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HCD-Net通信
「人間中心設計(HCD)」を効果的に導入できるよう、公の立場で研究や人材育成などの社会活動を行っていくNPO団体「人間中心設計推進機構(HCD-Net)」から、HCDやHCD-Netに関連する話題をお送りしていきます。

HCD-Net通信
ユーザビリティで売上が増える?――創造的ユーザビリティによる魅力的な製品へのアプローチ/HCD-Net通信 #8

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ユーザビリティが大事なのはわかるんですが、それに力をいれても売りにつながるんでしょうか?

こうした問いかけを受けたことのないユーザビリティ関係者はいないだろう。だが、このような問いが出てくるのも無理ない面がある。

ユーザーにとってユーザビリティは大切だ。それはわかる。だけど、ユーザビリティにまじめに取り組んでも、ユーザーがそこに魅力を感じてくれなければ、そもそも買ってくれないのではないか。

ユーザビリティというのは使ってもらってこそ意味があるのだが、ユーザビリティだけでは買ってもらえないだろう。

そういうロジックだ。

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そういう考えから消費者に対する商品性を高めようと、感性価値の方向に向かう人々もいる。しかし、ちょっと待ってほしい。ユーザビリティの定義をもう一度考えてみていただきたい。ユーザビリティというのは有効さ(effectiveness)効率(efficiency)だ。ISO9241-11では、その他に満足感(satisfaction)も含めているが、以前書いたような理由から、僕はそれをユーザビリティの下位概念とは考えていない。さて、その有効さと効率は、本質的にマイナスをゼロにする地味なユーザビリティについてまわるものだろうか。そうではない。

ISO9241-11の定義はビッグユーザビリティと呼ばれているように、ニールセン(Nielsen)の定義におけるユーザビリティ(これをスモールユーザビリティと呼んでいる)とユーティリティとを合わせた概念として考えられている。このISO9241-11の定義は、現在では欧米、日本など、世界中で標準的な定義として考えられている。僕もそれでいいと思ってきた。ゼロからプラスに向かうユーティリティを含むから製品の魅力につながるのだ、と考えてきた。

しかし、どうも今ひとつ腑に落ちない。ユーザビリティの有効さと効率という下位概念は、そんなに魅力のないものなのだろうか。それらはユーティリティの力を借りなければならないものなのだろうか。そこで改めて検証を試みた。魅力のある製品について分析をした結果、標準的ユーザビリティ創造的ユーザビリティという二種類のユーザビリティ概念を区別するのが妥当だろうと考えるに至った。

具体的な製品を出した方がわかりやすいだろう。

  1. たとえばPanasonicのLet's Note。これはビジネスノートという領域の存在を改めて認識することから出発したはずだ。

    ビジネスユーザーは移動する。だから軽量であることと、バッテリーが長持ちすることが大切である。当時のノートパソコンは2、3Kgする重いものが多く、またバッテリーも2、3時間しかもたないものが多かった。Panasonicの担当者はこの点を重視し、かつ基本性能を確保した製品を作り上げた。こうすることにより、ビジネスユーザーにとって有効なノートパソコンができあがった。

    もちろん、そのためには部品の徹底した軽量化と高密度実装、長時間駆動バッテリーの技術を開発しなければならなかっただろう。だが、その結果、ビジネスや学会の会合ではLet's Noteが立ち並ぶ光景ができあがった。このパソコンの魅力は感性価値ではない。まさに有効さを強化した、高いユーザビリティの製品なのだ。

  2. MitsubishiのJet Towelも同様にユーザビリティの高い製品だ。

    それまで公共のトイレにあった温風乾燥機は、上から風が来るだけなので風を強くすると水が飛びやすく、反対に風を弱くするとなかなか乾かないものだった。そこで、担当者は強い風を両側からあて、そこに手を差し込む形を設計した。これによって、手の乾きが早く、また完全に乾燥させるこができるようになった。

    正に、効率と有効さが高い製品であり、その意味でユーザビリティが高いものといえる。現在、公共のトイレでみかける温風乾燥機の多くがこの製品になってしまったのも当然だろう。

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    もう1つ、ソフトウェアの例をあげよう。Amazonの1-Click(ワンクリック)だ。

    このアイデアが実装されるまで、インターネットショッピングでの支払いは面倒なものだった。クレジットカードの種類や番号を入れ、有効期限を入れ、ときにはセキュリティコードも入れなければならなかった。さらに送り先の住所や氏名、電話番号を入れ、確認をしてようやく手続きが完了する。この手順を本当にワンクリックだけにしてしまったのがAmazonのアイデアだ。事前に登録しておけば、所定のカードでの支払いが行われ、所定の住所に商品が届けられる。改善すべき副作用があるとすれば、買い物をしすぎてしまうことくらいだろう。この1-Clickは、あきらかに効率の改善であり、ユーザビリティを高めたやり方だといえる。

以上、3つの事例を見てきたが、それらは有効さand/or効率を高めるために新規な着想を重視し、結果的にユーザビリティを高めている。このようなユーザビリティが創造的ユーザビリティなのだ。

それでは標準的ユーザビリティとはどういうものか。これはユーザビリティガイドラインにまとめてあることを遵守し、あるいはユーザビリティテストで見つかった問題点を改善するというもので、基本的には改善型のアプローチだといえる。

このように、ユーザビリティには創造的ユーザビリティと標準的ユーザビリティがあり、どちらも有効さと効率の改善に寄与するものである。言い換えれば、標準的アプローチは標準レベルを維持する点に、創造的ユーザビリティは標準レベルを凌ぐ点に、その特徴がある。ところで、その場合の標準レベルとは何だろう。これは昔、Helsonという心理学者が提唱した、順応水準だと考えることができる。順応水準というのは、簡単にいうと、経験値の平均である。言い換えれば、人々が経験している平均的レベルが標準であり、それは時代とともに、あるいは経験の質が向上するにつれて、徐々に上がってゆくものである。もちろん経験の質が平均的に下がれば低い値にもなりうる。

順応水準を標準と設定することで、標準的ユーザビリティと創造的ユーザビリティの理論的根拠が得られたが、もう1点、注意しておきたいのは、創造的ユーザビリティは魅力創出の1つの方向性にすぎないことだ。商品の魅力を高めるには、当然のことながら、感性価値を高めるやり方もある。たとえば、AppleのiPodのインターフェイスは、必ずしも有効さや効率を目指したものとは思えない。ただ、それに魅力があり、人々がそれを高く評価しているのも事実である。したがって、注意しなければならないのは、創造的ユーザビリティの方向で開発を進めるのか、感性価値の方向で開発を進めるのかを決断することだ。もちろん、両方を備えた商品の開発は可能だろうとは思う。しかしそれはきわめて難しい。二兎を追う者は一兎をも得ず、のことわざ通り、どちらにするか、方向性を決めたうえで開発を行うのが適切だと言えよう。

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