「いい商品なのに売れない」から考えるUXの戦略/山崎 和彦氏

ユーザー体験だけを考えるのではなく、ユーザー体験と戦略を一緒に考え、それを実現するロードマップを作る必要がある

いい商品でもユーザー体験を考えていなければ売れない。しかし、UXのタッチポイントだけを改善するのではなく、戦略まで落とし込まなければ意味がない。ロフトワークが3月に主催した「Experience Design 2014」から山崎氏が登壇した「ユーザーの本質的要求からビジョンを描く」をレポートする。

山崎 和彦氏
山崎 和彦氏
千葉工業大学デザイン科学科・教授・博士
スマイルエクスペリエンスデザイン研究室

UX(ユーザー体験)のタッチポイントを良くすることを考えるだけでなく、戦略、ビジョンに落とし込んで活用する方がいい(山崎氏)。

山崎氏がユーザーエクスペリエンスに触れたきっかけは、IBM時代のパソコンだった。製品についてさまざまな調査をした結果、「使いやすい」「プロダクトもいい」と評判が良かった。しかし、売れない。競合製品の方が売れていく。

IBMの製品自体は良く、お客さまからの評判も良いのに、なぜ売れないのか。「売れない理由をユーザー体験で考えてみよう」ということで、ユーザー体験を「購入前の検討段階」「購入する」「購入後に使う」「使った後のサービス」というユーザーと商品の関わり合いを時間軸で捉え、「どこの接点で何が違うのか」「ユーザーの満足度がどのように違うのか」を競合と比較した。

比較した結果、「製品は良いものだが買いにくい」「買った後のサービスがお客さまにとって満足いくものではなかった」ということがわかった。

そこで、対象ユーザー(ペルソナ)を再設定し直した。今までのパソコンは「CPUのスピード」と「HDの容量」で製品を分類していたが、ユーザーが使う視点から「製品を使うユーザー」と「製品シリーズがユーザーに与える価値」で分類し直した。

たとえば、「パソコンは持ち歩くよりも、常に置いてあって、パフォーマンスが良いもの」「持ち歩いて、使いやすいもの」といったように、ユーザー体験をプロダクトやサービスに落とし込んできたと山崎氏は述べた。

事例:ユーザー体験と戦略を一緒に考えなければ実はうまくいかない

次に山崎氏は、ユーザー体験だけを考えていても、実はうまくいかないという事例「株式会社ダスキンが手がけたドーナツカフェ」を紹介した。

このドーナツカフェは、これまでに、ドーナツはドーナツの専門家に、店舗は店舗の専門家に、広告は広告の専門家にそれぞれ依頼していたが、なかなか成果が上がらなかった。

ペルソナ

そこで、山崎氏は「ユーザー体験」という視点から、店舗やサービスを分析したという。

ユーザー体験の視点から考えると、商品や店舗の内装などを個別に考えいくだけでは足りない部分があった。そのため、市場調査を行い対象ユーザー(ペルソナ)を再設定し、そのペルソナにとって「嬉しい体験」「楽しい体験」をデザインし、それを提供するお店を東京都内に数店舗、出店して成功した。しかし、この出店は長続きしなかった。

山崎氏はこの原因について、以下のように語った。

ユーザーエクスペリエンスだけを考えていても、長続きしない。戦略とユーザーエクスペリエンスを一緒に考えなければならない(山崎氏)。

「モノ」「サービス」「ビジネスモデル」「組織」の視点からUXの戦略(将来のビジョン)を描く

「戦略とユーザーエクスペリエンスを一緒に考える」とは、「UXの戦略(ビジョン)を描いて、実現化するためのロードマップを作る」ことである。

では、「UXの戦略(ビジョン)を描いて、実現化するためのロードマップを作る」とは一体どういうことなのかを事例を交えながら説明していく。

UXの戦略とは今までの戦略と何が違うのか

今までのビジネスにおける戦略の対象は「モノ」であったが、UXにおける戦略の対象は、「モノ」「サービス」「ビジネスモデル」「組織」まで考える必要がある。UXの戦略(ビジョン)はこの4つの視点からどのように描くかが重要で、ユーザー体験やタッチポイントだけを個別に良くしても、継続的な成果や効果を得ることができない。

  • 今までのビジネス戦略の対象:モノ
  • UXにおける戦略:モノ・サービス・ビジネスモデル・組織

たとえば、アップルが1988年に発表した21世紀までに開発することを目標としたコンセプトマシン「ナレッジナビゲーター」という製品がある。アップルのiPad戦略は、このナレッジナビゲーターという製品のコンセプトに対して、1歩でも近づけるように、その時代の技術やユーザー体験を考えながら進んでいる。つまり、将来のビジョンが描けていれば、それに向かって進んで行くことができる。

