「デジタルマーケの成果が出ている」企業が37%って本当? 富士通総研のアンケート調査を正しく読み解く

デジタルマーケティングの成否を分ける要因とは何か? 富士通総研が発表した調査結果から、国内企業の取り組みの実態を読み解いていく

企業にとって「デジタル化」は大きな課題だ。インターネットやスマートフォンが普及したことにより、あらゆる業界において従来のビジネスモデルは変革を迫られている。

富士通総研は、国内企業のマーケティング担当者にデジタルマーケティングへの取り組みについてアンケート調査を行い、その結果を1月23日に発表した。

同調査によると、35.3%の企業がデジタルマーケティングに取り組んでおり、成果を挙げていると実感しているのはそのうち37.0%だった。全体では13.1%の計算になるが、それだけを聞くと、「何を成果としているのか」が気になる人もいるだろう。ここでは、富士通総研の田中氏にいただいたコメントを交えながら、詳しく紹介していく。

今回の調査目的は、企業によりデジタルマーケティングへの取り組みが異なる要因を明らかにすることです。全体を俯瞰するため、業種を絞らずに調査を行いました。結果として、BtoCとBtoBの企業からバランスよく回答をいただき、業種の差がよく見えるデータを得られました(田中氏)。

図1:回答企業の業種構成と売り上げ構成
図1:回答企業の業種構成と売り上げ構成

すでにビジネスが大きく変化している企業は8.6%。
半数以上が「今後変化する」と認識

いまやインターネットで商品情報を見たり、問い合わせや予約を行ったりすることは一般的になった。このような顧客の変化で、ビジネスはどれくらい変化しているのだろうか。業種ごとに回答を集計したのが次のグラフだ。

図2:デジタル化による変化の認識(業種別)
図2:デジタル化による変化の認識(業種別)

インターネットにより自社ビジネスが「すでに大きく変化している」と答えたのは全体で8.6%と、まだ目に見える変化は一部にしかないようだ。ただし、「1~2年で大きな変化がありそう」「3年位で大きな変化がありそう」「5年位で大きな変化がありそう」を合わせると52.8%となっており、半数以上の企業が今後数年以内で変化の予兆を感じていることがわかる。

業種別に見ると、「変化している」と一番多く答えたのはBtoBサービス業で20.2%。商談獲得手段として、Webサイトやインターネット広告の存在が大きいようだ。一方で「当面、変化はなさそう」と答えた比率が高かったのは、BtoBの商社・卸業だ。取引相手が固定されていたり、グループ内の取引が主体だったりする企業は特にビジネスの変化は感じていないという事情がありそうだ。

デジタルマーケティングに取り組んでいる企業は全体の35.3%。
変化を感じとっている企業ほど積極的

それでは、そうした変化に対して企業のデジタルマーケティングへの取り組み状況はどうだろうか。業種別に取り組み状況を聞いたのが次のグラフだ。なお、同調査で「デジタルマーケティング」の定義は記載せず、何をデジタルマーケティングとするかは担当者の判断に任せたという。

企業によって取り組み具合が大きく異なっているので、明確に「デジタルマーケティング」を定義することは避けました。まずマーケティング担当者自身がどう考えているかを聞き、その後に実際に導入しているマーケティング手法やツールを聞いています(田中氏)。

図3:デジタルマーケティングの取り組み状況(業種別)
図3:デジタルマーケティングの取り組み状況(業種別)

デジタルマーケティングに「すでに取り組んでいる」と答えた企業は全体で35.3%。取り組んでいる率が特に高かったのはBtoCの小売・外食業(57.6%)とサービス業(52.9%)、そしてBtoBサービス業(38.1%)だった。これは先述の「ビジネスが変化している」と答えた1~3位と合致し、やはりデジタル化で業界が変化している業種はデジタルマーケティングを積極的に推進していることがわかる。

ソーシャルメディアの活用は盛んなものの、DMPの活用はまだまだ

以降は、「デジタルマーケティングに取り組んでいる」と回答した297社を対象に、取り組みの実態を深掘りしていこう。デジタルマーケティングの手法・ツールを大きく次の4つに分類し、業種ごとにその導入状況を調査したのが以下のグラフだ。

  • ソーシャルメディアマーケティング
  • コンテンツマーケティング
  • マーケティングオートメーション
  • DMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)
図4:すでに導入しているマーケティング手法・ツール(業種別)
図4:すでに導入しているマーケティング手法・ツール(業種別)

4つの手法のなかでは、ソーシャルメディアマーケティングを実施している企業が平均で29.6%と一番多かった。これは特にBtoC企業で利用されており、消費者のソーシャルメディア利用の浸透に対応する形でBtoC企業のソーシャルメディアマーケティングが盛んになっていることがわかる。

一方でどの業種でもDMPを導入している企業は少なく、全体平均で5.1%だった。顧客データが社内で統合されていない企業もまだまだ多く、データ分析基盤の構築はもう少し先の話となりそうだ。

成果が挙っていると実感している企業は37.0%。
サービス業が一歩リードで製造業はいまひとつ

それでは、取り組んでいるデジタルマーケティングの成果は実際に挙がっているのだろうか。「デジタルマーケティングに取り組んでいる」と答えた企業のうち、「成果を挙げている」と回答した企業は平均で37.0%(全体では13.1%)だった。

図5:デジタルマーケティングにおける成果の有無(業種別)
図5:デジタルマーケティングにおける成果の有無(業種別)

何をもって成果を挙げているとするかについて、田中氏は次のようにコメントしている。

アンケートでは「成果とは具体的に何か?」は質問していませんが、成果とひもづくものとして成果指標(KPI)を質問しています。成果を挙げている企業の多くは、リード獲得と受注をKPIと考えているようです(編注:KPIについては後述)。

