インタビュー

ヤンマーのオンライン展示会、登録・アプリ不要なのにサクヌルすぎたので取材してみた

産業機械メーカーのヤンマーが実現した3D CGを活用したオンラインのバーチャル展示会。

「ヤン坊マー坊天気予報」のCMでお馴染みの産業機械メーカーの「ヤンマー」。同社が現在実施しているオンライン展示会「ヤンマーアグリジャパン オンラインEXPO2021 WINTER」は、アカウント登録不要かつ、アプリケーションのインストールも不要にもかかわらず、サクヌルな操作感(サクサク動いて、スムーズな画面移動)を実現している。クオリティが感動的だったので、ヤンマーの今村成美氏に取材をしてきました。

ヤンマーアグリジャパン オンラインEXPO2021 WINTER」のエントランス部分(2021年11月1日 ~ 2022年3月31日)

サクヌル過ぎる! ヤンマーのオンライン展示会

オンライン展示会と一口にいっても、手法はさまざまある。ヤンマーでは、「展示物品をより視覚的に、わかりやすく伝えられる」という理由から、「3D CG」にこだわって、オンライン展示会を作っている。現在、「ヤンマーアグリジャパン オンラインEXPO2021 WINTER」を公開中だ(2022年3月31日まで)。閲覧にあたってアカウント登録や特別なソフトのインストールは不要なので、一度サクヌル感を味わってもらいたい。

エントランスから展示会場へ抜ける通路

エントランスを抜けると、博覧会をイメージさせるブースが3D CGで再現されており、この中をクリックで移動したり、ドラッグで周囲を見渡したりできる。また出展物をクリックすると、詳細な情報やイメージ動画を閲覧可能。公式サイトの製品情報サイトへのリンクも用意されているが、実際の展示会と同様、要点を押さえたコンパクトな解説文が併記されており、より直感的に製品イメージが掴めるようになっている。

リアル展示会をイメージさせるエリア。PCからの閲覧時はマウスのドラッグ操作で視点移動できるほか、ホイールスクロールで拡大/縮小も可能。またスマホでも閲覧できる

オンライン展示会、実施までに約1年

オンライン展示会実施の背景には、新型コロナウイルス感染拡大が関係している。2020年1月以降、リアル展示会が急遽中止となる例が増えていったことから、オンライン展示会の開催に向けて、具体的な取り組みがスタートした。オンライン展示会の企画開始時に一番時間を割いたのは、「どの手法でオンライン展示会を実施するか」だったと今村氏は振り返る。

実際にブースを作り360度カメラで撮影しデータをWebで公開したり、単純にWebサイトに展示を落とし込んだり、と手法はさまざまありますが、私たちは「3D CG」で作ることにしました(今村氏)

ヤンマーグローバルエキスパート株式会社 コミュニケーション部 今村成美氏

3D CGを全面採用して作り込まれたヤンマーのオンライン展示会は、Webサイト構築とはまた違った、莫大な工数がかかっているであろうことは想像できる。今村氏もプロジェクト初期を振り返って、「制作のゴーサインを得るために奔走した」と語った。

デジタルトランスフォーメーション(DX)が社会的に注目を集めているだけでなく、コロナ禍で今まさにオンライン展示会が求められている緊急性などを材料に、関係者の説得を続け、実現に至りました(今村氏)

オンライン展示会の企画を開始したのは2020年4月。最初の4か月は、各種展示会の動向をリサーチ、社内の各事業部門からのヒアリング、関係者の説得などに費やしたという。企画を開始した約1年後の2021年4月にオンライン展示会の第1弾として、「ジャパンインターナショナルボートショー2021」」のオンライン展示会に連動させたヤンマーオリジナルの展示会場が公開された。

「ジャパンインターナショナルボートショー2021」のオンライン展示会が初お披露目の場になった

周りからの反応は大変良く、『ヤンマーさん、やるね』という声をいただけました。お客様からは『見やすい』という反応も多かったですし、社内からも『お客様との新たな接触機会を作れた』といった評価がありました(今村氏)

