初代編集長ブログ―安田英久

「土用の丑の日に鰻」は広告倫理として問題ないのか!?

鰻の旬は夏じゃない! 質が良くない状態の鰻を売り込むのは……と考えたのですが
Web担のなかの人

今日は、「広告倫理」の話題を。「土用の丑の日に鰻を」は、平賀源内がつくった広告で、日本における広告の元祖だともいわれます。でも、夏は鰻の旬ではありません。この広告、倫理的に問題があるのではないかと気になったのです。

「土用の丑の日に鰻」は広告として始まったと言われます

7月25日は、2017年の夏の「土用の丑の日」。この日に鰻を食べるといいというので、日本では土用の丑の日に鰻が大量に売り出されます。

土用の丑の日に鰻を食べる」という風習は、江戸時代に平賀源内が作った広告から生まれたものではないかと言われています。

Wikipediaには次のようにあります(読みやすさのために筆者が改行を追加)。

商売がうまく行かない鰻屋(知り合いの鰻屋というパターンもある)が、夏に売れない鰻を何とか売るため源内の元に相談に赴いた。

源内は、「本日丑の日」と書いて店先に貼ることを勧めた。

すると、その鰻屋は大変繁盛した。その後、他の鰻屋もそれを真似るようになり、土用の丑の日に鰻を食べる風習が定着した

なぜ「本日丑の日」で鰻が売れるのか。その背景には、次のようなことがあったようです。

一説によれば「丑の日に『う』の字が附く物を食べると夏負けしない」という風習があったとされ

つまり、「夏になると鰻が売れなくて困っている」クライアントを助けるために、「う」の字がついた食べ物が喜ばれる丑の日をうまく活用して鰻を訴求したということですね。

これが事実なのかどうかはさておき、この訴求のやり方は「広告倫理」という点で問題がないのか、気になりました。

だって、鰻の旬は夏じゃない

というのも、夏の土用の丑の日に食べる鰻なんて、鰻としてさほど良い状態じゃないわけですよ。

よく勘違いされるのですが、(天然の)鰻の旬は夏ではありません。

本当に鰻がおいしいのは寒くなる秋から初冬にかけてだと言われます。

つまり源内は、わざわざ旬を外れた時期に多くの人が(良い状態ではない)鰻を食べようという気になるように、広告を使ったのだとも言えます。

これは、倫理的に問題ないのでしょうか?

これが、閑散期に客を増やすために中心商材と別軸の体験を用意するような対応方法だったら何の疑問もないわけですよ。

たとえば、スキー場が閑散期である夏場に、パラグライダーやマウンテンバイクのダウンヒルといったアクティビティを提案するような方法ですね。

これなら、スキー場という場所の価値をうまく活かした集客で、振り向いてもらい、楽しんでもらうために、新たな価値を生み出していますから、すばらしい手法だと思います。

では、夏の土用の丑の日に鰻というのは、どうでしょうか。

旬に比べて質が下がっている鰻を、商品をまったく変えずに、いかにも良いものであるかのように舌先三寸で訴求するというのは、いかがなものかと思ってしまいませんか?

商材である「鰻」の観点で言うと、夏の時期にこれを売ろうとするのが微妙なのは確かです。だって、夏じゃないほうが美味しいんですから。

……しかし!

顧客の得る価値を本当に考えると、問題なかった!

実は、よく考えると、この売り込み方は、まったく倫理的にも問題なく、すばらしいものではないかと思えてきました。

というのも、「鰻を食べると、その人にどんな良いことがあるか」の観点から言うと、すばらしい訴求になっていると思うのです。

江戸時代には、今と違って食糧事情がよろしくなく、栄養に関する科学的な研究も進んでいなかったことでしょう。となると、「夏バテ」というのもけっこうあったのかもしれません。

そして、鰻は滋養強壮が期待できる栄養素を含んでいる食べ物だということです。

となるとですよ、体力が衰えて疲れやすくなっている夏の時期に「鰻を食べるといいんじゃないでしょうか」と訴求するのは、理にかなっていますし、価値を提供していますよね。

「そうか、疲れがちな夏に、鰻を食べればちょっと元気になれるかも」と、お客さんがそれまでは気づいていなかった商品の価値を再認識してもらう良いコミュニケーションなのではないかと。

そして、「丑の日に『う』の字が附く物を食べると夏負けしない」という風習(言い伝え)があったということも考えると、おそらく源内も同じように考えて広告を作ったんじゃないかと想像しています。

あくまでも思考実験ですので、本当に源内がキャッチコピーを作ったのか、江戸時代に栄養事情が良くなかったのか、本当に鰻が滋養強壮に効くのか、詳しく裏を取ったわけではありません。

でも、広告やコミュニケーションをどうつくっていくかを考えるときに、「商品そのもの」を訴求するのではなく、「その商品を利用することで顧客が得る価値や体験」に視点を移すことは、非常に大切ですよね。

われわれは、つい「この商品がどんなにすばらしいモノか」を力説するメッセージをつくってしまいがちですが、改めて、「それによってお客さんがどんな体験をするか」も、ちゃんと考えるようにしましょう。

あ、老舗の鰻料理屋さんのなかには、昨今のシラスウナギの不漁をうけて、土用の丑の日にはあえて鰻をアピールしないようにしているというところもあるようです。

個人的には、そういうお店に好感をもってしまいますよね。だって、おいしい鰻をもっと食べ続けたいですから!

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