カスタマーエクスペリエンスに基づくマーケティング戦略

カスタマー・エクスペリエンス特集
経営トップ自らが「カスタマー・エクスペリエンス」の重要性を説く企業の強さから学ぶこと

「カスタマー・エクスペリエンス」とは、そもそも何で、企業にとってなぜ重要なことなのか
道下和良(日本オラクル) 2013/1/22(火) 9:00 tweet32このエントリーをはてなブックマークに追加 印刷用
[AD]

「カスタマー・エクスペリエンス」とは、そもそもどういうものを指すのか、企業にとってなぜ重要なことなのか、経営トップがカスタマー・エクスペリエンスの重要性を説くスターバックスやAmazon.comの事例を挙げながら解説し、さらに企業がカスタマー・エクスペリエンスを改善していくフレームワークを紹介する。

カスタマー・エクスペリエンスとはなにか?

カスタマー・エクスペリエンスという言葉を耳にすることが多くなってきていませんか。

日本語では「顧客経験」「顧客経験価値」「感動体験」などと訳されますが、要は次のようなことを意味する言葉です。

「カスタマー・エクスペリエンス」とは、商品やサービスの購入前後のプロセスや利用時に顧客が体験する、「心地よさ」「驚き」「感動」「誇らし」さなどの、感覚的だったり感情的だったりする付加価値のこと。

では、企業がカスタマー・エクスペリエンスを意識するようになってきたのは、なぜでしょうか。

それは、顧客の期待通りの、さらには期待を超えた対応をすることで、ポジティブな感情を企業やブランドに対して抱いてもらう。それによりファンとなってもらい、より深いお付き合いや、友人知人に口コミなどで推奨してもらうといった効果につながることを狙っているからです。

カスタマー・エクスペリエンスが注目されるようになった背景にあるのは、先進国を中心にさまざまな市場でコモディティ化が進行し、商品やサービスそのものの価値だけでは優位性のアピールが困難になってきたことです。これは日本も例外ではありません。

そうした市場環境の変化を敏感に察知した企業は、競合との差別化を図り市場で優位性を得るための次なる施策として、カスタマー・エクスペリエンスを経営や事業レベルでの新たな戦略的要素だと認識するようになってきたのです。

最初は、「ユーザー・エクスペリエンス」や「Webエクスペリエンス」といった言葉が、インターネットを中心としたオンラインの世界で使われ、ソフトウェアの画面やサイトの使い勝手の向上をテーマに語られてきました。また、マーケティングの世界では、「WOWマーケティング」という言葉があります。これは、商品企画、プロモーション、店舗づくりなどのマーケティング活動において、顧客の期待を超える感動を提供することでファンを増やす取り組みです。

「カスタマー・エクスペリエンス」は、これらを包含するもう一段広い概念です。オフラインの実店舗や対面営業、商品の受け取りやサポートサービス、さらにはソーシャルネットワークなどでのコミュニケーションも含め、すべての顧客接点で発生する、企業やブランドとのインタラクションを通じた「経験」を指します。

カスタマー・エクスペリエンスは、すべての顧客接点で発生する企業やブランドに対する「経験」を指す

カスタマー・エクスペリエンスを向上させる施策は、必ずしもITの活用が前提ではないのですが、スマートフォンのようなモバイル技術の発展に伴い、オンラインチャネルとオフラインチャネルの横断(クロスチャネル)や融合(オムニチャネル)によって生じる、これまでにない新しいエクスペリエンスへ注目が集まっています。

企業やブランドにおけるすべての顧客接点でエクスペリエンスの向上をテーマにすると、それはやがて企業活動全体の改革や改善を行うといった課題となり、経営や事業レベルでの戦略キーワードになっていくとも言えます。

経営トップ自らが「カスタマー・エクスペリエンス」の
重要性を説く企業の強さ

カスタマー・エクスペリエンスが経営や事業レベルでの戦略キーワードとなると述べました。しかし状況はそれに留まりません。

いま本当に強い企業は、戦略のさらに上のレベルである「企業ミッション」、つまりは企業の存在意義のレベルで、経営トップ自らがカスタマー・エクスペリエンス向上の重要性を語り、その実践を開始しています。

