【レポート】Web担当者Forumミーティング 2013 Autumn
インバウンドマーケティングの本当の姿とは、高広伯彦氏が15の疑問とともに語る

昨今、さまざまな立場で語られることのあるインバウンドマーケティングの本質とは何かが語られた

昨今話題になりつつある「インバウンドマーケティング」とは何か、日本のインバウンドマーケティングの伝道師とも言われるマーケティングエンジン 代表取締役社長CEO/共同創業者の高広伯彦氏が、よくある15の疑問とともに明快な回答を提示した。「狩猟型と農耕型のマーケッター、どちらの生き方を選びますか?」と高広氏は語りかける。

アウトバウンドに対するインバウンド

株式会社マーケティングエンジン
代表取締役社長
CEO/共同創業者
高広 伯彦氏

従来のマーケティング手法は、よく言われるように企業から人々に向けて一方的に行ってきた。そして新商品の発売やキャンペーンなど、企業側がマーケティングをしたいタイミングに合わせて、伝えたいメッセージをさまざまな方法でターゲットとなる人々に伝えてきた。これらがいわゆるアウトバウンドなマーケティングである。

それに対してインバウンドマーケティングとは、何かを知りたい、調べたいと思った人が、その流れの中で企業を見つけてやってくる、というイメージだ。インバウンドマーケティングのソフトウェアを開発・販売するHubSpot(ハブスポット)の本社があるボストンエリアでは、下り電車のことを「outbound」といい、上り電車のことを「inbound」という。中心から離れていくほう、近づいてくるほう、とすればイメージがつきやすいだろう。

なぜ、インバウンドマーケティングは注目されているのか、その背景にあるのは、人が何かを知る情報行動の変化である。以前は、テレビCMや新聞・雑誌広告などを通じて情報を取得するということが主な手段だったのが、自ら検索して何かを調べたり、ソーシャルメディアの話題に注意を払ったりするようになっている。人々が能動的に情報を探すようになっているのである。

だから企業は、わざわざターゲットとする人々の耳元で大声を立てる必要はない。人々のなかでは、企業のメッセージを排除するという行為も広がっており、大きな声を立てることは、むしろ「嫌われるマーケティング」のもとにもなる。それよりも、情報を探している人にとって役に立つ情報をネット上に準備して、見つけてもらうことに注力すべきである。それがインバウンドなマーケティングということだ。

インバウンドマーケティングにおける“インバウンド”では、何が一番重要なのか。検索したりソーシャルメディアを流れる情報を見たりするように、情報行動そのものが大きく変わっている。情報を探す人は、どんどん深堀して調べていくが、その過程のなかで企業がうまく見つけてもらえるようにしよう、というのがインバウンドマーケティングコンセプト(高広氏)

インバウンドマーケティングは、人々に対するアプローチの仕方を変えるマーケティング

米国HubSpot社の2人の創業者、ブライアン・ハリガン氏とダーメッシュ・シャー氏によって提唱されたインバウンドマーケティングのコンセプトは、「こちらから人々に向かっていくマーケティングから、向かってくる人々に対応するマーケティングへ」というもの。従来のアウトバウンド手法は、各メディアなどが集めた読者や視聴者へのリーチをもとにあらかじめ用意された枠(雑誌広告や展示会出展)を買って、人々への注目を獲得するものだったが、インバウンドでは自分たちでブログや動画コンテンツを作るなど集客のための努力をする

あなたのマーケティングを好かれるものにしよう

2010年に米国で『INBOUND MARKETING』という本が話題になるまでにも、従来のマーケティングは嫌われていて、そこから変化すべきであるという主張はあった。

1つは、1999年に米国のマーケッター、セス・ゴーディン氏が提唱した「パーミッションマーケティング」である。見込み客にアプローチする際には、相手から許可をもらって、事前ヒアリングにあわせた情報を送ろう、という考え方だ。これは、企業側ではなく、情報を受け取る側が選択権を得るユーザー主導型のマーケティングの芽生えだった。

次に登場してきたのが検索連動型広告である。それまでの広告はお金さえ払えば良い場所にある広告枠が買えた。しかし、検索連動型広告では1クリック当たりの単価とクリック率をかけて掲載の順位を決める。いくらお金を出してもユーザーの支持、つまりクリックが無ければ良いポジションは取れない。検索連動型広告は、人々がクリックという支持票を入れないと力を発揮しないため、いわば直接民主主義的な広告の登場だったといえる。

米国では、2006年頃からユーザーがマーケットをコントロールする時代に入ったと認識されている。典型的な例は、コカ・コーラのペットボトルにメントスを入れると噴水のように中身が吹き出すというYouTubeのユーザー投稿動画で、ユーザー作成のこの動画でコカ・コーラの売上げが30%上がったと報告されている。

