Marketing Native特選記事

超多忙なマーケター・西井敏恭の“成果を最大化する仕事術”【オイシックス・ラ・大地CMT】

オイシックス・ラ・大地でCMTを務めるとともに、デジタルマーケティング支援のシンクロを自ら立ち上げ、さらにはセミナーやメディアで活躍する西井氏の仕事術に迫る。

デジタルマーケティングの世界で、西井敏恭さんの名前を知らない人は少ないでしょう。食のサブスクリプションサービスで注目を集めるオイシックス・ラ・大地でCMT(Chief Marketing Technologist)を務め、自ら立ち上げたデジタルマーケティング支援のシンクロではマーケティング支援サービスや、アプリによるマーケティング教育事業などを展開。さらに連日のようにセミナーやカンファレンス、メディアに登場するなど、いま最も多忙を極める人物の一人です。

複数の肩書きを持ち、数カ月先のスケジュールまで埋まっている状況でありながら、SNSではオフの充実した姿もよく見かけます。一体、どのようにタスク管理やスケジュール調整を行い、限られた時間の中で成果を上げているのでしょうか。

今回は、まるで遊ぶように仕事をする西井敏恭さんの働き方に迫ります。
(取材・文:Marketing Native編集長・佐藤綾美、人物撮影:稲垣純也)

    

限られた時間で最大の成果を上げるには

――本日はお忙しいところありがとうございます。西井さんはとても多忙で、スケジュールも30分単位で埋まっているという話を伺いました。いまはどんな状況ですか?

そうですね。大体2カ月先までは、空いている時間がほぼありません。土日や夜も埋まっているので、最近は朝食ミーティングを行うようになりました。

でも、大変かと聞かれれば、そうでない気もします。仕事で海外に行くこともありますし、そういう意味では仕事も一つの遊びだったりするんですよね。

――本当にスケジュールがびっしり埋まっているんですね…。では、あらためて、西井さんがオイシックス・ラ・大地とシンクロそれぞれで手がけている仕事内容について教えてください。

オイシックス・ラ・大地には「Oisix」「大地を守る会」「らでぃっしゅぼーや」と3つのブランドがあって、私は主に「Oisix」のECと中国事業、3ブランド共通のシステム部という、3つの部署を管轄しています。

もともとはCMOのポジションで入社しましたが、いまは「CMT」と役職に「T」が付いていて、執行役員としてマーケティングとシステムの両面を見ています。

シンクロでは、私自身が個人的にお客様のところに伺って企業のマーケティング支援を行ったり、スタートアップに出資してアドバイザーをしたりしています。

年間の広告費が10億から100億円くらいあって、「デジタル広告をきちんとやりたい」というような、比較的大手の企業がお客様としては多いです。

また、広告運用の改善だけでなく、その会社にCRMが必要だったらサポートしますし、組織づくりや教育を行うこともあります。

スタートアップのアドバイザーに関しては、コンサルフィーを頂くというより、出資させてもらって「その中で一緒に成功をつくろう」という形にしています。

ほかにも、シンクロではインターネットの部署がないような企業と事業提携を行ったり、デジタルマーケティングのノウハウやスキルを学べる教育プラットフォームの開発を進めたりしています。

いろいろやっていて、自分でも最近何をやっているのかよくわかっていないんですよ(笑)

――スケジュールが埋まっているとのことですが、2014年に起業した当初からずっと変わらず忙しいのでしょうか?

いまは起業したときの2倍くらい働いていると思います。ただ、起業したばかりの頃は精神的にもっと大変でした。シンクロで4~5社くらいマーケティングの支援をしながらOisixにも関わっており、時間的にも余裕がなくて、「この生活は5年も続けられないな」と思いながら、5年経っていまに至ります(笑)

――過密スケジュールの中、限られた時間で最大の成果を上げるために、意識されている点はありますか?

