炎上プロモーション死屍累々
炎上プロモーション死屍累々 モニターブログの裏に見えた玄人の影

炎上プロモーション死屍累々

失敗事例から学ぶ隠れた落とし穴とその回避法

第3回 モニターブログの裏に見えた玄人の影

TEXT:新世代マーケティング研究会

「いち生活者の場」という一線

「マスが効かなくなったのは、生活者の購買プロセスがAIDMAからAISASに変化したから」というフレーズは、クチコミマーケティングが流行語となった本年、本当によく耳にしたものの1つである。その正否は別として、マスメディアのサイズが、細分化された商品やサービスのサイズに合わなくなってきたことは事実だろう。また、昨今の生活者は、購買前にネット上のクチコミ情報に大きな影響を受けていることもさまざまなマーケティングリサーチ結果によっても検証されている。

一説では、ヤフーやグーグルなどの検索エンジンによって導き出される検索結果の約3分の1、多いもので約半分がUGM(User Generated Media:生活者発信型メディア)であると言われる。企業側がいくら吟味して情報を発信しようとも、検索結果の半分から3分の1がUGM情報であり、またその内容が多くの生活者の購買意思決定に大きな影響を与えるとすれば、企業のマーケティング担当者が「ネット上のカキコミ内容を統制したい」という気持ちを持つのも理解できる。

事実、昨今ではほとんどの新商品や新サービスのプロモーションにおいてブログが活用されている。クチコミを意図的に誘発するためトラックバックキャンペーンから、最近ではアルファブロガーのインフルエンサーへの起用や、特定商品・サービスのブログを立ち上げて生活者と双方向コミュニケーションを試みる企業も増えてきた。

UGM時代と言われる現在では、情報を発信する個人の影響力が強ければ強いほど、伝播された体験価値情報は購入に直接的な影響を与える。それはいち生活者、いちユーザーが、冷静かつ客観的に商品やサービスを体験し、カキコミをしているケースがほとんどだからだ。

しかし、ここで勘違いしてはならない。この影響力の強さは、あくまでも「いち生活者が自身の意思で自身の意見を書いている」が故なのである。今回は、その一線を超え、残念にも炎上してしまったソニーウォークマンの事例をご紹介したい。

2005年秋・ウォークマン体験日記

ソニーは過去にもオンラインでモニターによる「体験記」の形式での製品プロモーションを行っていた。今回の件が炎上から閉鎖に至ったのは、玄人の影が見えるとネットユーザーが感じたのが原因だろう。それが事実であろうがなかろうが、ユーザーはそう感じてしまったのだ。

2005年11月、ソニーはデジタルオーディオプレイヤー市場において競合であるアップルのiPodにシェア面で大差をつけられ、非常に苦しい局面を迎えていた。満を持して開発した「ウォークマンAシリーズ」を一刻も早く市場に浸透させ、その差を縮めなければならないという重圧は、相当なものであったと推察される。そんななか、同社はプロモーションの一環として、新商品紹介のキャンペーンブログサイトを立ち上げた。

サイトは4人のモニターによるソニー「ウォークマン体験日記」。それぞれ“デジモノ好きの某社代表”による「Walkman24ブログ」、“いつも好きな音楽に包まれた生活を送る”がコンセプトの「ゆっくり音楽生活ブログ」、“音楽をもっと手軽に楽しみたい”という「LOVE★NW‐A608ブログ」、そして、問題となった“メカ音痴のPinkyさんのブログ”「★カワイイ★のがいいの!」である。

事の経緯は11月20日から始まる。彼女はブログに次のような記事を書き込んだ。

『早速音楽をダウンロードする予定が、自分のパソコンがmacだったことに気づき、撃沈。。。Windowsのパソコンを買って、やっとダウンロードしてみました』

記事内容の矛盾と玄人の影

メカ音痴でMacユーザーのはずが、写真にはWindows用のキーボードが(画面はブログの記事に掲載された写真)。

この書き込み以前の15日、実は彼女商品を手にいれた喜びを同ブログに収めていた。ところがその記事と共にアップロードされた画像には明らかにWindowsそのものであるキーボードが写し出されていたのである。

