マイクロモーメント時代のUX

マイクロモーメント時代のUX #3:ナイキ、スタバ、ゴルフダイジェスト・オンラインの成功事例に学ぶ

コミュニケーションの接点はあらゆるデバイスに展開され、マイクロモーメント化はますます加速する
須川敦史(ネットイヤーグループ) 2016/1/25 12:00 |
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究極のマイクロコンテンツ発信企業
ナイキジャパン
サプライズ体験で顧客の期待を超え、「もっと見たい」「また来たい」を醸成
スターバックス コーヒー ジャパン
メールのパーソナライズによって、顧客との関係を維持しながら多様なサービスの利用へ導く
ゴルフダイジェスト・オンライン

これらは、マイクロモーメント時代にあったコンテンツづくりやコミュニケーションを実践している企業だ。

この3つの事例から、マイクロモーメント時代のUXをどのように実現するかを学ぼう。

本連載「マイクロモーメント時代のUX」では、コンテンツやUXを考えるWeb担当者にとって重要なこのキーワード「マイクロモーメント」に焦点を当て、その対応方法について解説する。この記事は、4回連載の3回目だ。

マイクロモーメント時代のUXを実現するには

スマートフォンがもたらした最大のユーザー体験は、「何かしたい」と思った瞬間に、手元にあるデバイスで情報収集や購買を行えることであり、その瞬間である「マイクロモーメント」(Micro Moments)と、それによるユーザー行動の変化をとらえ、あるべきユーザー体験を考えることが重要だ。

マイクロモーメント時代のユーザー体験の実現のポイントは以下の3つであることを、第1回第2回で説明した。

  • マイクロコンテンツ
  • ファーストコンタクト
  • 線のコミュニケーション

今回は、この3つのポイントを軸に、マイクロモーメント時代のユーザー体験を実現している企業の取り組みを紹介する。

CASE STUDY 1
究極のマイクロコンテンツ:ナイキジャパン

ナイキはいうまでもなく、世界有数のブランディング企業の1つである。

企業スローガン「JUST DO IT.」のもと、単なるスポーツ用品メーカーとしてではなく、スポーツを通して「理想の自分になる」ことを応援するブランドとして、商品開発からブランドコミュニケーションまで一貫して展開している。

ナイキといえば、世界的なサッカー選手であるネイマールなどの「理想の自分を実現している」著名アスリートを起用したテレビCMや、世界的なスポーツイベントの協賛、Nike+に代表される先進的なプロダクトなど、マス展開されている取り組みが印象的である。

一方で、マイクロモーメント時代のユーザー体験にも本格的に取り組んでいる。

実は、ナイキは究極のマイクロコンテンツ発信企業なのだ。

ナイキのマイクロコンテンツは、「Women」「Football」などのターゲットごとに、InstagramやTwitterなどの各プラットフォームの特性にあう形で個別に展開されている。

Instagramはクールなビジュアルコミュニケーションに向いたメディアであり、ナイキの訴求する「理想の自分になる」というストイックなイメージとの親和性が強い。そこで展開されているのは、ごく一般的なアスリートの、ひたむきにチャレンジするワンシーンを切り取った、文字のない一枚の写真だ。

逆に、Twitterは文字が中心のメディアである。Instagramなどでも展開している写真を活用しつつも、あくまでもコピーワークで「理想の自分になる」ための応援メッセージを届けている。

このような複数のターゲット・メディアでの多面展開が可能なのは、それぞれのコンテンツが、ひとつのビジュアル、ひとつのコピーに徹底的に絞り込まれたマイクロコンテンツとなっているからに他ならない。

またそれは、「JUST DO IT.」という企業スローガンのもと、そもそものブランド価値やメッセージを「理想の自分になることを応援する」ということに集約しているということが非常に大きいといえる。

CASE STUDY 2
Surprise & Delight ―― 驚きと喜びで期待を超える:スターバックス コーヒー ジャパン

スターバックスは、「Surprise & Delight」(驚きと喜び)を大切にするブランドである。

店舗での予告なしのテイスティングイベントや、ペーパーカップにさりげなく書かれた店員さんからのメッセージに、ほっこりした経験のある方も少なくないだろう。

お客さまとのファーストコンタクトを大切にし、お客さまの期待を超える。

それは、デジタルであっても同じだ。

スターバックスのブランドサイトは「ワンクリックを誘う」ということを意識しながらデザインされているそうだ。もちろん、無理にクリックを促すということではない。思わずクリックしたくなるような仕掛けを随所に施し、せっかく来てもらったユーザーに対して、サプライズ体験をしてもらうというのがねらいだ。

かつてFlashが全盛だったころ、そうした仕掛けを施したサイトも少なくなかったが、スマートフォンへの移行にともない、UIや実装の制約の中で、そのような発想自体が消えていったように思う。ただ、マイクロモーメント時代だからこそ、サプライズで期待を超える工夫が必要なのではないだろうか。

ページをスクロールするとカードケースが開く
※過去にスターバックス コーヒー ジャパンのサイトに掲載されていた画像

これは、スターバックスの2014年春のギフトページのデザインである。最初は閉じられていたギフトケースが、ページをスクロールすると開いて、中にメッセージを書くことができるのがわかる、というものだ。

