【レポート】アナリティクス サミット2016

JALとユーキャンがデータ統合で乗り越えた「部門」「データ」「予算」の壁

急がばまわれ データ統合・活用の壁を乗り越える本当に大切なポイント
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社内の複数の事業部がもつデータを統合して活用していくには、情シスやマーケの担当者だけでは壁に突き当たってしまう。なぜなら目先のデータしか見ていないからだ。まずはデータの周囲や奥に目を向けてみよう。壁がよく見えれば、乗り越える方法が見えてくるはずだ。

列挙されたデータ統合・活用のヒント

近年、企業の事業推進は単一事業部で進める方法から、複数の事業部が縦横で人材もデータも連携して最適化しながら動く方法へと変化している。そのなかでデータを連携・統合していくためには、データ分析担当者、システムや技術の担当者、データからビジネスやマーケティングの方向性をジャッジする担当者など、さまざまな人や部署が関わっていくことになる。そこにはどのような壁が存在し、それをどのように乗り越えていくべきなのだろうか。

こうしたテーマのもと、4月21日に開催された「アナリティクスサミット2016」では、日本航空株式会社(JAL)の渋谷直正氏、株式会社ユーキャンの河内玲子氏、そしてデータマーケターの内野明彦氏の3名が、「急がばまわれ データ統合・活用の壁を乗り越える本当に大切なポイント」と題したパネルディスカッションを展開した。

渋谷 直正氏と河内 玲子氏
日本航空株式会社 旅客販売統括本部 Web販売部 1to1マーケティンググループ アシスタントマネジャー 渋谷 直正氏(左)と
株式会社ユーキャン 教育事業部講座企画1部 主任 河内 玲子氏(右)

河内氏は、会員サイトの閲覧ログや会員の学習進捗度のデータなどの分析を元に、ユーキャンの講座受講者が目標である資格取得を効率よく短期間で達成するためにどのようなサポートをするべきかを企画。データを管理しているシステム部門と講座内容を作る指導部門の橋渡し役も行っているという。

一方の渋谷氏は、日本航空のWebサイトで航空券やツアー商品の売上を最大化することをミッションとして、ユーザビリティの向上やレコメンドの仕組み、メールマガジンの内容などを企画。Webサイトのコンテンツ担当や販売担当の支援を行うとともに、今後はWebでの広告宣伝(DMPの活用)も行っていくという。1日約50万人のUU、月間約2億PVから生まれるビッグデータを分析して、施策を考えるのが仕事だ。

内野 明彦氏
データマーケター
内野 明彦氏

またパネラー兼モデレーターとして登壇したデータマーケターの内野氏は、広告、サイト解析、オフラインなどのビッグデータを分析してカスタマージャーニーを見つけ出し、企業のマーケティング課題を解決することを得意としている。今回登壇した3名ともデータ活用のフローの中において、システム部門が設計・収集加工したデータを「分析」「意味付け」し、新たな施策を企画立案・実行するための橋渡しをするフェイズで活躍していることになる。

データ統合・活用の推進フロー

データ統合・活用の「壁」とは何か?

では、社内におけるデータ統合・活用にはどのような壁が存在するのか。内野氏は、大きく次の3つを挙げ、河内氏と渋谷氏に意見を求めた。

  1. 「部門」の壁
  2. 「データ」の壁
  3. 「費用計画」の壁

3つの中で、「部門」の壁については、たとえば営業部門とシステム部門で上手く連携が取れなかったり、実は仲があまりよくなかったりといったことが考えられるが、実際のところどうか。この点について河内氏も渋谷氏も、「システム部門と仲が悪くはない」と即答した上で、渋谷氏がその連携の難しさを指摘した。

アナリティクス業務というのは結果がすぐに出るというものではなく、「こうすればこれくらいの売上アップが見込める」ということが言いにくい。しかしシステム部門は構築費用とその効果をしっかりと検証する必要があるので、理解してもらうのが難しい部分もある。

また「データ」の壁について内野氏は、複数のデータを具体的に活用できるように統合していくことの難しさを指摘。たとえばCookieと会員IDのデータを統合する場合や、複数のツールがアウトプットした分析データを統合する場合などには、データの紐づけが上手くいかなかったり、解決策の考案が難しかったりするのだという。この点について渋谷氏は次のように本音を語っている。

