日本の消費者は「無関心化」している? アクセンチュアが語る衝撃の調査結果とその対処法とは

「無関心化」する消費者にどのように向き合えばいいのか? 「代行」と「ニーズ創出」という2つのアプローチ
日本の消費者は製品・サービスに対して「比較・検討しない」「興味・関心がない」

コンサルティング事業を行うアクセンチュアが、7月28日に「グローバル消費者調査2015」の調査結果を発表した。その場で、日本や米国などの先進国では「消費者が無関心化している」という衝撃的な内容が語られた。

先進国は、情報過多により「わがまま化」を経て「無関心化」のステージに入っている
先進国は、情報過多により「わがまま化」を経て「無関心化」のステージに入っている

その状況に企業が対応するためには、「購買行動を代行する」「ニーズを創造する」といった新しいアプローチが必要になるという。

一体、消費者に何が起きているのだろうか。実際の調査データとともに解説する。

世界33か国で約25,000人を対象に行われたアンケート調査

アクセンチュア 戦略コンサルティング本部 顧客戦略グループ マネジング・ディレクター 田村 学 氏
アクセンチュア 戦略コンサルティング本部 顧客戦略グループ マネジング・ディレクター
田村 学氏

同調査は、同社が世界の消費者行動や意識を毎年調査しているもので、今年で11年目になる。

33か国で約25,000人の回答を集計したもので、そのうち日本の回答者は1,300人。対象は18歳以上の男女で、幅広い年齢層から回答を得ている。調査は、世界で2015年8月~9月に一斉に行われた。調査概要は記事末に掲載している。

今回の調査の着眼点は、次の3つ。携帯通信や家電、保険など生活にまつわる11サービスの消費行動についてアンケート調査を行った。

  • デジタルは消費者の購買活動をどのように変化させたか?
  • 製品・サービスに消費者はどれだけのこだわりを持っているか?
  • 企業の顧客応対は、ロイヤルティにどのような影響を及ぼしているか?

消費者はオンライン・オフライン問わず多くのチャネルを利用している

まずは、デジタルの普及で購買活動がどのように変化したかの調査結果が示された。図は、日本・米国・中国・インド・グローバル平均の5項目を並べて比較したものだ。消費者はデジタルとリアルを問わず多様なチャネルを利用していることがわかる。

図中の数字が大きいほど、消費者がそのチャネルを利用していることを表している。新興国(中国・インド)は多くのチャネルをよく利用しており、購買活動そのものに対する意欲の高さがうかがえる。

消費者は、オンラインとオフラインを問わずに多様なチャネルを利用している。国同士で比較すると、全般的に新興国の購買意欲が高い
オンラインとオフラインを問わずに多様なチャネルを利用している

先進国の消費者は製品・サービスに「興味・関心がない」

ここからが本題だ。「製品・サービスについて購入前によく検討をしますか?」という質問では、日本・米国は「検討しない」という回答が多く、中国・インドと差をつける結果だ。日本においては、およそ6割の消費者が「製品・サービスを事前に検討しない」「製品・サービスに興味・関心がない」と回答したことになる。

日本と米国は半数以上の消費者が「購入前に検討しない」「製品・サービスに興味・関心がない」と回答した。購買意欲が高い中国・インドと差がついている
日本と米国は半数以上の消費者が「購入前に検討しない」「製品・サービスに興味・関心がない」と回答した

次のグラフは、日本の回答の内訳を業種別に表したものだ。「家電」や「ホテル」といった嗜好性の高いものも含めて、特定のジャンルの製品・サービスに偏らず全体的に「検討しない」という回答が多いことがわかる。右側の「購入している製品・サービスに興味・関心がありますか?」という質問に対する回答もほぼ連動した結果だった。

日本の業種別の回答を集計したグラフ。特定の業種に偏っているわけではなく、全体的に製品・サービスについて興味・関心を失っている傾向がある
特定の業種に偏っているわけではなく、全体的に興味・関心を失っている傾向がある

