注目企業のネットビジネス戦略

パブリック・エンゲージメントというPR戦略とは?/米エデルマン

世界的なPR会社エデルマンのCEOに、同社が提唱するPR戦略、パブリック・エンゲージメントについて聞いた

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注目企業のネットビジネス戦略

エデルマン
http://www.edelman.jp/

パブリック・リレーションズから
対話と行動を通じたパブリック・エンゲージメントへ

取材・文:諏訪 光洋(株式会社ロフトワーク)

去る2009年冬、世界最大の独立系PR会社であるエデルマンのCEOリチャード・エデルマンが来日した。世界52の拠点を有し、数多くのグローバ ル企業を顧客にもつエデルマンは2009年、英国のPR専門誌であるPR Weekの「PR Agency of the Year 2009」や、米広告専門誌Advertising Ageの「Book of Tens: Agencies of the Decade」などにも選ばれる世界屈指のPRコンサルティング会社。

日本企業、特に大企業にとってこれまではコミュニケーション戦略のパートナーを担ってきたのは広告代理店であり、PR会社は主要なプレイヤーではなかった。しかしウェブを中心とした「市場との対話」が重要になるにつれ「広告」よりむしろ市場との「対話」を重視してきたPR会社のノウハウは日本でも注目をされつつある。

企業コミュニケーションにおける世界屈指のプレイヤーのトップは日本企業のコミュニケーションのありようをどう捉えているのか。そして今後はどう考え、どう変わるべきなのかを聞いた。

対話と行動を通じてより良い関係を構築する

米エデルマン
プレジデント兼CEO
リチャード・エデルマン

●諏訪 光洋(以下、諏訪) エデルマンは「パブリック・リレーション(PR)からパブリック・エンゲージメントへ」という考え方を提唱しています。「パブリック・エンゲージメント」とはどういう意味なのか、という所から話をお聞かせください。

●リチャード・エデルマン(以下、リチャード) 最初から良い質問ですね。「パブリック・エンゲージメント」が意味するもの、それは「行動」と「対話」です。我々人間は意思をもって行動し、他者と対話を行います。企業も同様です。利益をあげるため、成長するための経済行動にはなりますが、社会の中で意思を持って行動を行い、外部とコミュニケーションを行っています。広告などの一方的なコミュニケーションの結果だけではなく、行動全体や対話が社会との関係を築くものであり、外部との関係がどんどん重要になっている。対話と行動を通じてさまざまなステークホルダーとの関係を築く。信頼を得て、目的を共有し、より良い関係を構築する。それが「パブリック・エンゲージメント」です。

●諏訪 つまり市場に対して表面的で一方的なコミュニケーションを行うのではなく、企業はより深い部分で社会と対話を行う必要があるということですね。確かにTwitterなど新しいテクノロジーやサービスも生まれ、企業もそういったサービスを社会との対話に使い始めています。こうした環境の中で、企業が心がけるべきこととエデルマンのようなPRコンサルティング会社が提供するサービスの価値はどこにありますか?

●リチャード 質問の最後から答えましょう。我々のようなPRコンサルティング会社のサービスには「メディアとの関係構築」という重要なミッションが含まれています。企業に適切なメディアを選び、関係を構築する。最近では(あなたが指摘をした)ユーザーとの直接的な対話も含まれ始めています。

ブログを通じた対話もそうです。「インフルエンサー」と呼ばれる人々への働きかけも大切です。すべてのコミュニケーションを「エンゲージ」したいターゲットに対して適切に配置する必要があります。ある大学教授が最高のインフルエンサーであることもあります。各国政府の窓口かもしれません。企業の熱烈なファンであるユーザーは重要ですし、あるいはその組織で働く従業員こそ、対話をする必要があるかもしれません。

今や企業にとって、あらゆる人々がステークホルダーになり得ます。そして企業はすべてのステークホルダーに対して対話をする必要があります。エデルマンのような企業はそのために存在しています。

●諏訪 ちょっと意地悪な質問なのですが、企業は今やWebやソーシャルなツールを使って顧客と直接対話ができるようになっています。エデルマンのようなPR会社の役割は相対的に小さくなっていると考えられませんか。あるいは役割が変化しているのでしょうか。

●リチャード 意地悪な質問も大歓迎ですよ(笑)。私は逆にPR会社の役割は増えつつあると感じています。以前はPR会社の役割は広告の補完的な役割でした。PR会社の多くは小さく、いわば「犬の尻尾」のような存在でしたが、今は違います。今日ではPR会社は企業の行動を決定する役割を担い成果を生み出しています。企業とその顧客やターゲットに対してコミュニケーションを促進する役割、そして企業と従業員のコミュニケーションを促進する役割まで担っています。我々は企業にとってますます必要とされる「対話」を橋渡しする役割を持っているのです。