いちど傾いた業績を立ち直らせた「スターバックス体験」

代表例の1つとして挙げられるのが、米スターバックス社です。

スターバックスという企業やブランドを特徴づける言葉としてよく語られているのが「スターバックス体験」や「サードプレイス」という言葉です。スターバックスでは、顧客を迎える店舗を家庭(ファーストプレイス)や職場(セカンドプレイス)ではない第三の場所「サードプレイス」と位置付けています。そのサードプレイスで極上のコーヒーに加え、スタッフからの気遣いや、心地よいコーヒーの香りと流れている音楽、ゆったりとした空間が生み出す居心地の良さなどを総合し「スターバックス体験」と呼んでいます。

スターバックスが顧客に提供するのはコーヒーという商品だけでなく、その「スターバックス体験」こそが顧客に提供しているものだと考えられてきました。

その後、そうした方針を持っていた創業者でありCEOであったハワード・シュルツ氏が、会長職となり経営の現場から一歩引いた立場になりました。それからしばらくして、スターバックスの業績が傾いてしまったのです。

その理由は、売上拡大を追い求める社内の風潮が強まり、これまで顧客から支持されていたスターバックス体験が希薄になったからだといわれています。

2008年、CEOに復帰することを決意したハワード・シュルツ氏は、復帰後まず、通常営業時間内に全店舗を一斉に閉め、コーヒーの質向上のためにバリスタの再教育を行いました。次に行ったのが、スターバックスという企業のミッションステートメントの再定義です。

再定義されたミッションステートメントには、カスタマー・エクスペリエンスの向上を意識したと思われる表現が多数あります。

OUR STARBUCKS MISSION

人々の心を豊かで活力あるものにするために ―
ひとりのお客様、一杯のコーヒー、そしてひとつのコミュニティから

Our mission:to inspire and nurture the human spirit – one person, one cup and one neighborhood at a time.

Our Customers

心から接すれば、ほんの一瞬であってもお客様とつながり、笑顔を交わし、感動経験をもたらすことができます。
完璧なコーヒーの提供はもちろん、 それ以上に人と人とのつながりを大切にします。

Our Customers:When we are fully engaged, we connect with, laugh with, and uplift the lives of our customers – even if just for a few moments. Sure, it starts with the promise of a perfectly made beverage, but our work goes far beyond that. It's really about human connection.

Our Stores

自分の居場所のように感じてもらえれば、そこはお客様にとって、くつろぎの空間になります。
ゆったりと、時にはスピーディーに、思い思いの時間を楽しんでもらいましょう。
人とのふれあいを通じて。

Our Stores:When our customers feel this sense of belonging, our stores become a haven, a break from the worries outside, a place where you can meet with friends. It's about enjoyment at the speed of life – sometimes slow and savored, sometimes faster. Always full of humanity.

企業のミッションとして、改めて「スターバックス体験」、つまりはカスタマー・エクスペリエンスの重要性が定義されています。その後、ハワード・シュルツ氏の思想やミッションの具現化として、顧客とのつながり強化のためのさまざまな戦略的な施策が実行され、現在は業績も回復し成長路線に立ち返っています。

カスタマー・エクスペリエンスの向上への取り組みとその実現方法は、企業の戦略、製品やサービス、顧客層などによってさまざまです。

スターバックスのカスタマー・エクスペリエンス向上のための施策の1つとして導入されたリワードプログラム(My Starbucks Rewards)では、じつはITを効果的に活用していました。リワードプログラム会員のロイヤリティ・データベースを構築し、スマートフォンのアプリでゲーミフィケーションを取り入れ、楽しみながらポイントを貯めつつ、コーヒーを買えるようなエクスペリエンスを提供しています。

Amazon.comが貫く「地球上でもっともお客様を大切にする」方針

代表例の2つ目は、Amazon.comです。Amazon.comの企業ミッションとして掲げられている言葉には、次のようなものがあります。

引用:Amazonについて「Amazonと地球」「Amazon Investor Relations: Corporate Mission」より

地球上でもっともお客様を大切にする企業

Corporate Mission:We seek to be Earth's most customer-centric company for four primary customer sets: consumers, sellers, enterprises, and content creators

