BOOK REVIEW Web担当者なら読んでおきたいこの1冊

あの切込隊長によるグーグル礼賛への突っ込み/書評『情報革命バブルの崩壊』

無条件にインターネットのバラ色の未来を語る読み物があとを絶たない。グーグル礼賛、ブログ過大評価、ネットがもたらす平等な社会……。
山川 健 2009/2/13(金) 8:00 |
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ブックレビュー

BOOK REVIEW Web担当者なら読んでおきたいこの1冊

『情報革命バブルの崩壊』

評者:山川 健(ジャーナリスト)

無料文化はインフラタダ乗りと証券市場によるバブル
ネットを取り巻く現象を毒のある斬新な視点で分析

  • 山本 一郎 著
  • ISBN:978-4-16-660667-2
  • 定価:720円+税
  • 文春新書

人間誰しも、自分が夢を持って関わっているビジネスについて否定的な意見は聞きたくない。だからだろうが、無条件にインターネットのバラ色の未来を語る読み物があとを絶たない。これからは紙媒体ではなくインターネットだ、と声高に叫びながら書籍を量産する矛盾を抱えつつ書かれた内容はというと、グーグル礼賛、ブログ過大評価、ネットがもたらす平等な社会……。インターネットビジネスに身を置く者にとっては夢を見させてくれる方が心地いいから、本は売れるかもしれない。しかし仲間内でほめ合っているような状態で進歩はあるのだろうか。世界的な経済危機、インターネットの先行きにも不透明感漂う今こそ、現象を先入観なく冷静に見据え、ある程度毒を含みながら分析する論調が求められるはずだ。その意味で本書は時宜(じぎ)を得た内容だといえる。

著者は、知る人ぞ知るあの「切込隊長」。そう聞くと、創成期からネットに関わってきたある種の層は嫌悪感を感じるかもしれない。Windows 95以前からネットに関わり、毎日新聞社でネットビジネスの立ち上げに携わった私も正直、つい色眼鏡で見てしまいがちだった。著者とは間接的に接点もあった。ところが本書を読んでみて、かつて私が感じた著者に対するイメージは大きく変化した。語り口には当然ながら毒気がある。だがそれがかえって小気味よく感じられる。著者が本書で「教条的な神話」「宣教師のように読者に語りかける」と批判している一部の書き手による夢物語ばかり聞かされてきたせいなのかもしれない。

著者は、巷間(こうかん)取りざたされる、新聞がネットに読者を喰われて死んでしまうのではないか、との論調に疑問を投げ掛ける。ヤフーなどのネットメディアが新聞社から安価で記事を買い、広告を付けて無料で閲覧させている現状をとらえて「読者は新聞記事を読んでいるが、新聞を買わなくなっただけである。新聞というパッケージが見捨てられこそすれ、新聞記事という商品そのものはまったく価値を失っていない」と、実態を解明してみせる。そのうえで、コストをかけて作った記事を安値でネットメディアに買われている新聞各社が足並みそろえてネットから情報を引き上げようとしない現状を「ネットにばら撒きしていて収益が回復するはずがない」と批難する。

従来にない見方だと感じた。著者は「メーカーが利益カツカツで製品を作っているのに、その製品を大量に捌いている量販店が大儲けしている図式とそう大差ない」とたとえる。メーカーは新聞社、量販店はネットメディアである。ネット創成期、新聞社とポータルサイトの力関係は現在とは大きく異なっていて、今ではタダ同然のような低価格で記事提供を始めた。ところが気付いてみるとポータルサイトはネットメディアとなり、新聞社サイトとはケタ違いのユーザー=読者を集めるようになった。こうなると新聞社は、ネットメディアに記事を提供しないと、自社の記事が読まれなくなってしまうジレンマに陥る。

ヤフーに代表されるネットのいわゆる「無料文化」は、既存の情報インフラ会社へのタダ乗りと、無尽蔵に資金を提供してきた証券市場がもたらした単なるバブルだというのが著者の認識。湯水のように消費される情報通信のリソース。そのコストをサービス・コンテンツ業者がインフラ側に支払うようになると、どうなるか。さらに、ヤフーが動員数に見合うコストを新聞社に払わなければならない状況に追い込まれたら? 著者は、ネットの無料文化がいかにぜい弱な基盤の上に成り立っているか、解き明かす。そして新聞社がやるべきことは新聞記事の供給をストップすることではなく「情報インフラ業界と手を結んでネット事業の収益をネットサービス会社から取り戻すこと」だと提案し、「ネットを現実社会に取り込むための具体的な行動へと一歩を踏み出すべき」と訴える。

著者は言う。「情報通信やIT系ベンチャー企業がどういう存在であって、世界中の金余り現象を追い風にしながらどれだけばら色の未来を過剰に煽り、結果として暴風雨の後始末のようなつまらない状況になっているのかを読み解いていきたい」。そして情報革命を「世界的な金余りのなかで創り上げられた仮想のフロンティア、すなわちバブル」と切って捨てる。金余りの状況ではなくなった今日、もういい加減、グーグルを神とあがめたり、無料無料と喜んでみたり、インターネットは無限に成長するといった論調は止めにするべき、そんなメッセージのように受け止められた。

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