なお、自由記述の回答で「顧客ニーズを把握するために有効」「新商品開発における顧客情報を分析する手段として重要」というコメントもあったので、受注以外でも成果と考えている企業もあります(田中氏)。

業種別に見ると、BtoC・BtoBともにサービス業で成果を実感していて、製造業で成果を挙げられていない状況が目につく。BtoB製造業は図4ではマーケティングオートメーションツールを積極的に導入していたにもかかわらず成果が見えておらず、ツールを効果的に活用できていない企業が多いと推測できる。デジタルマーケティングはツールを導入すればすぐに効果が出るというわけではない。

成果を挙げるポイントは「見えやすい目標」「社内データの整備」
「重要性の認識」の3つ

成果の違いはどこからきているのだろうか? その要因を調べることが同調査の目的だ。調査結果からは、主に次の3つの要因が見えてくる。成果を挙げている企業と挙げていない企業でどこに差があるのか、順に見ていこう。

  • 見えやすい成果を目標にしてPDCAを実践している
  • 社内の顧客データや体制が整備されている
  • デジタルマーケティングを重要と位置付けている

ポイント1
見えやすい成果を目標にしてPDCAを実践している

「成果を挙げている」と答えた企業と「成果はまだ見えていない」と答えた企業を区別して、何をデジタルマーケティングの目的にしているかをまとめたのが次のグラフだ。

図6:デジタルマーケティングの目的の違い(成果の有無別)
図6:デジタルマーケティングの目的の違い(成果の有無別)

「成果を挙げている」と答えた企業は顧客獲得・販売を成果としている傾向がある。「新規見込み客(リード)獲得」の55.5%と「既存顧客へのリピートセル・クロスセル」の20.9%を合わせると、8割弱が顧客獲得・販売を目的としていることがわかる。

「成果はまだ見えていない」と答えた企業は、これら2つの合計が6割弱にとどまる一方で、「顧客とのコミュニケーション強化」や顧客からの情報収集が25.1%、「ブランディング」が12.8%と成果を挙げている企業よりも高くなっている。

この傾向はデジタルマーケティングで設定しているKPIにも表れている。成果を挙げている企業は「受注件数(44.5%)」「受注金額(39.1%)」「獲得リード数(38.2%)」をKPIに設定している比率が高い。これらの結果は目に見えるため他部門からも評価されやすいだろう

図7:KPIの違い(成果の有無別)
図7:KPIの違い(成果の有無別)

コミュニケーションやブランディングは実際に成果が挙っていても客観的な評価が難しく、他部署から価値を理解してもらうことは難しい。この違いが、デジタルマーケティングに取り組む姿勢に影響を与えているケースも考えられる。

ポイント2
社内の顧客データや体制が整備されている

さらに、企業の顧客データ管理についても違いが見られた。

図8:体制や仕組みの違い(成果の有無別)
図8:体制や仕組みの違い(成果の有無別)

成果を挙げている企業では、「顧客データが統合されている」「多くの部署が分析できるようデータが整備されている」「マーケティング分析(PDCA)を行っている」のいずれも成果が見えていない企業よりも高い。こうしたデータ統合や整備、PDCAへの取り組みも成否を分ける一因といえそうだ。

ポイント3
デジタルマーケティングを重要と位置付けている

デジタルマーケティングに対する「重要性の認識」に関しても調査した。成果を挙げている企業と、挙げていない企業の担当者の認識を比較したのが次のグラフだ。

図9:デジタルマーケティングの重要性認識(成果の有無別)
図9:デジタルマーケティングの重要性認識(成果の有無別)

成果を挙げている企業は67.3%が「とても重要」と答えたのに対し、成果を挙げていない企業は44.9%にとどまり「どちらかといえば重要」の方が48.7%と多くなっている。デジタルの重要性を強く認識している企業ほど、デジタルマーケティングを成果につなげていることがわかる。

デジタルに取り組まないことが企業の大きなリスクとなる可能性も

最後に、デジタルマーケティングに「取り組んでいない」と答えた企業の実情も紹介する。「取り組むかどうか検討中」の企業と「取り組む予定はない」企業で、取り組んでいない理由に差が出た。

図10:デジタルマーケティングに取り組んでいない理由
図10:デジタルマーケティングに取り組んでいない理由

「検討中」の企業は「効果がわからず様子見」が43.8%で最も高いが、「予定はない」企業は「自社に必要ない」が59.8%と最も高く、そもそも変化を認識していないために必要性を感じていないのだと読み取れる。

デジタルマーケティングはまだノウハウが確立されておらず、試行錯誤を重ねて自社でノウハウを蓄積するしかない。変化を敏感に感じている企業は、デジタルにも積極的に取り組み成果とノウハウを蓄積しており、「自社には必要ない」と感じている企業と大きく差がつきはじめているといえるだろう。

インターネットやスマートフォンの浸透スピードは速く、あらゆることのデジタル化が今後も進むことは間違いない。「必要ない」とデジタルに取り組まないことが、今後企業の大きなリスクとなる可能性もありそうだ。

調査概要

  • 調査名称: デジタル化への認識とデジタルマーケティングの実態調査
  • 調査企画・実施: 富士通総研
  • 調査目的: 各企業のデジタルマーケティングへの取り組みを調査するため
  • 調査方法: 郵送告知、ネット回答を利用したアンケート調査
  • 調査対象: 年商上位1万社のマーケティング担当者
  • 有効回答数: 842社
  • 調査詳細: http://www.fujitsu.com/jp/group/fri/report/cyber/report/digitalmarketing2017.html
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