失敗しないWeb制作 プロジェクト監理のタテマエと実践

プロジェクトを円滑にするコミュニケーションとは? | 書籍『失敗しないWeb制作』特別公開(4/4)

プロジェクトを円滑に進めるポイント、プロジェクトマネジメントを学ぶためのヒントを聞いた。
失敗しないWeb制作 プロジェクト監理のタテマエと実践
この記事は、書籍 『失敗しないWeb制作 プロジェクト監理のタテマエと実践』 のChapter 4 「Talk Session SIDE A Webを運用する事業者からみた"PMBOK視点のススメ"」を、Web担の読者向けに特別に公開しているものです(本書について)。

話者の増井氏についてはWeb掲載の第1回をご覧ください。

プロジェクトを円滑にするコミュニケーションとは?

みどり ■ これまでのお話から、プロジェクトマネジメント指向で仕事を進めるポイントは、属人的な要素を徹底的に排除していくことにあるという印象を持ちました。コミュニケーションマネジメントのキモは「人間力」と聞いたことがありますが、プロジェクトマネジメントとは、相反するでしょうか。

増井 ■ プロジェクトマネジメント指向で仕事ができれば、収束するところは自ずと決まってきます。「人間力」とおっしゃいましたが、いわゆる「声が大きい人」がしゃべりで説き伏せるのでは人は付いてきません(笑)。本当のコミュニケーションというのは、共通語を話すことです。共通語というのが Webの世界ではいちばん難しいです。なぜかと言うと横文字表現も多いですし、立場によってそれぞれの Webに対しての思いが全然違うことが多いからです。

みどり ■ 共通言語をそもそも持っていないかのようなやりとりもありますし、目的を共有できていないこともあると感じます。Webサイトがそもそもなんのために存在しているのかも、サイトごとに異なりますよね。

増井 ■ そのような目的は、先ほど紹介したコンテンツの4つの分類(191ページを参照)で明確にできます。もし、依頼の内容が理解できなくても、「あなたが依頼してきたページは 4つの分類のどこに入るんですか?」と聞いてみる。「プロモーション」が目的なら、KGIとKPIを設定してもらいます。それがないプロモーションはありえません。「インフォメーション」の場合、これは企業として提供すべき重要情報なので、 KGIやKPIは必須条件ではありません。その代わり、誰もがアクセスできることがそのページの価値になります。そういう意味で、ガイドラインこそ、共通言語を話すためのコミュニケーションツールになります。

たとえば、弊社では、JIS規格(X 8341-3:2010)への対応に向けて制作会社説明会を行なった際スクリーンリーダーを触ったことがある人は?と聞いたら、手をあげたのは参加者のうち1割くらいでした。「アクセシビリティに配慮した制作をやります」と言っていても、本当のアクセシビリティを知っている制作者やデザイナーはまだほとんどいないのが実情です。この例は、Web業界独特の「ユーザビリティ」とか「アクセシビリティ」というものはそもそも共有化されていないことを物語っています。何が「ユーザビリティ」「アクセシビリティ」か、まず共有しなければいけません。

みどり ■ プロジェクトマネジメント指向のコミュニケーションとは、そうやって認識を共有でき、共通語で話せるということ、とも言えますね。そのためにルールやガイドラインは必要ですが、現場に適用できず、苦労している人も多いと思います。

増井 ■ 発注者にとっては、まず、自社サイトの価値がその企業の中で共有されているのか、それが一番です。Web担当者の能力が、社内での説得や説明に割かれることが多い。予算が穫れない、チームとして仕事をするためのメンバーを社内で調達できない、ずっとひとりで担当させられている……となると、プロジェクトマネジメント指向のコミュニケーションは難しくなります。

みどり ■ そのような担当者とやりとりを開始するにあたり、どうすれば制作者と発注者がハッピーになるでしょうか? 何から何を始めればいいでしょうか?