さらに、製品だけでなく、UXの視点も含めて将来のビジョンを描くことが大事だ。たとえば、ヤフーのマリッサ・メイヤー氏が「私の仕事は組織とユーザー体験をデザインすること」と言っているように、UXにおける戦略とは、ユーザー体験の将来のビジョンのみならず、組織の将来のビジョンも一緒にデザインするということなのだ。

事例:健康医療機器メーカーの将来のビジョンが見える「UX戦略のデザイン」

UXにおける戦略をどのようにデザインするのか事例を紹介する。健康医療機器メーカーから自社のカタログの表紙に掲載するために“将来のビジョンが伝わる写真”をデザインしてほしいという依頼があった。

その会社の将来のビジョンを作るためには、お客さま(エンドユーザー)だけでなく、その会社で働く社員のことを考える必要がある。お客さまにとって将来のビジョンは、その会社で働く社員が、実現するために向かっていくべき目標だからだ。

UXはユーザーから考えていくことが当たり前だが、どの会社もユーザーから考えていったら、同じ製品ができてしまう。それぞれの会社の戦略とユーザー体験とを掛け合わせて、その会社独自の製品ができてくる(山崎氏)。

健康医療機器メーカーの将来のビジョンをデザインするために、「社員」「患者」「医者」にヒアリングをしてペルソナを作った。このペルソナにとって「嬉しい未来」とは一体何なのだろう? という視点で、それぞれのコンセプトを作り上げた。

ユーザーへの提供価値

その後、ユーザーへ提供価値を明らかにして、健康医療機器メーカーが将来実現したい製品やサービスのビジョンをデザインし写真として見える化した。

将来のビジョンを実現化するためにロードマップを作る

将来のビジョンをデザインした後は、それを実現化するためにロードマップを作るが、これまで企業が作ってきたロードマップは、技術中心や市場中心のロードマップだった。将来のビジョンを実現化するためには、技術中心や市場中心のロードマップとは別に、ユーザー中心のロードマップを作り、その2つをすり合わせて1つのロードマップを作る必要がある。

技術中心ロードマップとユーザー中心ロードマップ

ユーザー中心のロードマップは、時間軸におけるユーザーにとっての価値を見える化しなければならない。なぜ、時間軸でユーザーを捉える必要があるのか、ビールを例にして説明すると、

  • 海に行ったときに飲みたいビール
  • 冬の寒いときに飲みたいビール
  • 友達と話しているときに飲みたいビール
  • 1人のときに飲みたいビール

ユーザーが1人であってもシーンが異なると、それぞれ飲みたいものが変化する。

よく「ユーザーはどんなビールが好きなのか?」という考え方をしがちだが、その考え方は、ユーザーを時間軸で捉えたときのユーザー体験を忘れている。

「人物像 = 何か」と考えるのではなく、ユーザーは時間軸のなかで刻々と変化していて、コンテクスト(状況)によって、ユーザー体験は変化すると考える必要がある。それらを考慮したうえで、商品やサービスを提供していかないと意味がないのだ(山崎氏)。

技術中心のロードマップとユーザー中心のロードマップを組み合わせて、年代ごとにあるべき姿を視覚化して、それを実現するためにどのようなステップで行っていくのかをロードマップにする。作成したロードマップを進めるために、対象ユーザーを設定する。

対象ユーザーごとの時系列を考慮したユーザー中心のロードマップ

たとえば、ユーザー体験は、商品を購入する前、購入する、購入後に受けるサービスなど、企業のさまざまな部門とタッチポイントがある。ユーザーは1人だがさまざまな部門がタッチポイントになる。

ユーザー体験を時間軸で捉えて、その時間軸におけるタッチポイントに、企業の戦略を落とし込んだロードマップを作らなければ、将来のビジョンが達成できなくなる(山崎氏)。

UXの戦略を描いたロードマップを実現するために、組織やビジネスをリフレームする

とはいえ、どんなに良いセミナーを聞いても、どんなにいいワークショップを受けても、会社組織に戻るとなかなか実践できないということがある。

そこで山崎氏は、会社の組織やビジネスモデルのフレームを見直す「リフレーミング」を勧めている。リフレーミングをしないまま、手法だけを小手先で導入してもユーザーエクスペリエンスという考え方を活用できないからだ。

いままでの組織や会社で考えると、暗黙的にそれが正しいと思い込んでいることがある。それを別の見方で見なければ、新しい考え方や視点が生まれることはない。つまり、ユーザー体験という視点で、新しいビジネスモデルを考えるときは、組織や会社が変化することが求められる。

