編集部ブログ―池田真也

広報部門が考えるべきKPIとKGIとは

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広報部門が考えるべきKPIとKGIとは

セミナー後半では、アクセス解析研究会で実際にコンセプトダイアグラムを作成した3社が講演した。業種や顧客の異なる3社がどのような考えでコンセプトダイアグラムを作成し、サイト運営へと応用していったのだろうか。第3部では、独立行政法人物質・材料研究機構(NIMS)で広報を担当する、企画部門 広報室 荻野 寛氏が講演し、広報の役割や広報が考えるべきKPIとKGIについて解説した。

独立行政法人物質・材料研究機構
荻野 寛氏

NIMSの公式サイトは、「インターネットを通じて外部とコミュニケーションするための広報手段の1つ」として運営され、ニュースやプレスリリース、組織情報を中心にNIMSの各種情報を発信している。企業でいえば、幅広い層を対象としたコーポレートサイトに近い。

一方で、「これまでは指標を設定できずにアクセス解析も漫然と行っていた」と荻野氏は話す。「対象とすべき層の広さ、公的機関の広報特性などから、具体的な目標や指標をどのように定めればいいのかわからずにいた。アクセス解析研究会でコンセプトダイアグラムの考えとKGI、KPIの重要性を知り、ユーザーの意図を汲み取って指標を策定することが重要であることに気づいた」という荻野氏。こうしたなか、コンセプトダイアグラムを用いることで、一般利用者と研究関係者の2つの軸があることがわかり、利用者のゴールがWebのKGI達成につながることが見えてきたという。

NIMSのコンセプトダイアグラム

広報的なWebサイトの役割から、KGI(ゴール)は「継続的な認知向上と外部との関係構築」とし、WebサイトのKGIは、複数考えられるなかから、「継続的なユニークユーザーの向上」に設定された。KGIと相関する広報KPIとしては、「メディア放映と掲載数」「共同研究や特許、共用設備などの利用件数」「イベント・セミナーなどへの参加者数」「広報が窓口の外部問い合わせ数」「広報誌の読者数やWebサイトの利用状況」を設定していった。

また、Twitterやニュースサイトなどの流入と遷移フローから、Webサイトの具体的なKPIとして次の5つを挙げた。

  1. 組織名による検索の流入数および平均サイト時間と平均PV

    ブックマーク代わり使う人もいるが、少なくとも組織について知っている人であると想定

  2. 検索経由やニュース系サイト経由のプレス記事流入数とその直帰率、滞在時間

    ニュースになった記事だけでなく、他の研究も見ていれば、組織や研究に興味をもってくれていると想定

  3. 企業・大学からの研究系情報流入数、滞在時間、平均PVと関連ホームページへの離脱

    NIMSの研究成果を調べたり利用したいという人がどれだけ使ってくれているか。使うほど理解が深まる

  4. 一般向けコンテンツの流入数、滞在時間と関連リンクへの遷移数

    関連リンクによって、一般向けコンテンツから派生する内容のページへと遷移すれば、それだけ活動を認知してもらえる

  5. 全体UU数と平均PV数

    参考程度ではあるが、組織を知っている人がどれほどいるのかを知る

これらのKPIをもとにした継続的な認知向上の施策として、荻野氏は、NIMSに親しみを持ってもらうための紹介コンテンツ、プレス記事に関係する周辺情報の提供、研究関係者用の実用コンテンツ・情報の充実、一般向けの読み物や解説記事の充実、TwitterやSNSなど外部サービスによる一般層への露出増加などに取り組んでいることを話した。

最後に荻野氏は、「公式サイトは広報全体のKPIの1つ。独立しているわけでなく、認知度を上げる要因はメディア発表やイベント参加、見学対応などがあり、積み重なって達成できるが、これらの指標は、公式サイトの認知度が上がっていることを確認できる指標の1つになるのではないかと思う。また、大学生・大学院生向けなど、サイトの構成が変わればコンセプトダイアグラムも変わり、KGIやKPIの見直しも必要になる。今後の課題としては、ほしいデータを得るためにツールを使いこなすこと」と話し、今後は指標をもとに施策の見直しを重ね、PDCAを回していきたいと講演をまとめた。

