ダブルファネルマーケティング

ダブルファネルマーケティングのケーススタディ/『ダブルファネルマーケティング』特別公開#2-2

ダブルファネル効果を生み出すための具体的な取り組みをケーススタディで紹介

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この記事は、書籍『ダブルファネルマーケティング』全3部のなかから、内容の一部をWeb担の読者向けに特別にオンラインで公開しているものです。

第2部 ダブルファネルマーケティングの理論と実践

第2部 第2章 ダブルファネルマーケティングのケーススタディ
化粧品メーカーA社のダイレクトマーケティング事例

では、実際に消費者の共感や感動を勝ち取り、クチコミを生み出すような顧客体験を提供しダブルファネル効果を生み出すためには、マーケターやブランドマネジャーは具体的にどのような取り組みをすればよいのだろうか。その疑問に答えるために、いくつかケーススタディを紹介しよう。

最初に、中堅化粧品メーカーA社のダイレクトマーケティング事例を説明する。A社では、売り上げが伸び悩んでいたブランドの立て直しを図るために、ダブルファネルマーケティングを採用し成功を収めている。

A社のブランドマネジャーは、自社のブランドが競合B社のブランドに比べてやや高価格帯の商品であるうえに、B社の後発の商品であるため市場シェアや知名度でも圧倒的に劣っており、限られた予算の中で従来のようなマスマーケティングや店頭販促施策を行っても、あまり効果が期待できないと考えていた。

そこで、A社のブランドマネジャーは、Webサイトやソーシャルメディアを駆使したプロモーションと、ECサイトやコンタクトセンターによるダイレクトセールスを組み合わせた、ダブルファネルマーケティング戦略を展開することにした(図2-6)。

図2-6 化粧品メーカーA社のプロジェクト全体像
図2-6 化粧品メーカーA社のプロジェクト全体像

最初にA社のブランドマネジャーは、コスメ・美容の総合ポータル@cosmeのような比較サイトのユーザーレビューやTwitter上のコメントを収集して、自社ブランドが既存顧客にどのようなイメージや感想を持たれているのかリスニングすることから始めた。すると、分析結果より、少数のユーザーではあるものの旅行や出張などの出先で自社ブランドを利用し好評を博しているケースが散見されることに気が付いた。

そこで、まず旅行会社とタイアップする形でサンプリングキャンペーンを企画した。空港の待ち合わせカウンターで試供品の入ったポーチを配布し、旅先での楽しい思い出とともに自社ブランドの使用実感や体験談をコミュニティ上で語ってもらった。すると、彼女たちの楽しい旅行先や大事な仕事の出張先で、自社商品が肌の悩みを解消し、美容維持に効果を発揮したという実体験のエピソードを得ることができた。

また、旅行会社とのタイアップ企画に加えて、マーケティングサービス会社のドゥ・ハウスが提供するWebサービス「モラタメ」も導入した。モラタメとは、数十万人のサンプリングモニターに試供品を提供し、リサーチコミュニティのコメント欄やモニターの所有ブログにユーザーレビューを投稿してもらう販促支援サービスである。この導入により、約300件のモニターブログへのユーザーレビューの掲載と、約1500件のコミュニティへのコメント投稿を生み出し、大量のクチコミとトライアルユーザーの創出に貢献した。

次に、20代~30代のOLを主な対象としたポータルサイトとタイアップする形で、プレゼントキャンペーンを展開した。これはWebサイト上のアンケート回答者に抽選で商品をプレゼントするというものであった。キャンペーンのトップページには前述の旅行会社やモラタメの施策で収集したユーザーコメント(VOC)やエピソードを紹介する動画コンテンツを掲載し、商品の使用実感や旅先での美容維持という価値観を訴求するような工夫を施した。その結果、多数のプレゼント応募が殺到し、当初の予想を大きく上回る約1万件のメールアドレス付きの顧客リストを獲得することができた。

ただし、プレゼントキャンペーンの当選者は応募者の10%にも満たない数であった。そこで、今度は落選した見込み顧客に対してお詫びを兼ねたリターゲティング施策を展開した。具体的には落選者リストを使ってクーポン付きのフォローメールを送信し、購入を改めて促進した。フォローメールに記載されたキャンペーンサイトのURLをクリックすると、上述の動画コンテンツや当選者のユーザーレビューを閲覧できる仕組みになっており、購入をためらっている消費者が先達の意見や感想を参考にして意思決定できるようにした。その結果、従来の同種のキャンペーンに比べ、申込み率を3ポイント以上改善することに成功し、プレゼントキャンペーンが生み出す効果のポテンシャルを最大限に引き出した。

しかし、A社の取り組みについて真に注目すべきことは、上述のようなプロモーションやキャンペーンのプランニング技法ではなく、事後のリテンション戦略である。A社では、各種キャンペーンを通じて集客した当選者や申込み者の情報を顧客IDでリスト化し、顧客属性やアンケートの質問に対する回答情報、キャンペーンに対する反応履歴や購買履歴に加え、会員サイトのアクセスログを顧客IDベースで紐付け、同じレイアウトのCSVデータで出力できるようにしていた。そのため、初回購入だけではなく、くり返し何度もリピート購入してくれた顧客を識別し分析できるデータ環境を実現していた。

