を込めて、書きかけては消して、を1時間くらい繰り返してから、やっと勇気を出して送信!というのがいいですよね。でも、業務メールなら、AIで効率化できるところはどんどんしてほしいと。

HyperCLOVAでは、文章の「要約」もできます。すごく長い文章の要約って人間でも難しいんですけど、AIなら3行に要約することがパッとできます。出てきた表現もなめらかで、日本語として不自然ではありません。また、小説や歌詞のようにアーティスティックな文章の作成も可能です。そうなると、AIが書いたものを人間がちょっと直して完成するようになる。AIが、人間が創作活動をする際の「文房具」のようになっていくと思います。

このように、人間が新しいものを生み出すときに「そっとサポートしてくれる存在」にAIがなれると、世の中はけっこう変わっていくんじゃないかなと思っています。今後もクリエイターの「最初のアイデア」はなくならないと思います。でも、ある程度、ルール化できる「作業」はAIが担うことになるでしょう。

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ゲーム業界の高い技術力が外の世界に出ていったら

ゲームAI研究者・開発者、日本デジタルゲーム学会 理事 三宅 陽一郎さん

箕部:三宅さんにもお話を伺いたいと思います。ゲームにおけるAIって、どのように開発設計されているんでしょうか?

三宅:ゲームの場合はエンターテインメントなので、ユーザーにユニークな体験を与えるためにAIがある、という考え方ですね。

箕部:面白い「体験」を作るためにAIがある、と。

三宅:面白いだけでなく、「怖い」とか「泣いた」とかもそうですし、何かを集めるのが楽しいとか、成長していくのがうれしいとか、ゲームごとにいろいろな楽しさがあって。いろいろな種類のゲームをたくさん作っていくために、ぜんぶAIを変えて開発していたら大変ですから、なるべく共通のAIで作りたいわけです。

ゲーム開発におけるAIは3種類です。ゲームキャラクターの頭脳を司る「キャラクターAI」。ゲーム全体をコントロールする神様のような「メタAI」。そして、地形やオブジェクトを扱う「スパーシャル(空間型)AI」です。この3つを組み合わせて「自律分散協調システム」を作っていて、これらをもとにゲーム開発するのが、現在の汎用的な開発手法ですね。

箕部:共通のAIを使うけれど、パラメータを変更することでゲームごとの特色を出していく、と。

三宅:そうですね。しかも、今のゲーム開発で、実際にコンテンツを作るのはエンジニアではなく、デザイナーなんです。じゃあエンジニアは何をしているのかというと、「デザイナーがコードを書かなくてもAIの中身を作れるような仕組みを作ること」なんです。つまり、ゲーム業界でも「ノーコード」がキーワードになっているんです。

『PlayStation3』(SIE、2006年発売)の制作の頃から、コンテンツ側はなるべくコードを書かないような開発環境を構築してきました。80〜90年代までのゲーム開発は、コンテンツ実装はスクリプトを書いていました。すると、バグがたくさん出てしまうんですね。いろいろな書き方ができてしまうから。だったら、GUIツールを作って、バグが出ないような作り方しかできないようにしてしまおうと。そういうやり方をゲーム業界はこの15〜20年くらい、ずっと探求してきたんです。

中山:ということは、ゲーム業界では、これからプログラマーは減っていくんですか?

三宅:コンテンツ側はそうですね。基礎システム側はむしろ増えていますが。今はゲームエンジンというものもありまして、これは「ゲーム開発エンジン」なんです。つまり、開発環境そのものがツール化されているわけです。昔と違って今はゲームの規模も大きくなっていますから、できるだけ省力化したいということで、最初からゲーム開発エンジンを買って開発する現場が多いですね。もちろん、体力のある会社は自分たちでツールをぜんぶ作って、独自のコンテンツを作れるようにしていますが。

たとえば「Unreal Engine(アンリアルエンジン)」「Unity3D」などを使えば、GUIツールが完備されているので、簡単なゲームであれば、コードをまったく書かなくても1週間くらいでゲームが作れてしまうんです。

中山:ゲーム会社というと、たくさんのプログラマーががりがりプログラミングしているイメージがありましたが、今はそうじゃないんですね。

三宅:ゲームのコードって、100万行を越えてしまうくらいの量ですからね。メンテナンスも大変ですし、作りたい部分ってそこじゃない。だったら、きちんと動いてくれるモジュールを作っておいて、それを動かせばいいというわけです。

中山:ちなみに、ゲームメーカーが自分たちのために作ったそれらのAIを、他の業界にも展開しようという考え方はあるんでしょうか?

