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著者独自のグーグル批判で見えてくるものとは/書評『Googleが消える日 情報学序説』

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『Googleが消える日 情報学序説』

評者:山川 健(ジャーナリスト)

グーグルは旧態依然とした工業化社会のビジネス
情報化社会が成熟した段階で今の地位を失う!?

  • 小山 雄二 著
  • ISBN:978-4-7782-0062-6
  • 定価:1,400円+税
  • カナリア書房

アクセスした利用者に『押し売り』を企てる」。著者はアマゾンのトップページをこう表現する。だからという訳でもないだろうが、本書はアマゾンの一般ユーザーのレビューで酷評されている。確かに、一貫して非常にとがった論調。好き嫌いがはっきりしている、とも言える。著者が好感を持っていると思われるのはヤフー、アップル、任天堂。嫌悪感が読み取れるのはグーグル、マイクロソフト、民放、広告。これを承知で読めば、展開される独特の考え方を素直に受け入れることもできるだろう。

何と言ってもタイトル。グーグルに関しては、日本や既存ビジネスを破壊したり、ネット革命の覇者だったり、目を引くタイトルが付けられた書籍が何点も発行されてきた。しかしこれほどインパクトのあるものはなかった。「グーグルが消える日もそう遠くない先にやってくるだろう」「情報化社会が成熟した段階で今の地位を失っている可能性が高い」。これが著者が下した結論だ。

グーグルの主収入は広告。著者は「テレビ放送や新聞の発行部数で広告費を集める工業化社会の収益モデルと何ら変わりがない」とし「情報化社会のリーディングカンパニーというよりはむしろ、既存の放送局以上に徹底した放送事業」と分析する。農業化社会、工業化社会に続いてやって来る新しい社会は情報化社会。その情報化社会の旗手であると思われているグーグル。既存ビジネスを破壊するどころか、実は旧態依然とした工業化社会そのものである、という見立てには新鮮味がある。

グーグルの検索結果でもたらされる情報は玉石混交。価値判断はユーザーがするしかない。グーグル側は利用者の安心や安全を保障しない。こうした状態の中、グーグルは検索キーワードに連動して広告を表示する「アドワーズ」ビジネスを開始した。著者はその点を痛烈に批判する。「グーグルが没落するとき、アドワーズ広告を掲載した日が落日のはじまりだったと言われる重大な変化である

著者は広告について極めて厳しい。必要がないものを必要であると思わせ、今以上に必要ないものを不足していると信じさせること、とのスタンスで「広告は犯罪に至らない範囲で行われる企業の謀略である」とまで言う。テレビショッピングについては、老人をだます“振り込め詐欺”と変わらない、と断罪。そんな広告に依存したグーグルが生き残るはずはない。そして「グーグルの株価が上昇を止めたときが、工業化社会がその役割を情報化社会に譲り渡す瞬間であろう」とも書く。

一方で著者は、グーグルに水を開けられた格好の米ヤフーを評価する。グーグルがインフォメーション重視なのに対して、米ヤフーはコミュニケーション重視。米ヤフーは質を重視しコミュニティの中の個人を重用。こうしたことから「情報化社会は明らかに米ヤフーが向かう方向で収斂するはずである」と言い切り、ヤフーがネットワーク上に知の集団を作りあげることが、グーグルが追随できない情報化社会の未来図だと指摘する。

著者の考えに異を唱えることはたやすい。突っ込みを入れたい点も少なくないかもしれない。本筋からややずれた記述も目立つ。しかし、頑固でとがった著者が展開する独自の論理に、柔軟な感性で耳を傾けても損はない。それどころか、私はとても興味深い読み物だと感じた。ただ、民放や広告会社関係者は不快感を覚えるだろう。そんな表現が本書のおもしろみの1つでもあるのだが……。

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