主に4つあります。「経営レイヤーの方からオーダーを受けること」「お客様の売り上げ(成果)を仕事の中心に置くこと」「マネジメントと資料作成はしないこと」「仕事と遊びの境界線をなくすこと」です。

まず、仕事は経営レイヤーの方からオーダーされたものを中心に受けるようにしています。マーケティングは組織との関わりが多く、経営レイヤーの方からオーダーを頂かないと、本当はできることができなくて、結局前に進めず成果も出ないケースがあるからです。

また、支援するお客様の売り上げを上げることを自分の仕事の中心に置いているので、ほかの実作業はお客様に任せています。「マネジメントはしない」と、どこの企業に対しても宣言していますし、資料もつくりません。会議のアジェンダは事前に設定してもらい、ディスカッション中心に進めるようにもしています。

本当の課題は「マーケティングをどうしたらいいか」なので、それに絞って仕事をすることで、より良い成果を上げられるのです。

だから、私はシンクロでも社長なのに、メンバーのマネジメントを一切していません。シンクロのオフィスには週に2時間もいないくらいです(笑)

――4つ目の「仕事と遊びの境界線をなくすこと」、とは具体的にどういうことですか?

楽しいと思う仕事をする、ということです。そうすることで仕事へ熱中できるし、それは同時に遊びにも近い感覚だと思うんです。もちろん、そのためにはスキルを身に付ける必要があります。

先ほどスケジュールが埋まっていると言いましたが、海外が好きなので、例えば「シンクロの出資先があるエストニアに行く」といった予定も入っています。エストニアは北欧の中でも技術面が進んでいるので、現地を訪れて学ぶことは、自分の価値につながりますし、次の仕事にも活きてきます。

――仕事と遊びの境界線をなくすようになったのは、大体いつごろでしょうか?

いまのような感覚になったのは、起業して仕事を選べるようになってきてからだと思います。

もともと、26歳のときに2年半ほど世界一周の旅に出て、一生分くらい遊んだので、27歳でデジタルマーケティングの世界に入ってからはほとんど遊ばずに、年に1回程度海外に行くくらいで、それ以外は土日も夜中もずっと仕事をしていました。

だから、起業した当時も頂ける仕事は全部やろうと頑張っていましたが、いまは新しくご依頼いただく案件は、自分に合った仕事を選ぶようにしています。

マーケティングの教材にもなる、釣りの魅力

――遊びの話が出ましたが、マーケターの方におすすめの遊びってありますか?

釣りですね。釣りって非常にマーケティングに近いと思うんです。

仮説検証を繰り返さないと魚って釣れないんですよ。ただ待っているだけに見えるかもしれませんが、実は現状を分析して、針や餌などを少しずつ変えないといけないので、すごく大変な遊びです。

一回一回の釣りでたくさん思考して、どうやったら釣れるのかを考え続け、いろいろなやり方を試していると、それが経験として蓄積されていきます。すると、「この魚を狙う場合はこういう針がいい」とか「こういう岩の形をしていると、海の底はこうなっていて…」と想像できるようになって、徐々に「魚を釣ること」の再現性を高めていけるんです。この辺りはマーケティングそのものですよね。

実際、私だけではなくZOZOの清水さん(※1)も、スマートニュースの西口さん(※2)も、CMOはみんな釣りが好きなんですよね。釣りが好きな人はもしかしたらマーケティングに向いているかもしれないですね。

私自身は海釣りがとても好きで、海外に行ってもやっています。魚を釣っているか、海外に行っている写真しかFacebookに上げていないので、最近Facebook名物になっています(笑)

▲2019年3月に玄界灘で大物のブリが釣れたときの写真(西井さんFacebookより)。

※1:清水俊明さん。株式会社ZOZO 取締役 ホスピタリティ本部長。
※2:西口一希さん。スマートニュース株式会社 執行役員 マーケティング担当。

自身がユーザーになる体験を重ねることが大切

――次に、Marketing Nativeの読者層である20代~30代のマーケターの方へのアドバイスをお願いします。マーケティングがユーザーとともにサービスを作る方向にシフトしていく中で、マーケターはどのようなことを意識して、行動したり勉強したりしていけばいいでしょうか?

基本的なスキルや知識を一通り身に付けることと、ユーザー体験を増やすことですね。

まず、基本的なスキルは絶対に欠かせませんし、その上で、あらゆることを一通りやって、それぞれ80点くらいのレベルでできる程度に知識を持っておくことも大切です。そうした基本的なことができた上で、マーケターとしてもう一段抜け出すには、全体最適で考えられる力が求められます。

全体最適というと組織内だけの話になりがちですが、お客様側から見たときのことも考えて全体最適するのがとても重要で、それは自分がユーザーになる体験を増やすことでもあります。

例えば、Appleから新しいiPhoneが発売されたときに最初に飛びついて使ってみるのも、ユーザー体験を増やすことの一つです。未知のものをユーザーとしてどんどん体験するようになると、気づきが増えていきます。持っているスキルにそうしたユーザー体験が重なると、少し毛色の異なる事業でも、自分の中の気づきと掛け合わせて解いていけるようになるでしょう。

だから、若いうちは、時間もお金もあまり惜しまずに物事に取り組んだほうがいいと思います。そのほうがいい経験を得られるし、そこでの経験は、後々の自分に返ってきますから。新しい物で言うと、電気自動車は次に来そうなので、早く乗ったほうがいい。あとは自動運転も…やったことありますか?