地球上でもっとも顧客を大切にする企業であるために、Amazon.comの創業者でありCEOであるジェフ・ベゾス氏は、さまざまな場所でカスタマー・エクスペリエンスの重要性や、Amazon.comにおけるカスタマー・エクスペリエンスとは何かを語っています。

企業活動全体としてカスタマー・エクスペリエンスを追及するジェフ・ベゾス氏の姿勢は、Amazon.com社内でも一貫されており、たとえば2011年の投資家向けレポートにおいても以下のように述べられています。

引用:「2011 Annual Report」より

私たちは、あらゆる側面における顧客の体験を改善することに注力します。そのためには、安い価格で提供し、品切れをなくし、いつでもより早く配達し、品揃えを増やし、商品とサービスのカテゴリを増やし、商品情報をより多く記載し、使いやすく、信頼できるようにして、顧客の信頼を得るのです。

we focus on improving all aspects of the customer experience, including lowering prices, improving availability, offering faster delivery and performance times, increasing selection, increasing product categories and service offerings, expanding product information, improving ease of use, improving reliability, and earning customer trust.

顧客は、数多あるEコマースサイトの中からなぜAmazon.comを支持し、なぜそこで商品を買っているのでしょうか。それは、上記のカスタマー・エクスペリエンスに関するすべてが揃っているからなのです。すなわち、上記で掲げられているものすべてが、現在のAmazon.comの強みを形づくっています。それらがすべてカスタマー・エクスペリエンスというキーワードで貫かれており、それはトップであるCEOのジェフ・ベゾス氏の意を受けたものであるということです。

カスタマー・エクスペリエンス先進企業に学ぶ
成功のためのフレームワークとは

成功しているカスタマー・エクスペリエンス先進企業としてスターバックスとAmazon.comを取り上げました。両社に共通していることは、カスタマー・エクスペリエンスを企業のミッションや経営戦略のレベルで捉え、全社的な企業活動として改革・改善を進めていることです。

そうした全社的な企業活動としてカスタマー・エクスペリエンスの向上を進めるためのフレームワークを、図に示すと以下のようになります。

全社的な企業活動としてカスタマー・エクスペリエンスの向上を進めるためのフレームワーク

まずは顧客が購入までの体験(左の輪、企業にとってはマーケティングと販売のシーン)

  1. 顧客の潜在的・顕在的なニーズがあり(下側)
  2. それに基づいて商品やサービスのリサーチを行います(左側)
  3. そして、口コミや実店舗での説明を踏まえた絞り込みが行われ(上側)
  4. 顧客は購入に至ります(右側)。

さらに所有するフェーズでも(右の輪、企業にとってはサポートとサービスのシーン)

  1. 購入したものを受領して使用し(下側)、
  2. さらに使い込んで行く過程で(右側)
  3. その使用感や満足感を友人など他者と共有し推奨を行うことになるのです(上側)

この一連の流れは、「カスタマー・ライフサイクル」や「カスタマー・ジャーニー」と呼ばれます。それぞれのプロセスやステージにおいて、より良いカスタマー・エクスペリエンス、つまり心地よさや驚き、感動といったものをいかに演出していかに顧客に感じてもらうかが、具体的な施策として考えるべき点です。当然、そうしたエクスペリエンスをどのような「顧客接点=チャネル」で届けるかも重要です。

カスタマー・エクスペリエンスという言葉そのものを積極的に活用しているかはさておき、顧客とのあらゆる接点において取り組みを改善したいという思いをもっている方は多いはずです。

問題は、その課題の重要性を経営陣に認識してもらい、経営戦略の一環としてカスタマー・エクスペリエンス向上のために経営の舵をきってもらうには、経営陣とどのように交渉し、説得すればいいかということです。

筆者の所属するオラクルでは、カスタマー・エクスペリエンス向上のためのプロジェクト計画/提案書に盛り込み、経営者に説明するべきものとして、次の6つのステップと項目を薦めています。

