連載衣袋宏美のデータハックス
サイトを着実に改善する目標設定の仕方 [アクセス解析tips]

衣袋 宏美(株式会社クロス・フュージョン) 2010/1/14(木) 11:00 (17)この記事をはてなブックマークに追加(30) 印刷用印刷用
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衣袋宏美のデータハックス

Eコマースサイトを除いては、ネットビジネスでは予算付きの事業計画をきちんと作成している会社が非常に少なく、目標設定を行うプロセスが欠落したまま成り行きでサイトを運営していることが多い。また、業界平均値などを基準に目標を設定する方法では、具体的な行動にはつながらない。では、ネットビジネスではどのように予算を作ればよいのだろうか?

なぜかネットビジネスだけ事業計画を立てない

ネットビジネスでは予算付きの事業計画をきちんと作成している会社が非常に少ない。会社の中ではどんなに新規のビジネスであっても、普通は事業計画を立てるときに予算を作り、それと対比することでより行動を促すことにつなげる。また起業時にお金を集めるときにも、ある程度の売上や収支、スケジュールを立てて実行する。リアルのビジネスだと当たり前のこととして実行されていることが、なぜネットビジネスではその通常のビジネス思考が止まってしまうのかが不思議なところだが、これが常のようだ。

おそらく問題なのは、通常のビジネスが「お金」をベースにきちんと管理されているのに対して、ネットビジネスは何を基準に評価したらよいのか明確でないということに行き着くのだと思う。その点、ネットビジネスでもEコマースが比較的明快にビジネスを動かしているのは、「お金」すなわち売上や粗利益などを基準として運営しているからだろう。

そう、結局どう目標設定を行うのかというプロセスが欠落しているということだ。だからネットビジネスで行った施策の結果も、どう測ったらよいのか、わからないわけだし、結果の評価ができないのだ。

目標設定をしないことによる副作用としてはこんなことが考えられる。たとえば、どう考えても「サイトの利用者数」が目標とはなり得ない場合であれば、当然のことながらアクセス解析でも「サイトの利用者数」の指標は重要指標にはならないはずなのだが、なぜか無意識に常にレポートされる重要指標に入っている。何を伝えるべきかが明確であるなら、伝えるべき指標と伝えなくてもいい指標がきちんと取捨選択されているはずだ。そのあたりがきちんと意識されていないレポートは、レポートの本来の役割を果たせていないし、いたずらに読む人を混乱させるだけである。

業界平均値を基準にして予算を立ててはいけない

冒頭に新規ビジネスを立ち上げるときには普通、予算を作ると言ったが、ではネットビジネスではどのように予算を作ればよいのだろうか?

たとえば通常のビジネスの場合、「事業部Aの新製品Xのある月の売上高」の予算を作るときに、競合やシェアといった外部環境を考慮に入れないという前提だと、さまざまな自社の過去データを想像するしかない。事業部Bのケースはどうだったか、事業部Aの新製品Yのケースはどうだったか、といった過去の経験を参考にせざるを得ない。また2か月目であれば、目標は対前月比で考えるしかないし、2年目であれば各月の予算は、対前年同月対比で考えるのが普通だ。

ネットの場合でも同じように考えたらどうだろうか。前回記事「コンバージョン率2.8%、カート放棄率59% - この平均データをどう活用するのか?」の中で、コンバージョン率の業界平均値からだけでは具体的な行動が取れない、という話をした。もちろんうまく活用できる競合比較データもあるが、コンバージョン率などに関していえば、他所と比べて一喜一憂しても具体的な行動はとれない。ネットビジネスで予算を作成する際には、現実的に「過去の5%アップ」とか「10%改善」など手が届く範囲の数値目標を設定し、過去実行してきた施策と比較して「改善策」を考えるといった建設的な方法を取ることをお勧めする。

コンバージョン率至上主義の罠

またコンバージョン率というデータに関して言えば、キャンペーンを行って大規模な集客を行えば、当然効率は落ちるので、コンバージョン率は下落するだろう。だからといって、コンバージョン率を高くすることを目標にして、既存顧客だけを狙ってメルマガしか打たないようであれば、濃いユーザーだけが残り、結局は総売上(あるいは利益)は落ちていくに違いない。

このように考えると、コンバージョン率は単に高ければよいということで判断してはいけないことも明らかだ。

下の表は、あるサイトのコンバージョン率の4か月間の推移であるが、何も施策を行わなかった5月と6月のコンバージョン率は非常に高いのだが、このままでは売上が先細ってしまうことは明らかだ。7月に大規模のなキャンペーンを実施したところ、全体のユニークブラウザ数は大幅に増えた半面、コンバージョン数は同じ割合では増えるはずはないので、当然のことながらコンバージョン率は下がった。

ユニークブラウザ数 5月 6月 7月 8月
全体 11,987 12,459 85,906 525,043
購入 603 598 749 1,950
コンバージョン率 5.0% 4.8% 0.9% 0.4%
表1:4か月間のコンバージョン率の推移

もしキャンペーンを実施した7月の予算目標を設定するのであれば、前回やったキャンペーンと比較して、より効率の良いキャンペーンを行うことといった視点で目標管理すべきだ。6月と7月では実施している施策も目標も明らかに異なるのであるから、月平均のコンバージョン率の絶対値を単純に追っていくということがナンセンスである。もちろん、これらを“ならして”中長期のコンバージョン率のトレンドを追っていくということは、場合によっては必要なことだと思うが、それはあくまで補足的なデータとして活用すべきである。

顧客に直接聞くアンケート調査の活用

アクセス解析からは少し離れるので、簡単にしか触れないが、「改善」を進めていくうえで、よりどころとすべきは、これまでに説明した「相対的なデータ比較」ともう1つは「直接顧客に聞く」という方法だ。もちろん顧客の言うことが常に絶対的に正しい訳ではない。自分の理想を回答する場合もあるが、こちらもトレンドで見たりしていくといった慎重な見方が求められる。

アンケートに答えてもらうのではなく、実際ユーザーの行動を観察して判断するという方法もあり、こちらは最適なパターンはどれなのかを比較的容易に導き出せるようになってきているツールもある。少し質の異なるものも含めて箇条書きしておくので、詳しく知りたい方はその筋の専門書を参考にしてほしい。

  • サイト訪問者へのアンケート(何をしに来たか、タスク完了率、満足度)
  • A/Bテスト、多変量テスト(多人数での量的判定)
  • ユーザビリティテスト(少人数向けの質的調査)

それなりの手間やコストが掛かるが、サイト運営者の思い込みだけを防ぎ、多大な投資のチェックとしては安上がりだと思った方がよいだろう。

まとめ

  • 通常のビジネスでは事業計画や月ごと予算を立てるのが当たり前
  • 業界平均値を基準にして予算を立ててはいけない
  • コンバージョン率向上だけをひたすらに追求していくと、売上や利益が先細りになる
  • サイトの改善には数値データだけでなく、顧客に直接聞くアンケート調査やテストを活用すべき

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衣袋 宏美(いぶくろ ひろみ)

1960年東京都生まれ。東京大学教養学部教養学科卒業。大手電気メーカー勤務後、日経BP社インターネット視聴率センター長を経て、2000年ネットレイティングス入社視聴率サービス立ち上げに参画、2006年ネットレイティングス社フェローに就任。株式会社クロス・フュージョン代表取締役。またデジタルハリウッド大学院客員教授、米Web Analytics Association会員、アクセス解析イニシアチブ副代表。

編著に『ネット視聴率白書2009〜2010』、監訳書に『Webアナリスト養成講座』がある。ブログ:Insight for WebAnalytics

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