稲富滋のWebマスター探訪記

稲富滋のWebマスター探訪記
ソニー損保のWebマスターが部内で作った“行動指針「わかりやすさのその先へ」十か条”がスゴイ!

ソニー損保のWebマスター片岡さんにウェブマスターの仕事について話を伺った。
片岡 伸浩氏
ソニー損害保険株式会社 コンテンツ企画部長

いくらWebサイトの良しあしを外部からほめられたとしても、お客様にとってわかりにくければ何の意味もない。

文章がいくら正しく書かれていても、お客様に伝わらなければ意味がない。

そう話すのは、ソニーが15年前に損害保険業界に参入し設立した「ソニー損保」のコンテンツ企画部長の片岡 伸浩氏。ダイレクト販売を旗印に保険業界に参入する企業として「企業のためでなく、お客様のための保険会社」だというメッセージを伝える必要がありました。そこで、今回はそのメッセージを伝えるために、ウェブを通じてどのような取り組みを行っているか片岡さんに伺いました。

コンテンツ企画部で作った行動指針「わかりやすさのその先へ」

保険という商品はもともと複雑な商品で、お客様がすべてを理解したうえで契約しようとすると、かなり広範囲な知識が必要となります。お客様にとっては、「難しい」と思われてしまう商品かもしれません。言い方を変えれば、その「難しい」を「わかりやすく」伝えることがウェブの役割だと片岡さんはいいます。

その「わかりやすく伝える」を片岡さんが所属するコンテンツ企画部の活動レベルにまでブレークダウンし、まとめたものが「わかりやすさのその先へ - コンテンツ企画部 行動指針 十か条 - 」です。

1.コンテンツの善し悪しは、顧客が判断するもの。「正しい」と「伝わる」は全く別物だ。
2.我々が創るコンテンツに完成はない。永遠のベータ版と考えろ。
3.過去の慣習やルールにしばられるな。出来ない理由を探すより、出来る方法を考えろ。
4.ライバルはもちろん、異業種や海外の優れた事例にアンテナを張れ。
5.「守備範囲」という間が方は捨てろ。変化に応じて拡張し、成長せよ。
6.どんな単純にみえる仕事でも「自分の付加価値」をつけろ。
7.完璧を目指しすぎるな。それは単なる自己満足だ。その時間で次の新しいことを考えろ。
8.課題はできるだけ分解し、本質を探れ。
9.他人がまとめた情報を過信するな。時には自分の目と耳で生の情報に触れろ。
10.「失敗」は次の「成功」のチャンス。経験や知識をチームで活かせ。
わかりやすさのその先へ - コンテンツ企画部 行動指針 十か条 -

この指針を作るきっかけになったのは、今年、片岡さんが所属している部門が、ウェブだけでなく、パンフレットなどの紙媒体も担当するようになったことです。さらに、名称も「ウェブサイト企画部」から「コンテンツ企画部」と変わったことです。これまでのウェブ担当者だけでなく、新卒社員や他部門から異動した社員も加わったこともあり、自分たちが大切にしていかなければならない価値観を、明文化して、メンバーが入れ替わっても方向性がぶれないようにしてきたいという思いで、メンバー全員の議論で創り上げたものだそうです。

稲富レクチャー

この行動指針はどこの部門でも使える行動指針ですね。特に一~四か条までは、どこのウェブ担当者にも大いに参考にしてもらいたい指針です。

この十か条があれば、今後コンテンツ企画部にさまざまなバックグラウンドの人が来ても、人が入れ替わってもソニー損保のウェブサイトのバックボーンは揺らぐことはありませんね。

90%の契約がウェブ経由で申し込み、でも重要事項は読まれているか?

