キリン加藤美侑のデジタルマーケティングなう

クチコミは広告を超えられるのか!? ――テレビCMを打たないビールブランド「グランドキリン」の挑戦

テレビCMを打たないクラフトビール「グランドキリン」のファンコミュニティ戦略の裏側を紹介します。

ビアガーデン、キャンプ、バーベキュー……、夏といえば、やっぱりビール! 夏は飲料会社にとって、もっとも売上が見込める季節です。この時期になると、国内ビール会社の代表的なビールブランドでは、ここぞとばかりにテレビでCMを多く流し始めます。

しかし、私が現在担当している「グランドキリン」では、テレビCMを使わずに、ファンとブランドが、直接つながれる関係によって、ブランドの価値を伝えていく試みにチャレンジしています。なぜ、そのような取り組みを行っているのか? 今回は、「グランドキリン」におけるファンとの関係づくりについて紹介いたします。

「グランドキリン」とはどんなビールなのか?

「グランドキリン」は、ビールのある時間を楽しくする、キリンのクラフトマンシップが詰まったクラフトビールです。2012年6月にセブン-イレブン限定で発売され、いまでは全国のコンビニエンスストアに並んでいます(スーパー、酒販店、量販店では売っていません)。2016年3月に、ラベルと中味をフルリニューアルして、以前の黒を基調としたラベルから、新しいパッケージになりました。

グランドキリン
グランドキリン

また、「グランドキリン」ブランドでは、春には「うららかをる」、梅雨の時期には「雨のち太陽のセゾンビール」、7/19には「ギャラクシーホップ」と季節限定品も発売しています。

季節限定品のグランドキリン、左から「うららかをる」「雨のち太陽のセゾンビール」「ギャラクシーホップ」
季節限定品のグランドキリン、左から「うららかをる」「雨のち太陽のセゾンビール」「ギャラクシーホップ」

リニューアルを皮切りに、次々と新たな商品を投入している「グランドキリン」ではありますが、ビール市場全体は決して好調なわけではありません

縮小している日本のビール市場への取り組み

日本の大手ビール5社が発表しているビール類の市場は、1994年をピークに減少に転じ、2005年以降は、11年連続で減少しつづけています。

この要因としては、嗜好の多様化により、ビール類以外のさまざまな酒類の需要が伸びたこと、若い人が以前に比べてお酒を飲まなくなったということ、等が言われています。また、

  • お客様ひとりひとりが
  • 自分の好きなお酒をこだわりをもって選択し
  • じっくり味わい、食事と一緒に楽しむという飲酒スタイルが増えている

という、生活価値観の変化についていけてないことも、要因のひとつではないかと考えました。

そこで、キリンビールでは、この価値観の変化に応えるべく、従来のビールブランドに加えて、「クラフトビール」にも注力していこうとしています。

クラフトビールの明確な定義はありませんが、作り手の顔が見えて、そのこだわりを感じられ、味の違いや個性が楽しめるタイプのビールを、キリンビールではクラフトビールと考えています。「グランドキリン」も、こだわりを持つ、個性が楽しめる、キリンビールのクラフトビールブランドの1つです(他にも、SPRING VALLEY BREWERYというブランドがあります)。

クラフトビールはテレビCMに適さない?!

クラフトビールである「グランドキリン」というブランドは、どのようにマーケティングしていったらいいのでしょうか。

クラフトビールは、こだわりや個性が大事とされるため、大量生産するものは多くありません。店舗と通信販売に限定されているものも多くあります。

また、クラフトビールには作り手の想いや世界観が色濃く反映されているものが多く、キリンのクラフトビール「グランドキリン」ブランドでも、“多様なビールを選んで、多様な楽しみ方ができる”ということを伝えていきたいと思っています。そうしたときに15秒や30秒というテレビCMが、想いや世界観を伝えるのに、本当に最適なメディアなのか、2016年3月のリニューアル期に改めて考えました。

メーカーからの不特定多数のお客様に一方的には発信するマーケティング手法ではなく、ブランドへの愛情や思い、熱意を伝えるには、それを共感いただけるとお客様と、直接接点を持つことのできる(=濃密な体験を構築することができる)イベントという実施形態が最も伝わりやすいのではないかと考えました。

この商材に、テレビCMが最適なのか
「体験」を構築できるイベントが良いのではないか。

SPRING VALLEY BREWERY
SPRING VALLEY BREWERY

クラフトビールは、こだわりを持ったビール好きの方が多く飲まれていますが、これまで大手ビールメーカーが多く作ってきたピルスナータイプだけでなく、多種多様な種類、また、これまでと違うビールの飲用シーンや気分、各人の個性に合わせた楽しみ方ができる可能性を秘めています。

各人の個性に合わせた楽しみ方を提案し、「グランドキリン」の情報を届けるにはどうしたらいいか、と考えた結果が、マスメディアによるマーケティング手法ではなく、ファンとの関係構築のなかで、ブランドの情報を伝える手法です。

コアファン自らの言葉で語られることで、より信頼と共感を得られるのではないかと考え、「ビールを愛する熱量の高い、熱狂的なグランドキリンファンのコミュニティ」を始めました。

「グランドキリン」のファンコミュニティ「びあのわ」施策とは?