A社のブランドマネジャーは各種キャンペーンの応募者のCSVデータを統合し、図2-7のように決定木分析と呼ばれるデータマイニング手法を用いて、リピート購入しやすい顧客層と、しにくい顧客層を判別するための分析を行った。そして、分析結果に基づきリピート購入確率の高いターゲット顧客リストを作成し、リストのタイプ別にリーチ効率の良いアプローチ方法を整理した。さらに、既存の優良顧客を集めたグループインタビューやコンタクトセンターでヒアリングしたVOCデータをテキストマイニングすることで、顧客層別のリピート要因を解明した。それらの分析結果を踏まえ、初回購入後のフォローメールやフォローコールのトークスクリプトにリピート要因を強調するための訴求メッセージを反映し施策を展開することで、従来よりもリピート購入率を4ポイントも改善することに成功した。

図2-7 化粧品メーカーA社の決定木分析
図2-7 化粧品メーカーA社の決定木分析

ダイレクトマーケティングに造詣の深いマーケターにとってみれば、A社の取り組みはある意味、従来のCRM戦略やダイレクトマーケティング手法を教科書通りに遂行しただけと思われるかもしれない。ところが、A社の取り組みが非凡かつ先進的であったのは、以上の施策を通じて獲得・育成した定期顧客に対し、ソーシャルメディアを絡めてクチコミを促進するポイントプログラムを展開したことにある。

具体的には、定期会員の優良顧客向けに自社コミュニティへの登録を促し、そこに商品のユーザーレビューや体験談のエッセイを寄せてくれた顧客にポイントを還元する仕組みを構築した。その結果、ユーザーレビューや体験談の充実により自社サイトのコンテンツ力が高まり、サイトの訪問数が170%、ユニークユーザー(UU)数が175%に拡大し、直帰率も60%程度から40%程度まで改善することに成功した。

さらには、既存優良顧客のVOCが生み出したダブルファネル効果により約4000名の新規顧客を新たに獲得し、コンバージョンレートにしておよそ11%という驚異的な数字を叩き出し、不振が続いていたA社ブランドの収益改善に大きく貢献することができたのである。

とはいえ、A社の取り組みのすべてが順風満帆であったわけではない。むしろ、試行錯誤の繰り返しであった。具体的な失敗談としては、一部の施策についてKPIや効果測定の仕組みを事前に仕込むことができず、PDCAサイクルを回すことができなくなってしまったという問題が発生した。

問題の原因は、クリエイティブ担当者と分析担当者との連携が上手く機能しなかったことにあった。本来であれば、各種タイアップメディアやユーザーレビューから自社サイトに集客してコンバージョンに至った顧客数を計測するために、事前にWebサイトにアクセスログを収集するためのタグを設定しておくべきであったが、仕込み作業の工数を事前のスケジュール作成の際に確保していなかった。そのため、戦略全体としてのコンバージョンレートは計測できたものの、個別施策ごとの数値を測定できなくなってしまった。

現在、A社では、ダブルファネルマーケティング戦略を展開する場合、関係者で情報共有会議を定期的に開催し、事前に施策のKPIを決め、タグ設定などの仕込み作業を行っている。こうした業務プロセスをマニュアル化することで、失敗からの学習と問題の再発防止に努めている。

A社の事例から学ぶべき教訓は、次の5つである。

  1. まずはソーシャルメディアで集めたVOCのリスニングから始める
  2. リスニング結果に基づき、顧客体験を生み出す機会や場面を提供する
  3. 顧客体験により発生した行動や発言のデータを分析し、施策に生かす
  4. 既存顧客に良質なクチコミを促し、新規獲得の素材として活用する
  5. 各施策のKPIを事前に設定し、分析に基づきPDCAサイクルを回す
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ダブルファネルマーケティング
  • ダブルファネルマーケティング
  • トランスコスモス・アナリティクス 著/北出大蔵 編
  • ISBN 978-4897979106
  • リックテレコム 発行

この記事は、書籍『ダブルファネルマーケティング』 の内容の一部を、Web担の読者向けに特別にオンラインで公開しているものです。

マーケティング、CRM、データ分析の観点からソーシャル時代に適応するための処方箋

ソーシャルメディアの拡大により、クチコミの影響力が飛躍的に高まり、消費者コミュニケーションの主役は企業から「個客」へと移行しています。ダブルファネルマーケティングは、このような時代の変化に適応すべく、既存顧客の共感・感動体験のクチコミを新規顧客に共有・拡散することで、認知度・受注率・継続率などを底上げするような好循環を生み出し、顧客資産価値や顧客の感動を最大化していくための統合マーケティング戦略です。

その戦略の成功の鍵を握るのは、企業の「データガバナンス」力。顧客の行動/発言データを収集・分析・活用しPDCAサイクルを回すには、その推進役を担うデータサイエンティストの育成や、知的業務の効率化に向けたKPO(Knowledge Process Outsourcing)の活用が不可欠です。また、データや分析に対する考え方についても発想の転換が求められます。従来のような「統計的に正しい知識」を得るための分析(アナリシス)に終始せず、社内外の膨大かつ多様なビッグデータの統合(シンセシス)をもっと重視すべきでしょう。なぜなら、出現率の低いレアケースの行動/発言のタイムラインを観察し「個客」のインサイトを深めることが、クチコミの源泉となる「感動体験の創出に役立つ知恵」を得ることにつながるからです。

本書は、このような新しい時代のマーケティングやCRM戦略、およびデータ分析の理論と技法を、国内外の事例を交えて体系化したものです。

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