書き込みに対しての不自然な画像に早速、「おかしい」「あの写真はなんだ」といったコメントが殺到。また、「そもそもウォークマンのために高価なパソコン本体を買いなおすのはおかしい」「アップルを持っているなら、iPodを購入すればいい」といった皮肉めいた指摘が書き込まれたのである。

雪崩のように押し寄せるコメントに対し、pinkyさんは、「あれは会社のPCを撮った写真で、家のPCはmacなんです。ヘンな誤解を与えてしまって、ごめんなさい」と対応。しかし、一度火のついたコメントの数々を止めるだけの効果を与えることはできず、挙句の果てには「メカ音痴のPinkyさんが撮ったはずの写真にも、プロが介入している(プロが撮影するときに使うランプが使用されている)」と専門的な発言も飛び出した。

また、pinkyさん以外の体験日記でも、

前はVaio-Wシリーズをデスクトップにリンゴマークのノート、という組み合わせで使っていたんですが、リンゴマークのノートは自分的にちょっと使いづらくて。。。いかんせん重かったので。。。持ち歩いているうちに、2年ちょっとで破壊してしまいました

といったソニーのライバルであるアップル社を批判する内容の記述があったことで、「やらせだ」「おかしい」と飛び火していった。こうしてコメントが400件を超え、炎上化した体験日記は、オープンから数日で閉鎖に追い込まれることとなった。

「ヤラセではない」ソニーの主張

ソニーの広報にこの件に関する見解を求めたところ、ブログは「カタログなどでは伝えきれない“実際に使用した体験”を伝えることを意図した」ものであると言う。

また、この企画を実施するにあたってソニーマーケティング株式会社から製品の貸与は行ったが、ブログ内の体験レポート記事はあくまでも「各モニター個人の体験」に基づくもので、Pinkyさんの体験によるコメントに、ソニー側からのコントロールや「ヤラセ」は行っていないということだ。

これらのサイトは間もなく閉鎖され、「本サイトは終了いたしました。一部の方々に誤解を生じる可能性のある表現があったことをお詫びいたします。サイト終了に際し、皆様には大変ご迷惑をおかけいたします」との謝罪文が掲載された。


ソニーは、50万個ものスーパーボールを使用したBRAVIAのプロモーションで大成功を納めている。しかし、本事例だけでなく、「ソニーエリクソンの偽旅行者」や、今まさに米国で起こっている「やらせブログ問題」など、失敗事例もまたいくつか生み出している。

私たちは、これらソニーの成功・失敗事例から多くを学ぶべきだ。ソニーは、成功したプロモーションの影で、それ以上の失敗事例を積み上げている。新しい領域であるクチコミマーケティングは、成功すれば大きな成果を上げることができるが、失敗すれば大きな打撃を受ける。事実、多くの企業がその導入に及び腰になっており、チャレンジしたとしても一回の失敗で「やはりクチコミマーケティングは危険だ」という判断をしている企業も少なくない。しかし、時代はますますUGMの活用なくしては機能しない領域に突入していくのである。

もはや、時代は古き良き一方向的なB2Cマスマーケティングには戻らない。本格的なUGM時代の幕開け前に、いかに多くの失敗を積み上げ、自社の中に文化として定着させられるかが、未来の企業競争力になると肝に銘じてほしい。

ソニーは、弛まぬチャレンジ精神によって、今後も成功事例と失敗事例を積み上げていくだろう。2005年のウォークマンのプロモーションは失敗に終わったが、この結果を受けて、懸念事項であった商品のユーザビリティに改良が加えられている。そして2006年6月に発売された“Eシリーズ”では、ソニーはモバイルオーディオ市場で巻き返しを図り7月の業界シェア率は実に約20%までに上昇している(下図)。

この騒動の半年後にはソニーはモバイルオーディオ市場で台数シェアを20%にまで回復している。

競合他社に先んじて、いかに多くの失敗事例を積み上げることができるか。少々語弊があるかもしれないが、来るべき本格的なUGM時代で勝利するために、今まさに企業のマーケティング戦略の姿勢が問われているのかもしれない。

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