顧客ロイヤルティを測る経営指標「NPS」

顧客ロイヤルティを測る経営指標「NPS」
ソーシャルメディアバブルの「悪しき利益」体験から、NPSの探求を通じて原点に回帰するまで/アジャイルメディア・ネットワーク

トップダウンでNPSを採用し、顧客だけでなく社内スタッフの評価にも利用しているという

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アジャイルメディア・ネットワーク株式会社
代表取締役社長
徳力 基彦氏

NPSはスコアがマイナスからプラスの値をとるのがいいですね。5段階評価のアンケートとは精神的にそうとう違うものがあります。

単発のキャンペーンは会社の売上として大きくても、「悪しき利益」になりやすい構造がある。ソーシャルメディアバブル時代の悪しき利益体験をしたからこそ身に染みて感じている部分があります。

企業のソーシャルメディア活用を支援するアジャイルメディア・ネットワーク(以下、AMN)は、「読者・企業・ブロガー全員に意味のあるサービス」を目指して2007年に設立された。現在は、クチコミしてくれるファンを「アンバサダー」と定義し、アンバサダーを重視したソーシャルメディア活用やリレーション構築支援、キャンペーン施策の企画・提案などのサービスを提供している。

同社にとって、クライアントである大手企業はもちろんのこと、ブロガーやソーシャルメディアユーザーなどの情報発信者も重要なステークホルダー(利害関係者)となる。また社員数33名のベンチャー企業(2012年11月末時点)として、従業員1人ひとりとの関係性もきわめて重要だ。

上記ステークホルダーとの関係性を深化させるべく、AMNでは経営陣が主体となり、顧客ロイヤルティを計測する指標「Net Promoter Score(NPS)」を用いた調査を推進。その過程で自社の課題が浮き彫りとなり、原点への回帰を図るきっかけになったという。自ら先頭に立ってNPSの導入を進めているという、アジャイルメディア・ネットワーク 代表取締役の徳力基彦氏に話をうかがった。

※本インタビューは2012年11月末に実施されています。

※NPSの概要については、第1回記事「その顧客満足度調査はホントに役に立っているのか? 真の顧客志向を目指す『NPS』という指標」を参照。

聞き手:河田顕治

AMNの徳力基彦氏(右)と、聞き手の河田顕治氏(左)

ソーシャルメディアの効果測定に期待

――AMNでは、徳力さんが主体となってNPSを導入されていると伺いましたが、そもそもNPSを知ったきっかけは何だったのでしょうか。

●徳力 明確に意識したのは2011年の6月ですね。とあるイベントでパネルディスカッションのコーディネートを担当したのですが、ソーシャルメディアの効果測定について議論するなかで、パネリストの方が「うちはNPSで測っています」とおっしゃっていた。そこで興味を持ったのが最初のきっかけですね。

このときに「そうか、ソーシャルメディアの効果測定にNPSを使うという方法があるんだな」と思った記憶があります。だから、どちらかというと当社自身のために使うというより、「クライアントである企業のソーシャルメディア効果測定のために使う」という文脈で先に認識しています。

NPSという指標自体を初めて目にしたのは別のビジネス書だったと思いますが、その時は「11段階で聞いて、なにか変わるのかな」ぐらいの感想でした。私はあまりアンケートを信じない人間なので、そのときは全然アンテナに引っかかってこなかったんですが、パネルディスカッションの「全部NPSでやっています」という話が印象的で、興味を持って調べ始めたという感じですね。

NPS(Net Promoter Score, 正味の推奨者比率)の算出方法
NPSの基本的な考え方では、10と9を推奨者(プロモーター)、8と7を中立者(ニュートラル)、6以下を批判者(デトラクター)とし、NPSの数値は-100から+100までの値を取りうる

日本のソーシャルメディア活用は基本的にリーチを求めているケースが多く、いつの間にかファン数やエンゲージメント率のような枝葉末節を見るようになっています。そういった効果測定方法に対して問題意識を持っているときだったので、パネリストの話を興味深く感じたのだと思います。

その後、NPSの提唱者であるフレッド・ライクヘルド氏の著書『究極の質問』をしっかりと読み込んだ結果、「NPSはBtoB企業にも向いているのでは」と思うようになり、スタッフともいろいろ議論をして、自社に関して本格的に使うことを決めたのが実は2012年からです。

企業のソーシャルメディア活用を支援

――NPSの事例について伺う前に、AMNのビジネスやステークホルダーとの関係性について、あらためて説明いただけますか。

徳力 基彦氏

●徳力 AMNは、企業のソーシャルメディア活用を支援しているBtoBの会社です。「マーケティング支援会社」という言い方もできますね。もともと私を含めブロガーを中心に作られた会社で、ブロガーやソーシャルメディアユーザーと企業が一緒になってマーケティングを盛り上がってやれるといいな、といったことを理念にしている会社です。

