カスタマーエクスペリエンス(CX)とは? 基礎から実践までやさしく解説

良い顧客体験(CX)を生み出すために必要な3つのポイントを、オリンパスの新製品開発プロジェクトに学ぶ

新しい顧客体験をつくるには、時代の感覚を持ち、誰とやるかに注目し、仮説と検証をすばやく重ねることが必要
棚橋弘季(ロフトワーク) 2015/4/15 7:00 |
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カスタマーエクスペリエンス(CX)を意識すること――それこそが、企業が顧客に製品やサービスを提供する際に求められているものだ。では、「カスタマーエクスペリエンス」とは何か、どうすればいいのか。この特集では、その基本概念と実践方法の解説、事例の紹介をとおして理解を深めていく。

今回は、一般人を巻き込んで展開したオリンパス新製品開発プロジェクトの事例から、新しい顧客体験をつくるために何が必要かについて考える。

新しい顧客体験を生み出すこと。それが真に新しくイノベーティブな性格を持つときほど、既存の組織のなかでその創造のための活動を実行に移す際にはさまざまな障壁が立ちふさがってくる。そうした障壁を乗り越え、新しい顧客体験を創造するための活動を推進するためには何が必要なのだろうか。

今回は、オープンイノベーションの形で新しい映像体験の開拓にチャレンジするオリンパスの新製品開発プロジェクト「OPC Hack & Make Project」を進めているオリンパス株式会社の佐藤明伸氏に話を聞くなかで学んだ、新しい顧客体験をつくるために必要な3つのポイントを紹介する。

新しい顧客体験をつくるために必要な3つのポイント
  1. 時代の流れの先を自分で見つけられたかもしれない、時代が求めているのはきっとこういうものだという感覚を持つこと
  2. 「どうやるか」よりも「誰とやるか」を重視すること
  3. 不確実な状況を受け入れつつも、いいアイデアだと思える仮説を実際にやってみて、検証を重ねることをスピード感を持ってやり続けること

新しい映像体験を開拓するオープンなプロジェクト

2015年3月25日、オリンパスから少し変わったカメラが発売された。

OLYMPUS AIR A01」というそのカメラは、オープンプラットフォームカメラ(以下、OPC)という耳慣れないカテゴリーに位置付けられている。いったいオープンプラットフォームカメラとは何だろうか。

OLYMPUS AIR A01(左)とそのプロトタイプ(右)。一見すると一眼レフカメラのレンズのようだが、スマホとの連携でカメラとして機能する。

実はOLYMPUS AIRの製品発表に先立つこと数か月前、「OPC Hack & Make Project」というプロジェクトがスタートしている。オリンパスの技術をオープンにして、一般のデベロッパーやクリエイター、ユーザーとともに新しい映像体験を開拓していくプロジェクトだ。

オリンパス OPC Hack & Make Project
https://opc.olympus-imaging.com/

プロジェクト開始に際して、OPC用のスマートフォン・アプリ開発ができるソフトウェア開発キット(SDK)やOPCの外形や接合部分の3Dデータキットが一般公開された。デベロッパーやクリエイターはこれらのキットを使ってカメラを自由にハックできる。

この自由なハックの対象となるカメラがOPCだ。

モニターをはじめとした各種操作インターフェイスを持たず、カメラ本体と通信でつながったスマートフォンやタブレットで撮影を始め、各種設定のための操作を行えるのが特徴だ。

マイクロフォーサーズ規格のイメージセンサーとレンズマウントを搭載しているので、一眼クオリティの撮影ができる。

このプロジェクトを推進するオリンパス株式会社の佐藤明伸氏は「新しい映像体験を創るためにはオープンにすることが必要だった」という。そして、プロジェクトに参加する人たちそれぞれが自分にフィットしたものを作れるように「メーカー側で完結したものを提供するのではなく、ユーザーが自由に作れる部分をあえて残したものを作った」のだそう。