日本人は不快なことがあっても製品・サービスを乗り換えない

そして、企業の顧客応対がロイヤルティにどのような影響を及ぼしているかの調査結果でも、日本・米国の「無関心」さが際立つ結果だった。

「過去1年間に、企業の応対で不快な経験をした際に他社に乗り換えた、または乗り換えを経験しましたか?」という質問で、日本で「はい」と答えた割合は検討・購入段階で41%、カスタマーサービス・サポート段階で24%と4か国で最も低く、言い換えれば「不快な思いをしてもサービスを乗り換えない」と読み取ることができる。

「不快な思いをして乗り換えを検討した」と答えた割合は4か国で日本が最も低い。「乗り換えを検討した」と回答した中国とは倍の開きがある
「不快な思いをして乗り換えを検討した」と答えた割合は4か国で日本が最も低かった

消費者は「わがまま化」期を経て「無関心化」期に入った

これらの調査結果から、田村氏は消費者が「無関心化」していると分析する。かつては店頭に陳列されたものから商品を「従順」に選んでいた消費者が、インターネットで事前にリサーチする「わがまま化」を経て、比較検討を放棄する「無関心化」のステージに入ったという。

先進国の消費者は「わがまま化」を経て「無関心化」している。中国・インドはまだ「わがまま化」の段階にある。
先進国の消費者は「わがまま化」を経て「無関心化」している

図中の「FMOT」とは「First Moment of Truth」の略で、「消費者は棚に並べられた商品を見て3~7秒で購入するものを決める」という米P&Gが提唱した概念だ。店頭で何を買ってもらうかを店側が最適化してある程度コントロールできる。

それに対し、グーグルが提唱した「ZMOT(Zero Moment of Truth)」は、「消費者は店頭に足を運ぶ前に下調べをしていて、すでに購入するものを決めている」という概念だ。PCやスマートフォンで事前に入念なリサーチを行い、検索で購入を決めていることを表す。

「情報過多」で「どれを選んでも変わらない」という先進国の諦念

今回の「無関心化」はさらにその先にあり、「自身の欲求が定かでないまま、入念なリサーチをせずに購入に至る」という顧客行動が出現したことを表している。

中国・インドはまだ「わがまま化」の段階にあり、「無関心化」の兆候は日本・米国に見られる。田村氏は、その原因には次のような要素があるのではないかと推察する。

  • 得られる情報が多すぎて消費者が情報の海に溺れてしまう
  • どの製品・サービスを選んでも大して変わらないと思っている

情報が多すぎて調べきれない、そしてどれを選んでも変わらないという諦念から、結果的に製品・サービスやそれを提供する企業への執着が薄れるという新たな心理が生まれていると分析する。

無関心化する消費者に企業はどう向き合うべきか?

アクセンチュア 戦略コンサルティング本部 顧客戦略グループ アジア・パシフィック統括 マネジング・ディレクター 石川 雅崇氏
アクセンチュア 戦略コンサルティング本部 顧客戦略グループ アジア・パシフィック統括 マネジング・ディレクター
石川 雅崇氏

消費者の大半が無関心化しているならば、「積極的に情報を探して検討している」人に向けた施策や広告の多く届かないことになる。

そのような消費者に、企業はどのように向き合えばいいのだろうか?

同社の戦略コンサルティング本部 顧客戦略グループ アジア・パシフィック統括マネジング・ディレクターを務める石川氏は、2つのアプローチ方法が有効だと説明する。

  • 消費者に代わり、ニーズを理解して購買を代行する
  • 消費者に体験・価値を訴求することで、製品・サービスのニーズを新たに作り出す

これまで消費者が行ってきた「比較・検討する」「購入する」「ニーズが生まれる」といった行動を、企業が代行して提供しようという考え方だ。

無関心化する消費者に対しては「代行する」「ニーズを創出する」という2つのアプローチがポイント。企業にはこれまでなかったアプローチ方法が求められている
無関心化する消費者に対しては「代行する」「ニーズを創出する」という2つのアプローチがポイント