巨額の費用をかけた広告ですら、そこまでの効果はでないだろう。80年代まで、ほとんどの広告は広告主自身の手によって広められていた。しかし今は、広告の持っていた“広める”という役割をユーザーが担っている。

米国のカリスママーケッター、デビッド・ミーアマン・スコット氏は「直接ユーザーとつながることができる時代のマーケティングを再考するべきだ」と主張

サイト訪問者を「推奨者」に育てる

実際にインバウンドマーケティングに取り組むための第一歩は、まず人々が企業と出会うために、対象者にとって役に立つコンテンツを用意して「見つけられる」ことだ。惹きつけるコンテンツで、情報を探している人々をサイト訪問者にするのである。

次に、たとえばその人々の持っている課題に対して参考になるような、PDFのドキュメントをダウンロードしてもらうなど、情報の提供と引き替えにメールアドレスやプロフィールを提供してもらう。その時点で、「ただのサイト訪問者」から「見込み客」になる。もちろん、ふらっとサイトに訪問することは考えにくいので、質の高い見込み客と考えられる。

提供した情報によって信頼を得られれば、購入して顧客になってもらえる。商品を気に入ってもらえれば、顧客自身が「推奨者」となり、ソーシャルメディアなどでプロモーションをしてくれるのが今の時代だ。この一連の活動が、インバウンドマーケティングである。単に「見つけられる」だけがインバウンドマーケティングではない。

潜在顧客を推奨者にしていくための一連のマーケティング活動がインバウンドマーケティング

インバウンドマーケティングの発展は、HubSpotが提示する「Inbound Marketing Methodology」にも現れている。「見つけて」もらって、見込客化・顧客化するだけでなく、顧客になった人に対しても、常に適正な情報提供をすることで、「推奨者」になってもらおう、ということまで拡張されてきている。

たとえば、1つの商品を買った後、すぐに別の商品を勧めるメールを送りつけるのは、嫌われるマーケティングだろう。しかし購入者がサイトに再来訪して、どのような商品のページを見ているか、あるいはヘルプページを見ているかを分析することで、前者では関連商品へのニーズがあり、後者では購入してもらった商品についてわからないことがあるのかもしれない、と予想がつく。そしてそれぞれに、関連商品の情報、詳しいヘルプといった情報をメールなどで提供すると、より満足してもらえるようになる。

こうした、人々に与える「嫌われないマーケティング体験」が「インバウンドエクスペリエンス」と呼ばれるものであり、これを目指すのがインバウンドマーケティングである。

インバウンドマーケティングに関するよくある15の疑問

講演後半では、インバウンドマーケティングについてよく聞かれる質問に回答する形で、さらに理解を深めていった。

  1. インバウンドマーケティングがなぜ今注目されるのか?

    1つはこれまでのような人々の生活を邪魔するマーケティングの反省として。もう1つは、人が消費できる情報量と世の中に溢れる情報量の差が大きく、このような情報過多の時代に受け入れてもらえるのは、相手にとって役立つ情報であること。アウトバウンドなマーケティングへの反省と人々の情報行動の変化から生まれてきた、時代にあった概念だから注目されている。

  2. インバウンドマーケティングって、どこが新しいのか?

    使うツール自体は新しくない。ただし、先ほどの話と同様、顧客や見込み客にとって役立つ情報を提供するというコンセプトが、時代に合っているのであり、新しいか古いかの議論はそもそも愚問。敢えていうなら、広告枠を買うなどのペイドのマーケティング活動よりも、自分たちの努力による集客や見込客育成を重視する点。

  3. インバウンドマーケティングとオウンドメディアマーケティング、どこが違うのか?

    インバウンドマーケティングはコンセプトであり、オウンドメディアマーケティングはその手法の1つとして考えられる。人々とつながるチャネルはオウンドメディアだけではなく、各種ソーシャルメディアやメールなどもある。それぞれのチャネルに応じたコンテンツを企画し、人々に提供していくので、オウンドメディアはあくまでもチャネルの1つとしての扱いになる。

  4. どんな業種がインバウンドマーケティングに向いているのか?

    情報を探している人がいると考えられる業種であれば、すべての業種に向いている。探している人に情報を提供し、引き替えにプロフィールをもらう。それによって見込み客リストができていく。

  5. B2B企業とB2C企業、インバウンドマーケティング向きなのはどちらか?

    特にB2Bの場合は期待値が高く、また効果を出しやすい。なぜなら、B2B企業が狙いたいユーザーを抱えた広告媒体は多くないから。また、営業担当者が対面で名刺を集めるよりも、多くの質が高い見込み客リストを作ることができる。

  6. インバウンドマーケティングとコンテンツマーケティングはどう違うのか?