どの企業でもそうだが、データはないわけではない。どの企業にもデータはたくさんある。ただ、紐づかない。JALでも、空港、予約、機内販売、Webなどさまざまな部門でデータはあるのに紐づかない。だからデータに価値が生まれない。元々他の部門のデータと紐づけることを想定して作っているわけではないから、仕方ない部分もある。

渋谷氏
データ活用をめぐる「壁」について語る渋谷氏

そして、最後の「費用計画」の壁について。たとえば、DMPやマーケティングオートメーションといった大きなデータ統合の場合には、場合によっては億単位の導入費用計画を必要とする場合があるが、複数の部門が関わるなかでどこがその費用を負担する必要があるのか。マーケティング部門が捻出できなかった場合にはどのように調整していくべきなのだろうか。こうした難しさも、データの統合・活用には付きまとう。

データ解析のプロが語る、データ統合・活用のヒント

では、これからマーケティング部門が社内のさまざまな部門を束ね、社内の有益なデータを統合・活用していくために、こうした「部門」「費用計画」「データ」といった壁をどのように乗り越えていけばよいのだろうか。パネルディスカッションは、その解決のヒントとなるキーワードを掲げ、河内氏、渋谷氏、内野氏が解説していくスタイルで進行した。

(再掲)列挙されたデータ統合・活用のヒント

「クロス集計で8割」&「3Dグラフで激怒!?」(渋谷氏)

渋谷氏はデータを統合する際の分析手法について指摘した。同氏によると、事業会社のマーケティング部門や営業部門では、実は複雑な分析をするケースは多くなく、まずはクロス集計をすることで多くのことが解決するのだという。統合するデータの数だけクロス集計の軸は無数に生まれ、さまざまな角度から分析することができるようになるのだ。

ポイントは、まず縦横二元のクロス集計表をシンプルに作ること。エクセルのピボットテーブルを駆使してものすごく複雑な何重もの巨大なクロス集計をしようとする人もいるが、これでは人間の理解を超えたものができてしまう。

基本的には縦横2元(2軸)、できれば項目の数も2つずつの2×2の「四象限」をベースとしたクロス集計を考えるのが一番良い。

加えて、グラフにアウトプットすることも重要。平均値を取って終わるだけではダメ。たとえば、多くのマーケティングデータは0回が半数くらいを占め、1回、2回とバラバラと分布しているデータが多いが、こういう分布の特徴を把握するにはヒストグラムを描くのが最も手っ取り早い。こういうデータであれば、0回か、1回以上か、の2つに分割してからそれをクロス集計すればよいわけで、こういう過程を経て分析しやすいようにデータを前処理していくとよいだろう

加えて渋谷氏は、ここでアウトプットされるグラフは「人に見せるもの」ではなく、「自分自身が思考するためのもの」だと指摘。見栄えの良い凝った3Dグラフ作りにこだわるのではなく、雑なグラフであっても自分の理解を助けるためのものであるべきだという。

そもそも、二次元の紙の上で3Dの表現をしようとすることに無理がある。

そのデータはわざわざ3Dで表現しなければならないものなのか。グラフはものごとをわかりやすくするために描くはずなのに、3Dにすることで見にくくなって、物事がわかりにくくなってしまうのでは本末転倒だ。

グラフはかっこよく見せるものではなく、わかりやすく伝えるためのものだということを認識しておくべきだろう。

「あいさつにはじまり、あいさつで終わる」(河内氏)

一方の河内氏は、社内の他部署と連携する際のコミュニケーションの重要性を説いた。同氏によると、ユーキャンでは、分析に必要なデータをシステム部門に依頼してデータベースから取り出してもらうケースもあるそうなのだが、その際の“頼み方”で仕事のやりやすさが大きく変わるのだという。

システム部門にお願いしようと思ったときに、「ねぇねぇ、ちょっとデータ取ってきて」はコミュニケーション上ありえない。まずはしっかりと挨拶をして、どのような目的のためにどのようなデータが必要なのかを丁寧に説明することが重要。

加えて、お願いする際のコミュニケーションだけでなく、お願いしたことを実行してくれた際にしっかりとお礼をすることも大切。システム部門の人たちはあまり褒められることがなく、むしろシステムトラブルなどで怒られることのほうが多い。協力してくれたことが業務の役に立ったという謝意をしっかり伝えることで、次の仕事もやりやすくなる。