「保険」を一度は契約したことがある人ならご存じでしょう。虫眼鏡で見ないと読めないほど小さな字でびっしりと書かれたウェブサイトやパンフレットなどの注意文言。あれを一言一句読み解いて、契約したという方はあまり多くいないのではないでしょうか。片岡さんによれば、保険会社のウェブサイトやパンフレットの注意文言には、2つのカテゴリーがあるといいます。

  1. お客様に、絶対に知っておいていただかなければならない情報
  2. 仮に読み飛ばしても、お客様の不利益につながらない情報(主に会社のリスクヘッジ目的のもの)

特に2は、社内各部門からの要望の積み重ねで、どんどん情報量が増えてしまい、あのやっかいな保険会社の注意文言につながっているようです。

開業当初20%程度だった、自動車保険のウェブからの契約申し込みの割合が、現在では90%にまで達し、まさに会社の屋台骨を支える販売チャネルへと成長しました。つまり、重要性が増したウェブサイトで、これら2つのカテゴリーをお客様にわかりやすく伝え、その内容をしっかりと理解してもらう必要があります。

そのため、お客様が理解しているか、どこがわかりにくいのか、といったことを定期的にユーザーテストを実施して調べているそうです。

ウェブのユーザーテストでわかったことの一つは、掲載する注意文言の量が多くなればなるほど、本当に読んで理解していただかなければならない重要事項が読み飛ばされてしまうということでした

この結果を受けて、掲載している注意文言に優先度づけをしなおしました。

お客様の不利益につながってしまう情報やコンプライアンス的に必要な情報と、そうでないものを分類し、仮に読み飛ばしてもお客様の不利益につながらないものについては、思い切って削除したり、目立たない位置に移したりしました(片岡さん)。

注意文言を削ることについては、社内から反対もあったそうです。そのとき次のように説得したそうです。

100の情報を載せて20しかお客様に伝わらないのと、80の情報しか載せずに70の情報が伝わるのとでは、どちらがお客様にとっていいことですか?

保険会社視点で「正確な表現」であっても、お客様が理解できなければダメなのです(片岡さん)。

ユーザーテストの結果に裏付けされた数値には、説得力があったそうです。これ以外にも、ソニー損保創業以来の「お客様にとってわかりやすい保険会社になろう」という社内共通の土壌にも助けられたといいます。

“両面提示”の口コミサイト?! 「お客様の満足・不満足の声」

ソニー損保のウェブの果たす役割として加えて重要なことは「両面提示」だと片岡さんはいいます。瞬間的にはわかりにくい言葉ですが、説明を受けると大いに納得です。

そもそも自動車保険という商品は、事故を起こしたときでないとその本当の価値はわかりません。本当の商品価値を体験できないまま、他社の商品との違いを理解し、最終的にソニー損保から保険を購入していただくにはどうすれば良いのだろうか。

その切り札として登場したのが「両面提示」なのです(片岡さん)。

自動車事故にあったときでなければ、入った保険の本当の価値がわからないというなら、実際に事故を経験した人の話を、直接聞いてもらうのが一番なのです。

良いことも悪いことも全部知っていただき、そのうえでお客様に判断していただきたいと思います(片岡さん)。

こうして2006年4月に始まったのが「お客様の満足・不満足の声」というコンテンツです。掲載されている「声」の数は10月現在、約6万8000件あります。削除することはないので、ずっと増え続ける一方だそうです。

こういったお客様の声を掲載したりすると、お客様からの「良い」声はそのまま掲載するにしても「悪い、厳しい」声については、企業側で選別して掲載していると、思われるかもしれません。

しかし、ソニー損保では、「お客様の声」は、お客様に掲載の了解をいただいたものであれば、ウェブや葉書のアンケートに回答いただいたフリーコメントをすべて掲載してしまうのです。なかには「こんな都合の悪いコメントは載せないでしょう」と書いたコメントがそのまま出ているのに驚くお客様もいるとか。

いただいた声のうち「やや不満」も含めた「不満」が約5000件あり、これはかなり読みごたえがあります。なかには「ふざけるな!」の一言でかなりご立腹と思しき声もそのまま掲載されています。

この貴重な6万8000件のお客様の声は、そのままずらっと並べられているだけでなく、北海道から沖縄までの地域別や、テーマ、満足度別に絞り込んだり、キーワードで検索できたりと、まさにソニー損保と自動車保険を契約して「こんな経験をした」ことがすべてわかります。

ソニー損保としてお客様に出せる判断材料としてこれ以上のものはありません。不満の声もご覧いただき、そのうえでソニー損保に加入するかどうか判断していただく方が、加入してから「期待していたことと実際のサービスが違った」とお客様が失望されることもなくなります(片岡さん)。

