企業ホームページ運営の心得

共感だけでクチコミは作れない。クチコミ原理は人間の本能

人間の本能を揺さぶるクチコミ術を紹介
Web 2.0時代のド素人Web担当者におくる 企業ホームページ運営の心得

コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。

宮脇 睦(有限会社アズモード)

心得其の弐百伍十伍

遥かそびえたつ壁

ある日尋ねて来た、「広告費用もないので“クチコミ”で広まれば……」という相談者に、私は「それはすばらしい考えです!」とちょっと大袈裟な身振りを交えて褒めてみせます。広告費で張り合えば大手には勝てないので賢明な判断です、と続けます。そして今回紹介する方法をレクチャーします。

各種調査結果からも「クチコミ」の有用性をあげれば切りがありません。それだけ効果のある販促手法があるのに、世界の景気は不透明なままです。なぜなら、

クチコミを起こすのは難しい

からです。それは「共感」を重視する従来の「クチコミ術」の発想。人間の本能に従った「原理」に立てば、「クチコミ」を起こすのは難しいことではありません。その原理についてはもうすでに述べていますが、お気づきでしょうか。

クチコミの究極奥義

さっそく答えを。クチコミを起こしたければ、

褒める

ことです。冒頭で相談者を褒めたのは、クチコミを起こす仕掛けです。後半で指摘しますが、従来の「クチコミ論」で大切とされる「共感」は机上の空論に過ぎません。Twitterなら、客が購入したことを褒め、使用感を述べたことを褒め、褒めるところがないツイートなら「(すばらしすぎて)言葉が見つからない」と褒めます。とにかく、自社の商品やサービスに触れたツイートに対して褒めちぎります。誹謗や中傷ですら褒めます。

  • 貴重なご意見ありがとうございます
  • 新しい発見でした!
  • 素敵なアイデアですね

などなど。人は褒められれば、それを語りたくなります。リツイートや「拡散」が期待できるだけでなく、街角で「ツイッターで褒められた」とほほを赤らめ、帰宅した亭主が飽きるまで興奮気味に語る主婦の姿が見えるかのようです。

クチコミが聖域化した理由

ネットにおいての「クチコミ」の歴史は古く、草の根BBSの頃にまでさかのぼります。もっとも、SNSで喧伝されるメリット大半が、かつての歴史の焼き直しなのですが、再度注目を集めるようになったのは、ブログが爆発的に普及した2006年頃です。それ以降、数々の「クチコミ本」が登場しました。

多くのクチコミ本では「共感」が大切と結論づけます。そして共感を得るためにと紹介される手法は、「自分の言葉で書く」や「継続することが大切」といったことですが、それらを実践してもクチコミは起こらず、実力や努力が不足していると己を責めた人も多いことでしょう。しかし、その手法だけでクチコミが起こらなかったのは当然です。クチコミ本が悪いのです。無名の素人に「共感」を求めさせるコトに無理があるのです。

すでに有名な人の話

ベストセラーが生まれるには読者との「共感」が不可欠です。どれだけの名文、美文、金言をもってしても、読者の共感が得られなければ「売れる」ことはありません。文章による「共感」とは、プロの作家が血の滲む努力の果て、神に祈ったとしても必ず得られるものではなく、自動販売機に小銭を入れればジュースがゴトンと出てくるように、素人がちゃちゃっとツイートしてゲットできるものでもありません。クチコミ本で説く「共感」を机上の空論と切り捨てる理由です。

ただし、クチコミ本が悪意を持って書かれているのではありません。ネットクチコミ系の著者の多くは俗に「アルファブロガー」と呼ばれる方もいる「ネット有名人」です。彼らにはすでにファンがついており、ひとたびつぶやけば何十何百とコメントが書かれ、ツイートはリツイートされます。彼らの唱える「共感」とは、こうした分母ありきの話で、無名のネット市民がどれだけ大声で叫んでみても、聞こえてくるのは閑古鳥の鳴き声か、PCの冷却用ファンの音だけです。

そもそも彼らがファンを集めることができたのも、普及期(成長期)という市場が急拡大する時代にマッチしたという要素が大きく、だれも見知っている安定期での人集めの難しさを知りません。

ネット≒アニメ≒ゲーム

クチコミがほしいなら「アルファブロガーに記事を書かせろ」と主張する著名人もいました。ネットコミュニケーションに慣れた彼らのファンがクチコミを始め、それが呼び水になるというものですが、これなどは「ステマ」ぎりぎりの手法で、もちろん、一般人には真似できないクチコミ術です。

「共感」そのものは否定しませんが、共感を得るためには「同じ価値観(目的)」の共有が前提となります。たとえば、アニメファンとゲームマニアは「≒(ニアイコール)」でつながれており、それぞれの属性の中で共感を得ることは難しいことではありません。あるいは子育てが軸となる「ママ友」のコミュニティもこれに準じます。そうした集まりの中で、テーマを絞ってつぶやけば共感を得ることも不可能ではありません。しかし、こうして客層を絞り込める商売は少数派なのです。

「褒める」なら業種も属性も関係ありません。無名のブロガーでも弱小企業でも。大切なことなので繰り返しますが、それは人間の本能なのです。

人を動かす技術

マズローの欲求5段階説。下層から次の順に分類

  1. 生理的欲求
  2. 安全の欲求
  3. 所属の欲求
  4. 承認の欲求
  5. 自己実現の欲求

他人に認めてもらいたいという「承認欲求」とは、人間の欲求を5段階に分類した、マズローの欲求5段階説の「生理」「安全」「所属」の上にある4段目の本能的欲求です。犬は犬であることを疑いもしませんし、家族の役に立っているのかと自問して悩むことはありません(そう見えるのは飼い主の思いこみとのこと)。「褒める」という行為で「承認欲求」を満たしてあげます。

さらに、5段目の欲求にあたる「自己実現」は、褒められた自分=称されるべき存在であることを触れ回ることで満たされます。それが「クチコミ」です。それをもっと簡単に言えばこうなります。

人は褒められると自慢したくなる

これが簡単にクチコミを起こす原理です。犬はいくら褒めても、他の犬にそれを自慢したりしません。

冒頭、私が相談者を「褒めた」のも同じ理由。プロの私に褒められたと行く先々で自慢してくれ、弊社はクチコミだけで商売が成り立つようになり、先日お伝えしたようにTwitterを遠ざけても平気……となりました。

今回のポイント

褒められれば人はクチコミしたくなる

「共感を得る」は、言うは易く行うは難し

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