ファンコミュニティの名前は、「びあのわ」と名付けました。「びあ(=beer、ビール)」の「輪」で、「びあのわ」です。

ただし、企業主催のコミュニティだからといって、一方的に「この会の趣旨はこうです。皆さん、こういう楽しみ方をしてください」と規定をして、押し付けることはしません

「グランドキリン」をゴクゴク飲む人、ゆっくり料理と合わせて飲む人など、いろいろな人が気軽に集まって、飲んで、食べて、刺激しあいながら、新たな楽しみ方のヒントを探っていく、そんな場にしたいと思っています。コンセプトは、以下のとおりです。

コミュニティのコンセプト、目的
  • 「グランドキリン」仲間と出会ってもらう
  • さまざまな情報に触れて、ビールを楽しむ体験をしてもらう
  • 「『グランドキリン』ってやっぱりいいな。自由で楽しいな」と思って、よりファン度を高めてもらう

第1回のイベント「CREATE! DIP HOP IPL MUG」(2016年4月22日)

第1回のイベントは、東京・蔵前にある、古い倉庫をリノベーションしたイベントスペース「蔵前4273+creative garage」にて開催しました。

第1回イベントの概要(抜粋)

  • 日時: 2016年4月22日(金)18:00~22:00
  • 内容: ドイツの名門グラスウエアブランド「シュピゲラウ」によるビアテイスティングのグラスセミナーと、オリジナル「ビアマグ」づくり
  • 参加人数: 27名
  • 条件: 「びあのわ」メルマガへの登録、本人を含む2名まで

このイベントの内容は、ドイツの名門グラスウエアブランド「シュピゲラウ」によるビアテイスティングのグラスセミナーと、オリジナル「ビアマグ」づくりで、イベント中には「グランドキリン」と「グランドキリン うららかをる」を飲んでいただきました。

実施したイベントのくわしい様子は、動画イベントレポート記事をご覧ください。

第1回イベントに参加していただいた人たち
第1回イベントに参加していただいた人たち

第2回のイベント「FEEL SAISON CULTURE」(2016年5月28日)

第2回のイベントは、東京・日野市の石坂ファームで、「本場ベルギーを感じるセゾン体験」をテーマに開催しました。

第2回イベントの概要(抜粋)

  • 日時: 2016年5月28日(土)10:00~16:00
  • 内容: 都内農場にて農業体験や専門家の話など文化としてのセゾンビールの体験
  • 参加人数: 12名
  • 条件: 「びあのわ」メルマガへの登録、本人を含む2名まで

もともと、セゾンビールというのは、ベルギーやフランスの一部で、農作業の間に水代わりに飲まれていたビールということで、このイベントでは、里芋の植え付けをしたり、大根を採ったりといった収穫作業の合間にセゾンビールを飲み、その後、ベルギー料理のシェフの手によるコース料理を食べながら、さらにセゾンビールを味わうという体験をしていただきました。

こちらも、実施したイベントの詳しい様子は、動画とイベントレポート記事をご覧ください。

第2回イベントに参加していただいた人たち
第2回イベントに参加していただいた人たち

ちなみに、本記事のサムネイル著者画像は、第2回びあのわイベントに参加したときに撮影した写真です(笑)。

どのような人をターゲットに集客をしたか?

