カスタマーエクスペリエンスで道は開ける~フォレスター・リサーチのWebサイト方法論

御社のサイトは誰のためのもの? これがフォレスターのWebサイトレビュー手法だ

連載第1回となる本記事では、フォレスター・リサーチのウェブサイトレビューの手法を紹介する。
ジョナサン・ブラウン

[コラム]カスタマーエクスペリエンスで
道は開ける
~フォレスター・リサーチのWebサイト方法論
by ジョナサン・ブラウン

フォレスター・リサーチのシニア・アナリストであるジョナサン・ブラウン氏によるウェブコラム。

主にカスタマーエクスペリエンスとマーケティングの側面から企業のビジネスをサポートしているジョナサン氏が、企業サイトにおけるユーザー志向の考え方や方法論をさまざまな切り口で解説します。

フォレスターがウェブサイトをレビューするようになった理由

フォレスター・リサーチがインターネットビジネスのリサーチを開始したのは、1993年のことでした。その5年後の1998年に、フォレスターはウェブサイトレビューを含むカスタマーエクスペリエンスのリサーチを本格的に始めたのですが、そのきっかけになったのは、お客様からの要望でした。

当時、フォレスターの顧客企業のほとんどがすでにウェブサイトを構築していましたが、その用途は会社の紹介などが中心でした。そうでなければ、すでにあるパンフレットやカタログの内容をそのまま掲載したようなものでした。いわゆる第一世代のウェブサイトです。企業がそのリニューアルを真剣に考え始めたのです。ウェブサイトをよりビジネスに活用するためにどのくらいの予算が必要か、どのようなデザインがいいのか、今使っているデザイン会社から受けているアドバイスは本当に正しいのかなど、フォレスターには多くの質問が来ました。

そこで、フォレスターは、ウェブサイトを客観的に評価するメソドロジー(方法論)を考えました。“客観的に”というのがポイントです。なぜなら、ウェブサイトは“アート(芸術)ではなくサイエンス(科学)に基づく”べきものだからです。

フォレスターのウェブサイトレビュー手法

通常、ウェブ戦略を考えている企業は、ウェブサイトのレビューに複数の手法を使います。たとえば、ユーザーのアンケート調査、ウェブのクリックストリームデータの分析、ラボでユーザーが実際にサイトをどのように使っているかを観察するユーザーテストなどなど。ほかにもいろいろありますが、その中で有効な手法の1つに、エキスパートレビューがあります(ヒューリスティックレビューともいいます)。

ウェブサイトのエキスパートレビューを客観的に行うために、フォレスターは、さまざまな企業や大学が行った研究のエキスを集約して、25のレビュー項目にまとめました。この25項目は4つのグループに分けられて、価値(Value)、ナビゲーション(Navigation)、プレゼンテーション(表現、Presentation)、信頼性(Trust)という分類になっています。

さらにフォレスターでは、これまで企業のウェブサイトの構築に数多く携わってきたハーレー・マニング(Harley Manning)氏がイニシアチブをとり、データに基づくレビューやリニューアルを行えるようにしました。今では、私を含む13人のアナリストがサイトレビューに携わっています。

Forrester Research Logo
ウェブサイトレビュー結果(May 2007, Trends “Lessons Learned From 1,001 Web Site Reviews”より)
ウェブサイトレビュー結果  ~1999年11月~2007年4月に実施した1,001のサイト評価の結果~
1999年11月~2007年4月に実施した1,001のサイト評価の結果
横軸が得点、縦軸がその得点を獲得したサイトの数

サイトの良し悪しを判断するには
ユーザーのプロフィールを知ることが重要

ウェブサイトをレビューする場合、何よりもまず、適切なユーザープロフィールを作ることが必要です。ウェブサイト自体が良いか悪いかは、ユーザーのプロフィールがなければ評価できません。つまりどんな人にとって「良い」「悪い」のかが重要なのです。そのユーザーにとって価値があるのか、そのユーザーがゴールに問題なく到達できるか、そのユーザーが探しているものをわかりやすく提供できているか、そのユーザーが安心してサイトを利用できるか……すべてはユーザーの視点からサイトを評価していきます。

ときどき、フォレスターのお客様から「弊社のサイトはこれです。では、評価お願いします」と言われることがあります。こういった場合、私たちはすぐに「御社のウェブサイトは誰のためのものですか?」と聞き返します。

ターゲットユーザーを知ってることは当然のことのように思えますが、まったく知らない企業のこともあります。あるいは、企業内の各部署の人がまったく違うユーザーを想定している場合もあります。

ペルソナ(ターゲットユーザーのプロフィール)を作る

それでは、どのようにターゲットユーザーのプロフィールを作ればいいのでしょうか?