三宅:そこはですね……ゲーム業界って、自分たちの技術があまり外で役に立つという感覚を持っていないんですよ。しかし、最近は他の業界からオファーがたくさんあるので、リリースをする場合も少しずつですが増えています。

中山:こんなにすごいのに、もっと活用すべきですね!

三宅:外に出してみると、けっこう役立つかもしれませんね。たとえば「オートデバッグ」とか。

垂見:デバッグはどのソフトウェアにも必要ですからね!

「外れ値」こそがパーソナライズされたAIに必要な要素

AIアーティスト、Creator’s NEXT 代表取締役社長 窪田 望さん

箕部:窪田さんはtiktokなどさまざまなメディアでAIアーティストとして活躍されています。窪田さんは、「なめらか」ということを意識されることってありますか。

窪田:個人的にも「なめらか」というキーワードにはすごく注目していて。たとえば、「〇ヵ月後の売上を予測しよう」みたいな問題をAIに解かせると、AIの答えって、1つに決まるんですよ。だけど、その際のデータに「みんなはこれ、嫌いかもしれないけど、自分は超好き!」というものがあったとき、今のAIでは「外れ値」として扱われ、前処理で「外しましょう」となってしまう。

もっと個人に合わせた「なめらかなAI」があってもいいんじゃないか。この前、僕が特許をとった「パーソナライズドAI」というものがあるんですが、それは「みんなが外れ値として前処理していたものは、個人の感動という意味で考えると、一番大事なのでは?」という考え方にもとづいているんです。つまり、外れ値ではなく「感動の種」であって、バイアスを調整する際の重要な因子と捉えて開発していくという考え方です。

箕部:なるほど。パーソナライズとはつまり、「個人にとって最適なものを出してくれるAI」ということですからね。

垂見:通り一遍のAIではなくて、「次の世界」には、カスタマイズAI、テーラードAIは、あってしかるべきだなと思います。

窪田:たとえば、ブレイン・マシン・インターフェース(脳と機械を直接つなぐ技術)などが当たり前になったとして、メタバース的な360度空間があれば、そこで自分にとって快適な世界を自動生成できるでしょう。全自動で脳波などを学習して、世界観を変えてくれるAIがあったら面白いんじゃないかと思っていて、これからAIアートやサービスとして作っていきたいと思っています。

箕部:それが実現するには、どんなプロセスが必要なんですか?

窪田:インターフェースなどが必要なのは当然として、脳で考えているものの中で、ノイズをどう除去するのかが難しいと思っています。人間って無意識にミュートしている箇所があって、たとえば駅に向かうのに、歩きながら景色を見ているようで見ていないことってありますよね。でも、選択的にそうしているからこそ、目から入る情報の海に溺れず目的地にたどり着けるんだと思います。そういった「ミュート」がなぜ行われるのか、という点もかなり重要になると考えています。

砂金:今の話を聞いて『ガンダム』を思い出しました。『機動戦士Ζガンダム』だと、コックピットが360度スクリーンなんです。だけど、360度ぜんぶリアルに外が見えると、パイロットが怖くなってしまう。だから、わざとノイズを入れて恐怖心をなくすという設定がありました。

窪田:それ、すごく面白いと思います。生成系のデチューン(あえて一部の性能を下げる処理)ですよね。AIの生成も、たくさん生成できるのに、あえて絞り込むのは、新しい研究分野になりそうですね。

砂金:『ソードアート・オンライン』的に脳と完全に一体化した状態になると、視覚だけではなくて、すべての感覚が情報値として処理できるから、『ソードアート・オンライン』の世界観ではいいのかもしれないですが(笑)。

今後はAIが「民主化」していく。誰もがAIを使いこなせる時代に

箕部:みなさんのお話の中に「ちょっと未来のAI」についての示唆がたくさんありました。

砂金:すごくヒントになるなと思ったのが、日本の「エンタープライズIT村」と、「コンシューマWebアプリ村」と、ゲームを中心とした「ソフトウェア産業」は、近くにいるんだけど、あまり交流がなくて、お互いのいいところを学び合ったり、リスペクトしてお付き合いしたりすることが足りていなかったなと。

冒頭で中山さんから「日本のソフトウェア文化を変革したい」というお話がありましたが、幸いなことに、日本のゲーム業界は、コンテンツとして面白いものを作り出す能力がすごく高いので、エンタープライズITの人たちはアプリ開発のときにそれを学んだり、お互いにもっと交流する姿勢はあってもいいんじゃないいかなと思いました。