増井 ■ コミュニケーションし、対象になるWebサイトの価値をシェアすることです。先程のアクセシビリティについても、何が「ユーザビリティ」「アクセシビリティ」なのか、シェアすることです。発注者が言わないのならば、制作者が聞かなければなりません。そこでコミュニケーション能力が重要となってくるのです。相手側から出て来ないのならば、引き出していくしかないでしょう。

みどり ■ 制作する側からすると、どこか縮こまって遠慮してしまうこともあるかもしれませんね。

増井 ■ 言ってあげないほうが不親切だと思っていただいたほうがいいでしょう(笑)。私なら、弊社のサイトの課題をズバッと言ってもらった制作会社と仕事をしたいです。

プロジェクトマネジメント指向は制作運用を円滑にする!

みどり ■ もうひとつ、プロジェクトマネジメント指向を採り入れたいという反面、それまでずっと場当たりでやってきた人にとっては制約が厳しいと感じてしまうのかな、という不安もあります。

増井 ■ そうですか?厳しいでしょうか? Webサイト制作の場合、要は 1ページのなかの 1文字更新をしてくださいと言われたときも、同じプロセスになると思うのです。誰かがどこかを「変えて欲しい」と発注する以上、同じプロセスを踏むはずです。制約とはならないのでは?

編集 ■ 出版などは、どんな種類でも同じプロセスを踏むので、おっしゃることはよくわかります。

みどり ■ (…)なるほど。確かにそうですね。実際の現場では、このプロセスを意識していないばかりに、仕事を分解せずに、「修正しました」、「アップしました」と流してしまいそうです。

増井 ■ Canon.jpで運用されている RACIチャートでは、制作の各段階でステータスを変更できる人だけに印が入れられています。ですから自分が担当しているタスクがある場合、ログインするとそのタスクが出てきて、現在の状態を見ることができます。ページ内にボタンがあり、自分がボタンを押さないと次のステップに進まないようになっています。本人は意識していなくてもタスク管理されているのです。

掲載申請プロセスの明確化
掲載申請プロセスの明確化

みどり ■ 品質チェックの欄がフローの真ん中にありましたが、品質チェックと校正が逆になったり、承認者不在でフローが逆転して進んでしまうというケースはないのでしょうか?

増井 ■ 開発のパターンによって何日間か校正期間を取らなければならないというルールになっていますが、ギリギリまで納品物がこないこともあります。そういうときは「緊急掲載」というwarningを出しします。そうなるとWebの担当者だけではなく、上司にもすべて伝わり、「緊急掲載を行ないました」というエビデンスが残ります。

みどり ■ ログも残しますか?

増井 ■ はい、ログは全部残します。常時250くらいのタスクが流れおり、ステータスを確認できるようになっています。たとえば新製品のプロモーションがあった場合、ページの更新、メールニュース作成、アンケートフォーム作成のタスクがあれば、すべてが揃うことでジョブの完了とします。それもプロジェクトマネジメントの考え方です。

みどり ■ この登録自体はどこが管理しているのでしょうか?

増井 ■ 私がマネジメントしているWeb専任組織です。Webサイトにコンテンツを掲載したい部門は、このシステムから申請しないと何もできません。中途半端な状態で担当者などが発注してしまう事態が起こらないように、 Webの会計費目を5つ作り、しばらくの間は、Webの部署の経理を経由しないと発注先への支払いができないようにもしていました。オーナー部門が制作会社に勝手に発注した場合、後からいろいろ手間がかかる、つまり,ルールに基づいて発注するほうが仕事がスムーズに進むということを理解してもらうまでは優しく、そして厳しく指導しました(笑)。

みどり ■ 優しく、厳しくですね(笑)。お金の流れを押さえることで、ワークフローとして認識されていなかったものが、根付かせられたということは、それはどの会社でも見習えるところかもしれません。権限をはっきりさせて進めるRACIチャートも、非常に参考になると思います。

増井 ■ Webの仕事に関しては、企業規模や業種や業態が異なっていてもやり方は変わらないものだと思います。制作の内容がどうであれ、仕事の進め方は全く一緒です。なので、ここまで共通化できるはずの仕事を、どうしてみんなバラバラにやっているのか、私は不思議です。

みどり ■ 最近は少しずつ、PMBOKなどプロジェクトマネジメントの考え方を持っている制作会社が増えたかもしれません。いままでは行き当たりばったりでよかったから…という気持ちはなるべく早く改めて、仕事の進め方を共通化していく必要がありますね。

これからプロジェクトマネジメント指向を学びたい人に

みどり ■ プロジェクトマネジメントについて学ぶとき、誰が指揮をとっていくべきことなのでしょう?