稲富レクチャー

コンテンツ名が単なる「お客様の声」ではなくて、「満足・不満足の声」と潔いところにソニー損保の本気度がみえます。

お客様からいただいた意見は、個人名や固有名詞、他の保険会社を含む企業名など、プライバシーに関わる部分以外、編集は一切行っていないそうです。全部をデータ化して、個人名などが書かれてないかチェック、修正しますが、これらは慎重さも求められるし、それだけでかなり骨の折れる仕事に違いありません。

しかし、その姿勢は「正直で真っ当な企業」というブランディング形成にも大いに役立っています。何か現場で行き違いがあったとしても、根っこのところで「正直な企業だ」という認識がお客様にあればそれは、会社にとってもどんなに助かることでしょう。

もう一つの“両面提示”:「ソニー損保について知っておいてほしいこと」

もう一つの「両面提示」例として紹介したいのが、「ソニー損保について知っておいてほしいこと」というコンテンツです。ソニー損保の保険を検討中にこのコンテンツを見ると、お客様はきっと驚くと思います。

通常ならば企業が隠したいようなデメリットな内容を、潔く掲載しています。確かに、後から知るよりも、検討している段階からわかっていたほうが親切には違いありません。しかし、こんなに目立つように書いてしまっていいのかと、こちらが心配してしまいます。

この両面提示で紹介した2つのコンテンツは、片岡さんが考えたものだそうで、企画の立案力もさることながら、実行力に大いに感心します。経営陣も含めた会社全体として、これらを一致して推進しているという点に敬意を表さなければいけないでしょう。

昨今はだいぶ良くなったとはいえ、社内からは「よくわからない組織」と浮き気味の存在が大方のWebマスターにとっては、経営陣や社内からの理解と支援が得られていることは、羨ましい限りです。

自分でやることを見つけるのがソニー損保流

ソニー損保では上司から具体的な指示を受けて始める企画はあまりないといいます。それには理由があり、会社として、全社員が共有している価値観のもとで、各自がやるべきことを自分で見つけて提案することがソニー損保流だと片岡さんはいいます。

このお客様の声をすべてそのまま掲載してしまう「お客様の満足・不満足」という企画を提案したとき、「社内から反対があるだろう」と覚悟をしていたそうです。

しかし、いざ経営陣に説明をすると「それは良いことだから進めなさい」という承諾を得ることができ「お客様の側に立って正直であろう!」というのが単なる会社のスローガンに終わらず、きちんと実践できる会社だと実感した瞬間だったそうです。「これが、私がソニー損保を好きな理由の一つです」と、言い切る片岡さん。実に良い会社ですね。

Webマスター取材/稲富さんと片岡さん

100本ノックをやってこい!

上長から「100本ノックをやってこい!」と言われることがあります。

もちろんですが、この「100本ノック」とは、本当に野球のノックをするわけではありません。100本ノックの意味するところは、コールセンターにかかってきた通話録音を一人100件ずつ、聞き起こすことです

録音を100件聞き終えるのは、なかなか大変なのですが、新たな課題の発掘や問題解決の工程で考えた仮説の裏付けなどに、役立つ手法として継続して行っているそうです。

自分以外が集計したデータやレポートは、どうしても作成者の意図が入ってしまうので、できるだけ生データに直接触れるように、日頃から部内メンバーに伝えているようです。

パンフレットなどの紙媒体からウェブまでを1つの部門で統括管理する
「コンテンツ企画部」

コンテンツ企画部 = わかりやすさの知見が集約されている部門

前述したように、片岡さんの所属部門は、ウェブだけではなく、パンフレットや申込書などの紙媒体も担当するようになり、名称も「ウェブサイト企画部」から「コンテンツ企画部」に変更されました。

通常ならば、企業のウェブ担当部門は、ウェブ構築と運用のためのフレームワークやガバナンスを中心に活動することが一般的で、コンテンツの中身は各事業部門が責任を持ち、ウェブ担当部門は事業部門に対するコンサルティングという位置取りをしていることが多いです。

しかし、ソニー損保では、お客様との接点で使われる多くのチャネルを、1つ部門で統括しています。片岡さんいわく、「私たちのチームが社内でもっとも『お客様のわかりやすさの知見が集約している部門』だから」とのこと。

課題はシームレスなチャネル連携

今後の課題について聞いたところ次のような答えをもらいました。

この数年で、電話、紙媒体、パソコン、スマホとさまざまなチャネルから、お客様は情報を入手できる時代になりました。ところが、このような時代になっても、企業側は、個別チャネルを最適化する努力はしているものの、チャネル間の連携をとろうという動きはまだ十分ではありません