中山:三宅さんの話を聞いて、ゲーム業界のAIがすごいことになってるのがわかりました。それがエンタープライズITのビジネスの世界に降りてきたら、大きな変化が起きると思います。

先日、聞いた話によると、過去40年間で人類が作り出してきたアプリケーションの数が5億あって、今後の4年間で、同じく5億くらいのアプリケーションが作られるという予測があるそうなんです。当然、人間のプログラマーだけで開発するのは不可能です。そうなると、そこはノーコードツールやAIの活躍が期待されますよね。

これからは、もちろんプログラミングの勉強は大事なんですが、選択肢はそれだけじゃなくて、「デジタルと付き合うセンスをどう養うか」が重要になるんじゃないかと思います。

垂見:三宅さんのお話にもありましたが、どのツールを使うのが一番近道なのか、やりたいことができるのか、という観点からモジュールを選ぶスキルですよね。

三宅:ゲーム業界は、よく「民主化」という言葉を使うんです。コンピュータも1980年代だとエンジニアしか使えなかったのが、今は民主化されて、誰でもコンピュータを使えるようになりました。ゲームも昔は大量のコードを書けなければ作れなかったんですが、それ以上のデバッグとメンテナンスがたいへんです。今は簡単なゲームであればコードを書けなくても誰でも作れるようになり、ゲーム開発が民主化したと。この民主化が急激に進んだのは2010年以降です。

そして、今後はAIも民主化していくという話ですよね。AIも、今はエンジニアしか開発できないのが、今後10年、20年くらいかかるかもしれませんが、誰でもAI開発が簡単にできるようになっているでしょう。

砂金:「AIが超高度に発展したら、どうなるのか?」について、ふと考えるときに、『PSYCHO-PASS サイコパス』シリーズを一気見するんです(笑)。僕がすごく好きなシーンがあって、AIに指示されて潜在的な犯罪者を排除するんですが、最後にドミネーター(作中に登場する特殊拳銃)のトリガーを引くのは、人間に任されている。どんなに高度にAIが発達しても、最終的に判断するのは人間でありたいと思いますね。

「Stable Diffusion」の話もありましたが、「どうせ絵を描いたって、AIにはかなわない」となったら、創作意欲がなくなってしまう(笑)。

AIは道具として優秀です。日本にあるユニークな価値観の1つに、「AIは攻撃してくる敵ではなく、となりにいる友だちで、困っていると便利な道具を出してきて助けてくれる存在」という感覚があります。つまり『ドラえもん』ですよね。私たちは子どもの頃から『ドラえもん』のような漫画やアニメを見て育ってるので、AIを怖いと思ってないんですよね。その感覚を仕組みの中に生かしていくと、AIが民主化されて発展していくと思いますし、「日本ではAIを不思議に使いこなしている。日本に未来があるぞ」と世界中から注目されるようになるんじゃないかと思いますね。

窪田:僕もAIを使った創作活動は、今後、民主化すると思っています。そこで注目しているのが、プロンプトエンジニアリングです。これは、「AIに何を入力するのか」ということです。たとえば、AIアートは文字を入力すると画像が生成されますが、その「文字の入れ方」を担うのがプロンプトエンジニアなんです。

そういう意味で、今後は「問いを立てる能力」がすごく重要になると思います。たとえば、マルセル・デュシャンが『泉(Fontaine)』(1917年)と名付けた便器を展覧会場に置いて、「アートとは何か?」という根本的な問いを提起することで、ファインアートの新しい文脈を作りました。芸術史の中で次の革命を起こすのはAIアートだと思いますが、「どこにAIアートを位置づけるか」という問いが求められているんだと思っています。

砂金:単なる教科書通りの再現はAIにやらせておけばよくて、そこではない創造的な行為にもっと時間を割くべきですよね。たとえば広告でも、画像を切ったりバナーを作ったりみたいな作業はAIに任せて、「あなたが本当に表現したいことは何ですか?」という問いに向き合う人が増えていくでしょうね。

箕部:みなさん、ありがとうございました。2年半ぶりのAI TALK NIGHT、いろいろなお話が伺えて非常に勉強になりました。ご覧になった方にも、何かビジネスのヒントになることが多かったのではないかと思います。

山田井ユウキ
趣味のテキストサイトを運営しているうちに、いつのまにか書くことが仕事になっていた「テキサイライター」。ITとワインが得意です。

「AI:人工知能特化型メディア「Ledge.ai」」掲載のオリジナル版はこちら「これからのAIはどうなる?」「未来のAIのヒントはアニメ、ゲームにあり!? 」ゲーム、アート、ビジネスのAI開発のスペシャリストたちが激論! AI TALK NIGHT

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