企業ホームページ運営の心得

日経新聞電子版の活用法はトイレ。電子書籍元年総括

電子書籍市場が広がる一方で、紙の本へと回帰する人がでてくると予想します
Web 2.0時代のド素人Web担当者におくる 企業ホームページ運営の心得

コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。

宮脇 睦(有限会社アズモード)

心得其の百九十七

元年好きなのね

2010年のWeb・IT業界は「ツイッター」「AR」「デジタルサイネージ」、「グルーポン」に代表されるフラッシュマーケティング、そして「フェイスブック」と話題の豊富な1年でした。そして「電子書籍」も今年が「元年」と呼ばれています。

知人はこの秋から「iPad」で新聞を読んでいるといいます。いまさら説明は不要でしょうが「iPad」とはアップル社が発売したタブレット型パソコンで、電子書籍端末としても注目され、アマゾンの「キンドル」にソニーの「リーダー」の普及とあわせて「電子書籍」の広まりが伝えられています。

一方、電子書籍が広まるにつれ「紙の本」へ回帰する人も増えるとみています。ハイテクな電子機器に似合わない「人間くさい」理由によって……。電子書籍の周辺について本年の語り納めとします。

出版社は電子書籍対応できる

まず、すべての出版社が電子書籍に参戦するのは間違いありません。主版社は10年以上前から「DTP」により、電子化されており、もはや写真の「色分解」や、製版フィルムの切り貼りなどといった「アナログ入稿」の実務を知っている編集者のほうが少数です。「DTP」とはコンピュータ上ですべての編集作業を完了させる方法で、ワープロソフトで文章や資料を作るのと理屈は同じです。

マイクロソフトのワードが「PDF」形式で保存できるように、デジタルデータを取り扱っている出版業界は、雑誌や書籍のデータをすでに保有しており、いつでも電子書籍を発行できる用意が揃っています。数年前からパソコンや携帯電話の「マニュアル」がCD-ROMやオンラインで提供されていたことがそれを裏付けます。

つまり、出版社にとっての電子書籍は「いつやるか」だけの話です。

ジャパン・オリジナル

そんな出版社の腰が重い理由は「言葉の壁」と「1億人の市場」です。平たくいえば「国内」で商売が成立しており、リスクを冒して英語圏に進出するメリットが少ないからです。ネット販売へと市場が移る電子書籍では、国外需要の高まりが期待できますが、同時にその対応も求められていきます。加えて、テレビやインターネットといった他の娯楽の普及が拍車をかけた、読書離れによる出版界の市場縮小にも国内に留まり続けるその姿は、残業代や各種手当てをカットされても会社に居残るジャパニーズサラリーマンと重なります。

出版業界の動きがいまひとつ緩慢であることは「物流」にも理由があります。

書店は減りましたが、コンビニエンスストアは「WWW(ワールドワイドウェブ)」のように縦横に張り巡らされ、宅配便のトラックは毎日何度も自宅の前を通り過ぎます。人口当たりの書店数が少なく、入手方法が限られる広い国土の米国とでは電子書籍の「ありがたみ」が違います。これは国民性の違いで、日本人は偏執的なまでに「便利さ」を求めます。そこに「勤勉性」をフル活用して、狭い国土にストッキングの編み目のような細かな物流網を構築していきました。そして「紙版の本」を入手する方法は逆に増えており、早急に「電子情報」に切り替える必然性が乏しいのです。

日経ネット版という成功

iPadで読める「日経ビジネス電子版」の有料会員が12月に10万人を突破したのは電子書籍元年を締めくくるグッドニュースです。この成功は「第171回」で指摘した活字離れの裏返しで、電子書籍の普及によって離れた読書が戻るわけではなく、新たな読者層を開拓するより、新聞を読む習慣をもつ客層、すなわち既存の「活字好き」を引き込むほうが有利だったことを証明しました。反対に2年前に「iPhone用アプリ」として、新たな読者の獲得を目指して、無料提供している産経新聞の電子版の利用者数を問い合わせると「非公開」です。

「情報」だけなら「デジタル版」で十分なところを、「紙版」と併読している読者が6~7割にものぼる点も、なんだか人間くさい話です。電子版だけだと4,000円ですが、紙版の料金にプラス1,000円だけで電子版も読めるというお得感が支持されたのか、「紙版」を水没対策としてのトイレ用にするためか興味は尽きないところです。

電子機器の発展と法整備

ついでに「電子教科書」についても触れておきます。ある公立中学校の英語の授業では、1人に一台用意されたパソコンに向かい、ワードを立ち上げ、それぞれの「将来の夢」を英語で入力して文字を修飾します。最後に夢のイメージ画像を「ネットで検索」して「コピペ」し、プリントアウトしたものが文化祭に「作品」として掲示されます。文化庁著作権課に確認したところ、著作権法上の問題はないとのことですが、著作権についての説明がないまま、子どもたちはコピペを覚えていきます。

先生に悪意はないのでしょう。しかし、そこにリーガルマインド(法的精神)はありません。電子教科書の普及には教師のネットリテラシーに加えて、ネット上での法的理解を同時進行で行わなければ、長じてデッサンの狂った「ドラえもん」が闊歩する中国の「石景山遊楽園」を笑えない大人が増える危険性を指摘しておきます。

タフな紙の本

最後に消費者に目をやります。iPadをトイレに落とし水没、寝ぼけて踏んづけ破損するそこつ者は撲滅できません。iPadを「ジップロック」にいれて使用している人もいると聞きますが、生活に溶け込むとはそういうことですし、電子機器は壊れる宿命から逃れることはできません。そのとき、一台数万円する「本」を再度購入するでしょうか。メーカーも生活防水加工や耐ショック性能を向上させるでしょうが、水没しても乾かせば読書機能の残る「紙」に軍配が上がります。また、電池寿命や経年劣化によるiPadの買い換えコストも見逃せません。アップルストアの最安値でも4万8,800円で、「もしドラ」を例に紙版と電子版との価格差を880円とすると、55.5冊読む前に水没したら大損ということになります。これに関しては携帯電話会社の修理保証のようなサポート提供に期待したいところです。

あ、電池キレる

という携帯電話の通話中に叫ぶ人は「充電切れ」で本が読めない状況を避けるために「紙」へと回帰することでしょうが、これもデジタルツールが生活に溶け込んだ証左です。そして、電子書籍をはじめ、冒頭に紹介した各種サービスは「ネットの外」へとつながっていったのが2010年の特徴ではないでしょうか。

それでは今年もありがとうございました。よいお年をお迎えください。

今回のポイント

電子書籍は「紙版」と対立するものではない。

デジタルツールは「普通」に溶け込みつつある。

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