稲富滋のWebマスター探訪記

稲富滋のWebマスター探訪記
資生堂Webマスターが考える企業サイトリニューアルのポイントは「ユーザビリティ」と「美」

2014年Webグランプリの企業グランプリ部門で優秀賞を受賞した資生堂グループ企業情報サイト。Webマスター木村さんに、リニューアルのポイントなどを聞いた。
資生堂 木村桃子氏
資生堂 コミュニケーション統括部メディア戦略室 デジタルメディアグループ 木村 桃子さん
編集プロダクションや大手企業のハウスエージェンシーを経験後、3年前に資生堂に入社。「コミュニケーション統括部」は、Webを含む新聞・TV・雑誌などのメディアバイイングと、資生堂グループ企業情報サイト、公式SNSなどオウンド・メディアのオーナーを務める部門。

企業サイトへ訪問してくださる方は、なんらかの目的を持って来ているはずです。ですから、資生堂のグループ企業情報サイトをリニューアルするにあたって、訪問者が求めている情報にいち早くたどり着けることと、資生堂らしい「美」をどう表現するかが課題でした(木村さん)。

2012年木村さんが資生堂に入社してすぐに「資生堂グループの企業情報サイト」のリニューアルが行われ、その後2014年に行われたリニューアルでは、サイトオーナーとしてリニューアルに参加。このサイトは、2014年Webグランプリ(公益社団法人 日本アドバタイザーズ協会Web広告研究会主催)「企業グランプリ部門」の優秀賞に選出されました。

そこで、今回は、「資生堂グループ企業情報サイト」リニューアルの3つのポイントと資生堂のグループ企業情報サイトならではのコンテンツを紹介してもらいました。

サイトリニューアルの3つのポイントとは?

資生堂のウェブサイトは、木村さんが担当する「資生堂グループの企業情報サイト」の他に、「商品ブランドサイト」(マキアージュなど)、美容総合サイトの「ワタシプラス」、資生堂色を控えめにした女子向けのサイト「Beauty & Co.」などがあります。3年前からはshiseidogroup.jpを「グループ企業情報サイト」専用ドメインとして使用しています。

資生堂のさまざまなWebサイト

木村さんは資生堂のグループ企業情報サイトのオーナーで、リニューアルを実施するに当たって、企業サイトの役割を次のように定めました。

目的をもってサイトを来訪してくれた人へ「目的の情報」と「資生堂のアピールしたい情報」を伝えること

つまり、資生堂の企業サイト = 資生堂グループの「姿勢を伝える顔」ととらえて、リニューアルを実施しました。そこで、リニューアルのポイントとして次の3つを掲げました。

ポイント①「知りたい人」に「知りたいこと」を早く、正確に伝える

リニューアルで最初に掲げたことは、目的となる情報への「導線強化」です。

グループ企業情報サイトへの訪問者は、キャンペーンなどで呼び込まれるのではなく、目的を持って自らの意思で訪問して来てくださる方です。この方々の目的に沿った情報をきちんと提供できることが大切です」と木村さんは言います。

ポイント②「資生堂らしさ」、それは「美」

2番目のポイントは、訪問していただいた方に「資生堂らしい『美』」をいかに伝えるかということです。

「資生堂らしさとは一体何ですか?」という問いに、木村さんからは「美です」という答えが返ってきました。リニューアル前も当然「美」のことは意識していたものの、宣伝・デザイン部のアートディレクターの感覚からは「資生堂らしい美の要素が足りないのでは」という意見があったそうです。

およそ100年の歴史を持つ資生堂の宣伝・デザイン部は、資生堂のロゴや「資生堂書体」、各時代を彩ったポスターなどを創出してきた、資生堂のアートディレクションの源です。

現在アート、クリエイティブ、コピーなどを司るクリエイター100人以上が社員として在籍しています。他の企業のウェブサイトでは、アートディレクターがいろいろ意見を持っていても、最終的な決定は、発注者であるクライアントの意向に沿った形になることが多いと思いますが、資生堂の場合は、同じ社員同士です。

しかも大きな実績と実力を持つプロフェッショナルとして社内で尊敬されています。資生堂の美は、仕事上の力関係ではなく、あくまでも混じり気のない「美の視点」から決まっていくのです(木村さん)。

こうした「資生堂の美」を尊重しながら、訪問者に資生堂サイトから持ち帰ってもらう情報への導線を考慮した「ユーザビリティ」を実装することは必須です。「ユーザビリティ」と「美」のプロフェッショナルとの議論が始まりました。

議論の結果、次のようなところにその結果が反映されています。

  1. 当初画面全体を使って美しさを強調していた女性の大きな写真を「企業情報トップページの役割」との折り合いをつけてサイズを小さめにした
  2. 大きな白い余白の使い方・見せ方として、スクロールとともに現れる美しい「唐草模様のライン」を採用した

