稲富滋のWebマスター探訪記 稲富滋のWebマスター探訪記

1日267万ユニークユーザーの巨大サイトNHK。Webコンテンツの作り方や活用法など聞いてきた

放送法で事業内容が定められているNHK。2015年4月の法改正によって、新しいネット表現ができるようになった。どんな取り組みをしているか桑原さんに聞いた。
左:NHK 桑原知久さん 右:稲富滋

インターネットで検索すると、膨大な量の情報がヒットします。しかし、ユーザーが本当に聞きたいこと、知りたいことにちゃんと答えてくれる情報性の高いコンテンツがどれほどあるでしょうか。それら情報の底上げをするためにも、私たちNHKはネットに対して真剣に取り組む必要があります。

そう話すのは、日本放送協会(以後NHK)編成局、編成主幹の桑原知久さん。NHKは放送法に基づき、事業計画を総務省に提出する必要があり、ネット利用に関しても提供内容が決められています。以前は、テレビで放送するコンテンツを補完する目的でネットを利用していましたが、2015年4月に施行された法改正によって、もう1歩踏み込んだネット上での表現が本格的にできるようになりました。

NHKとしてネットを今後どのように活用していくのか、どんな活用方法を模索しているのか、Webコンテンツの作り方などいろいろと聞いてきました。

4月に改正放送法が施行され、ネットを使って自由な表現が可能に!

テレビによって情報を伝える文化は踊り場にきています。NHKは情報を集めて、わかりやすく伝える力はありますが、せっかく集めて整理された情報コンテンツ(国民の財産)が発信力の低下したテレビに頼っているだけでは、有効に活かしきれないという問題に直面しています。この問題をインターネットで解決したいのです

2015年4月に放送法が改定されたことによって、テレビとインターネットの両輪で本当に役立つコンテンツ、深い情報を発信できるようになりました。これからが正念場です。(桑原さん)

公共放送であるNHKの業務内容は、1950年に施行された「放送法」によって方向性や業務範囲が明確に決められています。インターネットの利用に関しても例外ではありません。

世の中がどんなに「インターネットだ、Webだ」と言っている間も、NHKでは「インターネット」を利用したサービスを「業務の一環」として提供できませんでした。

NHKの振る舞いはすべてこの「放送法」で決められていて、業務内容を勝手に決めることはできません。「放送法」によって国民から預かった「受信料」の用途は、放送のためにのみ使うことになっています。ネットで伝えられる情報は、あくまでも「放送」を補完するための番組情報やPR的な情報が中心でした。

この「放送法」が2014年6月の国会で改定され、2015年4月に施行され、「国民共有の財産である放送番組などを広く国民に還元する」ことを目指し、ネットを介して次のようなことを提供できるようになったのです。

  1. 放送番組などの配信(放送前/放送中/放送後)
  2. 放送番組に対する理解の増進に資する情報

この改正放送法の施行によって平成27年度はNHKの「ネット元年」になりました

※ここでいう「放送」は国内的にはTV4波(総合、Eテレ、BS1、BSプレミアム)とラジオ3波(第1、第2、FM)の合計7波が対象で、Webを含むデジタルメディアは含まれていません。

サイト数はなんと約500サイト! 毎日の更新と運営の責任者は、番組スタッフとプロデューサー・ディレクター

現在約500あるサイトの多くは番組関連のサイトですが、このWebサイトを運用するための独立した専門部署は置いていないそうで、その理由を伺ったところ次のような説明をしてくれました。

放送が始まって約90年。その間に培ってきた放送の経験がネットにも活かせます。私たちにとって、ネット向けコンテンツは特別なものではないのです。コンテンツのリスク管理や信頼性を担保するという「放送」のノウハウをそのままネットにも応用できます。

実際、放送するために集めた取材情報を整理し、編集し、構成し、放送するのはディレクターであり、プロデューサーですから、彼らが一番内容を把握しています。ですから、放送番組の責任を持つと同時に、Webサイトについても彼らが責任を持ちます

情報コンテンツの素材を日々生み出す取材記者にとっても、取材過程で集めた情報のうち、これまでは時間的制約から放送されるのはそのごく一部でした。法改正によって、こうした情報をネットで視聴者へ還元できるようになるのです。(桑原さん)

毎日更新するカギは、テンプレート化

専門部署も置かずに、コンテンツを毎日更新し、運営するのは大変なことです。どのように運営されているのか伺ったところ、地域放送局(名古屋や大阪のような大きな局を除く)は、ほとんどの局のWebサイトが同じフォーマットで統一しているということでした。特に地域局で情報入力する職員のために、入力の仕組みも簡単な共通フォームにして効率化を図っています。

