BOOK REVIEW Web担当者なら読んでおきたいこの1冊

『新世紀メディア論――新聞・雑誌が死ぬ前に』/出版2.0時代はコミュニティの創出が鍵に【書評】

ワイアードとサイゾーを創刊、ギズモードを立ち上げた筆者が出版2.0時代のメディア論と説く
森野 真理 2009/7/24(金) 10:00 |
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ブックレビュー

BOOK REVIEW Web担当者なら読んでおきたいこの1冊

『新世紀メディア論――新聞・雑誌が死ぬ前に』

評者:森野 真理(ライター)

「出版2.0」は紙の呪縛から解き放たれている
「誰でもメディア」の時代にこそプロの気概を説く啓蒙の書

  • 小林 弘人 著
  • ISBN:978-4-86238-129-3
  • 定価:1,500円+税
  • バジリコ

出版や報道の業界には、いまだに紙に印刷したパッケージメディアの方が高級で、インターネットに流れる情報は一段低く見る傾向がある。しかし本書によれば、それは慣れ親しんだお金の流れが保証されているビジネスモデルに固執しているにすぎず、メディアの形態の変化についていけない大出版社は「ネット脳死状態」なのだそうな。インターネットが持つメディアとしての可能性をわかりやすく説き、既存メディアがウェブ攻略に手をこまねいている間に「出でよ未来の菊池寛」とアジテートする、なんとも刺激的な言説で話題の一冊だ。

著者は1994年、インターネットの黎明期に米国で一世を風靡した伝説的なITカルチャー雑誌「ワイアード」の日本版を創刊。その後もプロフェッショナルな「編集者」として月刊誌「サイゾー」を創刊し、インターネットとのクロスメディアに、ブログの書籍化やオーディオブック販売を通じて先鞭をつけた。06年には米国発祥のブログメディア「ギズモード」日本版を立ち上げ、名実ともに時代の「出版」ブレイクスルーをプロデュースしてきた。

著者によると「出版」の概念はこれまで、「取次機構を通して全国にバラまく紙の雑誌や書籍、新聞」だけを指していたという。しかし、インターネットの出現で、メディアの持つ根本的な意味は崩れてしまった。紙に印刷すれば出版で、電波に載せれば放送、といった区切りにこだわっているのはオールドメディアの業界人だけで、すべてのコンテンツや情報はその価値のみで判断される時代に入っている。その意味では、すでにアップデートされた「出版2.0」の枠組みについて考えなければ生き延びられないと説いている。

インターネットは、ブログやSNSなどのコミュニティに象徴されるように、素人、プロを問わず情報を発信できるツールである。つまり、時代はすでに「誰でもどこでもメディア環境」を入手できるところまできており、その分、情報の発信者としてのプロの存在感は増しているが、価値はデフレーションを起こしている。この着眼点は、多くのメディア関係者が薄々感じていたことではあるが、ここまでずばりと言い切れるのは、著者が紙の出版から、システム開発を含めた他企業のメディア組成までを引き受ける多能の人だからこそだろう。著者はこう諭す。「(出版社に入社しただけで何の能力もない)『高学歴な凡人』サラリーマンのつくるメディアよりも、業態こそ違え、社会経験豊富な専門家の送り出すメディアの方が魅力的な時代」だと。

著者はさらに、パッケージメディアとしての紙ベースの出版の存在意義が低下している現代において、インターネットをからめたメディアにおいて「出版=編集力でいかにビジネスを展開するか」にもこだわっている。プロフェッショナルな編集力を示す方向性として本書の中で触れられているのは「コミュニティの創出」であり、受け手の注目を集め、コンテンツを読みたい(確認したい)と思わせるための「アテンション争奪戦」の本質を理解することがクライアント(広告主)を獲得するためには必要だという。本書の前半で述べられるこれらの戦略はきわめて具体的で示唆に富む。言葉や概念の解説も適切だが、残念ながら紙媒体の編集者にとってはやや難解な「多くのデバイスには遷移なくコンテンツが供給される」、「RSSデータや更新を知らせるPINGを集めてくるアグリゲーター」などの記述のあたりで拒絶反応を起こすかもしれない。

ウェブと紙の出版ビジネスの連携についても詳しいのは、著者の出自の賜物かもしれない。ウェブ版企業PR誌「書茶」からの書籍出版や、通信社などではおなじみの手法である地域経済新聞社を集積する「みんなの経済新聞ネットワーク」などをあげて、オンデマンド出版、地域密着型のメディアとして分散型メディアシンジケーションの可能性などを鮮やかに切り取る手法は知的刺激に満ちている。また、ネット上でのクオリティメディアの確立についても優しく解説しているのは、業界人への配慮か。

脳死状態の業界人には劇薬だが、メディアビジネスを未来への投資と考える、意欲ある「編集人」には希望の書といえる。

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