「リニューアルするにあたって、企業サイトとしてのユーザビリティと資生堂らしい『美』の両立に一番心を砕きました。Webグランプリで優秀賞をいただいたのはその辺りを評価されたのだと思います」と木村さん。

稲富レクチャー

「資生堂グループ企業情報サイト」のトップページからプロフェッショナル同士の議論の過程を読み取ることもたいへん勉強になりますね。

企業情報サイトに関しては一般的に「デザインよりもコンテンツ」が優先されます。私も以前は"Achievement before Beauty"「使い勝手を突き詰めていけば、美は後からついてくる。日本には『用の美』という言葉もあるのだ」とことあるたびに言っていましたが、今から思えば負け惜しみだったのかもしれません。資生堂さんには「用も美も」備えた企業情報サイトを貫いていただきたいですね。

ポイント③「訪問を機会に資生堂の実体をさらに知ってもらうため」のコンテンツ

3番目のポイントは訪問を機会に資生堂の実体をさらに知っていただくためのコンテンツを準備することでした。木村さんは入社してから、「資生堂はコンテンツの宝の山だ」と思ったそうです。

企業情報のサイトであっても多くの方に役に立ち、喜んでいただけるコンテンツがまだたくさんあります。これを知っていただくことで資生堂という企業への理解がより深まり良い印象を持って「資生堂ファン」になっていただくことができると確信しています。実際のところ社内でも、知られていないこともあるのです(木村さん)。

企業情報サイトではありますが「共感する、役立つコンテンツ作り」を強化していくことで、訪問者には本来目的の達成に加えてプラスαを持ち帰ってもらい、お客さまと資生堂の距離が近くなることを期待しているとのことでした。

「資生堂らしい」を表現するコンテンツを3つ紹介

次に紹介するコンテンツは、特に広告などを使わず、ニュースリリースやSNSなどから火がついて、多数の方に見てもらえたコンテンツです。企業サイトのコンテンツでも、企業の魅力を訪問者に伝えるヒントがたくさんありますね。

①PICK UP TECHNOLOGY「上だけを向いて歩こう」動画コンテンツ

研究開発部門が「ほうれい線の正体を解明」した動画で、ユーモアたっぷりに作られています。

②資生堂書体「美と、あそびま書。」動画コンテンツ

資生堂宣伝・デザイン部による「資生堂書体」を描く工程の動画で、「資生堂の美」を表現するコンテンツの1つではないでしょうか。

③「化粧は時代を映し出す」~日本女性の化粧の変遷100年~のコンテンツ

「ビューティクリエーション研究センター」が制作した、1920年代から今日まで時代毎に受け入れられてきた「美」の変遷を1人のモデルさんのメーキャップで表現しているコンテンツです。さらに2020年のメーキャップを大胆予測しています。ちなみに2020年のメーキャップは「ジャパンカラー」と「スポーティポップ」と予測されています。メーキャップでずいぶんと印象が違うものです。

稲富レクチャー

木村さんが言っていた、「企業サイトでも喜んでもらえるコンテンツがある」や「社内にはコンテンツのネタが豊富です」という意味が実感できるコンテンツですね。

資生堂が発信するSNS記事のまとめコンテンツ「キレイロ」もおすすめ

また、木村さんに特にお勧めのコンテンツを伺うと「キレイロ」を挙げてくれました。

この「キレイロ」とは、資生堂が発信するSNS記事のまとめページです。資生堂では、化粧品の各ブランド、地域、医薬品、資生堂パーラーなどさまざまな公式SNSを運用されています。それらに掲載された情報を、「キレイロ」のなかで19のカテゴリに分類しているそうです。

SNSの場合、折角良い写真や記事を掲載しても注目されるのはその時点だけになってしまいます。また利用者側からは有用な情報があったことは覚えていてもなかなかタイムラインをさかのぼって探すのは困難です。

「キレイロ」では、利用者が資生堂のバラエティに富んだ情報の中から気になるSNSコンテンツを「CLIP」して自分だけの「CLIPリスト」を作ったり、SNSに拡散したりできる仕組みができています。SNSへの一回の投稿が繰り返し有効に活用できて利用者にも役立つ素晴らしい仕組みです。

木村さん曰く「世の中にはさまざまなキュレーションサイトがありますが、果たしてどんな情報ソースから集めたコンテンツなのかわからないこともあります。この『キレイロ』は資生堂が提供する安心のキュレーションコンテンツなのです」とのこと。