当然ながら、オンライン展示会は時間帯に関係なく、会期中であれば24時間いつでも参加・観覧でき、会場に足を運ばなくてもよい。その結果として、これまでボートショーに参加したことのない層にも展示を見てもらうことにも繋がったという。

ヤンマーがマリン関係をやっていたことをまったく知らないお客様にもアピールができたという、意外な発見もありました(今村氏)

この発見にヒントを得て、2021年12月1日~14日に開催された「ヤンマー オンラインEXPO2021」ではヤンマーの全事業である7事業領域すべてを紹介するバーチャル展示を実現した。

「ヤンマー オンラインEXPO2021」

ヤンマーでは、持続可能な社会「A SUSTAINABLE FUTRE」の実現に向けて、「産業エンジン」「アグリ(農業)」「船舶用エンジン」「エネルギー」「建設機械」「コンポーネント」「マリンプレジャー」の7事業を展開しています。これらすべてを“同時”に見せるという展示会は、やったことがありませんでした。バーチャルならではの“事業間交流”ができたと思います(今村氏)

それまでのリアル展示会が「ヤンマーを知っている人向け」であったとするなら、オンライン展示会は「ヤンマーを知らなかった人向け」にも、大きな成果を出した。

オンライン展示会への参加者数などは非公表だが、新しい試みとしてマスコミにも注目され、報道などが続いた結果、尻上がりに利用者数は増えていった。現在は国内のみでの施策だが、海外の現地法人から「やりたい」という声が増えてきているという。

工事現場を再現! オンライン展示会ならではの表現

リアルな展示会の会場で工事現場を作り込むのは、予算やスペースの関係でかなり難しいが、CGであれば再現可能だ。建設機械分野では街中の工事現場に近いイメージをCGで再現、カラーコーンや方向指示板などと共に、ヤンマー製のショベルカーや、夜間の工事現場で目にすることの多い投光機などが並ぶ。

工事現場をイメージした展示
他にも除雪現場など、リアル展示会では再現不可能な利用シーンも、オンラインなら再現できる

リアリティのある利用シーンを見てもらえるのは、オンライン展示会の利点です。『オンライン展示会のほうがWebサイトよりも読みやすい』というお客様も多く、バーチャル展示場経由でのお問い合わせも多いんです(今村氏)

また展示会といえば、現地説明員と腹を割って対話できることが魅力の一つだろう。現時点では、農業事業の展示に限って、オンライン商談の申し込みフォームを用意しており、電話・現地訪問などを受け付けている。さらに、オンライン展示会を見ながら説明員とリアルタイムに会話ができる機能も開発しており、ユーザーはURLをクリックするだけで参加ができるのだという。

農業機械分野では、オンライン商談を受け付けている

新卒採用にも効果あり? オンライン展示会

今村氏らがオンライン展示会のもう一つの効果として期待しているのが、学生・就活生向けのアピールだ。2021年12月からの実施分において、全事業を統一的に展示しているのには、就活生向けによりわかりやすく企業概要を伝えたい、楽しみながら知ってもらいたいとの狙いがある。

オンライン展示会の取り組みを進める方向性として、海外展開に加え、採用活動に繋げていき、学生の皆さんの認知度を上げていきたいですね。また、営業活動の効率化にも寄与できれば良いと思っています(今村氏)

「ヤンマー オンラインEXPO2021」ではヤンマー創業者を描いた漫画が紹介されたが、これも若い世代に親しんでもらおうという企画の一環。現在は企業概要のページから閲覧できる

オンライン展示会はまだまだ新しい概念のため、いかに来訪者を集めるかは今後の主要な課題だろう。ヤンマーの場合、プレスリリース発表のほか、各種デジタル広告を活用。また公式SNSを通じ、オンライン展示会の様子を動画で紹介するなどの取り組みも展開している。

これまでヤンマーと接点のなかった方に、オンライン展示会を通してもっともっと知っていただくことが目標です。ただ、バーチャルな展示にまだ慣れていない方は多いでしょうから、そのハードルを下げるための工夫も、一層していきたいと思います(今村氏)

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