オープンという時代の流れを俯瞰するきっかけとなった2つのイベント

ただし、佐藤氏の頭のなかには、最初から新しい映像体験をオープンな形で生み出していくという発想があったわけではないという。

5年ほど前、社内の若いデザイナーが各種操作インターフェイスを削ぎ落とした現在のOPCのコンセプトに近いデザインスケッチを描いてくれたときには、まだ「オープンにするとは考えてなかった」そうだ。

さらに運命的な出会いがあった。米国でオープンイノベーションの可能性を探るためにMITメディアラボと共同で研究を進めていた研究開発センターの石井謙介氏との出会いである。

石井氏から、MITメディアラボでも「ネットをセンターにしたとき、カメラはどうあるべきだろうか?」という議論のなかから、「余計なものを取り払ってWi-Fiで通信するようにすれば、オープンなカメラができるじゃないか!」というアイデアが生まれたことを聞いた佐藤氏は、すぐにアイデアをプロトタイプにして、MITメディアラボに持って行き、学生たちとワークショップを行った。

その1日のワークショップで、MITの学生たちは新しい映像体験を生み出すアプリのアイデアをいくつも形にした。佐藤氏は「MITのスピード感と熱意に感動した」といい、そのときからオープンを考えるようになったという。

オリンパス株式会社の佐藤明伸氏

それでも、佐藤氏は「米国のMITメディアラボではうまくいったが、日本では難しいだろうと思っていた」のだそうだ。

それがあるイベントをきっかけに「日本でもできる!と思い、感動した」と一変した。ロフトワークが企画・実施協力し、2013年の夏に開催したハッカソンがそれだ。

2日間のハッカソンでは、10数名のデベロッパーやクリエイターを集め、MITメディアラボで使ったものと同じOPCのプロトタイプを用いてアプリのプロトタイプを作ってもらった。私はメインファシリテーターを担当したが、参加者の誰もが発売前のカメラのプロトタイプを使って新しい写真体験を考えることをとても楽しんでいることが、会場の熱気から伝わってきた。

佐藤氏は、そのハッカソンを通じて「時代の流れの先を自分で見つけられたかもしれないという感覚、俯瞰して世の中を見ることができたという感覚を持った」という。

オープンなエコシステムを作ることで、その人しか作れないものをカスタマイズして作っていく時代が来ている」ことを感じ、「だから絶対にこのプロジェクトをやろうと思った」のだそうだ。

新しい顧客体験をつくるために必要なポイントの1つ目は、この「時代の流れの先を自分で見つけられたかもしれないという感覚」を持つことだと思う。新しい顧客体験を生み出すためには欠かせない「絶対にやろう」という強い意思を持つためにも、時代が求めているのはきっとこういうものだという感覚を持つことが1つ目の条件となる。

「どうやるか?」よりも「誰とやるか?」が重要

とはいえ、前例のない新しいことを進めていくうえでは、社内でさまざまな提案や調整が必要だったし、なかなか思うように進まないことも少なくなかったという。

たとえば、製品の開発を進めるためのメンバー集めもそうだ。それぞれの開発者たちが別の製品開発に携わっている状況で、ビジネス的に成功するかどうかが見えづらい新たなチャレンジに積極的にかかわれる開発メンバーをそろえるのは難しかったという。

佐藤氏は、これまでカメラの開発のリーダーをやっていたなかで「この人だったら頼めるというキーマンをピックアップして名指しで交渉し、一人ひとり説得して理解をしてもらい、無事に試作品を完成させることができた」そうだ。

ものを作るために最低限必要な優秀な人材を確保できたことが成功要因だった」と佐藤氏はいう。

試作機の開発では、佐藤氏がいちいち指示を出さなくても、開発にかかわってくれたメンバーそれぞれが「積極的に仕事をしてくれた」のだそうだ。こういうものを作ってくれといって作ってもらうのではなく、開発者本人たちがやりたいものを形にできる環境を用意すること。そして、それができるメンバーを集めること。これまでにない新しいものを作るためには、そうしたメンバーを集めることとその人たちが動きやすい環境を用意することが重要になる。