Logic×Passionでみるサイト導線のポイント化

株式会社Z会
溝呂木 聰氏

第4部では、Z会 広告宣伝課 Web・宣伝統括担当 溝呂木 聰(みぞろぎさとし)氏が「Logic×Passionでみるサイト導線のポイント化」をテーマに講演し、成果を達成するための施策として、説得のためのLogicと、感情に呼びかけるPassionの2つの軸をもとに取り組んだ事例について解説した。

通信教育でおなじみのZ会。以前はWebサイトの役割やKPIを設定せずに、請求までの導線ページがどれだけ見られていたか、アクセス解析の結果をイントラに公開する程度だったという。そこで、Z会ではまず改善の骨子として、Webサイトの役割を請求に絞り込み、「請求」数をKPIに設定した。次に、教材の詳細や会費ページを見ている人はその後の請求率が高いことから、Google Analyticsで請求完了ページを目標地点に設定した。

KPI改善の施策として、まず教材の中身を簡単に把握できる「5分でわかる幼児コース」などのコンテンツを拡充した。結果、これらのページを見た人のCVRは他と比べて高くなったが、「商品の説明や導線だけを整備しても限界があるのではないかという思いがあった」と溝呂木氏は話す。

そこで考えられたのが、感情へと呼びかける「Passion」というコンテンツだ。「小額の商品ではないため、購入いただくためには十分納得していただかなくてはならない。理詰めで商品を説明し(Logic)、頭で理解してもらうだけでなく、心でも感じていただくこと(Passion)が必要だと考えています」と溝呂木は話し、Z会の教材開発に関する思いを伝える「Z会の遺伝子たち」について説明した。他にも、「作文クラブ」「けいけんクラブ」「Z会ブログ」などのコンテンツがPassionに当てはめられる。

しかし、実際にどのようにアクセス解析を行い、改善を行っていけばいいのかわからない。そうしたなか、アクセス解析研究会でLogicとPassionの2つの軸を設定し、改善していくことを教わったと溝呂木氏は話し、研究会で作成したコンセプトダイアグラムについて説明した。

Z会のコンセプトダイアグラム

Z会のコンセプトダイアグラムでは、ゴールをCV(コンバージョン)に設定し、CVを達成するためには、顧客のLogicとPassion両方を高めることが必要だとした。また、各ページを目標地点としてポイントを設定し、スコアリングを行ったという。たとえば、カリキュラムのページを見た人はLogicに1000ポイント、会員の声ページを見た人はPassionに1000ポイントなど、1ユーザーのポイントを累計し、流入元ごとに集計した。

2つの軸とポイント化によるアクセス解析の結果、流入元によってLogicとPassionに偏りが見えてきたという。ポイントの偏りはCVと連動しており、溝呂木氏はあるポータルサイト経由の流入について、「入り口としては、Passionのポイントが高いとCVが良いのではないかという仮説があった。実際に分析していくと、Passionのポイントが高い人はCVRが高いという結果がわかった」と説明した。

2つの軸をもとに、サイト内の導線や流入強化にも取り組んだ。たとえば、リスティング広告でランディングしたユーザーはLogicのポイントが高くなるため、Passionコンテンツへのリンクを設置し、より共感を得てもらえるように導線を強化した。また、ブログサイトや教育系サイトなど、外部の広告施策については、直接CVに結びついていないとしても、Passionのポイントが高いなら間接効果を上げているといった判断が可能になったという。

組織を縦断する社内レポーティング体制の強化

大阪ガス株式会社
三上 彩氏

第4部は視点を変え、大阪ガス 情報通信部 情報ソリューションチーム 三上 彩氏が、社内でアクセス解析結果をどのように共有して活用すればいいのか「解析結果を社内でどうやって共有するかを話し、効率的なレポーティング手法に悩む方の参考にしていだたきたい」と、講演を始めた。