ビジネスとしてお金をいただくお客さまは企業なのですが、ブロガーや企画に参加していただく方々もお客さまであり、ちょっと変わった会社だと思います。

通常のマーケティング支援会社はおそらく、企業の先にいる消費者へどうアプローチするか、その企業の後ろに立ってアドバイスすると思いますが、われわれの場合は、企業とブロガーないしソーシャルメディアユーザーとの間でマッチングするという立ち位置ですね。

――ブロガーの先には一般のインターネットユーザーがいるわけですが、AMNと直接の接点を持つという意味では、クライアントたる企業との関係性、そしてブロガーとの関係性が重要ということになりますね。

●徳力 そうですね。後者は最近では広い意味でのブロガーでしょうか。たとえば、TwitterユーザーやYouTubeビデオブロガー、Facebookユーザーなど。

もともとアジャイルメディアは「俊敏なメディア」という意味で、ブログなどの新しいインターネットならではのメディアを指します。つまり、われわれにとってはソーシャルメディアユーザーの方々も情報発信をしてくれるメディアであり、ステークホルダーであるととらえています。

――広義で情報発信される方というところが、大きなステークホルダーであるということですね。ちなみに現在のクライアント数やネットワークしている情報発信者はどのくらいになるのでしょうか。

●徳力 クライアント企業数はトータルでいくと300~400社前後かと思いますが、2割ぐらいの大手企業のお仕事が売上の中心です。

情報発信者側としては、まず「パートナーブロガー」と呼んでいるブロガーの方々がだいたい100人前後。またイベントなどの企画に参加していただく方々については、「Fans:Fans」という会員システムで1万5千人ほどの方に登録いただいています。これはブロガーではなくて、企業との何かしらの企画に参加したいと思って会員登録されている方々ですね。このなかでも積極的に参加していただいている方は、2割ぐらいだと思います。

われわれは今、企業の製品やブランドについて積極的にクチコミをしてくれるファンの方々をアンバサダーと呼び始めています。「だれでもいいから書いてもらおう」というアプローチではなくて、本当にその製品を好きな人、もしくは好きになってくれる人と企業をマッチングし、関係を作っていくほうに注力したいと思っていて、そのなかで、パートナーの人たちは象徴的な存在というイメージでしょうか。

――以前はパートナーに対して広告を配信するビジネスも手がけていたかと思いますが、そちらは継続されていますか。

●徳力 今はほぼ停止していますね。余談になりますが、当社はもともと、ペイパーポストと呼ばれる「ブロガーに100円払って記事を書かせる」的なものに対するアンチテーゼとしてスタートしています。やらせ記事を書かせるのではなく、ブロガーの方々に正当なリターンを返すべきじゃないかと考えてアドネットワークからスタートしました。

ですが5年間やってきて、実はブロガーにとって広告(による収入)はそこまで重要ではなく、製品をいち早く使えるとか、そういう機会のほうが大事だということが見えてきましたので、今はマッチングに注力しています。

NPSは継続した関係性の構築に重要

――AMNの顧客にはクライアントである企業と、イベントに参加するユーザーがいます。まずはだれを対象にNPSを調査されたのですか。

●徳力 2012年6月にクライアント企業に向けて調査を行いました。次にスタッフ(従業員)向けを7月に行い、ブロガーや企画の参加者向けの調査は9月からやっています。

――頻度ないしタイミングはどうしていますか。

●徳力 企業向けは3か月に1回、その四半期にお取り引きをいただいた方向けに送るようにしています。2回目を9月にお送りしていて、12月に3回目をお送りする予定です。多いかな、とも思いますが、悪いところは早めに知りたいということもあって、四半期ごとでやることにしています。

――関係性を聞くリレーショナルなNPSの取り方ですが、3か月に1回ということで、頻度は高めの印象です。

●徳力 そうですね。同様にスタッフ向けも3か月に1回です。3か月ごとに行う社内キックオフの前にアンケートとして取っています。

――ユーザーの実施頻度はどうでしょうか。

●徳力 ユーザー側は1か月に1回、その月の企画に参加した人たちに「AMNの企画への参加をほかの人に勧めたいと思いますか?」といった感じで聞いています。

――すでに継続して調査を行っていますが、自社でNPSを導入しようと思った理由や背景はどこにあったのですか。

●徳力 2011年、ソーシャルメディア界隈はバブルだったと私はとらえています。スタッフの人数やお客さんの数も増え、忙しくなってくると、私が直接お会いできているお客さんがだんだん減ってきていました。コミュニケーションが薄くなってしまったことを、2012年に入って課題としてとらえるようになっていたのです。

