稲富滋のWebマスター探訪記 稲富滋のWebマスター探訪記

グローバルWebブランディング戦略を67か国サイト統合した富士フイルムに聞く!

売上のわずか1%にも満たない商品が会社のイメージを変えるグローバルブランディング戦略を富士フイルムに聞いた。
丸山 伸吾氏
富士フイルム株式会社 e戦略推進室シニアエキスパート兼 富士フイルムホールディングス株式会社コーポレートサポート部インターネットグループ

Webサイトのデザインでお国柄を出してもらう必要はないのです。「企業ブランド」を出すことが重要で、それぞれのお国柄はコンテンツで出してください。

と話すのはWebメディアを使って国内外のグループ会社の企業ブランディングなどを行う富士フイルムの丸山 伸吾氏。海外における企業ブランドイメージを統一するために、世界67か国でバラバラに存在していたサイトを統合した丸山さんに次のようなことを聞いてきました。

  • 67か国のサイトを統一するまでの3ステップ
  • グローバル・ガバナンス推進の“あるある問題”
  • 各国のサイトを同一の基準で評価する富士フイルム独自指標のWPIなど

海外のブランドイメージを変える、グローバルWebブランディング戦略!

会社全体のわずか1%にも満たない売上になってしまった写真フィルムが、会社全体のイメージになっている。このイメージをインターネットメディアを使って変えていかなければいけません」。と話す丸山さん。

日本では「富士フイルム」という名前を聞いて「写真フィルム」の会社だと思う人はもはや少なくなったと思いますが、海外ではまだ「富士フイルム」といえば「フィルムの会社」というイメージが残っているようです。

特に、海外における富士フイルムのブランドイメージを、Webやソーシャルなどのインターネットのメディアを使って正しく伝えていくための施策立案を行うことが、丸山さんの所属する部署の役割の1つといいます。

そこで丸山さんがまず取り組んだことは、67か国すべてのサイトを統合することでした。各国が事業部ごとや国ごとに自由に作っていたサイトを、約4年の歳月をかけて3段階で統合をしていきました。

67か国グローバルサイト統一までの3段階(イメージ図)

第1段階は、ハチマキと靴をそろえる! ということで、ヘッダーとフッターのデザインを統一し、世界共通でロゴが同一の場所に表示されるようにしました。これをやるだけでもブランドとしての統一感がでます。

第2段階は、サイズをそろえる! ということで、67か国をヨーロッパ、アジアパシフィック、米州(南北アメリカ)、中国とエリアに区切って、その地域の統括現地法人が域内のカントリーサイトをまとめることにしました。また、「67か国すべてのサイトを1つのCMSにまとめて本社直轄にするのは無理」と考え、それぞれ使用するCMSも現地で使い慣れたCMSを使うことにして、一本化はしませんでした。

各国担当者のITのリテラシーや本社介入に対する地域の温度差もあるなか、なんとか体制作りができた後は、各国のサイトデザインを統一感のある形にまとめ、ガバナンスを高めていく段階に入りました。

第3段階は、Tシャツをそろえる! ということで、コンテンツエリアをそろえていき、最終的にコンテンツの共有、デザイン統一が完了し「富士フイルム・グローバル・サイト」がほぼ完成し今の姿になりました。

グローバル・ガバナンス推進の“あるある問題”4つに答える!

各国における状況、たとえば100%の現地法人もあれば、純粋に現地資本だけの販売代理店と形態の異なる富士フイルム関連組織が混在するところもあり、それぞれの思惑も異なります。また、Webサイトに対するリテラシーも異なります。そういった、各国を巻き込んでグローバルサイトにまとめるのは大変だったそうです。グローバルサイト統合でよく起こる“あるある問題”を丸山さんに答えてもらいました。

①サイトは完成した形を持ちこむべき? もしくは最初から巻き込むべき?

現地の関係者を最初から巻き込むことです。キーマンになる人だけでなく、できるだけ多くの関係者を巻き込んだほうがいいようです。よくあることは、完成形を現地に持ち込み、そのやり方を当てはめようとすることです。しかし、これでは反発が多くなり、結局のところ本来の意味をなさなくなってしまいます。

ですから、富士フイルムの場合は、初期段階からできるだけ情報を共有して、各国に協力をお願いする「和風アプローチ」で進めます。要所要所で進捗と方向性を開示して、各国の意見を聞いて了解を取り進めます。最後に「ノー」といわれないように事前の環境整備が重要なのです。

②各国から反発が……困った、どうしたらいいの?

