企業ホームページ運営の心得
絶対秘密の広告代理店のホンネ。ステータスメリットか本能的デメリットか

独立したとき、広告代理店との取引を断りました。ビジネスはトレードオフ、メリットの裏にはデメリットの影もあります
Web 2.0時代のド素人Web担当者におくる 企業ホームページ運営の心得

コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。

宮脇 睦(有限会社アズモード)

心得其の百伍十七

誘惑を断ったわけ

編集者との顔合わせで必ず「本業」について訊ねられるのは、いまどき「著述業」だけで食べている人は「まれ」というのは出版業界の常識からです。「収入面からいえば圧倒的にホームページ制作とコンサルティング」という答えに、編集者は「(広告)代理店ですか?」と受注先についての質問を続けます。これには即答で「ノー」。独立して以来、一度も代理店案件を受けたことはありません。

私の場合は「起業」というより、フリーランスとしての「独立」で、この場合、広告代理店などと組んだ方が「効率的」であることは知っていましたし、その誘惑がなかったわけでもありません。しかし、私は広告代理店との取引を断りました。それは代理店の「本能」を知っていたからです。

通常は「企業内Web担当者向け」に執筆している本コラムですが、今回は「ホームページ制作業者」に贈る特別編、広告代理店について。ちなみに「起業」という言葉がブームになったのは独立してしばらくしてからでした。

絶対的メリットはある

フリーランスになると、肝心の制作作業はもちろん、新規顧客の獲得に既存客のフォロー、入金管理まで1人で行わなければなりません。顧客数の増加に手間暇は比例し、作業は増大します。打ち合わせの日程調整に原稿提出期限の管理にあたれば「約束を守らない大人」の多さに閉口し、仕事を依頼したら金を払うという「社会の常識」が通じない人もたくさんいます。これらの手間を軽減できるのは、広告代理店と取引することの大きなメリットです。100の「案件」でも広告代理店との取引なら窓口は1つで、制作作業に没頭することができます。

また、代理店の持つ「人脈」は仕事の幅を広げてくれます。媒体が絡む案件となると「代理店経由」でしか受注できないことも珍しくなく、「ステータス」となる案件を望むなら広告代理店とのコネクションは欠かせません。

最大のデメリットは

次はデメリット。無茶なスケジュール設定に急な仕様変更、プレゼン用の「サンプルサイト」は公開できるレベルの「完成品」を要求され、口約束が反故されることは日常茶飯事です。現場のデザイナーのケータイ番号を知りたがり、下請けの指揮系統を無視して指示を出すことを悪びれることはありません。そしていったん、ケータイ番号が渡ると、深夜や休日もお構いなしに、翌日でも休日明けでも間に合う、どうでもよい確認事項の確認をします。また連絡が行き違っても彼らが自分の責任と認めることは奇跡に近いレベルです。

こんな広告代理店ばかりじゃない……と願いたいところですが、私の知っている会社は似たり寄ったり。デメリットを一言で述べれば「振り回される」でしょうか。

彼らの事情

しかし、彼らに悪意があるわけではありません。「個人」としては下請けの幸せを考える度量を持ち合わせ、みんなで一緒に幸せになりたいという人類愛だって標準装備しています。しかし、それらを超越する広告代理店の行動原理が「クライアント」です。

無茶な変更とはクライアントのご意向です。完成品のサンプルを求めるのもクライアントのリクエストで、サンプルより現物を喜ぶのは自明ですし、直接現場に指示をだすのは、クライアントの「思いつき」を伝えるためです。そしてクライアント以外への連絡や確認は「些末」なことで曖昧に扱います。

広告代理店の世界でクライアントと利益は同義です。そして先進的なデザインや機能を示しても、クライアントが頷かなければ何も始まりません。決定権と利益の差配を司るクライアントを中心とした「華夷秩序(かいちつじょ)」のようなヒエラルキーが生まれ、中心から遠くなる下請けを軽んじます。余談ですが、一般的に「取引先」とはクライアントを指し、発注先を「下請け」と呼ぶのもヒエラルキーの上下を考えれば当然でしょう。

代理店システムの本能

極論を述べれば広告代理店とは「取次業」です。クライアントから受けとった金額から、下請けに支払う代金の「差額」が彼らの利益です。彼らの理想の下請けの条件は「安くて腕がいい」です。

私が広告代理店に勤めていた当時、相場ならば最低でも30万円はする下請けデザイナーへの代金を4万5,000円に「交渉」したことがあります。クライアントのリクエストを叶え、かつ自社の利益を確保するにはこの額しかなかったのです。プログラマ出身で「モノヅクリ」の側にシンパシーを覚える私の心は痛みましたが、広告代理店の営業マンとして職責と言い聞かせて歯を食いしばります。交渉がまとまったことを上司に報告すると次のようにつぶやきます。

そうか、(その金額で)できるんだ

そして、他の案件まで値引きさせようと目が輝きます。さすがにこれは身をていして止めましたが「差額」で稼ぐビジネスモデルは常に支払いを少なくしたいという本能を持っているのです。

私が代理店経由の仕事を受けなかった理由がこの差額ビジネスモデルです。今の関係が良好でも「値下げ交渉」に巻き込まれるのは火を見るよりも明らかで、これを「めんどうだなぁ」と避けたことが最大の理由です。

両刃の剣が良く切れる

朝は朝星、夜は夜星と働いたある「ホームページ屋」は先日、業態転換しました。儲からなかったのです。代理店からの仕事は順調に入りますが不況を理由に単価を下げられます。また、些細なミスでもペナルティの対象で、減額の要求や次回の見積もりで「サービス」を強制されます。気がつけば社長というより「中間管理職」で、社員に給料を支払った残りの手取りは中小企業の係長並みです。そしてホームページから足を洗いました。反対に広告代理店と組み、メディアを巻き込んで急成長した企業もあります。

代理店とは良く切れる両刃の剣です。ビジネスはトレードオフ。広告代理店の「中抜き」はメリットを得るための正当な手数料であり、どちらか一方が搾取されているのではありません。毒を薄めれば薬となり、飲み過ぎれば中毒症状を引き起こします。つまりどちらを選ぶかということですが……大きなメリットにはデメリットの影が色濃く広がります。

今回のポイント

広告代理店の作用と反作用。

リスクを踏まえた上で取引をする。

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