石川氏は、それぞれの事例としてアマゾンとナイキジャパンの2社を挙げて説明する。

事例1 発注から配送までを顧客の代わりに行うアマゾン

アマゾンは、顧客の動向を幅広く収集して「次にいつ何を購入するか」を予測できるほど顧客を深く分析し、購買の代行を進めている。

たとえば、米アマゾンの「DRS(Dash Replenishment Service)」では、プリンターのトナーなどの消耗品の欠品を予測して自動発注するサービスが始まっている。また、同社が2013年末に特許を取得した予測配送システムは、注文履歴や頻度、カート情報を分析して顧客が注文する前に発送し、顧客に近いところまで商品を届ける仕組みだ。究極的には「注文せずとも必要なものが届く」というアプローチだといえる。

消費者の代わりに購入を行うAmazon DRS
消費者の代わりに購入を行うAmazon DRSサイトで見る

また、同じく米国でスタートしている「Amazon Echo」は、家庭に常時スタンバイして顧客が話しかけると迅速に対応する端末。顧客の話し方や語彙のパターンをAIが学習し、顧客ニーズを詳細に把握することに一役買っている。

石川氏は、「代行」には次の3つが必要だと説明する。

  • 消費者の嗜好・行動を理解する(センサーとしてのタッチポイント拡充)
  • 先手を打つ(AIを活用した顧客行動の予測力強化)
  • 代行する(消費者にストレスフリーな販売形態・チャネルの再デザイン)

事例2 自社製品に対するニーズを新しく作り出したナイキジャパン

もう1つの例としては、ナイキジャパンが展開した「Nike+」が挙げられた。Nike+は、「運動を楽しむ」体験を提供する総合的なサービス。ランニングアプリでランニングのデータを記録したり、トレーニングアプリでユーザーのトレーニングメニューを構築したりとユーザーの運動を幅広くサポートし、製品の新たなニーズを作り出した。

消費者のニーズを創り出したNike+
消費者のニーズを創り出したNike+サイトで見る)

石川氏は、ここでのポイントはナイキジャパンが自社だけでなく、ナビ情報やGPSメーカーなど外部の企業と連携してサービスを拡充したことにあると説明する。新たなニーズを創造するためには、1社だけでなく複数の企業で協力してビジネスモデルを再デザインしていくことが必要だという。

「ニーズの創造」に必要な要件としては、次の3つが挙げられた。

  • 顧客体験のデザイン(顧客の理解を起点に提供すべき体験を具体化)
  • エコシステムの構築(外部サービスと連携のうえでサービスモデルを構築)
  • 共感プラットフォームの形成(体験を共有・増幅させるユーザー同士の交流)

日本の企業は新たなチャレンジに直面している

顧客の無関心化は先進国特有の新しい兆候で、国内ではそれに対する施策はまだほとんど実施されていない。しかし、日本・米国では製品・サービスや企業に執着しない層がすでに多数派を占めつつあり、企業は「無関心な消費者に向き合う」という新たなチャレンジに直面していると説明する。

  • 消費者に代わり、ニーズを理解して購買を代行する
  • 消費者に代わり、製品・サービスのニーズを新たに作り出す

どちらのアプローチをとるにせよ、一番大切なのは顧客の理解だ。顧客自身が気づいていない関心やニーズを知ることがチャレンジの第一歩であり、顧客との接点や販売方法・チャネルを再度考え直さなければならない段階に来ていると語られた。

調査概要

  • 調査企画・実施: アクセンチュア・ストラテジー
  • 調査目的: 企業のマーケティングや営業、顧客サービスに対する消費者の行動や態度・期待を調査するため。また、調査結果をもとに企業が顧客満足や顧客ロイヤリティを向上するためのインサイトを導き出すため
  • 調査方法: インターネットを利用したアンケート調査
  • 調査対象者: 18歳以上の男女
  • 調査期間: 2015年8月~9月
  • 調査対象地域: 世界33カ国
  • 有効回答数: 約25,000人(うち日本の回答者は1,300人)
  • 対象サービス: ユーティリティ(ガス/電気)、携帯通信、固定通信、ケーブル/衛星放送、消費財小売、家電、ヘルスケア、ホテル、銀行/金融サービス、生命保険、損害保険の計11サービス
回答者の年齢分布
年齢日本グローバル
18~34歳275人8,105人
35~54歳518人9,959人
55歳以上507人6,425人
合計1,300人24,489人
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