顧客ロイヤルティを測る経営指標「NPS」
顧客ロイヤルティを測る経営指標「NPS」

「お客さまの本当の声を知りたい」NTT Comの10年の悩みを解決したのはNPSだった

お客さまからの信頼を築くために選んだものとは? NTT Comの渡辺氏と松田氏に話を聞いた。
お客さまの本当の声を聞くにはどうしたらいいのだろうか?

NTTコミュニケーションズでは、顧客満足度調査を長年続けてきた。しかし、果たしてその調査結果がお客さまの本当の声となるのか、そして、調査で挙がった「不満」を解消するだけで、本当にお客さまからの信頼を築けるのかということに悩みを抱えていた。

そんな状況を一変させたのが、顧客ロイヤルティを測る「NPS(Net Promoter Score)」という手法だ

NPSの導入により担当者や組織がポジティブになり、現場だけではなく幹部会議でも前向きな議論がされるようになった。NPSは単なる調査手法ではなく「元気が出る仕組み」だという。

なぜ顧客満足度調査からNPSに切り替えたのか、そしてNPSの導入によりビジネスにどのような変化が起きたのか。NTTコミュニケーションズの渡辺氏と松田氏に話を聞いた。

NPSとは何か、どういう調査手法かは別の記事で解説している。

顧客満足度調査では、本当に知りたいことは見えなかった

―― まず、NPSを導入する前の取り組みについてお聞かせいただけますか?

NTTコミュニケーションズ 経営企画部 オペレーション戦略部門 部門長 渡辺 守氏
NTTコミュニケーションズ 経営企画部 オペレーション戦略部門 部門長
渡辺 守氏

渡辺 もともとは、「どんな点に満足・不満があるか」といういわゆる顧客満足度調査を、営業が法人のお客さまに対して行っていました

当時は、サービスごとにものすごい数の質問事項を作っていました。「このサービスをどう思うか」という質問がずらずらとあって。お客さまからも「これはすごい量だね」と笑われるくらいでした。

―― そのころは、調査の頻度でいうと?

渡辺 年1回です。年に1回、VOC(Voice of Customer:お客さまの声)とVOP(Voice of Partner:代理店の声)を調査する形です。

ただ、お客さまに対して営業自らが聞いていたので、お客さまも面と向かってダメだとは言いにくいですし、当時の幹部社員からは「本当の声ではなく、偏った反応になってしまうのではないか」というような意見も出ていました。

―― 顧客満足度調査は、ずっと営業が行っていたのですか?

渡辺 いえ、それぞれの営業組織がバラバラに顧客満足度調査を行うよりも、統一感をもって全社で同じ目線で見た方がいいだろうということになり、顧客満足度調査の役割が営業から経営企画部へと移ってきました。それが5~6年前です。

ちょうどそのころに会社の組織の再編が行われたんです。事業部制だった組織から、全社のビジネスを機能で分割する「機能別組織」になり、それとあわせてクオリティ・マネジメント・システム(QMS)を全社規模で構築していく必要がありました。そのなかに「お客さまの声は必須だろう」という判断があって、調査の主体を経営企画部に移しました。

―― 経営企画部に移ってからの顧客満足度調査の内容はどんな感じだったのですか。

渡辺 法人営業でやっていたものとほぼ変わらないですね。一問一答形式で、それぞれのサービスに対してどのような不満・満足を感じているかということを聞いていました。

経営企画部が調査を行うようになってからは全社横断でやっていたのですが、各組織が「うちはこれを聞いておきたい」「うちはここが知りたい」というのを全部入れていくと、ものすごい量になってしまう。当時の質問項目は、図1のような状況でした。

図1:従来の顧客満足度調査の質問項目の一部
図1:従来の顧客満足度調査の質問項目の一部

―― 経営企画部で顧客満足度調査をやるようになって見えてきた課題はありましたか。

渡辺 私自身、長く顧客満足度調査にかかわってきて、「満足」と「不満」というのはどういうところから来るのかということをいつも考えていました。「満足」というのは、お客さまの期待を超えたときに初めて出てくるもので、その期待に達しない場合には、たとえサービスがいくら良くても、お客さまからは「不満」として出てくるんですね。

一方で、好きな会社ならどんな失敗をしてもある程度許容してくれるということもある。逆に、嫌いな会社は、いいことをしてもだいたいダメだと判断され怒られる。

だから、「どういう形の調査が本当の意味でわれわれの参考になるのか」ということをずっと模索していました。

―― 顧客満足度調査が正しいわけではない、じゃあ、どうすれば? ということをずっと悩んできたわけですね。それは何年くらい?

渡辺 10年くらいですね。「不満だからサービスをやめる」ということではなくて、「たとえ不満やお叱りがあったとしても、われわれに期待してくれて、使い続けてくれる」という関係になるにはどうすればいいのか、そのためにはどんな方法でお客さまの声を聞けばいいのかといったことを考え続けていました。

顧客満足度調査ではわからない、お客さまの本当の声を聞く方法はないだろうか?

顧客満足度調査を深掘りするとネガティブになっていく

―― NPSが候補として浮上したのは、どのような経緯だったのでしょうか?