※Web担編注

ペルソナとは、「企業が提供する製品・サービスにとって最も重要で象徴的な顧客モデル」のこと(ペルソナデザインコンソーシアム)。「ユーザー」という抽象的な存在ではなく、「安田 英久さん(35歳)、会社員」のように、(仮想)人物像を具体的に設定する。

本来は、ユーザーのデータと複数のユーザーへのインタビューに基づいたモデル(ペルソナ)を作るのがベストです。

ペルソナは、年齢や性別などの定量的なデータだけがあっても作れません。その人の好みやモチベーションや、その人が自分の生活の中でどういうふうにそれを使いたいかなどの定性的なデータを含めて検討するのが大切です。

ペルソナが良ければ良いほど、良いレビューができます。しっかりとした定量/定性データをもとに作ったペルソナがあるのがベストですが、企業がはっきりとしたユーザーの定義を作れない場合には、フォレスターは企業にヒアリングして、ユーザーの定義を作ってもらいます。

では、1つのサイトをレビューするのに、何人のペルソナが必要なのでしょう? 一般的には、3人が妥当です。3つの異なるターゲットプロフィールとゴールを作るのです。

ペルソナの一例
ペルソナの一例。どんな人をターゲットにしているのかを、具体的な人物像として設定している。

レビューアがユーザープロフィールに共感できることが必要

今年の6月に、日系の自動車会社、家電メーカー、銀行各4社、計12社のウェブサイトをレビューしました。それぞれの業界に1人ずつペルソナを作り、ユーザーの立場に立って、それぞれのサイトを使ってみました。このレビューは、各サイト半日程度かけて行いました。

自動車のサイトのペルソナは、45歳の女性。私は36歳男性。私にとってわかりやすいものが、その人にとってわかりやすいものだとは限らない。そこで私は彼女に共感するため、スカートをはいて、メイクして……というのは冗談ですが、このとき、ユーザープロフィールが良ければ良いほど、その人の立場になりやすいことを実感しました。企業のサイトレビューでは異なる年齢、性別、部署の人たちがかかわるケースが多いため、みんなが十分に理解できるターゲットユーザーのプロフィール作りが大切になるのです。

私は、コンシューマ向けのサイトであれば、ペルソナの立場になってあらゆるサイトをレビューできます。しかし、ある企業は一般消費者のためではなくて、専門家、たとえばお医者さんのために作っているサイトの評価を依頼することがあります。そのような場合は、対象となる専門家にレビュー時に同席してもらうか、その分野に詳しいアナリストが担当するようにします。フォレスターには、ヘルスケアや金融に精通したアナリストが複数いますから。

エキスパートレビューのステップ

前述のように、レビューアはペルソナになりきって、ゴール達成を目指します。その過程で、各画面でスクリーンショットを取り、どのような障害(うまくいかない点やわかりにくい点)があったか、逆にどのような点が良かったかを細かく記録していきます。

通常、ペルソナは1サイトに3人ですから、この作業を3回繰り返します。

レビューの過程では、たくさんの障害、欠点が見つかりますが、それを前述の4つのグループ(価値、ナビゲーション、プレゼンテーション、信頼性)から成る25項目に当てはめていきます。

そして、すべてをスコアカードとしてまとめたものが、最終的にそのサイトを改善するためのマニュアルになるのです。このスコアカードを見れば、サイトのどこが弱いかが、一目でわかります。「うちのサイトのコンテンツは良い(価値は高い)のだが、メニューの構造が悪いので(プレゼンテーションが悪い)、それが障害となってユーザーのゴールを妨げている」などといった明確な結果が得られるのです。

次回は、ウェブサイトレビューの結果どんな問題が見つかるのか、具体的な例を紹介する。

◇◇◇
※Web担編集部から

ジョナサン氏は日本語が堪能で、厳密な仕事をするが、ユーモアにも富んだ側面をもつ人で、ジョナサン氏にWeb担でコラムを執筆してもらえることを非常にうれしく思っています。

今後、カスタマエクスペリエンスやペルソナなどの切り口を中心に、日本の企業サイトやウェブビジネスに関するコラムを、フォレスター・リサーチの視点で定期的に執筆していただくことになっているので、期待してください。

そうそう、ジョナサン氏は、近々セミナーでしゃべられる予定があるとのこと。興味のある人はぜひ参加してみてください。

セミナーのテーマは「Webマーケティング戦略 ~シナリオデザイン~ ターゲット・カスタマーに満足されるWebサイトとは?」。日時は2007年11月12日(月)の13:30~15:30で、開催場所は東京都港区のCIAJ(情報通信ネットワーク産業協会)B~D会議室です。

一般公開の無料セミナーのため、申し込みは2007年11月9日に締め切られます。興味のある人はCIAJのサイトから申し込んでください。

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