また、番組情報などの「基本情報ページ」についても、編成情報などを基に共通のテンプレートを使い効率化を図っているそうです。

稲富レクチャー

メディアは異なっても、ネットも番組のコンテンツに変わらないわけですから、番組プロデューサーが責任を持つことは、十分納得できるものです。「放送」「ネット」ともに知見と経験を持つプロデューサーやディレクターが1000人以上集まり、専門家として継続的にコンテンツを作り出す組織という意味で、NHKは日本最大・最強の「コンテンツ企業」といえるでしょう。

NHKとして新しい取り組みを行っているWebコンテンツを4つ紹介

NHKのオフィシャルサイト、「NHKオンライン」には、1日当たり平均267万(2015年第1四半期)ユニークユーザーの訪問があり、公式Twitterアカウントが131、公式Facebookアカウントが16あります。約500サイトのなかから、NHKとして新たな取り組みを行い、より役立つコンテンツ、より深い情報を視聴者に発信しようと試みを行っている4つのサイトを紹介します。

NHK for School

教育現場でタブレットなどIT機器導入の動きに合わせNHKでは、授業で使う動画を先生たちと作っています。NHKの学校放送は50以上の番組がありますが、以前は学校の先生が事前に用意したビデオを見せて授業を行うスタイルが一般的でした。しかし今では、現場で使う先生たちのニーズに応えられるように、授業中にもっと詳しい内容をその場で検索して、その動画を流すことができるようになっています

たとえば、「先生向け検索」タブを押すと、「学習指導要領」と出版社ごとに異なる「教科書単位」で検索できるようになっています。また、「カブトムシ」をテーマにした授業を行っていたとして、「カブトムシの角の使い方」といった、細かいテーマ別に動画が作られているため必要な動画を流せるようになっています。

さらに、タブレットを「電子黒板」に使えるコンテンツまであり「かゆいところに手が届く」サイトがすでに完成して、随時、新しい内容が追加されています。

これまで放送番組のためだけに作られていたコンテンツが、今度は最初から、学校教材として使われることを念頭に制作されるようになりました。現場の意気込みが伝わるコンテンツとなっているのもよくわかります。

未解決事件 追跡プロジェクト

テレビ放送自体は終了していますが、社会を震撼させた事件でありながら未だ解決していない事件を取り上げ、ともすれば風化しがちな事件の詳細を伝えて、あまり公にされていない証拠物件や取材情報などもすべて公開し、視聴者からの情報提供を待つというサイトです。

情報を寄せる視聴者にも「ご自身の秘密を守るためにも、職場などのパソコンやネットワーク、貸与された端末での入力はしないなど注意を払ってください」といった情報ソース秘匿にも注意を払っているところに緊迫感が漂います。

実際に反響は大きくフィードバックも集まっているとのことでした。杉並区のコンビニエンスストア強盗未遂事件、埼玉県の行方不明だった女子高校生の発見などの事件で、具体的な情報が寄せられてきたといいます。まさにテレビ放送とネットが両輪となることが前提のコンテンツとなっています。

ニッポンのポ NHKスペシャル 戦後70年ニッポンの肖像

NHKスペシャル「戦後70年 ニッポンの肖像」では戦後70年を振り返り、その時々に流行した言葉、風俗などを郷愁も交えて紹介するサイトです。

あの一瞬を思い起こさせる「ポ」、いまのニッポンを形づくった「ポ」、そして、あなたの人生の歩みと重なる「ポ」を日々紹介する「ポ」ータルサイト(サイトの説明から一部抜粋)です。思わず読みふけってしまいそうになります。

DATA NAVI 明日をよむ

データから情報を読み解いて可視化する「NHKのデータジャーナリズムとWeb表現のポータル」サイトで、さまざまなデータを「災害」「くらし」「経済」などの切り口で時系列に変化するグラフなど興味深い内容になっています。

大量のデータを視覚的に表現するということにもトライしているサイトです。

事後承諾という社内手続きはない!

国民の受信料を財源とするという立場から当然のことかもしれませんが、NHKのインターネットサービスに関する文書化と公開の姿勢は徹底しています。2015年4月に初めての「NHKインターネットガイドライン」、「インターネットサービス実施計画」が公開され、SNSへの取り組み方針なども記載されています。また、すべてのディレクトリー一覧も掲載されています。

総務省に「インターネット活用業務の実施基準」を認可申請したのが2014年11月25日、その後、民放各社、日本新聞協会、日本民間放送連盟や個人からの意見を反映して正式に認可を受けたのが2015年2月。この「実施基準」に基づきこれまでの「放送ガイドライン」に加え「インターネットガイドライン」を作成し、さらに「平成27年度インターネットサービス実施計画」を3月に作成公開しています。

稲富レクチャー

2014年6月に改正放送法が可決・成立してから2015年4月まで、桑原さんのチームは、総務省へ提出するガイドラインや実施計画の策定で忙しい毎日だったそうです。

しかも、実施計画は毎年作成しているようで、その大変さがうかがえます。往々にして「ガイドライン」は一度作ったらおしまいとなりがちですが、社内のWebコンテンツに対する意思統一という観点からも毎年作り直すということは、一般企業も参考にすべきでしょう。

