IoT時代のエクスペリエンス・デザイン

IoT時代に生き残るには、お客さまとネットでつながり、自前主義を捨てスピーディにオープンな提携を

エクスペリエンスは「場所」から「時間」へと移行し、お客さまの「近未来の予測と改善提案」が企業のサービスの根幹になる時代に生き残るには
このコーナーでは、書籍『IoT時代のエクスペリエンス・デザイン』の一部を特別公開しています。
書籍の 第1章「エクスペリエンス×IoTで何が変わるか」 の 「〈提言〉生き残りのためにハイテク企業になろう」 より

〈提言〉生き残りのためにハイテク企業になろう

お客さまとインターネットでつながろう

モノやサービスの同質化・成熟化が進み、すでにプロダクト価値やイメージ価値だけでは差別化が困難になっている時代。エクスペリエンスが企業のブランドの最大の差別化ドライバーになって行く流れはIoTが導入されるステージに突入するとますます強まって行く。エクスペリエンスは「場所」から「時間」へと移行し、お客さまの「近未来の予測と改善提案」が企業のサービスの根幹になる。

2015年のCESでジョン・チェンバースが熱く語ったように、すべての企業はハイテク(IT)企業に変わらなければ生き残ってはいけない。第1章の図1で見たようなマーケティングプロセスを構築できなければ、お客さまの支持を失う可能性が高いのである。お客さまとインターネットでつながること、AIを導入すること、ビッグデータの活用とお客さま主語でのアナリティクスに習熟すること……いくつものハードルがある。一度にすべてを刷新することは難しい。中でも企業が一番真っ先にやるべきことは「お客さまとインターネットでつながること」である。

これは製造業や小売業のような「取引型事業」でも、金融業や携帯電話サービス業のような「サブスクリプション型(会員型)事業」でも同じである。そもそもお客さまとつながらない限り、お客さまへ「近未来のエクスペリエンスの予測や改善提案」を提供することはできないし、お客さまと長い「時間」軸でつながることもできない。売ることがゴールだった時代から、売ってお客さまにどう感じてもらうかがゴールになる時代。すべての始まりは企業がお客さまの声をデータの形で収集し、お客さまの行動パターンや価値観を知ることである。

「取引型事業」の場合、個人のお客さまと直接つながらなくても、自動運転サービスにおけるクルマのようにモノの使用を介して間接的につながることもできる。同じことは家電AV機器のようなカテゴリーでも可能である。コモディティ製品の製造業や小売業のケースではECサイト(オンライン)と実店舗(オフライン)を連動させたO2Oサービスが有効であると考えられる。現在でもアパレルのユナイテッドアローズや東急ハンズではECサイトから各店舗の在庫状況を確認できるサービスを展開している。この場合、ECサイトと実店舗のポイントの統一やお客さまへの気の利いたリコメンドなどによってECサイトから実店舗への誘引、再来店の促進などが成功のカギになるだろう。

サブスクリプション型(会員型)事業の場合はすでにお金のやり取りに関するデータではお客さまとつながっている状態である。しかし、手持ちのデータに関しては、必ずしも十分なマーケティング活用がなされていないというのが現状だろう。今後、たとえば銀行ならリテール中心から資産運用や相続へとお客さまのライフタイムの変化に対応したサービスのメニューを充実させる、携帯電話サービスなら電力や物販だけでなく金融、生保やライフケアなどお客さまのクォリティ・オブ・ライフのイノベーションにつながる領域に事業を拡大してみたらどうか。収集できるお客さまの行動データの種類と量が拡大するだけでなく、お客さまの「近未来のエクスペリエンスの予測と改善提案」の幅と内容も充実して行くことが想定される。

店に人を集めるには、まずそこに至る「道」を造ることが必要なのである。

自前主義を捨てスピーディにオープンな提携をしよう

自動運転サービスで進むオープンな提携

欧米に比べて日本企業は人材の流動性が乏しく、研究開発や商品・サービスの開発では自前主義に陥りがちである。IoT時代の競争優位は「学習能力の速さ」でもある。自前主義を捨てて、スピーディにオープンな連携が不可欠になる。

〈エピソード1〉で見た自動運転のケースを見て行くと、国境や業界・業種の枠組みを超えたオープンでダイナミックな提携が相当のハイスピードで進行していることがよくわかる。

まず、2015年末にはBMW、アウディ、ダイムラーの3社がフィンランドのノキアの地図子会社HERE(ヒア)を28億ユーロ(約3600億円)で共同買収したことが報道された。言うまでもなく、近い将来「地図」情報をAIで共有し、自動運転のための共通基盤づくりを目指すのが目的である。

また、2016年1月の家電見本市CESでは、前年度の「Disruption」を受けて「クルマとITの融合」が焦点となり、世界の自動車大手9社が出展、部品を含めると115社ものエントリーがあったことが大きな話題になった。会場では、アウディと米国クアルコム、フォルクスワーゲンと韓国LG電子の提携が発表されたり、トヨタ自動車がMIT、スタンフォード大学と提携してシリコンバレーに新設したAI研究センターの概要を公表したりと自動運転に関する話題には事欠かなかった。