大阪ガスのサイトは、三上氏の所属する情報通信部がサイト運営にかかわるインフラの管理、全社で利用するシステムの管理、選定などを行い、各種ツールによる分析も担っているという。アクセス解析では、アクセスログの定点観測を行い、月報をエクセルで作成してメールベースで社内共有してきた。

しかし、社内のアクセスログデータの活用・課題として、「Web担当のなかでも分析しているのは一部。見えるかの範囲を拡大して、営業や経営者にも、アクセス状況をだれでも容易に把握できるようにすること」と三上氏は話す。すべての組織がアクセスログの定点観測を行っているわけではなく、必ずしもKPIに基づく報告がされていない問題があった。また、アクセス解析ツールの習熟の違いによってデータの取得・報告に時間がかかることも課題として挙げられた。

アクセスログデータ活用の課題

こうした課題を解決するために、アクセス状況のレポーティングポータルの作成を社内提案したと三上氏は話す。組織によっては、分析にリソースが避けない場合もあるため、アクセス状況をだれでも容易に把握できるように、ポータルを選択した。具体的な取り組みとして、「ログデータ抽出・集計の自動化」「KPIの見える化」「レポーティング共有の効率化」の3つを行った。

ポータルサイトでは、ログデータ抽出・集計の自動化し、担当者が見るべき指標をあらかじめ見せることで、データ抽出の業務を効率化した。日次で見るべき指標や、月次で見るべき指標を分けて見せるなどの工夫をしているという。また、見える化への取り組みとして、コンセプトダイアグラムをもとに整理したKPI指標の推移がわかるようにしている。レポート共有は、コーポレートサイトでも採用するCMSを使い、ポータル上でWeb担当が評価コメントを掲載できるようにするなど、ポータル内で完結できる仕組みを整えた。メールからポータルサイトでの共有に移行し、効率化に取り組んでいる。

三上氏は最後に、今後の課題と展望について「見える化によってアクセスログの活用が社内に浸透できたと考えられますが、これだけでサイトの状況がわかるわけではないので、次はWeb担当者の分析力強化に取り組みたいと思います。アクセスログというのは、サイトの状態を知るだけでなく、サイト内の動きからお客様のニーズや行動を詳細に知ることができる指標です。こうした指標をWeb担当だけでなく、営業や経営層と共有し、Webからお客様の動きをいち早くとらえ、意思決定や営業につなげていける体制を目指したいと思います」と話した。同社ではすでに、アクセスログと店舗の購買情報を結びつけるために、アクセスログとCRMの連携に取り組んでいるという。

コンセプトダイアグラム作成の基本はスクラップ&ビルド

各社の講演終了後には、パネルディスカッションが行われた。研究会で作成したコンセプトダイアグラムの効果について触れられると、「誤解を解いてみんなで見るべき指標を同じ認識でみることができた」「今までは戦略的な部分は経営層に任せていたが、コンセプトダイアグラムを作ることで、戦略的な部分に目を向けられた」といった声が上がっていた。

また、コンセプトダイアグラム作成のポイントとして、異なる軸をもたせることや、1人ではなく様々なステークホルダーと一緒にスクラップ&ビルドを繰り返して作ることがアドバイスされた。今回のセミナーは、16時間におよぶアクセス解析研究会の成果を3時間に圧縮して共有するものであったが、実際の研究会では複数の担当者が議論を交わしながらコンセプトダイアグラムを作成している。Web担当チームだけで作るのではなく、Webの知識が異なるメンバーを巻き込むのも有効だ。オンラインだけでなく、対面で接客をする店舗担当者の声を聞くのもいいだろう。

コンセプトダイアグラムには正解がなく、その企業にベストと思われるものを決めるのは、各社の担当者だ。今回のセミナーで紹介されたものは、各社にとってベストと思われるものなので、Web担読者のみなさんには、自社にあったコンセプトダイアグラムの作成にチャレンジしてもらいたい。そうすることで、アクセス解析データだけでは見えてこない、新しい発見があるはずだ。

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