  1. 自社の事業戦略や目標、それに対する現状を財務視点で把握する

    財務的な視点で自社の現状を理解、把握する。利益、投資対効果や、EVA(経済的付加価値:税引後営業利益から資本コストを差し引いた余剰利益、収益性指標のひとつ)、EPS(一株当たり利益)などの数字を活用し、目標と現状のギャップを明確にする。

  2. 事業目標と現状のギャップを埋めるために、カスタマー・エクスペリエンスの取り組みが貢献できる数値的目標とそれを裏付けるための公式を提示する

    たとえば、次のような目標を設定する。

    今後3年間で売上を5%上げなければならないとした場合、そのうちの2%はカスタマー・エクスペリエンスの向上で実現する。

    そのためには、

    • 1顧客あたりの売上を増やす
    • 新規顧客を開拓する
    • Webサイトを訪れたユーザー数のうち実際に購買につながった率(コンバージョンレート)を上げる
    • 商品/サービスのリピート購買率を上げる

    など、目標達成を裏付ける明確な公式を提示する必要がある。

  3. ビジネス目標と現状のギャップを生みだしている課題や、その課題を引き起こしている要因を特定する

    予定どおりに事業目標が達成できていない社内外の要因を特定する必要がある。たとえば、

    • 消費者は店舗では買わず、ネットでの購買が主流となっている
    • 自社に対して悪い評判が広まっている
    • 競合が、自社からの乗り換えキャンペーンを行っている
    • 顧客情報が一元化されておらず、適切な顧客対応ができない

    など、ビジネスを阻害する要因を社内外ともに調査する。通常要因は複数挙がってくるので、最優先で取り組むべきものを特定する必要もある。

  4. 課題とそれに対応する施策と効果を明確にした仮説を提示する

    ※カスタマー・ジャーニー・マップ

    顧客がサービスや製品を購入、利用する際に、そのプロセスのさまざまな段階での顧客のニーズとそれを満たすための必要なやり取りや行動とその過程で受けた顧客の感情の状態を、プロセス全体の流れに沿ってわかりやすく絵図や文字で表現する手法

    たとえば、③であげた「自社に対して悪い評判が広がっている」に焦点をあてるとすると、悪評を広げている人はどのような人たちなのかを特定し、その人たちへのケアを最優先に行うことが急務となる。

    このためには、特定した顧客群をモデルに「カスタマー・ジャーニー・マップ」を描き、最適な対応策をあぶりだす。

  5. 具体的な施策やソリューションとそれに必要な予算を提示する

    ④の仮説をもとにした施策を実行するために必要な仕組みと必要な予算、スケジュールを明確にする。社内横断的にプロジェクトを推進することが必要な場合は、その推進体制プランもあるのが望ましい。

  6. プロジェクトの進行を検証、評価する仕組みを明確にする

    プロジェクトを着手した後、予定どおりに進んでいるかを定期的に監視する方法を明確にする。

    実行後1か月で効果がでる場合もあるが、1年かかる場合もある。そのような場合でも、定期的に監視して報告する体制や仕組みを構築し、もし新たな課題が発見されれば速やかに対応できるようにしておく必要がある。

◇◇◇

次回以降、このステップのなかでも「⑤具体的な施策やソリューションとそれに必要な予算を提示」として、いくつかの側面から具体的な施策の考え方やその方法論を紹介していきます。

[AD]
この記事が役に立ったらシェア!
tweet32このエントリーをはてなブックマークに追加

日本オラクルからのお知らせ

Oracle WebCenter Sites(WCS)とは?

カスタマーエクスペリエンスの理解を深めるピックアップ記事

記事ピックアップカスタマーエクスペリエンスを理解、実現するためにチェックしておきたいコラムや解説記事をピックアップ

Facebook

みんなが読んでるWeb担メルマガで、あなたも最新情報をチェック
  • SEOやアクセス解析のなどノウハウをゲット
  • 事例やインタビューも見逃さない
  • 要チェックのセミナー情報も届く
  • 編集長コラムを一足先に読める

オラクルダイレクト

あなたにいちばん近いオラクル 「Oracle Direct
システムの導入や提案を支援する日本オラクルのご相談窓口 Oracle Direct ご質問・ご要望にスピーディにお応えします。電話受付時間:0120-155-096(祝日及び年末年始休業日を除きます)