ガバナンス

管理、統治。Webガバナンスは、企業のウェブサイトを統括し、一元的に運営する手法、コンセプトのこと。

増井 ■ Web関連の団体の役目だと思いますが、意外と難しいです。この業界はバズワードが多いですよね。昨年だとソーシャルやエンゲージメント、今年だとビッグデータやアトリビューションなどがあります。これらはデジタルマーケティングの手法のことで、 Webのガバナンスや PMBOKといったものは旬ではありません。時代遅れの人が何か言っているよ、ととられてしまうケースもあります。でも、私個人としてはそこをベースにデジタルマーケティングに向かわなければならないと思っています。 Webの分野で プロジェクトマネジメント指向で仕事できない人が、いきなりデジタルマーケティングをものにしようとしても、無理だと思うんですよ。

みどり ■ 本書で少しでも興味をもってくださった方が、これからプロジェクトマネジメントの手法、基本姿勢を学ぶには、何をすればいいでしょうか? 資格試験なども必要ですか?

増井 ■ いえいえ、Webの仕事に携わっている方であれば、わざわざ資格試験まではいらないと思います。Webの仕事そのものがプロジェクトマネジメント指向なのですから(笑)。

みどり ■ 勉強したいと思いながらもどういう本を手に取ればよいのか迷う人も多いと思います。それで、本書を書こう!と思ったくらいです(笑)。

増井 ■ PMBOK 文化なり、視点なり、モジュールや、メソッドが組み込まれた何かがあれば良いのではないでしょうか。そのひとつが、ガイドラインやフレームワークだと思います。もっとプロジェクトマネジメント指向の仕事の進め方を広めていきたいという願いもあって、クリエイティブコモンズで「次世代ガイドライン・フレームワーク」を発表しました。

次世代ガイドライン・フレームワーク
次世代ガイドライン・フレームワーク
https://www.wab.ne.jp/wab_sites/management/framework.html

このガイドラインは、業種も業態も規模も関係なく推奨できる内容となっています。どんな会社でも使える、PMBOK視点が反映されたレームワークです。

「企画」をする企業は多いですが、企業の「思い」、Webサイトに対する価値、品質のレベルなどを伝えるのが「企画・設計」なのです。そしてそれを実際にコーディングに落とすのが「実装」ですが、そのためのガイドラインがない企業が結構多いです。そうすると、発注者と制作者の会話が成り立たず、デザインは作れるが品質は担保できないということが起こります。Webに携わる人たちの共通語、コミュニケーションツールについて、本で扱うなど、世に出していってほしいと思います。

みどり ■ このようなフレームワークを元にしてプロジェクトを回してみることで、気づきがあったり、経験として積み上がっていけそうですね。今後私も参考にします。たしかに、PMBOKの視点を取り入れた プロジェクトに参加したり、実践しているディレクターや プロジェクトマネジャー がいると、いろいろと吸収できるチャンスは増えますね。

増井 ■ Canon.jpのミッションは、価値交換のプラットフォームです。「価値」とは何かというのはWebサイトによって違います。ECサイトであれば私たちが勝ち取る価値は売り上げですし、お客様に提供する価値はひょっとしたら欲しい商品を安く早く手に入れることかもしれません。インフォメーションサイトであれば、私たちが提供するべき価値というのは情報そのものなので、どんな方でも情報を持って帰っていただくことが、私たちが提供する価値です。

みどり ■ もうひとつ、メンバーの教育について教えて下さい。よくビジョン共有など、所属した大企業で研修を受けたり、お客様の会社の研修に参加させてもらったりしましたが、なかなか自分の中で根付きませんでした。一生懸命熱く語り合った人が半年後には辞めてしまったり、逆にに研修も受けていない人が新しく入ってきたりで難しいです。