NTTコミュニケーションズ 経営企画部 オペレーション戦略部門 主査 松田 裕治氏
NTTコミュニケーションズ 経営企画部 オペレーション戦略部門 主査
松田 裕治氏

松田 1つは、不満を解消していくことだけに注力しても、それだけでは足りない、もう1歩上を目指さなければいけない、という課題がありました。

もう1つは、われわれの海外のグループ企業が、顧客満足度調査自体を実施していないところもあれば、NPSを使っているところもあるという状況があり、グローバルで同じ目標を定めていきたいという課題もありました。

渡辺 顧客満足度調査の満足・不満を深堀りしすぎることが本当の意味で正しいのかと、私自身もやもやしたところがあったんです。

松田 従来は、「顧客満足度調査で出た不満点を1つ1つ対処していく」ということをやっていました。「出てきた不満をつぶさないと新しいことはできないぞ」といった感じで、宿題をいっぱい抱えることになるんですね。それをやっていると、皆、顧客満足度調査に対してだんだん後ろ向きになってくるわけです(笑)

そうではなくて、お客さまの声をどうやって前向きに方向転換していくかということを考えているときに、NPSを知りました。

渡辺 NPSの「お薦めしたいですか?」という質問なら、仮に不満はあっても、他人に「薦める」と言ってもらえる可能性がある。満足・不満足だけを測る顧客満足度調査と比べて、NPSはちょっと面白そうだなと思いました。

なにより、松田が「NPSはこの点がすばらしい、NPSをやってみたい」と強い思いを表明してくれたので、チャレンジする価値はあると思ったんです。

―― NPSを検討し始めたのはいつごろですか?

松田 2014年です。NPSを最初に知ったときは、単なるバズワードのようにも聞こえて半信半疑でした。海外では実績があるということでしたが、国内では実績がありませんでした。

ただ、NPSの考え方に、同じ利益でも「良き利益と悪しき利益」があって、短期的な悪しき利益ではなく、お客さまと長期的な関係を結ぶ良き利益が大事であるというものあります。われわれもお客さまと長くお付き合いさせていただくことが一番大事だと考えていたので、NPSはうちの会社にぴったり合うのではないかという予感がありました。

―― NPSはどのような方法で導入したのでしょうか?

NPSを導入するにあたっては、グループ会社のNTT Com オンライン・マーケティング・ソリューションが、NPSを活用するサトメトリックスのサービスを開始していたので、それを利用して、2014年にトライアルとして一部でNPSを始めました。

松田 最初は「お薦めしたいですか?」という質問が法人には向かないのではないかという危惧がありました。それで、トライアルでは個人のお客さまと、法人でも中堅向けのサービスに絞って図2のような質問項目でトライアルを実施しました。

図2:NPSでの質問項目の例
図2:NPSでの質問項目の例
「NPSをやってみたい」という強い思いを表明されて、チャレンジする価値はあると思った

NPSはお客さまの声を「ビジュアル化」できる

―― トライアルの結果は、どうでしたか?

松田 NPSでは「この会社(製品やサービス)を友人や同僚に薦める可能性はどのくらいありますか?」という質問をお客さまに投げかけ、推奨の可能性を0~10の11段階で回答してもらい、9~10の高いスコアを「推奨者」と判定します。

「日本人は9~10をあまり付けない」といわれていたので、推奨者は少ないのではないかと思っていましたが、予想に反して多くの人から9~10を付けてもらえました。法人でも、「自分はそういう立場にありません」といった反応が出てくるかと思いましたが、普通に答えてもらえたので、手応えを感じました。

渡辺 NPSをやってみて良かったのは、結果を図3のようにビジュアライズできたことです。これは、お客さまの声をビジュアル化して、それを見ながら議論できるということです。これは、社内に対してもかなり売りになりました。

図2:NPSの結果をビジュアル化して分析した例
図3:NPSの結果をビジュアル化して分析した例

渡辺 この図が非常に良くて、サービス側、つまり指摘を受ける側が、すごくやる気になれる図なんですね。

図3は、図2で質問した各要素を「満足度」と「推奨意向との相関」の2軸でプロットしたものです。「安定性」や「コストパフォーマンス」などの各要素は、X軸(右)が大きいほど満足度が高く、Y軸(上)が大きいほど推奨意向との相関が高いことを表しています。こうすると、項目を次の4つのエリアに分類できます。

  1. 満足度が低く、NPSとの関連性が高い(弱み)
  2. 満足度が高く、NPSとの関連性も高い(強み)
  3. 満足度は低く、NPSとの関連性も低い
  4. 満足度が高く、NPSとの関連性が低い

このなかで①の領域に入っている要素は、NPS関連性が高いにもかかわらず満足度が低いから「これは何とかしなきゃいかん」ということになるわけです。②にあるものは、そもそも強みとして持っていて、胸を張って言えることだから「さらに磨きをかけようか」という考え方ができるわけです。

サービスによっては、たとえば左側の図だと「②にある『安定性』と『オプションの豊富さ』をさらに加速してもっと上を狙おう」みたいな夢のある話もできるんですね。不満点をつぶしていく従来の顧客満足度調査と比べると、これはがんばり甲斐がある調査だと、非常に可能性を感じました。

不満点を並べるだけではなく、「強みをさらに伸ばす」という夢のある話ができる

現場や幹部の議論が前向きに変化した

―― NPSは顧客満足度調査と比べてどんな違いがありましたか?