お客様がひとつのチャネルにとらわれず、複数のチャネル間を行ったり来たりする今、企業がチャネルごとに壁をつくってはいけないと感じています。今後はチャネル間でお客様との接点をタイムラインで見ながら、シームレスな情報連携を行えるような設計が必要になると考えています。

これからWebマスターを目指す人に伝えたいこと

これからWebマスターを目指す人に伝えたいことを聞きました。

ウェブを担当していると、日常的にウェブ業界の先端技術に接する機会が多く、ちょっと間違えると「最先端の技術を使うことが、いいウェブサイトだ」と勘違いしてしまう危険性があります。

お客様は必ずしも新しい技術やUIを使ったウェブサイトを、求めているわけではありません。忘れてはいけないことは、いいウェブサイトかどうかを評価するのは、自分たちではなくお客様ということです

そしてお客様に評価されるウェブサイトをつくるには、お客様に正直に向き合い、お客様の声に耳を傾ける活動を、地道に積み重ねていくことに尽きると思っています(片岡さん)。

新世代のWebマスター?

片岡さんのお話を伺っていると大企業のWebマスターが直面する過去のしがらみや既存の組織との位置づけ、関係作りなどの気苦労と無関係な新世代のWebマスターという姿が見えてくるような気がします。

オフタイムは無農薬の米作り

取材の最後に、仕事のオン・オフの切り替えについて聞きました。

会社の規則として社外から社内ネットワークへのアクセスはできません。ウェブメールも使えず、ノートパソコンの持ち歩きもできません。会社から一歩外へ出ると、完全に会社の情報から遮断されてしまいます。必然的に家に仕事を持ち帰ることはありませんと話す片岡さん。

また、オフタイムで無農薬の米作りにチャレンジして今年で5年目を迎えたそうで、千葉の棚田を100平米借りて、「次の年はもっとおいしいお米を作りたい」と楽しみながらお米作りをしているそうです。仕事もオフタイムも、徹底して取り組むのが片岡さんの流儀のようですね(笑)。

お気に入りのスマホ(iPhone)アプリ

ブランドがはずれても世の中のためになるアプリがいいアプリだと思っています。という片岡さんがおすすめで紹介してくれたのが次の2つのアプリです。

  • CARPTURE FOR DRIVERS――MAZDA(マツダ)

    マツダが開発した車の写真を格好よく撮れるという超ニッチなアプリ。ニッチではありますが、好きな人にはたいへん役に立ち、宣伝もないアプリなので、その奥ゆかしさが大変気に入っているとのことです。

  • トラブルナビ――ソニー損保

    自社で開発したアプリを紹介するのはどうかと思いますが……と前置きをした後に紹介してもらったのが、ソニー損保が開発したもしものトラブルをサポートするアプリ。

    できれば使う機会がないほうが良いアプリですが、万が一事故を起こしてしまったときに、現場で行うべきことを手順に沿って紹介しているアプリです。これは他社の保険ユーザーでも使えるアプリで、契約者限定となるものの、アプリからロードサービスのレッカー車を呼べるうえ、今どこにそのレッカー車が来ているかを画面上で表示することもできるとか。

    このアプリは片岡さん自身、レッカー車の到着を待つ間の心細さを経験したことから生まれたアプリで、事故を起こしてしまったお客様がこのアプリ使っていたところ、警察の方からその有用性をほめられたエピソードもあったそうです。

稲富の小話

ちなみに片岡さんお気に入りアプリ「CARPTURE FOR DRIVERS」の開発にあたった方のお話を伺うことができましたので、そのときの話を少しご紹介します。

もともと新型マツダアテンザの「デザイン」の良さを訴求したいという目的で開発されたアプリで、「自分の愛車を、手軽に雑誌顔負けのクオリティで写真を撮ることができれば自然と友人、知人などに見てもらいたくなるのではないか、それも1つの宣伝広告になるのでは」と考えたのが発端だそうです。

美しく撮れるアングルをチーフデザイナーが監修したアングルガイド、車を美しく見せたり走行感を出せるエフェクト機能もあります。車の撮影に特化したアプリは珍しく、利用者からはなかなか良い反応だそう。

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