企業ホームページ運営の心得

トラブルはマニュアル通り解決しない。それが正解のときもある

お客の望むことを理解し、迅速に対応することが重要です
Web 2.0時代のド素人Web担当者におくる 企業ホームページ運営の心得

コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。

宮脇 睦(有限会社アズモード)

心得其の422

致命的なクレーム

Creatas/Creatas/Thinkstock

キュウリを売らない八百屋のように、ネット通販サイトで「買えない」というクレームの電話が入りました。お昼前には猛暑日が確定したお盆休み前。事務所の電話がけたたましく鳴り響きます。

電話の相手は、当社がコンテンツ作成を担当している会社で、そのWeb担当者はこう説明します。

買い物カゴに、商品を入れられないとお客から電話があった

電話をハンズフリーに切り換えその場で試してみると、商品は買い物カゴにしっかり入ります。システム的な不備は確認できませんが、トラブルの匂いを感じ、こちらで引き取ります。迅速な対応は、トラブルを解決するときの絶対条件。その結果、「買い物カゴ」に入らないまま、商品はしっかり販売したのが事の顛末。トラブル対応の一例です。

伝言ゲームに要注意

トラブルは火事と同じく、小火(ボヤ)で封じ込めるのが肝心です。そのためには、火元を特定しなければなりません。

「買い物カゴに入らない」という指摘に疑ったのは、システムトラブルですが、弊社内にあるすべての端末で試しても現象を再現できません。つまり、買い物カゴに「入る」のです。もちろん、その先の手続きも可能でした。

そこから火元は、お客のPC環境にある可能性が高いという判断も、即座に電話対応を引き受けた理由です。取引先のWeb担当者を経由した「伝言ゲーム」では、ボヤを炎上に至らせる可能性もあり、これは社内であっても同じです。できるだけ人を介さずに対応するのがベストです。

この判断が正解だったと気がつくのは、私が直接、お客に電話をかけた10秒後。取引先のWeb担当者からの報告が、電話番号と担当者の名前以外、すべて違っていたからです。クレームに動揺し、焦っていたのでしょう。そこでこちらの素性を名乗り、「御手数ですが」と、説明が重複するお客の手間暇に頭を下げ、現象を確認します。

メールの求めに警戒感

通販サイトのシステムが稼働していることは、すでに確認済みです。知りたいのは「買い物カゴに入らない」という当該ページ。パラメータの受け渡しで、なんらかの障害が発生していると推測したからです。

検索エンジンからのアクセスなら、特定は容易だと流入経路を尋ねると、知人からメールで直接URLを送ってもらったのでわからないといいます。そのメールの転送をお願いするのも、1つの方法ではありますが、当該メールがお客にとって個人情報や機密が含まれたメールだった場合、いらぬ警戒感=不信感を生み出すリスクがあります。この提案には注意が必要で、当社の直接のお客でないことからこの案は不採用になります。

そこで英数字を組み合わせによる商品コードでの確認を試みます。しかし、お客のアルファベットの発声はネイティブに近く、英検5級も怪しい私の語学力では聞き取れません。確実にアルファベットを伝達するための、「T」を「てい」と読み、「D」を「デー」と発声する20世紀のプログラマの符丁を、お客に強要することもできません。ここで瞬間的に反省したのは、記号を優先するのは「電子メール」的な発想だということです。

ストレスに留意する

電話でのコミュニケーションなら、日本語である「商品名」の方が伝わるのは自明。すっかり「電子情報」に毒されていたということです。

商品ごとに割り当てられる商品コードを利用した特定と比較すれば、「商品名」での捜索は、サイズや仕様の確認作業が必要で遠回りではあります。しかし、1つひとつ確認していく過程を通じ、お客のストレスはわずかながらも軽減されていくメリットもあります。クレームを告げるお客には相応の勇気が必要で、お客も不安を抱えているものです。こうしたやり取りを通じた意思の疎通が、お客の不安を和らげます。

約3分後、お客が購入しようとしていた商品の特定に成功しました。しかし、こちらで試すと購入できます。そこで「宜しければ」と断った上で、直接、こちらが見ているURLを送信させてほしいと伝え、メールアドレスを伺ってから一度、受話器を置きます。

一度電話を切ったのは、お客は仕事中の可能性が高く、他の仕事が手付かずになっているストレスを軽減させるため。相手が「このままで」と通話の継続を希望すれば、その限りではありません。

迅速な対応を演出するメール

幸いにも協力的なお客で、メール送信を快諾してくれましたが、ここで難色を示すようなら、いち早く次に紹介する「最終手段」に移るのがよいでしょう。確認作業とは、原因を特定したいこちらの都合に過ぎないからです。

なお、こうしたときのメールは、以下の例文ぐらい簡潔なものでOK。丁寧すぎると「迅速な対応」というイメージが弱くなります。

文例

お手数をお掛けしています。
○○サイトの担当××です。

取り急ぎ、当該URLを添えました。

http://example.com

ご確認いただけましたら幸いです。

会社名 担当者名
電話番号
電子メール

メールの末尾にシグネチャがあったとしても、会社名や連絡先は、お客がすぐに気がつく場所に添えた方が親切です。

客にトラブルは関係ない

メール送信から、3分後、再び電話をかけると

同じですね。画面に何も表示されない

と回答。どうやら、「買い物カゴに入らない」ではなく、そもそも「ページの内容が何も表示されない」ことが問題だったようです。お客が正しい情報を伝えてくれているとは限らないのは、すべてのクレームに共通すること

事実を確認すると解決へのアプローチが異なり、原因を追及したい衝動にかられますが、電話をかける前にアクセスログを確認したところ、お客は訪問からすでに30分以上が経過しています。また、一般的には空腹を抱え、自由時間を前にワクワクするお昼休みの直前を拘束されれば苛つくもの。そこで「最終手段」の発動です。

このままお電話でご注文を承ることもできます。いかがなさいますか?

商品が欲しいだけだから構わないと了承。商品と数量、合計金額に送料、住所その他を確認して受注完了です。

この時点では「表示されない」というトラブルを放置しています。しかし、優先すべきはお客の希望です。そしてネットで売っても、電話で売っても売上は売上。トラブル解決にお客をつき合わせるのは愚策、と考えます。

今回のポイント

お客が何を望んでいるかを優先する

トラブルの根本的な解決はこちらの都合に過ぎないこともある

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