ユーザー体験を理解するためにユーザー調査を行うが、いままでの調査の対象ユーザーは、ユーザー全体でいちばん一般的で、購買者数が多いユーザーを調査していた。しかし、リフレーミングするためには、リードユーザーといわれる極端なユーザーに着目して、ユーザー調査を行い、新たな視点を得ることが重要だ。

山崎氏は、リフレーミングの重要性を述べた後に、リフレーミングを実行する前に、短期間でリフレーミングの効果や気づきを体験できる「体験ワークショップ」「体験プロトタイピング」「外部とのコラボレーション」3つの手法を説明した。

体験ワークショップを通していつもの自分と違う視点になる

ワークショップを行うことは「自主的な学び、学ぶ楽しさ」「1人ではなく、複数名で発想することで発想の広がり、視点の拡大」「合意の形成」「相手を理解できる」といったメリットがある。

体験ワークショップを行うメリットは、以下のようなことが体験できることだ。

  • 自分自身が体験する
  • チームと一緒に体験する
  • ユーザー体験をする

この3つの中でも、「ユーザー体験をする」ということは、いままでの自分の考え方を強制的に変化させることができ、いつもの自分とは違った視点で、ユーザー体験を捉えることができる。

ユーザー体験を短時間で得るための体験プロトタイピング

体験的なプロトタイピングを行うメリットは、以下のようなことが体験できることだ。

  • 実際のユーザーの声が得られる
  • 自分たちがそのプロトタイピングを体験することで、ユーザー体験を実感できる

たとえば、サービスのプロトタイピングは、イベントを行うといったことだ。「社外を巻き込ん行う場合は2日間限定」「社内で行う場合は1日限定」といったように短期的なイベントを行うことで、そのサービスが本当にユーザーに受け入れられるモノかを体験できる。調査をして得られる結果と違い、自らが体験することで、ヒントや気づきを得られる。

外部とコラボレーションすることで新たな視点や気づきを得る

前述したように、社内だけでリフレーミングを行うことは難しく、リフレーミングを成功させるためには、業種にとらわれず社外の人やグローバルな人とコラボレーションするとさらに違った視点や気づきを得られる。

外部とコラボレーションしながらどのように進めるか、「株式会社エム・ティー・アイ」と「株式会社コンセント」と「山崎氏」が実験的に行った事例について紹介する。

「ユーザー体験という視点」を「ユーザーが体験するサービスという視点」で置き換えて、「ヒトの視点」「モノの視点」「ビジネスの視点」の3つにあえて分け、サービスデザインを考えていった。

  • ヒトの視点
    これまでのステレオタイプの人物像でなく、状況と価値観でヒトを捉える。つまり、ヒトは時間軸によって変化するので、そのコンテクスト(状況)を考えたヒトの価値観でエクスペリエンスマップを作る。

  • モノの視点
    まずモノを決めずにアプローチすることがユーザー体験において重要。モノを先に決めて、ユーザー体験を行うことは間違っていて、モノは決めずにユーザー体験を考えて、最後にモノに落とし込む。また、モノについて考えるときに重要なことは、見ていている部分の裏側の構造まで考える。

  • ビジネスの視点
    ビジネス視点のないユーザー体験は意味がなく、ユーザー体験はあるが、それを企業においてどのようにブランディングするのか、提供価値をどのようにするのか、といったことを併せて考える。

ユーザーエクスペリエンスの3つの視点

何かをデザインするためにエクスペリエンスを考慮する

最後に山崎氏は、以下のように述べ講演を締めくくった。

山崎 和彦氏

ユーザーエクスペリエンスはデザインの1つに過ぎない。プロダクト、サービス、組織、仕組みもデザインの対象となる。何かをデザインするためにエクスペリエンスを考慮して行わないと、うまくいかない。エクスペリエンスを小手先だけの手法として活用しても長続きしなかったりする。

ユーザーエクスペリエンスをすべての社員が使える状況になるといい。今までは、デザイナーというスペシャリストがいて、他の人たちは別の役割を持っていたが、これからは、全員がデザイナーであり、それぞれの分野のデザイナーにならないといけない。

お客さまのユーザーエクスペリエンスを考えたときに、タッチポイントは企業の社員それぞれに存在するので、お客さまの本当の満足を得られるタッチポイントはできない。そういう意味で、社員全員がユーザーエクスペリエンスデザイナーになる必要がある。

ユーザーエクスペリエンスは重要だか、戦略的アプローチがないと着地しない。ユーザーエクスペリエンスという視点から企業のビジョンを描くことが重要なのだ。

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