サイトを統一するという方針に対して、よく起こることが各国からの反発です。交渉中に言われたことは「サイトを統合したら、金太郎アメのようになって、おもしろみがなくなりお国柄が出なくなる」ということでした。

こういった場合丸山さんは、「デザインにお国柄を出してもらう必要はないのです。企業ブランドを出すことが重要で、それぞれのお国柄はコンテンツで出してください」と伝え交渉をしたそうです。

③本社と各国では費用はどう分けたらいいの?

経費負担については受益者負担が原則で、実装や運用費用は現地持ちです。ただし、デザイン統一の初期経費については「ブランドは本社に帰属する知的財産であり、これを展開してもらうための費用」として、本社の経費負担としたそうです。

そして、本社の行うことと現地に任せることを明確にしておくことです。富士フイルムの場合は、次のように分けました。

本社側の役割

  • ガイドラインの制定
  • 製品やブランディングのためのマスターコンテンツの開発
  • アクセス解析ツールの実装、ルールの策定

各地域側の役割

  • 本社の制定したガイドラインやマスターコンテンツの実装
  • マーケティングよりの施策展開

④グローバルサイトのドメインに「~.com」を使いたい、でも他国で使われている! どうしたらいいの?

1か国に1サイトのカントリーサイトをまとめるグローバルサイトのドメインは、やはり「~.com」が一番適当です。富士フイルムの場合、そのドメインはすでに米国が利用していたのですが、「fujifilm.comドメインを本社が管理するグローバルサイトに譲ってもらい、米国にはfujifilmusa.comに移ってもらいました」と簡単そうに話してくれました。

他の企業では、まず「もめる」ことが必須です。ここに来るまでの多数の施策やグローバルサイト統一の方針に理解が得られていたようで、スムーズに譲ってもらえたとか。

アクセス倍増計画と各国のサイトを統一した指標で評価するWPI(Web Performance Indicator)

このようにしてグローバルサイト統合プロジェクトが完了し、一新されたグローバルサイトの価値を高めるためには、まずカントリーサイトのアクセス数を引き上げることが求められました。

そこで丸山さんは、2012年から2年がかりで海外カントリーサイトの「アクセス倍増計画」を打ち出し、各国を同一の指標で評価できるようにWPI(Web Performance Indicator)という独自の基準を設けました。

WPI(Web Performance Indicator)

おそらくこのWPIなるものをご存知の方は少ないでしょう。また、ネットで検索をしてみてもヒットすることもないかもしれません。これは富士フイルムが独自に編み出した指標で、世界銀行が提供している国別のインターネット利用者数を該当カントリーサイトの年間セッション数の割合を計算したものです。

世界銀行の該当サイト(英語):http://data.worldbank.org/indicator/IT.NET.USER.P2

このWPIを利用することで、カントリーサイトを相対比較できるようになったといいます。インターネットの利用者数に対して集客が少ない国は、倍増計画開始時の全カントリーサイトのWPIの平均値を目指す、多い国はさらに施策を打ったりマーケティング活動を行うことにより訪問者を増やす活動を行いました。

2年がかりの「アクセス倍増計画」の初年度は、まずWPIで比較できるように、カントリーサイトすべてにGoogle アナリティクスを実装しました。またこの他にも次のようなことを実施したそうです。

  • GeoIPツールによるグローバルサイトからカントリーサイトへの誘導強化
  • 1つの国に複数の製品サイトがあれば、すべてカントリーサイトへ統合
  • 67か国すべてのサイトをスマホ・デバイス対応
  • 代理店サイトとカントリーサイトとの相互リンク強化
  • 67か国のうち欧米諸国とBRICS(Brazil, Russia, India, China, South Africa)を強化対象国として、これら各国には本社で個別にSEO診断を行いその処方箋と指南書を作成
  • 現地法人化を果たした6の国と地域の新規サイトも立ち上げ
  • 拠点現地法人を集めたウェブサミットの開催により課題共有や対策協議