――まだ、ありません。あ、私そもそも運転免許がありませんでした…。

え、そうなんですか…?自動運転、面白いですよ。高速道路で利用しましたが、ほとんど何もしなくていいんです。乗ったことがない人は「自動運転はなんだか怖い」と思うかもしれませんが、普通に運転するよりも車線に沿ってきれいに車が曲がります。

ほかには、「中国でキャッシュレスが進んでいる」となったときに、スマホ決済や電子マネーを試してみることも同じだと思います。私はキャッシュレスが話題になる前から中国に何度も行っていたので、日本に帰ってくると「現金ってなんて不便なんだろう」とずっと思っています。中国では、レストランの支払いなどで、現金払いを受け付けてくれないこともあるんですよ。

――西井さんは早くから中国の現地で現金の不便さを体感されていたんですね。そういうことを自ら進んで、いち早く体感することがマーケターにとって大切だと。

結局、ユーザーが便利に感じる商品なら、勝手に広がっていくんです。これまでは企業の価値観を一方的に提示する形で物やサービスを売っていたのに対し、いまはユーザーが「これいいよね」と言った物やサービスが口コミなどで広がり、使われる時代に変わっているからです。そうしたユーザーの感覚をいろいろな業界でたくさん味わっておくと、新しい事業を作るときも、おそらくオリジナリティを出せるようになります。一つの業界しか知らないと、コピーになりがちです。

――最後に、西井さんが考えるマーケティングの定義をあらためて教えてください。

私にとってマーケティングは、「売れ続ける仕組みづくり」と「買いたい気持ちづくり」の2つです。その中でも、特に「買いたい気持ちづくり」が大切だと思っています。「売れ続ける仕組みづくり」は企業目線の言葉で、「買いたい気持ちづくり」はユーザー目線の話です。

「売れ続ける仕組みづくり」は「売る」ではなく「売れる」としているところが重要です。「どうやって売るか」ではなく、「売れるためにはどうすればいいか」を考えると、それだけでも発想の転換につながります。また、1回きりではなく、仕組み化することも大切です。

ユーザー目線で買いたくなる仕組みをつくった好例としては、2000年に日本用のWebサイトが登場したAmazonが挙げられます。Amazonがこれほどまでに拡大できたのは、広告プロモーションがうまかったり、価格の安さで勝負したりしていたわけではなく、配送をとにかく速くしたからです。さらに箱も簡単に開封できるよう工夫されているので、ユーザーは「Amazonで商品が届くと楽」と感じて、「もう一度使いたい」という気持ちが生まれます。商品を注文したときにすぐ届く体験もマーケティングの一種ですし、そこにきちんと着眼したAmazonはやはりすごいと思います。

だから、「売れ続ける仕組みづくり」をユーザーの言葉に置き換えると「買いたい気持ちをどうやってつくるか」という話になると思っています。そういうアプローチがマーケティングなのではないでしょうか。

――ありがとうございました。

【Interview Points】
・成果を上げることに集中するためには、実作業でやらないことを選ぶ必要がある。
・スキルを身に付けると、自分がやりたいと思える仕事を選べるようになる。
・釣りは仮説検証が必要とされる遊びなので、釣り好きな人はマーケターに向いている可能性あり。
・若いうちは、時間やお金をあまり惜しまずに、多様な業界でユーザー体験を積み重ねておくべき。

【Profile】
西井敏恭(にしい・としやす)
オイシックス・ラ・大地株式会社 執行役員 CMT。株式会社シンクロ代表取締役社長。化粧品会社にてデジタルマーケティングの責任者を務めた後、独立。オイシックス・ラ・大地で3つの部署を管轄し、シンクロでは大手企業やスタートアップのマーケティング支援を行う。著書にデジタルマーケティングで売上の壁を超える方法(翔泳社)がある。

「Marketing Native (CINC)」掲載のオリジナル版はこちら超多忙なマーケター・西井敏恭の成果を最大化するための仕事術

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