増井 ■ たとえばリニューアルに向けては、メンバー全員にWebサイトのSWOT分析やコアコンピタンスの分析をさせています。これらの分析結果からリニューアルの方向性を決めていきます。プロジェクト定義の最初の目的や、ターゲット、生み出す価値、プロジェクト成果を考えるためには、最初にこのようなことを行なっておく必要があります。

みどり ■ Canon.jpは第3世代ですよね?いつ第4世代になるのか注目していたところです。

増井 ■ 今は3.5 世代ですね。第4世代は今年か来年ぐらいです。アクセシビリティに配慮する、という目的をもって進めていっても3年くらいかかります。それぐらいの長期にわたると、なぜ今こんな苦労をしているのかということが、メンバー間でもブレてくることがあります。過去2年くらいをさかのぼって、こういう基盤を築いてきてその結果今年の状況がある、ということを教育するためにも、時系列のわかる資料を共有しています。

Canon.jpが目指すWeb品質向上の方向性(2010年)
Canon.jpが目指すWeb品質向上の方向性(2010年)

Web制作ほどPMBOKがハマる業種はない!

みどり ■ これまでも経験を通じてプロジェクトマネジメントの重要性を感じてはいたものの、今日はいろいろとお話を伺ってより重要性を実感でき、さらに気持ちが改まりました!

増井 ■ こんなにPMBOKがハマる業種業態はWeb制作以外にないと思います。「Webサイト制作の実態とPMBOKはどれだけギャップがありますか?」という質問がありましたが、まったくないと思います。

逆にいうとひとりでは何もできない仕事です。ふたりだけのプロジェクトであっても、発注者と制作者がいます。つまり常にどんな仕事も、Webをやっていく以上すべてプロジェクトであり、プロジェクトマネジメントが必要です。プロジェクトでは成果が見えないことは多いと思いますが、お客さんの反応や成果もWebだとよく見えます。こんな楽しいプロジェクトはないです!

みどり ■ ワクワクしますね!

増井 ■ そのために最初にやるべきことは、生み出す価値を共有化することです。生み出す価値がバラバラであれば、どんな高度な PMBOKの方法を使っても、いいものは絶対できません。その前提を崩さなければ、どんな規模のWeb制作も必ず良い方向に行くはずです。

みどり ■ 順番が逆になってしまって、空回りすることがよくありますが(笑)。

増井 ■ まず最初に生み出す価値を共有化すれば、その価値を生み出せたのかどうか制作者も知りたいと思います。そうするとプロジェクトの成果指標が作れます。その成果指標を期待通り作るにはどうすれいいかを、みんな考えます。リソースの配分、コスト配分、スケジュール、ターゲっト。そこがないプロジェクトが多いのではないでしょうか? 納期だけ決まっていて、お金も決まっていて。そこで、「何か良いものを作って!」というような無茶な要求はなくなるはずです。

「こんなにPMBOKがハマる業種業態はWeb制作以外にないと思います」(増井)「プロジェクトマネジメントの重要性が実感できました!」(みどりかわ)
失敗しないWeb制作
  • みどりかわえみこ 著
  • 定価:2,600円+税
  • ISBN:978-4-86267-127-1
  • 発行:ワークスコーポレーション

『失敗しないWeb制作 ~プロジェクト監理のタテマエと実践~』

この記事は、書籍 『失敗しないWeb制作』 の内容の一部を、Web担向けに特別にオンラインで公開しているものです。

Webディレクションをめぐる知識やスキルセットは、さまざまなセミナーで議論されるホットなアジェンダです。本書は、Web制作のプロジェクトマネジメントに特化してキャリアを重ねてきた著者のノウハウを凝縮し、「効果的な仕事の進め方(計画、レビュー、チェック)」にフォーカスを絞り込んだ内容となっています。

下敷きにしたのは、プロジェクトマネジメントの知識体系PMBOKです。ただし、PMBOKに限らずフレームワークの多くは、よほど実経験の中で研鑽を重ねない限り血肉化しません。そこで、著者の体験をもとにしたプロジェクトでの実践方法を解説しています。

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