    コンテンツマーケティングもインバウンドマーケティングの一部。ただし、インバウンドマーケティングはコンテンツを作るだけで終わらない。一方、コンテンツマーケティングは、コンテンツで集客することに注力していることが多い。

  7. インバウンドマーケティングは結局、SEOのことではないのか?

    「見つけられる」ためにはSEOは非常に重要。しかし、インバウンドマーケティングは、SEOのみならず、ソーシャルメディアなども駆使する。すなわち、SEOもインバウンドマーケティングで使う1つの手法。様々なメディアや手法を駆使して、人々の役に立つ情報を提供し、見つけてもらって見込み客になってもらうのがインバウンドマーケティング。

  8. インバウンドマーケティングにおけるSEOと従来のSEOの違いは?

    購買に近い人に対してキーワードを選びランディングページを設置していくのが従来のSEOの傾向。インバウンドマーケティングの場合は、買う人だけではなく見込み客も対象とするので、購買に至るまでの前段階でのキーワードも選ぶ必要がある。

  9. インバウンドマーケティングにおけるランディングページと従来のランディングページの違いは?

    従来のオンラインマーケティングのランディングページは、何かを買う人に向けてだけ作られている。コンバージョン率が5%の場合、残りの95%にはその時は買うタイミングではなかった人も含まれるだろう。そこで、インバウンドマーケティングでは、買うタイミングではない人であっても、非常に質の高い人が集まっていると想定し、その人々に向けて興味がありそうな情報を提供するページをランディングページとする。

    人は、何かを買う時にだけ検索するわけではない。買う前に調べていることの方が圧倒的に多い。

  10. 効果が出るまでにどのくらいの時間がかかるのか?

    早ければ1か月で効果が出る。すでに持っているウェブサイトのトラフィックを利用して、そこに役立つコンテンツを載せることで早く効果を得ることができる。

  11. こちらに振り向いてもらうための「動機付け」はやはり必要では?

    人々がいろいろな情報を自分自身で調べるようになり、かつて営業マンが行っていた営業プロセスの6割はお客さん自身が済ませていると言われている。広告による動機づけよりも、すでに動機や課題がある人に向けて役立つ情報を提供する方が効果的である。「広告を作るよりコンテンツを作れ」である。

  12. インバウンドマーケティングはHubSpotでないとできないのか?

    HubSpotはインバウンドマーケティングのツール。なければできないわけではないが、使えば容易にできる。

  13. インバウンドマーケティングを始めるには予算はいくらぐらい必要なのか?

    ツールを使わず社内ですべて内製すればゼロ円からできる。ツールを導入するには、年間100万~200万円程度。コンテンツのアウトソーシングをすれば月に20万~60万円くらい。運用やコンサルティング含め、月間で100万~150万円くらいのレンジが妥当な線。その他、コンテンツの量を増やす、分析や運用をアウトソーシングするというオプションはあるものの、平均で年間1,200万~2,000万円程度と考えればよい。もちろん、やりようによってはもっとコストを下げることもできるが、上がることもある。

    インバウンドマーケティングは効果が出やすいため、セミナーやカンファレンスにかける予算を基準にする方法もあると思う。また、営業マンが名刺を集めるのと同等以上の役割を果たすので、営業コストと考える企業もある。

  14. 成功するインバウンドマーケティングの条件は?

    自ら適切なコンテンツを作ることが鍵になる。適切とは、顧客のライフステージに応じたコンテンツを準備するということ。ターゲットを狙って銃を撃つような狩猟型のマーケティングではなく、必要とされるコンテンツを作り、こちらを向いてくれる人にマーケティングを行っていく農耕型マーケティングを行っていく。

  15. インバウンドマーケティングは今後どのように変わっていくのか?

    動画などの多様なコンテンツフォーマットが、人々に提供するコンテンツのとして増えるだろう。そして、多様な顧客の体験を作るようになるだろう。また、買ってもらうまでではなく、買ってもらった後の満足度を上げるまでがインバウンドマーケティングであるという考え方への進化が、今後どうなるか、気にはなっている。

高広 伯彦氏

インバウンドマーケティングは数年前に生まれた概念で、日本ではこの1~2年。その進化はまだまだ進んでいるが、重要なのは顧客の購買行動が変化していること。顧客の行動が変わっているのに、マーケッターはなぜ合わせた活動をしないのかが大きな課題。ツールに合わせるのではなく、顧客の当該のライフステージに合わせたマーケティングをするようにマインドセットを変えていかなくてはならない。

いつまでもメガホンをもって、買ってくれと言うのではなく、何かを書き(コンテンツを作り)、顧客が来てくれる仕組みを作ることによって、狩猟型から農耕型へ変わることがすごく重要になる。どちらを選ぶかは自由ですが、自分が購買者として何かを買うときに、どれだけ情報を調べて買っているのかを感じることができれば、インバウンドマーケティングがなぜ重要なのかわかるでしょう(高広氏)

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