BOOK REVIEW Web担当者なら読んでおきたいこの1冊

クラウドコンピューティング時代がもたらすIT史上最大の破壊とは/書評『クラウドの衝撃』

ブックレビュー

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『クラウドの衝撃――IT史上最大の創造的破壊が始まった』

評者:斉藤 彰男(編集者、システム・エンジニア)

クラウドコンピューティングはパラダイムシフトだ
ベンダーのビジネスが変わる、データセンターが変わる、PCが変わる……

クラウドの衝撃の書籍画像
  • 野村総合研究所 城田 真琴 著
  • ISBN:978-4-492-58082-0
  • 定価:1,500円+税
  • 東洋経済新報社

まるで週刊誌のような煽りの利きすぎたタイトルと、「わずか5台のコンピュータが世界を席巻する。」という本書の帯を見たとき、正直なところ、いささかの「胡散臭さ」を感じざるを得なかった。だが、実際に本書を手にとって数ページ読んだだけで、本書は「クラウドコンピューティング」という最近脚光を浴びているテーマを、きわめて「まじめ」かつ「丁寧」に解説していることに気がついた。久しぶりに見つけた、お勧めの一冊である。

「クラウドコンピューティング」という言葉を提唱したのは、米グーグルのCEO、エリック・シュミット氏であることは、いまや多くの人の知るところである。しかし、その後、さまざまなコンピュータベンダーが「クラウドコンピューティング」という言葉を微妙に異なるニュアンスで使用した結果、文字通り“雲をつかむような”捉えどころのない曖昧さを持つようになってしまった。ということで本書では、最初に筆者なりの「クラウドコンピューティング」とは何か、という定義から説き起こしている。

本書の構成を要約すると、第1章「姿を見せ始めた次世代コンピューティングモデル」では、クラウドコンピューティングとは何か、なぜクラウドコンピューティング時代の到来が必然なのかを説明。第2章「雲の中身はどうなっているのか」では、クラウドコンピューティングの仕組みを、技術にフォーカスして解説している。次の第3章「ネット企業がリードするクラウド・コンピューティング」では、グーグル、アマゾン、セールスフォース・ドットコムというクラウドコンピューティング市場をリードするネット企業の動向を紹介。第4章「ICT業界の巨人たちはネット企業に追いつけるか」では、マイクロソフト、IBM、オラクル、AT&TといったICT業界のトップ企業におけるクラウドコンピューティング時代に向けた戦略を解説している。

そして、第5章以降はクラウドコンピューティングに対する筆者なりの分析を展開。第5章「クラウド・コンピューティング時代の企業IT戦略」では、ユーザー企業の立場からクラウドコンピューティング時代の情報システムのあり方を提示。第6章「クラウド・コンピューティングで何が変わるのか」では、クラウドコンピューティングというパラダイムシフトがIT産業に及ぼす影響を、さまざまな観点から考察。最後の第7章「クラウド・コンピューティング時代へ向けて超えるべきキャズム」では、クラウドコンピューティングが切り拓く新たな時代に向け、IT業界のみならず、社会全体として何を考えていかなければいけないかを提言している。

とりわけ、第3章のグーグルとアマゾンのクラウドコンピューティングに対する取り組みの紹介は、本書の中で“コア”となる部分で、最も熟読すべき箇所である。

グーグルに関しては、検索エンジンの先に展開しようとするビジネスモデルについて、さまざまな資料を提示しながら詳細に解説している。その核となるのは、Webメール「Gmail」、オンラインカレンダー「Googleカレンダー」、Webベースのワープロ&表計算ソフト「Googleドキュメント」などを含むSaaS型の統合ツール「Google Apps」と、Webアプリケーションの開発・稼働環境を提供するクラウドコンピューティングサービス「Google App Engine」である。これらのサービスが、Gmailのアカウントさえ取得すれば、無料で利用できるのだ。とくに「グーグルがクラウドコンピューティングサービスに参入する理由」における筆者の分析は注目に値する。

また、先陣を切って2006年にクラウドコンピューティングサービスを提供開始したアマゾンについては、利用コスト、システムの拡張性、Webサーバーを実際に稼動させるまでの時間と労力などを、自社で行う場合とアマゾンのサービスを利用する場合を比較していて、クラウドコンピューティングサービスを利用することのアドバンテージが詳細に紹介されている。また、ここではオンラインストレージサービス「Amazon S3」の導入事例として、ニューヨーク・タイムズとナスダックも紹介されていて、このサービスのスケーラビリティがもたらすメリットが具体的に解説されている。近い将来、“オンラインストアのアマゾン”から“クラウドコンピューティングサービスのアマゾン”へと華麗なる変身を遂げるかもしれない、と思うのは評者だけだろうか。

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