一般企業の場合でも予算措置が必要な新たなWebサイトの構築運用には、それなりの社内稟議が必要ですが、よほどのことがなければ予算の詳細を役員会に報告する必要はありません。しかし、NHKの場合すべてのWebサイトに関して、経営委員会の承認から総務大臣認可を経なければ、計画したことが日の目を見ることはありません。また、変更についても同様の手続きが必要です。

まずやってみて上手く行かないようだったらすぐにやり方を変えてみたり、方向転換したりするのが「インターネット文化」と考えている我々と多少趣が異なりますが、これもNHKならではということでしょう。

テレビを取り巻く環境の変化

前述したように、「放送」が始まってからすでに90年が経過し、非常に強い影響力を持っていたテレビも、スマホなどのデバイスの多様化が進んだ今、その発信力が伸び悩んでいました。

桑原さんのこの認識は各方面のデータにも現れているようです。たとえば、2015年6月初めにワシントンで開かれた「世界ニュースメディア大会(67th World News Media Congress)」会場で公表されたデータによれば、世界の人々の平均1人1日当たりのスマホとタブレットの使用時間は2時間以上、一方テレビは81分でした。

世界新聞・ニュース発行者協会=The World Association of Newspapers and News Publishers(WAN-IFRA)ハフィントン・ポスト日本版高橋編集長からいただきました。

また、米国の調査によれば18~33歳(Millennial)は、政治関連の情報のニュースソースとして、テレビよりもFacebookを利用しているという調査結果も発表されています。

調査前週に対象メディアからニュースを得た人の比率
http://www.journalism.org/2015/06/01/millennials-political-news/

公共放送として、ネットを活用し、テレビ放送の限定された視聴者ばかりでなく広く多様な関心に応え、さらに深く知りたい人々に多くのメディアを通して、時間を選ばず国民の財産である情報を還元できる仕組み作りが急がれていたのです。

また、「放送」ばかりでなくこれからのインターネットなど多様な形でのNHKコンテンツへの接触を把握するため、メディアの枠を越えた新たな評価手法「トータル・リーチ」も開発し、準備が進められています。

NHK経営計画(2015−2017年度)から

今後の課題は、ネットでいかにわかりやすい表現をして伝えるか

桑原和久さんのプロフィール:1984年に大学卒業後NHKに入局。以来20年間「ミッドナイトジャーナル」「くらしのジャーナル」「おはよう日本」など、主に情報番組・ドキュメンタリーを中心に番組制作に携われたのち2004年には広報局、2008年にはNHKエンタープライズに所属、2011年から新設された編成局編成センター(デジタル)で、ホームページ、データ放送、ハイブリッドキャストといったデジタルコンテンツの編成戦略を担当してきました。

取材の最後に、桑原さんに今後の方向と今年の目標を伺いました。

一言でいえば、NHKのネットを無事に船出させることです。

NHKもやっと4月1日から漕ぎ出したばかり。公共放送がこれまでのネットサービスに関する手枷足枷を外してもらったらどんなことができるのか(視聴者やネット利用者はどんな良いことができるようになるのか)やってみなさいと言われていると考えています。

放送としては90年のノウハウを持っていますが、ネットサービス上での表現の仕方や、わかりやすい伝え方などまだこれからだと思っています。たとえば「クローズアップ現代」で取り上げた過去の放送内容はすべてテキストに書き起こして掲載しています。しかし、放送した画像とテキストのみでの表現が伝わりやすい一番の形とは思っていません。

また、コンテンツを送り出すITインフラについても「放送に準じた品質」を提供する必要があります。番組連動の結果として、アクセス数が極端に集中したとしてもつながりにくくなったり、応答が遅くなったりする事態はあってはならないと考えています。

稲富レクチャー

桑原さんのお話には全体を通して改正放送法によって「やっと普通のことができるようになった」思いを強く感じます。地道な「書き起こし」は、検索結果に厚みが出てくること間違いなしです。

またNHKがこれまでに集め、今も日々集まり続けている膨大で質の高いコンテンツ。すなわち国民の大切な財産、「公共財」を預かっているという自負。これを国の内外で活かして「日本のソフトパワーを本当に発揮できるのは私たち」だという使命感、それも急がないといけないという危機感も含め、「人と人とを正確な情報でつなぐ『情報の社会的基盤』としての役割を果たす」(平成27年度インターネットサービス実施計画書)という気概を強く感じ取ることができました。

その成果を最大に発揮するのが「2020年の東京オリンピック・パラリンピック」なのでしょうか。

桑原さんの熱い思いを伺うあっという間の1時間半でした。ありがとうございました!

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