以前はすべてのお客さんのところへ直接訪問していたため、お会いすれば満足していただいているかどうかは想像できました。現在は、スタッフが増えたこともあり、私が直接お会いしたことのないお客さんが増えてきている状態で、満足しているのかどうか、直接はわからなくなってきています。

お客さんとのコミュニケーションが薄くなり、
本当に満足しているのか、直接わからなくなっていました

スタッフも同様で、社員数が20人を超えたあたりから、1人ひとりと密にコミュニケーションを取るのがかなり厳しくなってきました。最近はその反省から、今年後半になってから毎週金曜日4人ずつ30分話を聞くというように、全社員との個人面談を定期的に行っています。

ただ、そういう活動によってスタッフの満足度がどう変化したのかは数値化しないと比較できませんし、お客さん(企業)との関係性も定量化するべきだと『究極の質問』を読んで強く思うようになりました。

批判者を意識したアンケート調査の設計

――NPSを導入する前にも、企業へのアンケート調査などは行っていたのでしょうか。

●徳力 NPSを知る以前に、アンケートを取ろうとしたことはありました。2010年くらいでしょうか。ただ、そのときはいろいろ問題がありました。

メールを営業から送るにしても、代理店さん経由のお仕事だと代理店に送るのか企業担当者に直接送るのかという議論が起こります。また、当時はそもそも取引の社数も少なく、アンケートの回答率が低かったため、「あまり意味がないのではないか」という結論に至りました。

代理店経由の単発のお仕事だと、そもそも企業の担当者さんは(AMNの存在を)意識していなかったりしますので、アンケートを取るほどでもないという状況でもありました。代理店の提案メニューに入っているだけで、特に印象に残ってなかったりするので、アンケートにも回答できないんですよね。

2012年に入ってからはお客さんに方針などを直接アドバイスすることが増えていて、アンケートを取る意味がぐっと上がってきているように思います。継続的にフィーをいただく案件も増えてきており、継続して関係を続けるためにはこういう施策が重要だと、あらためて『究極の質問』を読みながら感じました。

お客さん向けのアンケート画面はこんな感じです。 推奨度を選択していただき、コメントしてもらうというシンプルな構成になっています。

AMNで実施しているNPSを用いたアンケートの一例

――コメント欄は、推奨意向の理由を聞く形ではないんですね。

●徳力 ご指摘やご要望などを自由に記入いただけるようにしており、かつ回答率を上げるため必須にはしていません。それでも、特に低い点数ほどその理由を書いていただける方が多いため、現状のものでいいと思っています。

――推奨意向の低い「批判者」をより意識しているということですね。0から10までの並べ方も、0を上に置いて縦に並べていますが、この提示方法だとスコアが低く出やすいのでは。

●徳力 実名での記入だと高めにスコアを付けがちだという感触があったため、低く出るようにしたいと思い、あえてこうしています。実は、スタッフ向けの調査は匿名でやっていて、こちらはそうとうに手厳しいんですよ。とんでもないマイナスになっている(笑)

――(笑)。

●徳力 ところがスタッフ向けも、実名で取ると高くなってしまいます。当たり前ですけれども、「社長の視線が気になる」みたいな感覚があるみたいで。

ただ、お客さんの調査を匿名でやるのは意味がありませんよね。とはいえ、実名だとたぶん気を遣って、ちょっと高めに付けていただく方が多そうな気がしていますので、できるだけ低くから付けていってほしいと思い、0から並べています。

――推奨者/中立者/批判者の区分では、どこに相当する方が多いですか。

スタッフとお客さんではスコアが別の会社じゃないかというくらい違う(笑)。相手との関係性で変わりますね

●徳力 今のところバランスとしてはいい感じで、トータルのスコアは幸いプラスになっています。匿名で取っているスタッフ向けの結果と比べると、もうまったく違う会社なんじゃないかと思うぐらい(笑)。

NPSはスコアが、マイナス100からプラス100までというのもいいですね。5段階評価の平均で3.5と4.1だと違いはあまり大きくないように感じますが、トータルのスコアがマイナスなのかプラスなのかは精神的にそうとう違うものがあると思います。

一方で、ユーザー向けの調査結果は、実はすごいプラスになるんです。イベントなどの参加には選考システムをとっていてIDが特定できるので、「批判すると選ばれなくなるのでは」と感じてしまっている可能性があります。単純に満足度が高いという意味ではよいのですが、おそらくバイアスがかかっているだろうと思います。やっぱり、実名か匿名かも含め、相手との関係性によってスコアは如実に変わりますね

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