NTTコミュニケーションズ 経営企画部 オペレーション戦略部門 部門長 渡辺 守氏

渡辺 自分たちで考える材料を用意できるということが、かなり大きな違いだと思います。これは1つの転換点だという気がします。

「これは売りなのにお客さまに届いていないな」という項目があると、「じゃあプロモーションのやり方を変えようか」「営業の説明を変えようか」といった取り組みにもつながります。これは従来の「悪いものを直す」という方法ではできなかったことです。

松田 図3のように見える化することで、それぞれのサービスを扱う組織が、外からの意見ではなく自分たちで課題を決められるようになったことが大きいですね。

渡辺 従来だと、経営企画部や幹部会議で改善点を指摘されて、「指摘された点に対応しました、でも満足度は上がりませんでした」ということにもなりがちでした。

そうではなくて、「自分たちのサービスコンセプトがこうだから、これこそが本当の課題だ」と自分たちで考えて取り組むことができる。仮にお客さまから「ダメだ」と言われた項目があったとしても、「自分たちのサービスはそこは優先していないから今は対応しなくていい」と考えることもできる。メリハリが利くという意味で、これは良いなと

―― NPSに対して、社内の反応はどうでしたか?

渡辺 クラウドサービス部という部署が非常に反応してくれて、積極的に使ってくれました。特定のイベントにおける顧客評価をNPSで調べる「トランザクショナル調査」というものがあるのですが、それをいろんなイベントのたびにやるわけですね。そこで不満が出たお客さまに、何が不満かを直接聞くほど、クラウドサービス部の部長が率先して活用してくれました。

松田 調査結果に対するかかわり方がすごく変わったと思うんです。今までは、われわれ経営企画部が一律の基準で決めた課題を「やる、やらない」と押し問答をするような形だったのが、さっきの図3のような分析をもとに、われわれがアドバイスをしたり、最終的には組織が自分たちで形になるものを決めてもらったりと、前向きで建設的な議論ができるようになりました。

渡辺 社内だと、社長を含めた幹部が集う戦略会議があるんですが、そこで図3のようなものを出して説明するんですね。以前の大量の調査結果のときには、議論なんてほとんどなく、説明して終わりでした。それが今では、出せば出すだけ「これはどうしてそうするんだ?」「なぜここではなくそこを持ち上げるんだ?」と議論が起こり、幹部レベルでも議論が活性化しました。

―― 幹部レベルの議論にも、顧客の声が伝わるようになってきた?

渡辺 どの課題を最優先事項ととらえるかというのは、組織長としてのミッションですよね。NPSのおかげで、お客さまの声をもとに課題と進む方向を決めて、それに向かってチームの皆が実務者として動いていくという、本来のあるべき姿になったのではないかと感じます。

現場も幹部も前向きな議論が活性化。調査結果に対するかかわり方が変わった

NPSはぜひおすすめしたい「元気が出る仕組み」

―― NPSの導入で、長年の課題を解決する兆しが見えてきたのでしょうか。

松田 はい。私は、ほかの会社さんにもこの仕組みをぜひお薦めしたいと思っているんです。

渡辺 そうなんです、だから私もエバンジェリストとして……まさに「推奨者」になるんです(笑)。「こういう面白いものがあるから、興味を持ったら言ってください」という話をずっとしているんです。

松田 顧客満足度調査は、お客さまの期待を満たしたところで終わってしまいますが、NPSでは、お客さまの期待を超えていかないと良い点が出ない。顧客ロイヤルティというのはお客さまの期待を超えたところにしかなくて、それを実現するのがNPSだと感じています。

NPSは単なる調査ではなく、お客さまとのコミュニケーションを取る手段としても使えるところも大きいと思っています。以前は膨大な調査のフィードバックに1か月半くらいかかっていたのが、NPSでは回答があったらすぐに営業にフィードバックできるので、現場ですぐにお客さまとつながれるというのもポイントだと思います。

―― NPSを導入して、一番良かったと思うことは何ですか?

渡辺 NPSは、お客さまの声を起点に、組織を活性化したり、事業活動を活性化したりする仕組みとして非常に有効ですし、なにより元気が出る仕組みだと思います。

松田 NPSを導入すると、今、顧客満足度調査で高い点数が出ているところが、低い点数が出てショックを受けるというようなことがあるみたいなんですけれど、それって、自分たちの伸びしろが見えるということなんですよね。

渡辺 うちは伸びしろが多いからね(笑)。

松田 われわれもいろいろな会社さんの話を聞きたいですし、仲間が増えてくれるとうれしいです。

NPSは「元気が出る仕組み」。ぜひおすすめしたい
インタビューに答えていただいた松田 裕治氏(左)と渡辺 守氏(右)
インタビューに答えていただいた松田 裕治氏(左)と渡辺 守氏(右)
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