ファンを集める方法は、グランドキリンのファンにお伝えするのはもちろん、グランドキリンを好きになってくれそうな人や、ビールを楽しみたい人に向けてソーシャルを活用して伝えました。

「影響力の大きい/小さい」よりも「好き/嫌い」を軸にする

集客の際に、インフルエンサーを選別するという考えはNGです。インフルエンサーは「好き/嫌い」の軸ではなく、影響力の多寡を重視しています。しかし、今回重要視したのは、ファン度。

集客時にインフルエンサーを重視はNG

この考え方のベースは、有名なコミュニケーションプランナーである佐藤尚之さんの著書明日のプランニングで詳しく解説されています。

コミュニケーションをプランニングする目的は、伝えたい相手を「笑顔」にすることと設定し、ファン、すなわち情報を伝えたがっている人に向かってまず発信し、そのファンを介して情報を伝えようという考え方が丁寧に書かれています(私のバイブルです!)。

こういった施策は売上にすぐ反映されるものではなく、中長期で取り組むものなので、社内の理解を得るのも簡単でない場合もあると思います。

キリンには、すでに「カンパイ会議」という共創マーケティングのプラットフォームがあったり、「SPRING VALLEY BREWERY」でお客様と一緒に商品開発をした事例があったりといったように、ファンマーケティングのための環境が整っていたため、今回の施策も実施しやすかったとも言えます。

キリンビール カンパイ会議
キリンビール カンパイ会議サイトで見る

ファンイベントのキーポイントと応用

イベントの内容自体は、予算に応じて大小さまざまにアレンジできます。大事なのは、予算や規模ではなく、もっともっとファン度を高めるような内容の特別なイベントに招待することで、そのブランドや商品・サービスのことを大好きなファンを1人でも多く作ることです。

もし予算がないときは、小規模なイベントにしてもよいですし、可能であれば大規模に行う方法もあります。泊まりでキャンプをしたり、料理教室や工場見学などをやったりしている企業・ブランドもありますよね。

グランドキリンの「びあのわ」イベントでは、実際に「体験」して、驚きや発見をしてもらうことで、深い理解をしていただくことを重要視しています。その「体験」をできるコンテンツの深さや濃さを追及し、いかに“濃密な体験をしていただけるか“ということを軸にイベントの内容を考えています。

ファンコミュニティ戦略の課題

「グランドキリンのファンイベントで、こんなスゴイ成果が上がりました!」と伝えられれば良いのですが、今回ご紹介したファンコミュニティ戦略は、2016年から始めた施策で、思考錯誤しながら進めていて、まだまだ課題や改善点もたくさんあります。

ファンになってくれそうな人をどのように発掘していくか?

1つ目の課題は、熱心なファンになってくれそうな人の発掘についてです。すでにびあのわの会員になってくれたり、メルマガを購読したりしてくれている人たちを対象にイベントを行うとしても、その人たちが、ちょっと興味がある程度なのか、熱心なファンなのか判断できていない状況です。

イベントの盛り上がりをどのように伝播させていくか?

また、まだまだファンの人から熱狂的な言葉で語ってもらえてる状態には至っていません。メルマガ配信、イベント開催、イベントの後日レポート発信はできていますが、それだけで参加者以外の人に、イベントの熱量(盛り上がり)を伝えることは難しいです。今後はイベントに参加いただいた人同士や、主催したわれわれとももっと密にコミュニケーションできるようなしくみを考えたいと思っています。

指標をどのように設定するか?

最後に、指標についても設定が難しいです。SNSシェア数は、参考指標にはなりえますが、最終目標ではありません。このようなマーケティング活動の効果は、売上だけで測れるものではなく、「グランドキリン」というブランド価値の向上に大きく貢献していると言えます。そのような観点から、指標を設定し、検証をしていきます。

まとめ

ブランドや商品・サービスのファンを発掘し、そのファンが喜ぶおもてなしをする。すると、そのファンたちが周りの友人・知人にときに熱狂的に語ってくれます。それはとても手間がかかり効率が悪く、即効性がないように見えるかもしれません。効果検証や中長期的な施策への社内理解など課題はありますが、こだわりが強く個性的なブランド、商品・サービスの場合は可能性がある手法だと考えております。

通常、こういう記事では、成功事例を華々しく紹介するのが通例ですが、「デジタルマーケティングなう」ということで、今回はリアルな課題についても公開して、共有しました。今後、このファンマーケティング戦略をどのように進めていくのか、皆さんにもリアルタイムでその過程を見ていただき、1年後ぐらいにはこの連載で成功事例としてご紹介できるよう、続けていきたいと思います。

デジタルマーケター上代の目
アンバサダーやインフルエンサーは見つけるものではなく育てるもの
キリン株式会社CSV本部 デジタルマーケティング部主査 上代晃久
キリン株式会社CSV本部 デジタルマーケティング部主査 上代晃久

ブランドとファンの関係は、企業に都合の良いものだけで作られるものではありません。アンバサダーやインフルエンサーは見つけるものではなく育てるものです。つまり日々の、真摯なブランドの努力が求められる活動です。

ブランド的な空気作りだけではない、グランドキリンのファンに喜んでもらえる活動に期待しています。

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