佐藤氏の「自分の思想だけではこれは作れないから」という言葉に、それはよく表れている。新しいものを生み出す活動は「こうすればうまくいく」という明確なやり方は見えないことが多い。そういう状況で必要なことは、やり方がわからなくても、とにかく自分たちが目指すものを実現するためにポジティブに動くことができるメンバーといっしょにやることだ。

「どうやるか」よりも「誰とやるか」。これが新しい顧客体験をつくるために必要なことの2つ目のポイントだ。

佐藤氏へのインタビューの様子。右は筆者

結局のところは、いい人と出会えるかどうかが大事なので、ロフトワークの人と出会えたことが良かった」とも佐藤氏はいう。

今回のOPC Hack & Make Projectでは、先にも書いたように製品発売前から、さまざまなリアルな場でのイベントやオンラインでのアイデア公募など通じてデベロッパーやクリエイターとのネットワークづくり、コミュニケーションを進めている。オープンなイノベーションの場を実際に立ち上げるには、リアルな場とオンラインの場の両方でいっしょに新しい体験を生み出していく活動に参加してくれる人との関係づくりが何よりも重要だ。

ロフトワークと会ってなかったら、こんなにオープンな活動は急激に立ち上げなどできなかった」と佐藤氏はいうが、私たち自身、はじめからこうしたらうまく行くという確信を持って活動を進めたかというとそれは違う。むしろ、絶対にこのプロジェクトを成功させたいという強い思いを持った佐藤氏といっしょにやっていくことで、これをやったらおもしろくなるはずと思えることをポジティブにスピード感を持って進められた結果なのだと思う。その意味でもやはり、「どうやるか」よりも「誰とやるか」が重要なのだ。

不確実さを受け入れつつ前に進み続けること

そして、5年越しのアイデアがようやく製品として世の中に出たいま、佐藤氏にいまの思いを聞くと「だれでも買える、一般人も触れられる状況になったわけで、だからこそ本当に受け入れられるのか不安が大きい」という。達成感よりも逆に身の引き締まる思いがあるという。

そのとおりだろう。これまではあくまで助走の段階だったのだと思う。実際に誰でも商品を手にとれる環境が整ったこれからは、いまだ頭の中の仮説でしかない「オープンな形で新しい映像体験をデベロッパーやクリエイター、そして多くのユーザーたちといっしょに作っていく」というストーリーをこれから実際に検証していくことが求められる。

ビジネスとしては、実際に世の中に理解されて評価され、結果が出て初めて認められることになる。

ただし、こうすればうまくいくというやり方が明確にならないのは、これまでと変わらない。だからこそ、佐藤氏は「いままで以上にやっていきたい」という。「いいアイデアはまずやってみる。あとから技術が追いつく」という。

新しい顧客体験を生み出すうえで必要なポイントの3つ目は、この不確実な状況を受け入れつつも、いいアイデアだと思える仮説を実際にやってみて、検証を重ねることをスピード感を持ってやり続けることだ。

いまユーザーとの接点が変わってきていて、ユーザーも従来のメーカー領域に入ってきていることを意識してメーカーは商品を出していかなければならない。そのことでユーザーと一緒に楽しむ環境をつくり、いかに彼らといっしょに新しい映像体験を織り成していくかということに注力したい」と佐藤氏はいう。

佐藤氏とはひさしぶりにまとまった時間で話をしたが、今後はより楽しんでプロジェクトに関わっていきたい。そう感じた今回のインタビューだった。

新しい顧客体験をつくるために必要な3つのポイント
  1. 時代の流れの先を自分で見つけられたかもしれない、時代が求めているのはきっとこういうものだという感覚を持つこと
  2. 「どうやるか」よりも「誰とやるか」を重視すること
  3. 不確実な状況を受け入れつつも、いいアイデアだと思える仮説を実際にやってみて、検証を重ねることをスピード感を持ってやり続けること

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