初代編集長ブログ―安田英久

ジョブズ流? いえ人間国宝です。日本人の「心を動かす語り方」とは

「心を動かす話術というのは、まず第一に一生懸命に考え、準備をし、心を込めて語った結果であるべきだと思います」
Web担のなかの人

今日は、「人の心を動かす語り方」に関する話題を。人間国宝の一龍斎貞水さん(講談師)が書かれた書籍『心を揺さぶる語り方 人間国宝に話術を学ぶ』には、小手先のテクニックではない、「話す」ことの本質が書かれていました。

心を揺さぶる語り方 人間国宝に話術を学ぶ

心を揺さぶる語り方 人間国宝に話術を学ぶ』という書籍を読みました。セミナーなどでの話し方を改善できるかもしれないし、もしかしたら「心を揺さぶる」というポイントがソーシャルメディア活用に役に立つかも、という思惑で。

結論から言うと、そうした目的には役に立たない内容でした。いや、実際には「明日からすぐに役に立つ」ことは書かれていませんでした。

その代わりに、「話す」ということ、「伝える」ということにおける本質がわかりやすく示されていました。

人間国宝 一龍斎貞水さん

一龍斎貞水さんは、講談師です。講談といっても多くの人はなじみがないかもしれませんが、落語のように一人で話す話芸です。

先だって亡くなった桂米朝さんは上方落語の人間国宝ですが、一龍斎貞水さんは講談師の人間国宝(重要無形文化財保持者)。

十代の頃から修行を続けて、ふつうのサラリーマンが定年を迎える頃になってようやく一人前と認められるようになるような芸の世界。その世界で講談という話芸を極めて人間国宝(重要無形文化財保持者)になった一龍斎貞水さんが説く「心を揺さぶる語り方」とは、どんなものなのでしょうか。

話術はテクニックではなく話し手の人間性

本書に書かれている「話術」の本質は、次のような点に集約されます。

話術というのは、人間の中身が伴って初めて価値が出るものです。

逆の言い方をすれば、その人の人間性を表すものの一部が話術です。

心を動かす話術というのは、まず第一に一生懸命に考え、準備をし、心を込めて語った結果であるべきだと思います。それをなくして、技術だけで「こうすれば客は感動するだろう」なんて考えるのはおこがましいことです。

まずは自分の中に「こういうことを伝えたい」という気持ちを育てる。「どんな心に向けて語るか」という要素は、そこに含まれているべきことだと思います。その上で、一つ一つの話を丁寧につくり、心を込めてお話しする、その「心から心に向けて話す」という部分に、本当の共感というものは生まれてくるんじゃないかと思います。

貞水さんは、プレゼンの技法やテクニックとしての話術の解説はほとんどしていません。そうではなく、講談師としての数十年の経験からわかった「自分の話を聞いてもらい、聞いた人の心を動かす」ために大切なことを解説しているのです。

もしあなたが来週やるプレゼンやセミナーで、その1回の内容を今から少しでも良くしたいと思うのならば、巷にあふれるプレゼンテクニックの書籍を参考にするほうがいいでしょう。すぐに利用してすぐにあなたの話を改善するノウハウが書かれているはずです。

私も、そうした「マイナスをプラスにする」手法はぜひ知っておくべきだと思います。でも、そうしたテクニックだけでは、その次のプレゼンは響かないかもしれないですし、あなたがふだん話す言葉も、今までとは変わらないでしょう。

貞水さんが説いているのは、「話すということ」の本質であり、それを真剣に突き詰めてきた経験なのです。

人間性が出るから、話を磨くのではなく自分を磨く

「人間性を表すものの一部が話術」というように、貞水さんは、話し方は話し手に合ったものでなければいけないと言います。

前座は前座らしくしゃべっているのがいちばんいい。真打ちのようなしゃべり方、名人のようなしゃべり方は、本当に真打ちや名人になってからすればいいんです。

ところがみんな、らしくないでぶろうとする。入門してまだ三年も経たないような若い講談師が、ちょっと天狗になったとたん、天下の大名人になったかのように滔々とやり出す。

(中略)

だから、そういうのがいちばんダメなんだということを叩き込まれるところから、我々の修行は始まります。まず「『らしく』しなさい。『ぶる』んじゃない」と。

つまり、あなたとジョブズでは立場も経験も違うのだから、ジョブズの真似をしてもダメだということです。

話にその本人の人間性が出るということは、「話をうまくする」「人の心を動かせるように話す」ようにがんばるのではなく、その話にふさわしい人間であるようにがんばるべきなんですね。

ここで改めて、自分らしい話し方ということについて、少し申しあげておきたいと思います。

自分らしさというのは、それ自体を出そうと思って出すべきものじゃありません。

一生懸命に表現しようとした結果として、自然に醸し出されるべきものです。

そして、そのために日々行う行動が、話に現れてくるということですね。

人前で話をするのに、自信はなければいけません。ここで言う自信とは、話術に対する自信ではなく、「自分が何者であるか」ということの自信です。

まぁ、「自分が何者であるか」の自信というのはつまり、話すトピックについて勉強して見識を広げておくということなんですけどね。

心を動かすノウハウ、それは心から言葉を出すこと

「心を揺さぶる」は本書のタイトルにもある言葉ですが、この点に関しては、特に次の点を強調しています。

本当にその人の心から出ている言葉には、直接的に相手の心を動かす力があります。

(中略)

わかりやすい例が、結婚式のスピーチです。

スピーチ慣れしている人の話は、聞いている人に、ある種の安心感を与えます。話の構成が上手いし、場の「空気」が読めているから、その場に合った話し方ができている。

ところが、そういう上手い話より、白無垢を着た花嫁が、両親に向けて涙ながらに語るスピーチは、もっと聞いている人を感動させます。

言われてみれば当然なんですよね。でも、どこかからコピペしてきた逸話で、感動のしきい値の低い人をひっかける、そんな手法を見慣れてしまった身としては、少し忘れかけていたことでもあります。

◇◇◇

こうした「話すということ」「人の心を動かすということ」、それを表層的にではなくちゃんと行えるようにすることを、貞水さんはわかりやすく解説しています。

話というのは、自分が何を言ったかではなく、相手にどう伝わったかが大事です。ところが、それが分かっていない人は、自分の言いたいことを言いたいようにしゃべって満足する。

と本文で言っているように、具体的な例(歴史物の例が多いのですが、そこは講談ですから)を挙げながら、非常にわかりやすく解説しています。

同じことをほかの人が言っていても「まーた概念的なことを」となりますが、「話す」「伝える」「響かせる」ことで人間国宝になった貞水さんの言葉ですから、重みがあります。

あなたも、ノウハウではない「話すこと」の本質を、人間国宝から学んでみるのはいかがでしょうか。

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