デジタルマーケティングには「最高の顧客体験」「社内改革」が必要。ネットイヤー石黒氏が語った本質と先進事例

ネットイヤーグループが8月に主催したメディアラウンドテーブルの石黒氏の講演から、デジタルマーケティングの先進事例や企業導入におけるポイントなどをお届けする。

企業がデジタルマーケティングに本気で取り組むには、何が必要か。セブン&アイ・ホールディングス「omni7」などのさまざまな企業のデジタルマーケティング推進に携わってきたネットイヤーグループCEOの石黒氏は、次のように述べる。

デジタルマーケティング時代に必要なことは、一人ひとりのお客様を知り、お客様とのシナリオを作って、永続的な関係性を作ること。それには「顧客体験」と「部門の枠を超えた社内改革」が必要です。

同社が8月に主催したメディアラウンドテーブルの石黒氏の講演から、デジタルマーケティングを取り入れている企業事例とケーススタディともに、デジタルマーケティングを組織に導入するために必要なことを抜粋してお届けする。

タッチポイントでのIDや情報を集めてつなぐことがデジタルマーケティングの第一歩

ネットイヤーグループ 代表取締役社長 兼 CEO 石黒不二代氏

少し前までの日本は大量生産大量消費の時代で、企業とユーザーの接点は限られていた。そのため、マスメディアでたくさんの人にリーチできれば商品は売れた。しかし、インターネットが普及してスマホが登場した現在では、企業とユーザーの接点は複数あり、その関係性も複雑化している。

企業がこれから勝ち残って行くためには、ユーザーが欲しいモノをリアルタイムに把握して、必要な人に必要なモノや情報を提供することが重要だ。そのためにはデジタルマーケティングが欠かせない。

しかし、デジタルマーケティングを組織全体として進めていくには、システムの改修や必要設備の導入、現場作業のフローの見直しといった大規模な投資が必要だ。一つの部門で対応できるものではなく、会社全体として取り組まないと達成できない

まず企業がすべきことは、ユーザーとの接点(タッチポイント)で得られるIPアドレス、Cookie、メールアドレス、ソーシャルアカウントなどのIDや情報を集めてつなぐことだ。そのためには、「顧客情報などのデータベースを顧客中心で作り替える必要がある」と石黒氏は説く。

それらをつなぎ合わせることで、誰がどんな情報に接触したのか、何に興味があるのかといった情報がわかる。こういった情報が得られれば、商品開発やマーケティングに生かせるわけだ。

3つの事例でデジタルマーケティングを理解しよう

ここで、デジタルマーケティングで何ができるのか、先進的な事例を3つ紹介する。

無印良品「MUJI passport」

無印良品がアプリで提供している「MUJI passport(ムジパスポート)」。これはポイントカードがアプリになっただけではない。購入前後の行動が可視化され、来店頻度の向上や施策の測定にも役立っているという。

店舗にお客様が来店して商品を購入する。この流れで企業は「性別、年代、買ったもの」の情報を把握できる。また、ポイントカードがあり購入時にそれを提示してもらえれば「名前、買ったもの」をひも付けられる。

しかし、それだけでは企業が本当にマーケティングに使うべきなぜ店舗へ来てくれたのか、購入商品の他にどういう商品に興味を持ってくれたのかといった情報はわからない。これらを解決したのがMUJI passportだ。

MUJI passportには、購入時に提示してポイントを付与するといった従来のポイントカード機能に加えて、パスポート内で商品検索もできる。これによって、購入前の行動がわかる

ポイント付与は購入時にとどまらず、店舗に近づきチェックインするだけで実際に店舗に来店せずともポイントが付与される。さらには商品に関してソーシャル投稿するとポイントが付与される

お客様に付与するポイントが増えれば増えるほど、それだけディスカウントして商品を売らなければならない。このポイントプログラムの導入は、大きな決断が必要であっただろう。しかしその結果、お客様の購入前後の行動、行動範囲から想定される勤務先や住まいのエリア、行動時間帯などが把握できるようになった。

