BOOK REVIEW Web担当者なら読んでおきたいこの1冊

『マーケティングとPRの実践ネット戦略』/広報・マーケ必読のネット時代の広報バイブル【書評】

広報とメディア両方の経験に基づき、ネットを活用して顧客や消費者に直接情報を届けるのにも力置くべきだと語る
ブックレビュー

BOOK REVIEW Web担当者なら読んでおきたいこの1冊

『マーケティングとPRの実践ネット戦略』

評者:山川 健(ジャーナリスト)

インターネットを活用した現代の広報活動バイブル
メディアを過小評価せず現実的方法を具体的に紹介

『マーケティングとPRの実践ネット戦略』の書籍画像
  • デビッド・マーマン・スコット 著、平田 大治 訳、神原 弥奈子 監
  • ISBN:978-4-8222-4720-1
  • 定価:2,200円+税
  • 日経BP社

広報・宣伝とインターネットをテーマにした書籍が多数出版されている。しかし、経験に基づいてニュートラルな視点で現実を直視しながら書かれているのは本書だけだろう。本当に「使える」のはこれだけ、と言っても過言ではない。断言する。広報とネットに関する書籍で本書以外は不要だ。本書は、ネット時代の広報の考え方から、ネットのさまざまなシステムやサービスの解説と、それらを利用した広報活動の具体的な方法まで網羅している。しかし本書の本当の価値は、米国人の著者が米国の現状を背景に書いた本の翻訳、という点だ。だからこそ、かえって信頼度が増し、現実的でもある。

逆説的でややわかりにくいかも知れない。日本の状況を知らない米国人なのに、といった疑問もあるだろう。しかし最近、日本人によって書かれた広報に関する書籍で、思惑なしに現実を客観的に分析し、読者本位で方法論を語った本があるだろうか。「広報活動によってタダでメディアに“広告”してもらう」「もはや宣伝は無意味だからコストはネットの広報活動に回せ」「ニュースリリースを書いてネットで公開すれば売り上げは伸びる」――。「タダ」「コスト」「売上増」などいかにもビジネスマンが飛び付きそうなキーワードで目を引き、インターネットを持ち出して従来の広報活動を根拠なく否定する論調が目に付く。

各著書の中では成功例も紹介されている。しかし冷静に考えて読んでみれば理解できるはずだ。宝くじの当選者レベルの極めてまれな成功例や、本当に効果があったのか疑問が残るレベルの事象を取り上げ、あたかも誰でも容易に可能なように見せているだけ、と。これらの書籍の執筆者は、多くが広報・マーケティング関連のベンチャー企業トップやコンサルタント。自らが展開しているサービスを売り込むための、あざとさが感じられる内容も少なくない。出版社は、とにかく売れればいい、とオーバーなタイトルを付けて気を引く姿勢。ところが本書は、これら“セールス本”とはまったく異なる。米国発の書籍であるがために、客観性が保たれているのだ。

著者は、長くオンラインニュースメディアに関わるとともに、商品やサービスの売り上げにつなげる活動を行い、EC企業のマネジメント職も務める。マスコミ側と広報側の両方の経験者だ。広報関連の書籍は、当然だが広報業務に携わっていないと書けない。逆に、マスコミ側の経験しかない人にいくら広報はこうあるべき、と語られても、所詮は広報から情報提供を受ける側が現実を無視して一方的に考える机上の空論でしかない。説得力は両方の実務経験によって倍増する。メディア側として感じる効果的な広報活動と、実践者として身に着けた有効な策が、体験として語られている本書には重みがある。

ネットをメーンにした広報関連書籍は、従来の広報活動を否定したいがために、メディア対策をないがしろにする傾向がある。もはや広報担当者は記者と付き合う必要はなくネットで……、と主張を展開する。ところが本書で著者は「ウェブがルールを変え、あらゆる組織が顧客や消費者と直接コミュニケーションを取れるようになった」ことを大きなテーマにしながらも「メディアは多くの組織にとって非常に重要なものだ」「メディアは広報活動全般においては不可欠である」と言い、そのうえで「顧客に直接アプローチするもっと簡単かつ効率的なやり方があると強く信じている。そしてここが巧妙なところだが、そのやり方がうまく機能すれば、メディアは結局記事にしてくれるのだ」と説く。

本書では、ウェブコンテンツ、RSS、ブログ、SNSなどさまざまな仕組みを活用した広報活動の方法や事例が取り上げられているが、成功例は、多くの場合がネットでの活動をきっかけに大手メディアに掲載されたことがゴールになっている。メディアに情報を売り込むための具体的策も「記者が大きな絵を描けるようにする」「メールにファイルを添付しない(頼まれない限り)」など詳細に記されている。記者との付き合いは必要だが、従来ほど多くのエネルギーを費やすのではなく、ネットを活用して顧客や消費者に直接情報を届ける手法にも力点を置くべきだ、とのスタンス。極めて現実的な考えだ。

本書が米国で出版されたのは2007年。訳書は2009年2月。その間に、著者が力説する「オフラインの世界では、マーケティングとPRは異なる部門で、それぞれ別の人が担当していて、必要なスキルも別のものだと考えられている。けれどもウェブでは違う」という考えは、日本でも受け入れられつつある。しかし、本書のように具体的にPR(広報)とマーケティングはどう融合すればいいのか、活用できるネットサービスや技術には何があり、それをどのように使えば効果的なのかを解説した書籍はなかった。その意味で本書は、今のネット広報のバイブルと呼べるだろう。ただ、取り上げられているのが米国のサービスで、日本と温度差があることも事実。本書の内容を実践する際は、そのあたりの見極めも必要になる。

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