企業ホームページ運営の心得

価格と客層の関係。高いものを選ぶ富裕層の考え方

Web 2.0時代のド素人Web担当者におくる 企業ホームページ運営の心得

コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。

宮脇 睦(有限会社アズモード)

心得其の九十伍

見合う提案なら考える

数年前の話しです。Web制作の責任者をだせと電話がありました。スタッフが受け、打ち合わせ中で取り次げない旨を伝えると、弊社の人数や体制を問います。そこでまずお名前を尋ねると「また電話するわ」と告げ切られました。夜の20時過ぎにベルが鳴ります。スタッフが受話器を取ると高飛車なしゃべりに昼間のそれと気づき私のところに電話が回されます。

話を聞くと足立区内で「お花」を教えている先生とのことで、高圧的な態度は職業柄なのかと想像します。しばしのやり取りの後、ホームページの制作料金を尋ねられ「30万円から」と告げると居丈高な物言いにヒステリーが混じり、そして吐き捨てるように「高すぎない? 料金に見合う提案があるのかしら」と仰りました。

30万円が高いか安いかのジャッジはしませんが、その後すぐに値上げをしました。価格と客層には相関関係があるからです。

安物買いの世界

低価格は集客力を持ちますが、客層を低下させる諸刃の剣です。

ニュース番組やワイドショーなどで、相場の「底値」で買うことに情熱を燃やし、牛乳、パン、ティッシュペーパーを追いかけ東奔西走する主婦が取り上げられます。底値となる特売品は赤字覚悟の客寄せパンダで、他の商品も一緒に買って貰うことで店は利益を出します。しかし、底値が好きで、それだけが欲しい客には通じません。近所の食品スーパー「ライフ」に掲示された「お客様の声」です。

「98円の卵を買うのに1,000円も買わなければならないのはおかしい」

「お客様」の筆跡が怒りを伝えます。これは「お1人様1個限り」といった、個数制限だけだった卵ワンパックの特売を、1,000円以上買った特典としたことへのクレームです。ママに背負われた乳児から祖父母まで「卵パック」だけを持ち、家族全員がレジに一列に並ぶ光景を見ていたものとしては店側に同情してしまいますが、安値を求める客は「自分」が絶対で、店の都合を斟酌することはなく安く売れと「声」を上げます。

とにかく自分だけトクすればいい

ところで「底値買い」は本当に得をしているのでしょうか。

我が町、足立区での無調整牛乳の最底値は2008年10月現在130円で、通常売価は198円。50円の価格差は25%安く魅力的ですが、コンビニのアルバイト時給を800円とすれば、3分45秒の労働で、片道2分弱の移動距離を往復すると相殺されます。経済合理性からの説明は困難なのですが、今日も自転車を漕ぎ底値を追います。

それでは富裕層はどうでしょうか。急に大金を手にして舞い上がった「成金」は除外すると、富裕層に倹約家は多く、それが「ケチ」と呼ばれることもあります。しかし、富裕層には「迷ったら高い方を買う」という人がいます。Aを5万円、Bを3万円としたとき、高いAを選ぶ理由を知人の金持ちはこう答えました。

「Aを買いBとの差がなければ2万円余計に使っただけだが、BとAに大きな性能差があれば3万円払って質の悪い商品を入手したことになるから」

客層は支払う金額に現れる

さらに説明を求めると、Bの性能が悪く買い直すことになればさらに5万円を支払うことになり時間も浪費するからといいます。つまり「性能ロス(損失)」から発生する「時間ロス」も避けるための合理性から高い商品を選ぶのです。価格はものさしの1つに過ぎず、選択理由のすべてではないということです。

安さに命を懸ける底値買いマニアと、質にお金を払う富裕層、どちらと取引を望むでしょうか。私は商品やサービス内容で判断し、さらに高くても買ってくれる後者を選びます。

金を出す人は意外と多い

財布の紐が固い、金を使わなくなったと10年前の平成大不況の時もいわれていました。その前年、1997年の消費税の激増(3%から5%とは66%もの大増税)も手伝い最悪の消費環境でした。この年、会社員だった私はインターネットにつなげるセッティングをしただけで福沢諭吉を、移動のついでに小さな荷物を運んだだけで新渡戸稲造の駄賃を貰いました。それぞれ取引先の零細企業の社長で口を開けば「不景気」とぼやいていた方々です。

富裕層でなくても、商売人は適切な対価を支払うことを惜しみません。商売人は日頃から「支払い」の習慣を持つからでしょう。コンサルティングも拙著の読者が私の事務所を訪れ、アドバイスが終わると「お幾らでしょうか」と財布をだされたのが始まりです。無料では次に相談しづらくなるのでとお願いされて請求書を切りました。

商売人や富裕層は必要なものには財布の紐をゆるめます。

底値を漁る商売人とは

注意しなければならないのは「底値商売人」です。買い叩いても自分が決めた価格に執着します。そこに相場というアプローチはなく、自分の都合しか頭にありません。冒頭のお花の先生はSEOによる「1位表示」を所望されていました。「素人」に作らせたホームページは検索エンジンで見つからず、プロへの依頼を考えたといいます。弊社の人数や体制を訊ね「コストがかかっていないわね」と言ったのは、小さな会社なら安いと期待したからでしょうか。価格を告げて以降「高い」という非難が受話器を置くまで続きました。

こんな人もいます。「困っているから教えてほしい」。ホームページについて質問を投げかけてきます。そこで簡単な助言を添え、本当は料金がかかる旨を伝えるとお礼もなく音信が途絶えます。

底値商売人を遠ざけるのは簡単です。価格を上げます。底値を漁るように自分だけ得すればいいと考えているので「高い」とみればスルーしていきます。反対にビジネスの現場を知る商売人、または富裕層は、それなりの料金に安心を覚え、高いほど満足を覚える傾向があります。これは自己肯定や虚栄心も手伝うのでしょうがありがたいことです。

本旨と外れるので紹介しませんが「底値系」のエピソードはまだまだあり決して嫌いではありません。笑わせてくれますので。しかし、取引先としてはお断りしています。

♪今回のポイント

底値は店の利益を圧迫している。

金がすべてじゃないけれど……単価と客層は比例する。

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