ネットとリアルがシームレスな顧客体験が実現できているといえる事例だろう。

アマゾン(Amazon)

次はデジタルデータをリアル店舗のデザインへ生かした事例を紹介する。

アマゾンといえば、誰もが知る世界最大のECサイトだ。デジタルスタートのアマゾンは、創業当時から、購入者の商品検索履歴や購入履歴といったデータを基におすすめ商品を紹介するレコメンド機能が特徴だ。

そのレコメンド機能が存分に発揮されたリアル書店「Amazon Books」をご存じだろうか。アマゾンでは本をデジタルデバイスで読めるキンドル(Kindle)がある。このキンドルは、デジタルデバイスで本が読めるにだけでなく、購入後の本の読み方までわかるという。

そういった読書体験のデータを基にして作ったリアル書店がAmazon Booksだ。サイト上やキンドルでのさまざまなデータを駆使して、リアル店舗の品ぞろえ、商品の区分、陳列などを決めているという。

ワービーパーカー(Warby Parker)

次は、めがねECショップのワービーパーカー(Warby Parker)の、デジタルと組み合わせた実店舗の効率的な使い方を紹介する。

めがねのECでネックとなるのが、実際に試着ができないことだ。それを解決したのが、5つのフレームを5日間無料トライアルできるホームトライオン(Home Try-On、自宅で試着)というサービスだ。

ワービーパーカーにはリアル店舗もある。しかし、リアル店舗はショールームと位置づけているので、商品を買って帰ることができない。あくまでもワービーパーカーの世界観を伝えるための作りに徹している。

そして、驚くべきことは実店舗1平方ft(30×30センチ)あたり年間の売上高(2015年)が、全米で2位ということだ。これは新しい店舗運営モデルになる可能性を秘めていると言えるだろう。

スーパーマーケットの日々の食材購入でケーススタディ

最後に企業がどうデジタルマーケティングに取り組んでいけばいいか。スーパーマーケットにおける日々の食材購入のケーススタディとして紹介する。

対象となるユーザー像は、30代前半の女性。共働きで結婚3年目。仕事がお互いに忙しく、平日はなかなか料理の時間が取れない。手早く済ませてしまうことが多いが、できるだけおいしい料理を作って、夫と一緒に楽しみたいと思っている。

そんな彼女たちの一番の悩みは献立を考えることだ。その悩みを解決する顧客体験を生み出してみよう。

たとえば、こんなシナリオだ。

朝の通勤時、スーパーから今夜のおすすめレシピがスマホに届く。スーパーにとって、日々の食材を購入してくれる顧客の家族構成はだいたいわかるだろう。そのデータを基に、顧客にあったレシピを紹介する。

レシピを受け取ったユーザーは、レシピを作るのに必要な食材リストから冷蔵庫に無い食材にチェックをして、受け取り方法を指定して、決済する。

スーパーでは、ユーザーから届いた食材情報を基に、ピッキングを行い、自宅に配送するもしくは、指定の冷蔵ロッカーへ届ける。

仕事を終えたユーザーが、食材を受け取りレシピ通りに調理して、夫とともに食卓を囲むといった具合だ。

しかし、これを実現するためには、さまざまな業務変更、システム変更が必要だ。たとえば、レシピを考える人や食材をピッキングする人を雇わなければならない。さらには、決済システムの導入や配送手段の確保、冷蔵ロッカーの設置などかなりの投資が必要となる。

つまり、企業がデジタルマーケティングを推進していくためには、カスタマーセントリック戦略(顧客中心の戦略)を考えなければならない。「カスタマーセントリック戦略を実現するには、さまざまなタッチポイントから得られる顧客データから最高の顧客体験を考えて、部門の枠を超えた社内改革を行うことが重要です」と強調し、石黒氏は講演を締めくくった。

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