こうして2年計画最後の月(2014年3月)に見事カントリーサイト全体のアクセス数を倍増できたのです。

※GeoIP(ジオアイピー)とは、訪問者のIPアドレスから、アクセスした国がどこであるかを判断すること。

公式Facebookのカバーは毎日変わる「日めくりカバーフォト」

富士フイルムが公式Facebook(日本)を始めたのは2年半前。今ではファンの数が11万を超えています。コンテンツは月水金と週に3回更新しますが、カバーは毎日変わる「日めくりカバーフォト」を実施しています。

富士フイルムが公式Facebook
2015年2月2日のカバーフォト

この日めくりカバーフォトは、Facebookのファン獲得やロイヤルティ向上のための秘策として丸山さんが考案したもので、カバーフォトで利用されている写真はFacebookファンから投稿されたもので、毎日手動でFacebookの設定を変えています。

写真の投稿条件はプロアマ問わず、富士フイルムのカメラ以外で撮られた写真でもOKで募集を行い、最終的な選択権は富士フイルムに残しつつも、公序良俗に反しない限り投稿された写真は、基本的にすべて掲載しています。この日めくりカバーフォトを実施してすでに1年以上経過しています。

このアイデアのヒントとなったことは、米国郵便公社が手紙利用の減少に危機感を抱き、打ち出した「ラブレター」募集キャンペーンでした。

一定期間に集まったラブレターの数が約2万通。この集まったラブレターを1つ残らず朝から晩までラジオで読み上げていたそうです。ここから、富士フイルムのFacebookでも試してみようということで、始まった取り組みなのだとか。

Facebookに投稿され集まった写真は季節ごとに分けられて掲載されていて、大変思い切った施策といえるでしょう。カバー写真を毎日変更するのも大変ですが、Facebookのカバーに掲載しにくいものは、トリミングをかけるなどしながら続いています。これまでに掲載を見送った写真は数枚だけという徹底ぶりです。

また月末には翌月、日めくりカバーフォトで紹介する写真を一覧で紹介、掲載日も個別に連絡しています。公開まで待ち遠しくなります。

富士フイルムが公式Facebook日めくりカバーフォト
稲富レクチャー

運用する側は大変かもしれませんが、投稿した人にとってはご自分の写真が「あの富士フイルムのカバーフォトに採用された」という喜びは大きいはずです。友人、家族、親戚に見てくれるように拡散してする投稿者も多いことはいうまでもありません。

9年間のブラジルサンパウロ勤務から突然、Web部門へのジョブローテ

グローバルサイトの統合など企業ブランディングの一翼を担っている丸山さんの経歴について聞いてみたところ、入社後しばらく宣伝部在籍、その後海外マーケティング部門に異動することになり、ブラジルのサンパウロへ9年間赴任していたそうです。この間、南米全体のコンシューマー製品を担当し、南米全土はもちろん北米、ヨーロッパへの出張もたびたびだったとか。

丸山さんいわく「もともとが人見知りせずオープンな性格」だそうで、学生時代からの趣味のジャズピアノ演奏も赴任期間中は大いに役立ったそうです。現地の方々は音楽好きな人が多く、丸山さんのジャズピアノ演奏はたちまち取引先や顧客からも大歓迎を受けることになり、本来の業務遂行にも大いに役立ったそうです。まさに「音楽は言葉のいらないコミュニケーション・ツール」を体感したようです。

この9年間の南米駐在で「完全に脳みそをやられてしまいました(笑)」とか。これを私なりに意訳すれば「日本にいて本社の枠組みのなかで考える人から解き放たれ、グローバルな環境でまず動いてみる人、現場を知る人になった」ということの丸山さん流の表現でしょう。

実際にこの9年間の経験はグローバル戦略を立案し推進する今の仕事に大いに役立っているそうです。前述した、ガバナンス推進で関係者を最初から巻き込んで進める方法もこの海外赴任の経験から導き出したとか。

南米に赴任して10年目に突然本社に呼び戻されて、当時のウェブ統括部門だった「インターネット室」を担当することになりました。「なぜ私がインターネットを?」と不思議だったといいますが、もともと丸山さんはMOSAICの時代からのパソコン通信愛好者として運用面はともかく利用者としては筋金入りの十分な知見の持ち主でした。当時グローバル各国のまとまりのなかったサイトを、各国と良好な関係を保ちつつ本社の戦略に沿ってまとめ上げるには現地の事情に精通した丸山さんが最適と判断されたのかもしれません。