このような誠実な社内コミュニケーションの重要性については渋谷氏も同調したうえで、「実は、システム部門の人たちもどうすればもっと円滑なコミュニケーションを図ることができるかを考えている」と説明。お互いが誠意をもって相手と接するという基本的なことで、部門の壁は簡単に超えられるのかもしれない。

そもそも、“部門の壁”なんてないのかもしれない。実は自分たちが勝手に作っているだけなのでは? 相手の気持ちに立って、物事をしっかりと説明することが大切ではないか。

コミュニケーションの重要性を語る河内氏

「“n=1”を見落とすな」&「ユーザーを妄想する」(河内氏)

続けて河内氏は、データ分析からユーザーのインサイトを探るうえで数字からは見えない情報をしっかりと探っていくことで得られる気づきの重要性を説明した。つまり、ビッグデータで大きな潮流を捉えるだけでなく、そのなかで少数派であっても特徴的な動きをしているデータに注目し、そのインサイトを探ることで意外な発見があるというのだ。

ユーキャンの受講生の行動データを俯瞰して「あれ、この人なんかおかしな動きをしているな?」と思ってひとつずつ探ってみると、実はまったくおかしな動きではなく新たな気づきが得られる場合もある。データ分析のなかで、データを塊で見るのではなく、ひとつひとつのデータの特徴を見逃さずに個別に観察することも重要なのではないか。

実際、河内氏の業務では、システム部門にデータを依頼するとイメージしていた以上に粒度の細かいデータが手に入り、新たな発見が得られる機会も少なくないのだそうだ。

データはどこまで細かく取得できているの?というコミュニケーションから、部門間の連携が更に深まることもある。

加えて河内氏は、ユーザーのインサイトを想像(妄想)することの重要性も説明。仮説を立てることで、データの検証の仕方や使い方に奥行きが生まれるのだそうだ。

データ解析をやっている人は、“ユーザーはどんな気持ちなのか想像してみよう”と呼びかけても、実は間違いを恐れてなかなか想像することができない。しかし、“妄想してみよう”と呼びかけるとどんどん意見が生まれてくる。失敗を気にする必要がなくなることで、発想が自由になるのではないか。

「縦から横へ」(渋谷氏)

Google Analyticsなどを使ったデータ分析に携わる担当者がステップアップするためのひとつの考え方として、渋谷氏はデータを分析しやすい形に変換することの重要性を「縦から横へ」という言葉で説明した。つまり、アクセスログなどの縦持ちデータを横持ちデータに変換することで、分析の可能性を広げていくのである。

アクセスログなどのRAWデータは、たいていはCookieやユニークなIDをベースとしてtimestamp順にデータが縦に記録されていく縦持ちデータである。分析担当者はそのデータをツールで分析することが多い。縦持ちデータは情報量は豊富であるが、ただ、“縦持ちの世界”から抜け出せなければ、次のステップに進めないのではないか。

具体的には、例えば、Cookieごとに1Cookie=1レコードの横持ちデータに変換する。購買行動に影響を与えるページの閲覧履歴を集計してフラグを立てるなどして、なるべく縦持ちデータの中でキーになる情報を失わないように横持ちに変えていく。すると、どのようなページ閲覧の組み合わせが購買に繋がっているかが見えてきて、その後の分析がやりやすくなる。

縦持ちのデータを集計して平均値にするだけでなく、横持ちの個票の形にしてみることに挑戦してみてはどうだろうか

渋谷氏はこうした手法で重要になるのは、どのような変数に注目してフラグを立てていくのかという点だと指摘。そしてそのフラグを立てる精度はいかにビジネスを理解しているかにかかっているのだという。 どのページに注目すべきかというキー・バイイング・ファクターの仮説を理解しているのは、システム担当ではなくマーケターだ。

どのページに注目すべきか、というキー・バイイング・ファクターの仮説を立てられるのは、システム担当ではなくマーケターだ。

データを駆使しながら「人」を理解する

内野 明彦氏
「人」を見ることがデータ解析

パネルディスカッションの最後に、内野氏がこれまでの渋谷氏、河内氏のさまざまな提言を振り返り、データ統合・活用のヒントをまとめた。

データの奥にいる人、データを取り巻く社内のさまざまな人。データ解析は本来データを見ることが仕事だが、最後にはこうした「人」を見ることがデータ解析だと言えるのではないか

仕組み、ツールを踏まえて、データを駆使しながら人を理解できることが今後求められてくる。それは社内組織を横断した連携やデータの統合においても重要なのではないか。

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