特に、トヨタ自動車は米国の国防高等研究計画局(DARPA)のロボットコンテストの責任者だったギル・プラット博士をAI研究全体の統轄者として招聘したことでも注目を浴びた。向こう5年間で約5000万ドル(約60億円)を投資して、自動運転のクルマだけでなく、広くロボットへの応用を目指して、様々な環境における物体の認識、高度な状況判断、人間と機械との安全な相互協調などを実現するための研究を推進すると言われている。

また、2016年1月下旬になると、ホンダが燃料電池の分野ではすでに提携関係にある米ゼネラルモーターズ(GM)とAIの分野でも協業を検討することを発表した。

先手必勝、オープンな提携を急げ

自動車メーカーがこのようにオープンな連携を急ぐには理由がある。

ひとつには、先述したようにグーグルやアップルといったグローバルなIT企業による自動運転サービス市場への侵攻だ。特にグーグルは今や「AI」「クルマ」「地図」「セキュリティ」4つの構成要素のすべてのカードを自社内で保有している。足りない技術やリソースは買収で補う。現金(キャッシュ)で時間を買う発想である。

4つの構成要素以外の付加価値(OSプラットフォームやUX/UI)の部分でも、アップルは2014年2月に「アップル・カープレイ(Apple CarPlay)」、グーグルは2015年3月に「アンドロイド・オート(Android Auto)」という車載OSをリリースした。いずれも現時点(2016年2月現在)ではスマートフォン機能の一部(ナビゲーション機能、音楽、通話)を自動車でも利用できる、というものに過ぎない。しかし、いずれは〈エピソード1〉で見たように、自動運転サービスの利用者と「クルマ」との情報のやり取りがスマートフォンのアプリを通じて行われる(例:擬人化したコンピュータエージェントと対話型で行なわれるなど)ということも十分に想定されて来るだろう。

繰り返しになるが、グーグルやアップルが自動運転のOSプラットフォームでも覇権を握るということは、PCやスマートフォンの世界で起きたような寡占的なマーケットの構造が自動運転サービスの世界でも再現される蓋然性が少なくない、ということを意味する。

自動車メーカーがオープンな連携を急ぐもうひとつの理由はドイツのボッシュやコンチネンタルのような自動車部品メーカーの動向だろう。両社は自動車の部品製造(サプライヤー)から自動運転のためのセンサーやソフトウエア開発に軸足を移している。特に、コンチネンタルは、自動運転のOSプラットフォーム「eHorizon(イーホライズン)」を自前で開発しているだけでなく、「クラウド」についてはIBMの「ワトソン」とパートナーシップを組んで行くことを早々と表明、いち早くグローバルスタンダード(共通基盤)構築を実現しようとしていることは注目に値する。

このように考えて行くと、自動運転車が提供するエクスペリエンスのレベルが高くなればなるほど、自動車メーカー、自動車部品メーカー、ソフトウエア企業といった既存の業界は意味をなさなくなり、競合の定義も変わる。

そして、お客さまにとって価値の高い、あたらしいエクスペリエンスを提供するサービスが中核となってまったく新しいビジネスが形成される。「自動運転サービス業」の誕生である。そこでは、IoT時代にふさわしい、オープンな連携が不可欠になってくる。オープンな連携のなかでのイニシアティブ争い、というのが変化のためのゲームの前提である。

オープンな連携を拒むことは、ゲームの土俵から自ら降りることを意味する。センチメンタルな自前主義にこだわることはもはや危険である。進化の波に取り残されれば、来たるべき運命はガラパゴス化に他ならない。

『IoT時代のエクスペリエンス・デザイン』

  • 著者:朝岡 崇史(電通 エグゼクティブ・コンサルティング・ディレクター)
  • 定価:本体1,500円+税
  • 発行:ファーストプレス
  • ISBN:978-4904336946

企業が立ち向かうべきもの

デジタルのテクノロジーの進化では泣く、お客さまの気持ちや行動の変化、つまりエクスペリエンスそのものの進化である。

企業はIoTに適応する前提として、マーケティングを企業主語の発想からお客さま主語の発想へと転換しなければならない。これは同時に、組織運営や企業文化の刷新を含む、大がかりな改革(企業の体質改善)を意味するのである。

エクスペリエンスは「場」から「時間」へ

生き残りのために、すべての企業はIoTで武装したハイテク企業へと業態を変革する必要に迫られる

もはやモノとモノの戦いではない

既存のサービス業はもちろんのこと、すべての製造業は新しい形のサービス業へと形を変える。

AIによるビッグデータ活用とアナリティクスにより、お客さまの近未来のエクスペリエンスの予測と改善提案が企業のサービスの根幹として提供され続けることになる。

いずれにしても変化の激しいマーケットでは市場の競争ルールをその手にしたものだけが生き残るのだ。

エクスペリエンスとエクスペリエンスの戦いになる

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