また、丸山さんが所属するe戦略推進室では、前述したような施策の他に次のようなことを行っているそうです。

  • 富士フイルムグループ全体のイメージアップ施策の立案実施
  • ウェブ ブランディング(ガイドライン、ソーシャルメディア)
  • ウェブマーケティング、ネットショップの運営
  • ユーザー会員サポートサイトの運営
  • イントラサイトの運営による業務効率化の推進
稲富レクチャー

丸山さんの強みはグローバル・マーケティングの現場とその動きを熟知したうえで、ウェブの活用戦略を策定遂行できていることです。「ビジネスの展開とウェブの展開は別々のものであって良いはずはありません」。また、現場を知っている丸山さんが本社でリードしている戦略ならばということで海外の現地法人、代理店の方々も安心して協力を惜しまないのでしょう。

ウェブマスターは優秀な盆栽職人であれ!?

ウェブサイトは盆栽と同じで完成形がありません。盆栽は優秀な盆栽職人がその時々に、ベストな形になるように手入れを繰り返し続けることが大切です。これは、ウェブにも当てはまります。定期的に手入れを行って、ベストな形を追い求める必要があります。

だからこそ、ウェブの仕事ほどやりがいがあって楽しいことはないのです。普通の会社勤めのなかで、自分の仕事の成果が形になってそのまま残り、世界中の人々に見て評価してもらえるという仕事はそう多くはありません。こうした「他に得がたい業務」に携わっていることを念頭に仕事に取り組んでもらいたいです(丸山さん)。

丸山 伸吾氏

盆栽展で聞いた言葉がそのままウェブマスターに当てはまると丸山さんはいいます。盆栽はある形ができたとしても手入れを怠れば思わぬところに枝がのびてしまうことや枯れることもあります。これはウェブと同じです。

丸山さんにとっての理想のウェブマスターは「優秀な盆栽職人」であり、「新しい技術やサービスを積極的に取り入れ新しいことにも果敢に挑戦する勇気を持ち、実践している人」と明快です。

オフタイムは趣味のジャズピアノ♪

音楽鑑賞とピアノ演奏が趣味という丸山さんは、高校生のころからジャズピアノの演奏をおこなってきました。今でも昔の仲間とジャムセッションを楽しむこともあります。丸山さんの海外勤務時代にはこの趣味が大いに役立ったことは論を待ちません。

丸山さんのさらなる飛躍、富士フイルムの発展を祈っています!

丸山 伸吾氏
左:丸山 伸吾さん 右:稲富 滋
稲富小話

今回、丸山さんにご説明いただいた富士フイルムのグローバルサイトは、以前私が事務局を務めていた企業ウェブグランプリの「グローバルサイト部門」の初代グランプリを獲得しています。ちなみに第5回の同部門でもスマホ対応サイト、第6回の社会貢献部門のグランプリを獲得しています。この第6回でグランプリを受賞したのが「写真救済プロジェクト」でした。

この「写真救済プロジェクト」は、e戦略推進室が作成したコンテンツで、丸山さんが直接担当した案件ではありません。しかし、富士フイルムのコンテンツのなかでとても印象的だったので紹介させてください。

このプロジェクトがグランプリを受賞したときは、東日本震災1年後にあたり、そのプロジェクトの一環として被災地で汚れてしまったアルバムや個別の写真を、富士フイルムの社内体育館いっぱいに広げ、その写真を役員・OB・社員家族も含めた富士フイルムの関係者が1枚1枚洗浄するという活動を行いました。その姿にウェブグランプリの審査員一同たいへん心を打たれたものでした。

そこでこの写真救済プロジェクトの経緯を記した10の目次の中から、印象的だった文章の一部を紹介します。

「気仙沼をはじめとする被災現場からお預かりした写真を6月25日より7月27日まで、富士フイルムの神奈川工場足柄サイトの体育館で毎日洗浄しました。(中略)傷ついた写真たちが生まれ故郷に戻ってきたのです。多くの参加者はそれらを生み出した自分たちが、再生しなければならないという使命感を持ち取り組みました。

またデジカメの普及に伴い、大量に集められたアルバムや写真の中に、ここ10年間の写真がほとんどない、ということに私たちもショックを受けました。富士フイルムは、いまいちど、写真をプリントしてアルバムで残していくことの大切さについて、真剣に向き合いたい」。

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