その通りですね。

リニューアルの成果

リニューアルは昨年(2014年)10月に終了。現在では2012年当時と比べるとセッション数はほぼ倍になっているそうです。

このほか資生堂ではKPI(Key Performance Indicator)として「企業情報サイトランキング」(トライベック・ブランド戦略研究所)なども採用していますが、リニューアル前の2012年の15位から2014年には9位に上昇しています。

PDCAは普段着で、サイトに終わりはない 毎日がPDCA

リニューアル完了後も「サイトに終わりはありません」と断言する木村さん。日々、行っていることを聞いたところ、Yahoo!リアルタイム検索のチェックと併せて、ログのチェックを日課として、サイトにちょこちょこと修正をかけているとのことです。修正の結果もそのままログに反映されるので、実行したことの成否がすぐにわかります。

「うまくいけばそのまま進めますし、まずいと思えばやり直しができます。出版してしまった本や雑誌を修正することはできませんが、Webは『やり直し』ができるのが良い点です」と以前本の編集を経験してきた木村さんの言葉には実感がこもっています。リニューアル当初実装していた機能のいくつかをこうした活動のなかで中止を決めました。

稲富レクチャー

サイト品質の向上にはいろいろな側面があります。リニューアルなどに先立つ大がかりなPDCAも大切ですが、日々のチェックで気づいたことを「ちょこちょこ変えてみる」普段着のPDCAを続けることもたいへん重要なことですね。

Webマスターはオーケストラの指揮者、そして感謝の気持ちを忘れないこと

資生堂のWebマスターに求められることについて木村さんは「オーケストラの指揮者みたいなもの」と言います。

大勢の人たちが関わるサイトなので、それらを取りまとめて良いハーモニーを奏でられるようにすること。デジタルの世界はスピードが速いのでテクノロジーに明るいことはもちろんですが、事業そのものへの理解が重要です。

また、社内外を含めて「誰が、何をできるのか」を把握して「適材適所にお仕事をお願いする」ことも大切。そのためにも多くの人とのコミュニケーションが基本となります。関係者の皆さんにはいつも感謝の気持ちを持って接することを心がけています(木村さん)。

稲富レクチャー

木村さんの仕事に対するモットーを伺うと「とりあえずやってみる」ことと「たくさんの関係者に対する感謝の気持ちを忘れない」こと。普段着のPDCAの実行や「オーケストラの指揮者としてのWebマスター」を成し遂げるためにはどちらもたいへん大切なことですね。

今後の取り組み

今後、サイトをどのように活用していきたいか伺いました。

企業情報だからこそ、訪問者との一期一会を大切にしたいです

短期的には、ユーザビリティをさらに改善していくことと、訪問者に資生堂の活動や側面を深く知ってもらえるコンテンツの開発をすることです。

長期的には、資生堂の商品を使って深い満足感を抱いてもらうのと同様に、デジタルでもそんな体験をしてもらうには「どうしたら良いだろう」と考え続けています(木村さん)。

また、「動画」利用のポテンシャルに注目し、Web広告研究会の「動画活用委員会」で、動画プラットフォーム、広告配信への応用、事例研究などを怠りません。

プライベートは「ボンオドラー」に変身?!

取材の最後に、趣味を聞いたところ、「私はボンオドラーです」と笑いながら話す木村さん。「ボンオドラー」が聞き慣れない言葉だったので、よくよく聞くと「盆踊りをする人を『盆オドラー』」というのだそうです(笑)。

以前の職場が近かったこともあり築地本願寺で「盆踊りに目覚め」てしまったそうです。以来「盆踊りにはまってしまいました」と言い、夏になると都内各地をはしごして、三日三晩踊り続ける「郡上おどり」にも通ったそう。

稲富まとめ

Single Trusted Source
グループ企業情報サイト=資生堂グループの「姿勢を伝える顔」

企業情報サイトはブランドやキャンペーンサイトとは異なり普段は地味な存在ですが、企業にとってデジタル上で流布される諸々の情報のなかで企業に関する情報を「企業が望むメッセージ」で投入できる大切な場となります。企業情報サイトのオーナーは「イザ」というときのために日頃から「イザ・サイト力」を高めておかなければいけません。

この「イザ」というのは悪い話の場合に限らず企業にとって素晴らしいニュースを世の中に精一杯拡散して欲しいというときも含みます。日頃から企業のイメージを高め、維持するためにも木村さんがリニューアルのポイントに挙げた「早く、正確に」さらに加えれば「誠実な(これが伝わるように)」サイト作りを心がけることが重要です。

資生堂では、グループ企業情報サイトは資生堂グループの「姿勢を伝える顔」と真剣に取り組んでいます。社内はもちろん世間から「共感」を勝ち取り「Single Trusted Source(1つの信用できる情報源)」として企業情報サイトがみなされていることが「イザ」というときに大いに役立つはずです。

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