企業ホームページ運営の心得

1万円のおろし金を売るストーリー、売るための物語という手段

商品やサービスの歴史は「売り」となり、人を引き付けるために有効なのが物語です
Web 2.0時代のド素人Web担当者におくる 企業ホームページ運営の心得

コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。

宮脇 睦(有限会社アズモード)

心得其の百九十八

AKBの力か

Webマーケッター瞳」の新シリーズが始まるのを楽しみにしている年明けです。2010年に最も売れた書籍『もしドラ』が、マネジメントの泰斗「ピーター・ドラッカー」を広め、「キャプテン翼」がサッカー人気を沸騰させたように、物語は門戸を拡げ、業界を底上げする力を持っています。「瞳」への期待はまさしくそれで、私が漫画「三ノ宮純二」の執筆オファーに飛びついたのは、「Web担当者」という職業がメジャーになるという大望からで、2011年も本サイトで「物語」が続くことを心から嬉しく思っています。そして「売る」には「物語」が最適です。2011年、第一回のテーマは「物語」。

遅ればせながら、あけましておめでとうございます。今年もお付き合いいただければ幸いです。

究極のセールストーク

営業格言にこんな言葉があります。

自分を売れ

個人的な信用を勝ち取ることが契約を取る近道だという教えですが、その方法は自分に「値札」貼ることではありません。今から15年ほど前、私が飛び込み営業を始めて半年ぐらい経った頃でしょうか。当時、他社との差別化は「値引き」しかありませんでした。しかし、「値引き価格」はすでに「市場価格」となっており、それだけでは契約を取ることはできません。フリーターからやっとの思いで見つけた就職先にしがみつくのに必死でしたし、帰社して売上ゼロを報告し、冷たい視線に晒されるよりは客先にいる方がマシです。何とかしてその場をつなごうと話題を振り絞ります。

とはいえ客も仕事中。長居をするには客の興味を引き続けなければなりません。訪問前に仕入れたネタは尽き、静寂が応接室を支配しました。客は興味をなくしたことを隠しもせず、席を立とうとした刹那、私が取った行動が人生を変えました。

自分を売り込む方法

フリーターだったこと、プログラマをしていたこと、ガラにもなく高校生の頃には生徒会長だったことなど、立て続けに「自分史」を語りました。客は宙に浮かしかけた腰を下ろします。恥ずかしいほど、しどろもどろだったことを告白します。団塊世代のお客は、当時はまだ若者だった私の必死さに何かを感じてくれたのでしょう。

また来なさい
そう声をかけられて以来、足しげく通い、大きな取り引きへと発展したのは半年後です。こまめに通ったことが取引につながったと当時は思っていましたが、それは正解の半分でしかありません。

何度も繰り返していることですが、お客は商品やサービスの素人です。しかし「人間」なら理解できます。「私」という人間の歴史、つまり物語からお客は人物像を描き、その「像」を信頼し発注してくれたのです。これが「自分を売る」ことだと気がつくのはもう少し先のことですが、この経験がなければ値引き交渉という消耗戦に疲れて、営業職を辞めていたかもしれません。

おろし金の売り方

商品を売るのも基本は同じです。自分史のように商品やサービスの歴史は「売り」になります。たとえば、2010年12月に創業「111周年」としてキャンペーンを実施した牛丼の吉野家は、かつては「牛丼一筋80年」というCMソングを流していたこともあります。「歴史」で売ろうとする典型例です。

もっとも「経営年数」には店舗展開や価格政策など複合的な理由があり、「美味しさ」とは相関関係はあっても因果関係はありません。また昨秋より投入された「牛鍋丼」は「吉野家“百年変わらぬ伝統のうまさ”」とのコピーが付されましたが、「新メニュー」ですし、牛丼つゆのコストダウンや牛肉の変更などによって味が落ち、客離れをおこして倒産した(1980年)といった、都合の悪い過去には触れずに「伝統のうまさ」と言い切るのも「物語」をつくるうえで重要なことです。仮につっこまれたとしても「その反省にたって」と開き直ればよいのです。

歴史がなければ「創作」します。お題は「1万円のおろし金」。

作者という神。そして我田引水

幼い頃の私はよく風邪をひいていた。風邪をひいての楽しみは、母が銅製のおろし金で林檎ジュースを作ってくれることだった。熱で乾いた喉に染みる甘さと、優しい酸味は、市販のリンゴジュースとはまったく違う。

おろし金を左手に、リンゴを右手に「飲む?」とクビを左に傾けて、ニッコリ微笑む母の表情が、弱った体に沁みてくるようだった。そして「実がもったいない」と絞ることなくだされたジュースに残るリンゴの食感が食欲を刺激すれば回復は目の前で、もう母に甘えられなくなるのかと少し寂しくなったものだ。

決して高い林檎ではなかった。「おろし金」が特別だったのだ。母の嫁入り道具で、切れ味の鋭さから私が中学に上がるまで危険だからと触ることも許されなかった。

いま、私は母の味に挑戦する。母の相棒にそっくりな「おろし金」をみつけたのだから。

ご都合主義なんです。

創作する上でのポイントは「利用者」にフォーカスを当てること。客の共感を得やすいのは体験者の物語です。もちろん、おろし金の「開発秘話」も物語ですが、優先順位は(1)利用者(2)開発者の順番です。さらに「スペック」はその下です。おろし金の材質、サイズ、重さなどは必須項目であっても、優先項目ではないのです。興味を持って初めて気になるのが「スペック」でその逆はありません。ここは間違えやすく、コンテンツ作りの期末テストがあればきっとテストにでるしょうからチェックしておいてください。

この「おろし金物語」は「価格」への言及を避け、「母の想い出」というプライスレスな空間に戦場を移すのが狙いです。100円ショップに行けば、プラスチック製のカラフルな「おろし器」が売っている時代に、1万円という高価なおろし金を売るためには同じ戦場で戦っては勝ち目がないからです。そして創作した物語は「イメージカット」のような「イメージ文章」。ちなみに利用する際に「歴史」や「体験談」といれれば「嘘」となりますが、わざわざ「創作文」と明記する必要はありません。

古代ローマの頃から人は物語に人生を重ね喜怒哀楽の疑似体験をします。それは「消費行動」も同じです。だから「物語」が商品を売ります。たとえご都合主義とそしられても。

今回のポイント

物語に人は共感しやすい。

歴史に体験談、ときに創作を。

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