これ自体は、なんということはない仕掛けである。ただ、こうしたプチサプライズな体験が積み重なることで、「もっと見たい」「また来てみたい」という気持ちが醸成されるのだ。

また、スターバックスはブランドの鮮度を非常に重視しており、顧客に対して常に新しい体験を提供できるよう、新商品やイベントを企画している。ただ、そのような新しい体験も、ニュースとして届けられなければ意味がない。

一方で、マイクロモーメントにおいて、ユーザーは検索エンジンやSNSから各コンテンツに直接訪問し、欲しい情報だけをつまみ食いするため、必ずしもトップページに掲載しているニュースを見てはくれない。

そこでスターバックスでは、各コンテンツに直接流入したユーザーに対して、ニュースを届けるためのエリアを設置している(もちろん、トップページを経由したユーザーや、閲覧済みのユーザーには表示しないなど、体験を損ねない工夫はされている)。

ページの上部にニュースが表示される
スターバックス ウィロー ブレンドの商品ページ

これにより、サイト訪問者へのニュースの到達率だけでなく、検索エンジンやSNSから流入した際の直帰率が飛躍的に改善されたそうだ。

このように、ユーザーに対して、おもてなしのサプライズ体験の仕掛けをすることで、ファーストコンタクトでの期待を超え、「もっと見たい」「また来たい」という気持ちを醸成することが、マイクロモーメント時代には重要なのだ。

CASE STUDY 3
楽しみ方に合わせてつながり続ける:ゴルフダイジェスト・オンライン

ゴルフダイジェスト・オンラインは、日本最大級のゴルフ総合サイトであり、「お客さまのゴルフライフに寄り添うベストキャディ」をコンセプトに、ゴルフ場予約・ゴルフ用品販売・ゴルフ関連コンテンツメディアを3本柱とした、さまざまなゴルフ関連サービスをワンストップで提供している。

ゴルフは、幼少からシニアまで楽しめる、非常に息の長いスポーツである。それゆえ、レベルや楽しみ方は人それぞれで多様だ。お客さまのゴルフライフに寄り添うには、その多様な楽しみ方ごとに、長い時間をかけて「つながり」を作っていく必要がある。

ちょっとした電車の待ち時間に、スマートフォンで、週末のゴルフ場探しや新しいゴルフウェアの物色、スイングの研究をすることもあるだろう。その中で、ゴルフダイジェスト・オンラインのサービスや情報に接することも多いはずだ。

ただ、そこで偶然つながることができたとしても、また見に来てもらえるとは限らない。ゴルフに関するサービスや情報は、世の中に溢れかえっているからだ。

また、ゴルフ場予約・ゴルフ用品販売・ゴルフ関連コンテンツメディアの3つのサービスについても、1つの側面でしか利用しないユーザーも多いという。

そこで、ゴルフダイジェスト・オンラインでは、ユーザーの多様な楽しみ方に合わせてつながり続け、自社のサービスを総合的に楽しんでもらうために、さまざまな施策を実施している。

ウェルカムプログラムはその1つだ。会員登録翌日から約1か月間にわたり、20通程度のメールを配信するのだが、ユーザーごとの楽しみ方を、登録経路やアクセス状況に応じて判断し、それぞれにあった順序で配信していくのである。

たとえば、ゴルフ場予約ページを閲覧していたユーザーに対しては、最初はゴルフ場予約サービスに関するご案内をし、その後少しずつ時間をおきながら、ゴルフ関連コンテンツやゴルフショップの紹介をする、というような形だ。

このウェルカムプログラムによる効果は現在検証中だが、開封率やアンケートへの回答率の高さなど、手応えを感じているとのことだ。

また、それぞれのメールの文面は、「原田 尚子」という担当者の個人メッセージの形で表現され、人と人との、パーソナルなおもてなしを具現化している。アンケートやメールの返信で、原田さんへの応援メッセージも寄せられるそうだ。

これこそ、まさに「お客さまのゴルフライフに寄り添うベストキャディ」の関係を作り出しているといえるのではないだろうか。

マイクロモーメント時代の幕は開けたばかり

前回の最後に、マイクロモーメント時代のUXの実現に向けて、以下のステップが考えられると述べた。

  • STEP1: マイクロコンテンツを準備する
  • STEP2: ファーストコンタクトで期待に応え、期待を超える
  • STEP3: 線のコミュニケーションでつながり続ける


現在のところ、このステップを踏まえて体系的に実現している事例は少ない。ただし、筆者のまわりでは、多くのプロジェクトが実現にむけて現在進行形で動いている。機会があれば、あらためて紹介していきたい。

また、今後のIoTの普及により、コミュニケーションの接点はあらゆるデバイスに展開され、マイクロモーメント化はますます加速するだろう。マイクロモーメント時代の幕は、まだ開けたばかりなのだ。

これからの取り組み次第で、数年後のブランドの位置付けが大きく変わるだろう。

今やらない手はない。まさに「JUST DO IT.」だ。

◇◇◇
用語集
Instagram / SNS / クロール / スマートフォン / マイクロモーメント / 検索エンジン / 直帰率 / 訪問 / 訪問者
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