社会と戦略的に対話する企業構造が求められる

●諏訪 最近になって、BtoC企業だけでなくBtoB企業もユーザーや社会とのコミュニケーションが重要であることに気づき始めています。BtoB企業にメッセージはありますか。また日本企業、特に大企業はコミュニケーション戦略を広告代理店に任せるケースが多かったのですが、エデルマンをはじめとするPR企業が広告代理店と異なるポイントはどこなのでしょうか。

●リチャード 企業のコミュニケーションは「メッセージをコントロールする」ことを中心にコミュニケーション戦略をつくりあげてきました。だから広告と親和性が高かったのです。一方でPR企業はニュースリリースや記者発表会などを通じて客観的な記事掲載を得ることで、企業の「クレディビリティ(信頼性)」を向上させる活動をしてきました。

私が思うに、賢い企業は「コントロール」と「クレディビリティ」がトレードオフにあることに気づき始めています。ユーザーからの好意的な声だけではなく、批評や批判を受けとめることでその企業は信頼を得るのです。PRと広告の役割を比較するとPRの重要性がより増しているのは事実でしょう。

BtoB企業に関してですが、コミュニケーションを戦略的に組み立てて実行するにはもう少し時間がかかると我々は考えています。ぜひ、諏訪さんのロフトワークでその顧客と友好な関係を築いて、我々のためにコミュニケーションの重要性を伝えておいて下さい。もちろんこれは冗談ですが(笑)。

●諏訪 努力しましょう(笑)。日本企業の海外進出に関してはどうでしょう。日本市場が停滞していることから海外市場に期待している日本企業も多いと私は考えます。パブリック・エンゲージメントという視点で見て、海外にこれから進出する企業にアドバイスはありますか。

※編注:ゴリアテは旧約聖書に登場する巨漢の戦士で、羊飼いの少年ダビデに倒されたことから、小が大を打ち負かす例えとして使われる。

●リチャード 日本企業はもう十分にグローバルな活動をしていると思いますよ(笑)。しかし、中国をはじめとした新しいマーケットはますます大きくなっていますし、海外を目指す企業も増えるでしょう。その中で企業がすでに進出している大企業やその国の企業と競争関係にあり不利な状況でビジネスを始めなければいけないこともあるかもしれません。ゴリアテとダビデの話は知ってますよね、巨人のゴリアテと勇者ダビデです。ゴリアテが恐れるのは何か。それは透明性を確保し社会と戦略的に対話を行う構造を持つスマートな企業です。恐れる必要はありません。

●諏訪 パブリック・エンゲージメントの効果はどのように測定すればよいでしょうか。あるいは、どのような目標設定をすべきでしょうか。

●リチャード PR企業が昔から使用していた指標は「広告」です。メディアが取り上げて記事になった場合、そのスペースを広告として買うといくらかかるのか。たとえば、新聞に20行の記事が掲載された場合、そのスペースを広告で購入した場合にいくらかかるのか、これが1つの目安でした。しかしその指標は変わりつつあります。まず質と量の問題があります。新しい製品やサービスがメディアに記事として取り上げられた場合、広告と比較して8倍、10倍どころではなく実際は20倍の信頼を生み出します。広告はお金さえ払えば出せますが、メディアには客観的で第三者視点で書かれた記事が掲載され、その信頼性をユーザーは知っているのです。その信頼性こそがパブリック・エンゲージメントの価値なのです。

それではどうやって効果測定をするのか。まず、コミュニケーションのトーンを把握する必要があります。ネガティブなのかポジティブなのか、それが企業の信頼感にどう関わるのかです。2つ目には「誰が話しているか」ということです。記者なのか、インフルエンサーなのか。会話の頻度はどうか。3つ目は波及効果です。誰がそのストーリーにつながっているのか、どれぐらいの人数がどのような会話をしているのか。この3つが基本的な効果測定の指標となります。

●諏訪 「誰が話すのか」という話がありましたが、日本企業の弱みとして経営者のリーダーシップや市場との対話力の問題があると思います。PR会社はそういった企業トップの「対話」を代わりに考えてもらう、そういったことは期待できるのでしょうか。

●リチャード たとえば、CEOブログの投稿をPR企業が代わりに行うのは現実的ではありません。それはPR企業の役割ではないですし、それをするべきではないでしょうね。ニュースリリースやCEOスピーチ、また新規事業やR&Dの状況など情報の「素材」に対して効果的なPRを考えることはできますが「代弁」はするべきミッションではありません。

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