企業ホームページ運営の心得

机上の論理より大切な“売れている”という事実

論理的には説明できない現象でも、商売人なら「売れている」という事実に謙虚に向き合うべきです
Web 2.0時代のド素人Web担当者におくる 企業ホームページ運営の心得

コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。

宮脇 睦(有限会社アズモード)

心得其の441

合理的とは限らない

NYCstocker/iStock/Thinkstock

2016年1月25日のWeb担のメルマガにあった安田編集長による「バカ論」。編集長の「バカ論」とは、「他人がバカに見えたら己を戒めなさい」というものです。

一方、私の持論は「大衆はバカ(愚か)」ですが、これは他人を見下しているのではありません。

あるシンポジウムにパネリストとして呼ばれ「Webの未来」について尋ねられました。居並ぶ研究者やWeb業界の著名人たちは、概ね明るい未来を語るなか、最後に意見を求められた私は持論を述べます。

人は愚かです。必ずしも合理的な結論を下しませんし、フィクション(嘘)の小説を楽しみ、ありえない愛の歌に酔うのです。私も含めて

会場はシーン。主催者は苦笑い。お前がバカだという指摘に、ハイと頷くのはこの状況における「バカ」は私だから。これもWeb担当者にとっても大切なことなので最後に補足しておりますが、要するに大衆は必ずしも合理的で理論的な結論を望むとは限らないと指摘したのです。そして、それを教えてくれたガラケーの「Nシリーズ」を思い出しました。

編集長のメルマガに便乗……もといオマージュです。

Nシリーズが教えてくれたこと

その昔、「ガラケー」の販促を手伝っていました。自然とスペックやサービスに詳しくなります。いま、スマホで議論が進む「0円ケータイ」ですが、当時は本当に無料で、合理的に考えれば圧倒的に0円がお得でした。そんな0円ケータイが当たり前の時代、「通話時間が大幅増+カラー液晶画面」という、当時の最新スペック端末が登場し「これは売れる!」と確信します。いつもよりチラシを多めに印刷して配布し、まさに鳴り物入りで売り出しました。

ところがさっぱり売れません。販売店にメーカー、私も含めたみなで首をひねります。そして口にしたのは「客はバカか、カラーで0円なのに」の一言。無料のうえにスペックが高ければ、合理的に考えれば売れるという読みが外れ、在庫処分に苦労した愚痴をこぼします。

一方、モノクロ画面のうえに端末代金が別途必要(当たり前ですが)、さらには入荷待ち、それでも予約リストが一杯となる端末がありました。NECの2つ折りの機種「Nシリーズ」です。

購入する理由

当時、Nシリーズの人気について語られた理由は「2つ折り」。折りたためてコンパクトになることが支持されていると、登場したばかりの「携帯ジャーナリスト」が語っていました。しかしその後、各社から2つ折りタイプの機種が発売されても、Nシリーズの人気は不動でした。一方、スマホ時代になって2つ折り機種が登場しても、人気が集まらないことから、それは「後講釈」だったと想像できます。なぜなら、

お客は合理的な判断で購入しない。「欲しい」から買う

からです。

何人かのお客に、Nシリーズを望む理由を尋ねてみると「みんなが持っているから」と答え、スペックについて語る人は、ほとんどいませんでした。「カラー液晶」について尋ねると「必要ない」と答えます。「写メ」が普及する前夜で、「写ルンです」の方がキレイな写真が撮れた時代の話です。

売れているという事実に向き合う

安田編集長の「“世の中みんなバカばっかり”と思ったら、たぶん本当にバカなのは自分だ」に唸ったのは、20世紀末に教えを請うた、小売業を営むマーケティングの師匠の言葉と重なったからです。

売れているものはすべて正解

ベストセラー、オリコンランキング入り、人気タレント。自分にその良さがわからず、論理的には説明できない現象でも、商売人なら「売れている」という事実に、謙虚に向き合うべきだというのです。0円端末が売れ残り、Nシリーズの予約名簿が埋まった理由は「客層」の取り違え。スペック重視派は、発売直後に機種変更しており、0円端末を求める客層ではなかったのです。

取り扱う商品・サービスの専門的知識が増えれば増えるほど、自分の方が合理的な判断を下せるという自負が生まれ、ともすれば「客はバカ」と傲慢になります。しかし、売れた、売れているという結果の前に謙虚にならなければ、肝心なことを見落としてしまいます

大切なのは「なぜなのか?」を問うこと

商売は「シミュレーションどおりにいかないことが多い」と換言することもできます。そして予想に反した結果が出たとき、非論理的で、非合理的な行動を馬鹿にするのではなく、どうしてそういう行動を取っているのかに着目すべきです。距離を置いて冷静になってみると、条件設定を間違えていることは少なくありません。これはログ解析やA/Bテストにも通じます。

そもそも大衆=お客は合理的な選択ばかりをするわけではありません。近隣の小売店における「底値」を探して、東奔西走する主婦がときどきテレビで紹介されますが、移動のためのコスト(時間および人件費)を加味すれば割高になっていることもあります。こうした非合理的な選択は実に多く、それを逆手に取る販促もあり、これについては次回、紹介する予定です。

バカの理由

最後に、私がバカな理由について。あまりにも数が多いので冒頭のシンポジウムの例に限定します。

多くの人は承認欲求を持ち、“賢い”と思われたいものです。それを公衆の面前で、全体を指しながらも「愚か」と言われて愉快なわけがありません。ましてやシンポジウムに参加するような勉強熱心な聴衆です。シンポジウムを一種の「ショー」と定義するなら、オーディエンスを喜ばせるのが登壇者に求められる役割で、空気を読めないバカな私です。

これはWebコンテンツにも通じます。読者の期待を裏切ることは論外ですし、なにより本稿のように「バカ」とそのまま記してしまうことは避けるべきです。「バカ」の文字だけで、文書も読まずに抗議する人は実に多いのです。実に「バカバカ」しい限りですが、この表現すら避けるほうが無難で、バカな私でも広告要素の強い原稿や、クライアントのコンテンツでは「ユニークな見解」「独創性の高い価値観」などと可能な限り表現を変えています。ここまで知っていながら「バカ」を使う私の座右の銘はこちら。

賢者は愚者から学び、愚者は賢者から何も学ばず

賢者は読者、愚者はバカ(あるいはミヤワキ)と読み替えてください。

今回のポイント

お客はいつも合理的な決断を下すわけではない

売れているという事実がなにより重要なファクト

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